1.5mg/dLで白目は黄色くなる?―ビリルビン代謝の流れで黄疸を読み解く
第103回医師国家試験 E問題 第21問
国試問題にチャレンジ
誤っているのはどれか。
- a.黄疸は眼球結膜で観察する。
- b.閉塞性黄疸では皮膚瘙痒が生じる。
- c.Gilbert症候群ではICG試験は正常である。
- d.黄疸は血中総ビリルビン値1.5mg/dLで認められる。
- e.溶血性黄疸では尿中ウロビリノーゲンが強陽性となる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
黄疸は血中ビリルビンの増加により皮膚や粘膜が黄染した状態で、眼球結膜で観察し、肉眼的に認められる顕性黄疸は一般に総ビリルビン2〜3mg/dLを超えてから出現します。1.5mg/dL程度は基準値をわずかに超えた不顕性黄疸の範囲で、肉眼では黄染はわかりません。病型ごとに、閉塞性黄疸では胆汁成分の逆流による皮膚瘙痒や灰白色便、溶血性黄疸では尿中ウロビリノーゲン強陽性・尿中ビリルビン陰性といった特徴があり、Gilbert症候群は抱合酵素UGT1A1の軽度低下でICG試験は正常、ICG排泄遅延を示すのはRotor症候群です。ビリルビン代謝の流れに沿って障害部位を考えることで、検査所見の違いを丸暗記せず理解でき、黄疸患者の鑑別を効率よく進められます。
解答・解説
正解はdです
本問は黄疸の基本事項(観察部位、出現するビリルビン値、病型ごとの特徴、体質性黄疸の検査所見)を横断的に問う問題で、「誤っているもの」を選ぶ形式である。 黄疸とは、血中ビリルビンが増加して皮膚や粘膜が黄色く染まった状態をいう。血中総ビリルビンの基準値はおよそ0.2〜1.2mg/dLで、これを上回るが肉眼では黄染がわからない段階(おおむね2mg/dL程度まで)を不顕性(潜在性)黄疸、黄染が肉眼で確認できる状態を顕性黄疸と呼ぶ。臨床的に黄疸を「認める」のは、一般に総ビリルビンが2〜3mg/dLを超えてからである。 黄疸の成因を考えるときは、ビリルビン代謝の流れに沿って整理するとよい。 ・赤血球の破壊 → 間接(非抱合型)ビリルビンの生成 ・肝細胞への取り込み → グルクロン酸抱合 → 直接(抱合型)ビリルビン ・毛細胆管への排泄 → 胆汁として腸管へ ・腸内細菌によるウロビリノーゲンへの変換 → 一部が再吸収され(腸肝循環)、一部は尿中に排泄 どの段階に障害があるかによって、溶血性黄疸(産生過剰)、肝細胞性黄疸、閉塞性黄疸(排泄障害)、体質性黄疸(酵素・輸送体の先天的異常)に分類され、それぞれ検査所見が異なる。 この枠組みで各選択肢を検討すると、総ビリルビン1.5mg/dLは基準値をわずかに上回るだけの不顕性黄疸の範囲であり、この値で黄疸が肉眼的に「認められる」とする記述が誤りとなる。
選択肢考察
- ×a. 黄疸は眼球結膜で観察する。
正しい記述である。眼球結膜(白目の部分)は下地が白く、ビリルビンと親和性の高い弾性線維を多く含むため、軽度の黄疸でも黄染がわかりやすい。皮膚は色素沈着や照明の影響を受けやすく判定が難しいため、黄疸の有無はまず眼球結膜で確認する。これに対して、貧血の有無は眼瞼結膜(下まぶたの裏側)の蒼白で判断する。観察部位を取り違えないことが重要である。
- ×b. 閉塞性黄疸では皮膚瘙痒が生じる。
正しい記述である。閉塞性黄疸では、胆管の閉塞により胆汁が腸管へ排泄されず、胆汁酸などの胆汁成分が血中に逆流して蓄積する。これが皮膚の瘙痒(かゆみ)を引き起こすと考えられており、近年はオートタキシンなどの関与も指摘されている。瘙痒は胆汁うっ滞を示唆する特徴的な症状で、原発性胆汁性胆管炎(PBC)などでも黄疸に先立って出現することがある。閉塞性黄疸では他に、灰白色便、濃い褐色尿(直接ビリルビン尿)、脂溶性ビタミン吸収障害によるビタミンK欠乏(出血傾向)などもみられる。
- ×c. Gilbert症候群ではICG試験は正常である。
正しい記述である。Gilbert症候群は、ビリルビンのグルクロン酸抱合を担う酵素UGT1A1の活性が軽度低下した体質性黄疸で、間接ビリルビンが軽度(多くは5mg/dL未満)上昇する。空腹、疲労、ストレス、感染などで黄疸が増強するが、肝細胞の機能自体は正常で、予後は良好である。ICG(インドシアニングリーン)はビリルビンとは別の輸送経路で肝臓に取り込まれ、抱合を受けずに胆汁中へ排泄されるため、抱合酵素の異常であるGilbert症候群ではICG試験は正常となる。体質性黄疸のなかでICG排泄の遅延(15分停滞率の著明な上昇)を示すのは、肝細胞への取り込みに障害があるRotor症候群である。
- ○d. 黄疸は血中総ビリルビン値1.5mg/dLで認められる。
誤った記述であり、本問の正解である。血中総ビリルビンの基準値はおよそ1.2mg/dL以下で、1.5mg/dLは軽度高値にすぎない。この程度では眼球結膜や皮膚の黄染は肉眼で確認できず、不顕性(潜在性)黄疸にとどまる。黄疸が肉眼的に認められる顕性黄疸となるのは、一般に総ビリルビンが2〜3mg/dLを超えてからである。なお、1.5mg/dLも厳密には高ビリルビン血症であり「不顕性黄疸」と呼ぶことはできるが、本問の「黄疸は認められる」は臨床的に黄染が観察できることを指していると解釈するのが自然で、その意味で誤りと判断する。
- ×e. 溶血性黄疸では尿中ウロビリノーゲンが強陽性となる。
正しい記述である。溶血性黄疸では赤血球の破壊が亢進して大量の間接ビリルビンが生じる。肝臓の抱合・排泄機能は保たれているため、胆汁中へ排泄されるビリルビン量が増え、腸内でつくられるウロビリノーゲンも増加する。その一部が再吸収されて尿中に出るため、尿中ウロビリノーゲンは強陽性となる。一方、増えているのは水に溶けない間接ビリルビンであるため、尿中ビリルビンは陰性である。対照的に完全閉塞性黄疸では、ビリルビンが腸管に届かないため尿中ウロビリノーゲンは陰性となり、水溶性の直接ビリルビンが尿中に出るため尿中ビリルビンは陽性となる。
黄疸の病型と検査所見の整理
・溶血性黄疸: 間接ビリルビン優位の上昇。尿中ビリルビン陰性、尿中ウロビリノーゲン強陽性。貧血、網赤血球増加、LD上昇、ハプトグロビン低下を伴う。 ・肝細胞性黄疸(急性肝炎、肝硬変など): 直接・間接ともに上昇。尿中ビリルビン陽性、尿中ウロビリノーゲンは増加することが多い(再吸収されたウロビリノーゲンを肝臓が処理しきれず尿中に出るため)。AST・ALTが上昇する。 ・閉塞性黄疸(総胆管結石、膵頭部癌、胆管癌など): 直接ビリルビン優位の上昇。尿中ビリルビン陽性、尿中ウロビリノーゲンは完全閉塞で陰性。ALP・γ-GTPが上昇し、皮膚瘙痒、灰白色便を伴う。
体質性黄疸
間接ビリルビン優位 ・Gilbert症候群: UGT1A1活性の軽度低下。最も頻度が高い。絶食試験で間接ビリルビンが上昇する。ICG試験正常。治療不要。 ・Crigler-Najjar症候群: UGT1A1活性の欠損(Ⅰ型)または高度低下(Ⅱ型)。Ⅰ型は新生児期から重症で核黄疸の危険がある。Ⅱ型はフェノバルビタールに反応する。 直接ビリルビン優位 ・Dubin-Johnson症候群: 毛細胆管側の輸送体MRP2の異常。肝臓が黒色調となり、肝細胞に褐色〜黒色の色素が沈着する。ICG試験はほぼ正常だが、BSP(ブロムスルファレイン)試験で再上昇がみられる。 ・Rotor症候群: 肝細胞への取り込み・保持の障害(OATP1B1/1B3の欠損)。肝臓の色調は正常。ICG試験で著明な排泄遅延を示す。
黄疸の出現とビリルビン値の目安
・基準値: 総ビリルビン約0.2〜1.2mg/dL ・不顕性黄疸: 基準値を超えるが肉眼的黄染はない(おおむね2mg/dL程度まで) ・顕性黄疸: 2〜3mg/dLを超えると眼球結膜の黄染として気づかれる
POINT
・黄疸は眼球結膜、貧血は眼瞼結膜で観察する。 ・顕性黄疸は総ビリルビン2〜3mg/dL以上で出現し、1.5mg/dL程度では肉眼的な黄染はわからない(不顕性黄疸)。 ・閉塞性黄疸では胆汁成分の血中逆流により皮膚瘙痒が生じる。 ・溶血性黄疸では尿中ウロビリノーゲン強陽性・尿中ビリルビン陰性、完全閉塞性黄疸では尿中ウロビリノーゲン陰性・尿中ビリルビン陽性。 ・体質性黄疸でICG排泄遅延を示すのはRotor症候群であり、Gilbert症候群ではICG試験は正常。
