針刺しの直後、誰に免疫グロブリンを打つ?―「感染源」と「防御能」の2軸で読むHBVマーカー
第103回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
針刺し事故を起こした医療従事者に対し,事故後48時間以内に抗HBsヒト免疫グロブリン投与を行うべき組合せはどれか。 患者 医療従事者 HBs抗原 HBs抗体 HBs抗原 HBs抗体 a + - - + b + - - - c - + - + d - + - - e - + + -
- a.+ - - +
- b.+ - - -
- c.- + - +
- d.- + - -
- e.- + + -
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
針刺し事故後のHBIG投与は、「感染源患者がHBs抗原陽性(感染性あり)」かつ「曝露した医療従事者がHBs抗原陰性・HBs抗体陰性(防御能なし)」の組合せで適応となります。HBIGは曝露後できるだけ早く、48時間以内(望ましくは24時間以内)に投与し、HBワクチン接種も同時に開始して長期的な免疫を獲得させます。患者がHBs抗原陰性・HBs抗体陽性なら原則として感染源にならず、医療従事者がHBs抗体陽性(10 mIU/mL以上)なら追加処置は原則不要、すでにHBs抗原陽性なら予防の意味はありません。HBVは針刺しによる感染率がHCVやHIVより高く、医療従事者自身がワクチン接種と抗体獲得の確認をしておくことが最大の予防となります。「感染源の感染性」と「曝露者の防御能」という2軸でマーカーを読む考え方は、職業感染対策の基本です。
解答・解説
正解はbです
針刺し事故後のB型肝炎ウイルス(HBV: hepatitis B virus)感染予防として、抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG: hepatitis B immune globulin)を投与すべき状況を、患者(感染源)と医療従事者(曝露者)の血清マーカーの組合せから判断する問題である。
判断の2つの軸
1. 感染源となる患者の血液にHBVが含まれているか HBs抗原(HBVの表面を構成するタンパク)が陽性であれば、現在HBVに感染しており、血液に感染性があると判断する。HBs抗原陰性・HBs抗体陽性であれば、過去の感染から回復したかワクチン接種後の状態であり、原則として感染源とはならない。 2. 医療従事者がHBVに対する防御能をもっているか HBs抗体はHBVを中和する抗体であり、陽性(一般に10 mIU/mL以上)であれば感染防御能があるとみなされる。HBs抗原・HBs抗体がともに陰性であれば、HBVに感染したことも免疫を獲得したこともない「感受性者」であり、曝露により感染する危険がある。HBs抗原陽性であれば、すでにHBVに感染している。
結論
HBIGの投与が必要なのは「感染性のある血液(患者HBs抗原陽性)」に「防御能をもたない人(医療従事者のHBs抗原陰性・HBs抗体陰性)」が曝露した場合である。この組合せに該当するのは、患者HBs抗原(+)・HBs抗体(-)、医療従事者HBs抗原(-)・HBs抗体(-)の組合せである。 HBIGは受動免疫としてただちにHBVを中和するもので、曝露後できるだけ早く、遅くとも48時間以内(可能なら24時間以内)に投与する。あわせてHBワクチンの接種も開始し、能動免疫による長期的な防御を獲得させる。
選択肢考察
- ×a. + - - +
患者はHBs抗原陽性でありHBV感染者、その血液には感染性がある。しかし医療従事者はHBs抗原陰性・HBs抗体陽性で、ワクチン接種または既往感染によりすでに中和抗体をもっている。抗体価が感染防御に十分な水準(10 mIU/mL以上)であれば追加の処置は不要であり、HBIGをただちに投与すべき組合せではない。なお、抗体価が低下している場合や、ワクチン接種後に抗体を獲得できなかった人(ワクチン不応者)では対応が異なるため、曝露時に抗体価を確認する。
- ○b. + - - -
患者はHBs抗原陽性で感染性のある血液をもち、医療従事者はHBs抗原・HBs抗体ともに陰性で、HBVに対する免疫をもたない感受性者である。この状況では針刺しによるHBV感染の危険が高いため、曝露後48時間以内(できれば24時間以内)にHBIGを投与して受動免疫を与え、同時にHBワクチン接種を開始する。したがって正しい。
- ×c. - + - +
患者はHBs抗原陰性・HBs抗体陽性であり、HBVの既往感染から回復した状態、またはワクチン接種後の状態である。血液に感染性のあるHBVは原則として含まれないため、HBV感染予防の処置は不要である。さらに医療従事者もHBs抗体陽性で防御能をもっている。
- ×d. - + - -
医療従事者はHBs抗原・HBs抗体ともに陰性で感受性者ではあるが、感染源となる患者がHBs抗原陰性・HBs抗体陽性であり、HBV感染源とはならないと判断されるため、HBIGの投与は不要である。ただし医療従事者は抗体をもたないため、今後の曝露に備えてHBワクチンの接種を勧めるべきである。
- ×e. - + + -
患者はHBs抗原陰性・HBs抗体陽性で感染源とはならない。また医療従事者自身がHBs抗原陽性であり、すでにHBVに感染している(キャリアなど)。すでに感染している人にHBIGを投与しても感染予防の意味はないため、投与は不要である。医療従事者本人については、肝機能やウイルス量などを評価し、肝臓専門医による管理につなげる。
HBV関連マーカーの意味
・HBs抗原陽性: 現在HBVに感染している(急性肝炎またはキャリア)。HBVキャリアとはHBs抗原が持続的に陽性の人を指す。 ・HBs抗体陽性: 感染防御能をもつ。既往感染からの回復後またはワクチン接種後に陽性となる。 ・HBc抗体: 感染したことがある証拠であり、ワクチン接種では陽性にならない。HBs抗体陽性の由来が既往感染かワクチンかの区別に役立つ。 ・HBe抗原陽性: ウイルス増殖が活発で、血液の感染性が特に高い。
針刺し事故後のHBV対策
・事故直後は、受傷部位を流水と石けんで十分に洗浄する。 ・感染源患者のHBs抗原と、曝露者のHBs抗原・HBs抗体(抗体価)を速やかに確認する。 ・感染源がHBs抗原陽性(または不明で高リスク)で曝露者に防御能がない場合: HBIGをできるだけ早く、48時間以内(望ましくは24時間以内)に投与し、HBワクチンを同時期に開始する(通常0、1、6か月の3回接種)。 ・曝露者のHBs抗体が10 mIU/mL以上あれば、追加処置は原則不要である。 ・事故後は一定期間、肝機能やHBVマーカーの経過観察を行う。
針刺し事故による感染のリスク
1回の針刺し事故による感染率はおおよそ、HBV(HBe抗原陽性血)で約30%、HCVで約2%、HIVで約0.3%とされ、HBVが最も感染しやすい。HCVには有効な曝露後予防がなく経過観察が中心であり、HIVでは抗HIV薬の予防内服をできるだけ早く(数時間以内が目安)開始する。
予防の基本
HBV感染者の血液や体液に接する機会の多い医療従事者は、HBワクチン接種の対象であり、接種後にHBs抗体の獲得を確認しておくことが推奨される。
POINT
・HBIG投与の適応: 感染源がHBs抗原陽性、かつ曝露者がHBs抗原陰性・HBs抗体陰性(免疫なし)。 ・HBIGは曝露後48時間以内(できれば24時間以内)に投与し、HBワクチン接種も併せて開始する。 ・曝露者がHBs抗体陽性なら原則不要、曝露者がすでにHBs抗原陽性ならHBIGは無意味。 ・HBs抗原陰性・HBs抗体陽性の患者は原則として感染源にならない。
