眼を動かす3本の神経はどこを通る?―海綿静脈洞の「壁」と「中」を立体で覚える
第103回医師国家試験 E問題 第22問
国試問題にチャレンジ
海綿静脈洞を通るのはどれか。3つ選べ。
- a.視神経
- b.動眼神経
- c.滑車神経
- d.外転神経
- e.前庭神経
対話形式の解説
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ドクターまとめ
海綿静脈洞はトルコ鞍の両側にある硬膜静脈洞で、動眼神経・滑車神経・外転神経・眼神経・上顎神経と内頸動脈が通ります。外側壁の中を上から動眼神経、滑車神経、眼神経、上顎神経が走り、洞の内部を走るのは内頸動脈とその外側に接する外転神経で、外転神経は病変で最も早く障害されやすい神経です。視神経は視神経管、前庭神経は内耳道を通るため、海綿静脈洞とは関係しません。洞の病変では複数の眼球運動神経麻痺に顔面上部の感覚障害やHorner症候群が加わる海綿静脈洞症候群を呈し、内頸動脈海綿静脈洞瘻、動脈瘤、下垂体腺腫、血栓症、Tolosa-Hunt症候群などが原因となります。神経の通り道を立体的に理解しておくことは、複視や眼瞼下垂を診たときに病変部位を推定する力に直結します。
解答・解説
正解はb, c, dです
本問は海綿静脈洞(cavernous sinus)の解剖、とくにその中や壁を通る脳神経を問う問題である。 海綿静脈洞は、蝶形骨体の上にあるトルコ鞍(下垂体が収まるくぼみ)の左右両側に位置する硬膜静脈洞である。内部が多数の結合組織の梁(小柱)で区切られ、海綿のような構造をしていることからこの名がある。前方からは眼静脈(上・下眼静脈)の血液を受け、後方では上・下錐体静脈洞へ流れ出す。左右の海綿静脈洞は下垂体の前後を通る海綿間静脈洞でつながっている。 海綿静脈洞に関係する構造は、位置によって次の2群に分けて覚えるとよい。 1. 洞の内部を通るもの: 内頸動脈(周囲に交感神経叢を伴う)と外転神経(Ⅵ) 2. 洞の外側壁の中を上から下へ走るもの: 動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)、三叉神経第1枝の眼神経(V1)、三叉神経第2枝の上顎神経(V2) これらの多くは上眼窩裂を経て眼窩に入り、眼球運動や顔面上部の感覚を担う。したがって、選択肢のうち海綿静脈洞を通るのは動眼神経・滑車神経・外転神経の3つである。視神経と前庭神経はまったく別の経路をとる。
選択肢考察
- ×a. 視神経
視神経(Ⅱ)は眼球の網膜から出て、眼窩の奥にある視神経管を通って頭蓋内に入り、トルコ鞍の上方で左右が合流して視交叉をつくる。海綿静脈洞の上内側・前方を走行するものの、洞の内部や壁を通ることはない。なお、視神経管には眼動脈も伴走する。下垂体腺腫が上方に伸びて視交叉を圧迫すると両耳側半盲をきたし、側方の海綿静脈洞に進展すると眼球運動障害をきたす、という位置関係は臨床上重要である。
- ○b. 動眼神経
動眼神経(Ⅲ)は中脳腹側から出て、海綿静脈洞の外側壁の最も上方を前方に走り、上眼窩裂から眼窩に入る。上直筋・下直筋・内側直筋・下斜筋・上眼瞼挙筋を支配するほか、副交感神経線維を含み、瞳孔括約筋と毛様体筋を支配する。海綿静脈洞で障害されると、眼瞼下垂、眼球の外下方偏位、散瞳・対光反射消失などが起こる。海綿静脈洞を通る神経であり、正解である。
- ○c. 滑車神経
滑車神経(Ⅳ)は脳神経の中で唯一脳幹の背側(中脳下丘の下方)から出る神経で、脳幹を回り込んで前方に進み、海綿静脈洞の外側壁を動眼神経のすぐ下を走って上眼窩裂から眼窩に入る。上斜筋を支配し、障害されると眼球の内下方への運動が障害されて垂直性の複視が生じ、階段を下りるときなどに見えにくさを訴える。代償のため頭部を健側に傾ける。海綿静脈洞を通る神経であり、正解である。
- ○d. 外転神経
外転神経(Ⅵ)は橋と延髄の境界から出て、斜台に沿って上行し、錐体骨の先端を越えて海綿静脈洞に入る。ほかの脳神経が洞の外側壁を走るのに対し、外転神経は洞の内部を内頸動脈の外側に接して走り、上眼窩裂から眼窩に入って外側直筋を支配する。この走行のため、海綿静脈洞の病変や内頸動脈瘤では最も早期に障害されやすく、眼球の外転障害と水平性の複視を生じる。海綿静脈洞を通る神経であり、正解である。
- ×e. 前庭神経
前庭神経は内耳神経(Ⅷ)の一部で、内耳の三半規管・耳石器(卵形嚢・球形嚢)からの平衡覚を伝える。蝸牛神経とともに内耳道を通り、顔面神経と並んで小脳橋角部から脳幹(橋延髄移行部)に入る。後頭蓋窩を走行する神経で、中頭蓋窩にある海綿静脈洞とは関係しない。
海綿静脈洞の構造(冠状断で外側壁の上から下へ)
・外側壁: 動眼神経(Ⅲ)→ 滑車神経(Ⅳ)→ 眼神経(V1)→ 上顎神経(V2) ・洞内: 内頸動脈(海綿静脈洞部)、その外側に外転神経(Ⅵ)、内頸動脈周囲の交感神経線維 ※上顎神経は洞の外側壁の下部を走り、正円孔から出る。洞と無関係に扱う教科書もあるが、多くの記載では海綿静脈洞を通る神経に含められる。下顎神経(V3)は卵円孔から出るため通らない。
脳神経の頭蓋底の出口
・視神経管: 視神経、眼動脈 ・上眼窩裂: 動眼神経、滑車神経、眼神経、外転神経、上眼静脈 ・正円孔: 上顎神経 ・卵円孔: 下顎神経 ・内耳道: 顔面神経、内耳神経(前庭神経・蝸牛神経) ・頸静脈孔: 舌咽神経、迷走神経、副神経 ・舌下神経管: 舌下神経
海綿静脈洞症候群
海綿静脈洞の病変により、洞を通る神経が複数同時に障害される病態である。症状は、眼球運動障害(Ⅲ・Ⅳ・Ⅵ)による複視・眼瞼下垂、眼神経・上顎神経領域の顔面の感覚障害や痛み、Horner症候群(交感神経障害)などで、視神経は通常障害されない。原因として、内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF:拍動性眼球突出、結膜充血、眼窩部の血管雑音が特徴)、内頸動脈瘤、下垂体腺腫の側方進展、髄膜腫、海綿静脈洞血栓症(顔面や副鼻腔の感染から波及)、Tolosa-Hunt症候群(肉芽腫性炎症による有痛性眼筋麻痺で、ステロイドが著効)などがある。
POINT
・海綿静脈洞を通るのは、動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)、外転神経(Ⅵ)、三叉神経第1枝(眼神経)と第2枝(上顎神経)、および内頸動脈。 ・洞内を走るのは内頸動脈と外転神経で、その他の神経は外側壁を走る。外転神経は最も障害されやすい。 ・視神経は視神経管、前庭神経は内耳道を通り、海綿静脈洞とは関係しない。 ・海綿静脈洞症候群の原因として、内頸動脈海綿静脈洞瘻、動脈瘤、下垂体腺腫、血栓症、Tolosa-Hunt症候群を押さえる。
