StudyMed医師国家試験

造影剤が「越えてはいけない壁」を越えたとき―肩関節造影で読む腱板断裂

第103回医師国家試験 E問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第103回 E問題 第26問

63歳の女性の肩関節エックス線写真(A)と関節造影写真(B)とを別に示す。  みられるのはどれか。

第103回 E問題 第26問の問題画像
  1. a.滑膜の増生
  2. b.関節包の弛緩
  3. c.関節内の占拠病変
  4. d.肩峰下滑液包への造影剤の流入
  5. e.上腕骨頭骨髄内への造影剤の流入

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肩関節の単純エックス線写真と関節造影写真を読み、そこに何が写っているかを答える問題だ。診断名ではなく「所見」を問われている点に注意しよう。カギは、関節の中に注入した造影剤が本来どこまで広がり、どこには行かないはずなのか、という解剖の知識だよ。
医学生医学生
まず単純写真ですが、骨折や脱臼ははっきりしないように見えます。
ドクタードクター
そうだね。骨頭、関節窩、肩峰の形は保たれていて、骨破壊や石灰沈着も目立たない。骨頭と肩峰の間隔もそれほど狭くはない。つまり単純写真だけでは決め手がなく、主役は造影写真のほうなんだ。
医学生医学生
造影写真では、造影剤が上腕骨頭の上のほうまで帽子みたいにかぶさっています。関節腔がそこまで広いんでしょうか。
ドクタードクター
そこが読みどころだ。肩甲上腕関節の関節腔と、その上にある肩峰下滑液包は、腱板という「壁」で仕切られている。腱板は棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の腱が一体となって骨頭を包む構造だね。だから正常なら、関節内に入れた造影剤は関節腔、下方の腋窩陥凹、肩甲下滑液包、上腕二頭筋長頭腱の腱鞘までにとどまり、肩峰下滑液包は写らない。
医学生医学生
解剖実習で腱板を剖出したとき、骨頭をぐるっと覆う板みたいだったのを思い出しました。その上に造影剤があるということは、壁に穴が開いている……?
ドクタードクター
その通り。肩峰の直下、大結節を覆うように広がる造影域は、肩峰下滑液包に造影剤が流れ込んだ像だ。これが正解の所見で、意味するのは腱板の全層にわたる欠損、つまり腱板完全断裂なんだ。63歳という年齢も、加齢変性を基盤にした断裂が増える年代に合っている。
医学生医学生
ほかの選択肢も造影で見えるものなんですよね。滑膜の増生はどう写るんですか。
ドクタードクター
滑膜が増えると、関節腔の輪郭がガタガタになり、絨毛状や結節状の陰影欠損として見える。関節リウマチや色素性絨毛結節性滑膜炎などで出る所見だけど、今回は関節腔の辺縁にそうした不整はない。
医学生医学生
関節包の弛緩は、五十肩みたいなイメージでいいですか。
ドクタードクター
そこは逆なんだ。凍結肩の拘縮期では関節包はむしろ縮んで、腋窩陥凹が小さくなる。関節包が弛緩しているのは反復性肩関節脱臼やルーズショルダーで、造影すると腋窩陥凹や前方の関節包が大きく膨らんで見える。今回はそうした拡大はない。
医学生医学生
なるほど、縮むか広がるかで正反対なんですね。関節内の占拠病変なら、造影剤の中に抜けた丸い影が出るはずでしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。遊離体や腫瘤があれば、造影剤で満たされた関節腔の中に円形の陰影欠損として抜けて見える。石灰化していれば単純写真でも見えることがある。滑膜性骨軟骨腫症が代表例だけど、今回はどちらの写真にもそういう所見はない。最後に骨頭の骨髄内への流入はどうかな。
医学生医学生
造影剤は骨頭の外側を覆っているだけで、骨の中には入っていないように見えます。
ドクタードクター
正解。軟骨や軟骨下骨が壊れて骨内に嚢腫や壊死があれば、骨内に造影剤が入ることもありうるけれど、今回は関節腔と滑液包、つまり骨の外にしか分布していない。
医学生医学生
整理すると、造影剤がいるべきでない場所にいる、それが腱板の穴を示している、ということですね。
ドクタードクター
そう。「正常ならどこまで写るか」を知っていると、異常が一目で分かる。臨床の話もしておこう。腱板断裂は棘上筋腱に最も多く、中高年では軽い転倒や使い過ぎ、あるいははっきりした誘因なしに起こる。症状は運動時痛や夜間痛、そして挙上の筋力低下だ。
医学生医学生
整形外科の実習で、他動的には挙がるのに自分では挙げられない患者さんを診ました。拘縮が主体の凍結肩との違いだと教わりました。
ドクタードクター
まさにそこが鑑別のポイントだね。診察では有痛弧徴候、drop arm sign、棘上筋テストなどを確認する。画像は今ではMRIと超音波が中心で、MRIなら断裂の大きさや腱の退縮、筋の脂肪変性まで評価できるし、超音波は外来で動かしながら見られる。
医学生医学生
単純写真でも、何か分かることはありますか。
ドクタードクター
大きな断裂が長く続くと、骨頭が上に引き上げられて肩峰骨頭間距離が狭くなり、進行すると腱板断裂性関節症に至る。初期は正常のことが多いから、単純写真が正常でも否定はできない。治療は保存療法が基本で、効果が乏しい例や活動性の高い例では鏡視下腱板修復術、修復困難な大断裂ではリバース型人工肩関節置換術が選ばれることもあるよ。

まとめ

肩甲上腕関節の関節腔と肩峰下滑液包は腱板によって隔てられているため、正常の関節造影では肩峰下滑液包は描出されません。関節内に注入した造影剤が骨頭上方・肩峰直下に広がり肩峰下滑液包が造影されれば、腱板の全層断裂(完全断裂)を意味します。滑膜増生は関節腔辺縁の不整、関節包の弛緩は腋窩陥凹の拡大、関節内占拠病変は陰影欠損として現れ、凍結肩では逆に関節容量が縮小します。腱板断裂は中高年の棘上筋腱に多く、自動挙上困難や有痛弧、drop arm signが特徴で、現在はMRIや超音波が診断の中心です。「正常なら造影剤がどこまで届くか」という解剖の理解は、造影検査全般を読み解くうえでの基本になります。

解答・解説

正解はdです

画像所見の整理

A(単純エックス線写真):肩関節の正面像で、上腕骨頭・関節窩・肩峰の形は保たれている。明らかな骨折・脱臼、骨破壊像、腱板付着部の石灰沈着はない。骨頭と肩峰の間隔(肩峰骨頭間距離)も大きく狭くなってはいない。 B(関節造影写真):肩甲上腕関節内に注入した造影剤が、関節腔にとどまらず、上腕骨頭の上方、肩峰の直下に広がっている。骨頭の大結節を帽子のように覆う濃い造影域があり、これは本来関節腔とは交通していない肩峰下滑液包(三角筋下滑液包と連続する)が造影されたものである。

解剖と診断の考え方

肩甲上腕関節の関節腔と、その上方にある肩峰下滑液包との間は、腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の腱が一体となって骨頭を包む構造)によって隔てられている。したがって正常の関節造影では、造影剤は関節腔、腋窩陥凹(下方の袋状部分)、肩甲下滑液包、上腕二頭筋長頭腱の腱鞘までにとどまり、肩峰下滑液包は造影されない。 肩峰下滑液包に造影剤が流入するということは、関節腔と滑液包の間を仕切る腱板に全層性の欠損があることを意味し、腱板断裂(完全断裂)と診断できる。63歳という年齢も、加齢による腱板変性を基盤とした断裂が好発する年代に合致する。

設問への考え方

本問は診断名ではなく「画像でみられる所見」を問うている。関節腔外の、骨頭上方・肩峰下に広がる造影剤の分布を、肩峰下滑液包への流入と正しく表現できるかがポイントである。

選択肢考察

  1. ×a.  滑膜の増生

    滑膜が増生していると、関節造影では関節腔の辺縁が不整になり、絨毛状・結節状の造影欠損(陰影欠損)としてみえる。関節リウマチや色素性絨毛結節性滑膜炎などでみられる所見であるが、本例では関節腔の輪郭にそのような不整像はない。

  2. ×b.  関節包の弛緩

    関節包が弛緩していると、関節造影で関節腔、特に腋窩陥凹(axillary pouch)や前方関節包が大きく拡張してみえる。反復性肩関節脱臼や動揺肩(ルーズショルダー)でみられる所見である。本例ではこのような関節腔の拡大はない。なお、凍結肩(いわゆる五十肩の拘縮期)では逆に関節包が縮小し、腋窩陥凹が狭小化する。

  3. ×c.  関節内の占拠病変

    関節内に遊離体や腫瘤などの占拠病変があれば、関節造影では造影剤で満たされた関節腔の中に円形・類円形の陰影欠損として描出される。石灰化・骨化したものであれば単純エックス線写真でも確認できる。滑膜性骨軟骨腫症などが代表例であるが、本例の単純写真・造影写真のいずれにもそのような所見はない。

  4. ○d.  肩峰下滑液包への造影剤の流入

    関節造影写真では、造影剤が上腕骨頭の上方、肩峰直下に広がり、大結節を覆うように貯留している。これは肩峰下滑液包が造影された像である。正常では腱板が関節腔と肩峰下滑液包を隔てているため、この滑液包は関節造影で描出されない。関節内に注入した造影剤が滑液包へ流入していることは、腱板の全層にわたる欠損、すなわち腱板完全断裂を示す。

  5. ×e.  上腕骨頭骨髄内への造影剤の流入

    関節軟骨と軟骨下骨が破綻して骨内に嚢腫や骨壊死がある場合などには、造影剤が骨頭内部へ入り込むことがありうるが、本例では造影剤は骨頭の外側(関節腔と滑液包)に分布しており、骨頭内部に造影剤は認められない。

腱板断裂の概要

腱板は棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の腱からなり、上腕骨頭を関節窩に引きつけて肩関節を安定させる。断裂は棘上筋腱に最も多い。中高年では加齢による腱の変性を基盤に、転倒などの軽微な外傷や使い過ぎで発症し、明らかな誘因がないことも多い。若年者では強い外傷やスポーツで生じる。 症状は肩の運動時痛・夜間痛、挙上時の筋力低下で、他動的には挙上できるのに自力では挙上しにくいことが特徴である(拘縮が主体の凍結肩との鑑別点)。診察では有痛弧徴候(外転60〜120°付近の痛み)、drop arm sign(他動的に外転90°に保持した腕を支えられず落下する)、棘上筋テスト、肩峰下での軋轢音などがみられる。

画像診断

・単純エックス線:初期は正常のことが多い。大断裂が長く続くと、骨頭が上方へ偏位して肩峰骨頭間距離が狭小化(目安として約7mm未満)し、進行すると腱板断裂性関節症となる。 ・関節造影:関節腔に注入した造影剤の肩峰下滑液包への流入で完全断裂を診断する。不全断裂(関節面側)では、腱の関節面側に造影剤が入り込む像がみられる。 ・MRI:現在の標準的検査であり、断裂の部位・大きさ、腱の退縮や筋萎縮・脂肪変性の評価が可能で、滑液包面側や腱内の不全断裂も描出できる。 ・超音波検査:非侵襲的で動的評価ができ、外来で広く用いられる。

治療

保存療法(安静、消炎鎮痛薬、ステロイドやヒアルロン酸の注射、リハビリテーション)が基本で、効果不十分な例、若年者や活動性の高い例、外傷性の断裂などでは鏡視下腱板修復術を行う。修復不能な大断裂ではリバース型人工肩関節置換術が選択されることがある。

関節造影で読み取る他の所見

・凍結肩:関節容量の減少、腋窩陥凹・肩甲下滑液包の縮小 ・動揺肩、反復性脱臼:関節包・腋窩陥凹の拡大 ・滑膜炎:関節腔辺縁の不整 ・関節内遊離体:陰影欠損

POINT

・正常の肩関節造影では、肩峰下滑液包は造影されない(腱板が関節腔と滑液包を隔てるため)。 ・肩峰下滑液包へ造影剤が流入していれば、腱板の全層断裂(完全断裂)を示す。 ・腱板断裂は中高年に多く、棘上筋腱に好発する。自動挙上困難・有痛弧・drop arm signが特徴で、現在はMRI・超音波検査が診断の中心である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。