ぐにゃりとしない子はどれ?―フロッピーインファントの原因を中枢と末梢で整理する
第103回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
筋緊張低下がみられないのはどれか。
- a.Down症候群
- b.Hurler症候群
- c.Prader-Willi症候群
- d.Werdnig-Hoffmann病
- e.先天性筋強直性ジストロフィー
対話形式の解説
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ドクターまとめ
フロッピーインファントは乳児期の筋緊張低下を指し、原因は中枢性(Down症候群、Prader-Willi症候群など)と末梢性(Werdnig-Hoffmann病、先天性筋強直性ジストロフィーなど)に分けて整理します。中枢性では筋力や腱反射が比較的保たれ、末梢性では筋力低下が強く腱反射が低下・消失するのが見分けの目安です。Prader-Willi症候群は乳児期の筋緊張低下・哺乳困難から幼児期以降の過食・肥満へと症状が変化し、先天性筋強直性ジストロフィーは母親由来のCTGリピート伸長で先天型となりやすく、新生児期にはミオトニアが目立ちません。一方、Hurler症候群(ムコ多糖症I型)はムコ多糖の蓄積により関節拘縮や骨変形、ガーゴイル様顔貌、角膜混濁をきたす疾患で、筋緊張低下の原因には含めません。原因疾患を病変部位で分類して覚えることは、ぐったりした乳児を前にしたときの診断の道筋づくりに直結します。
解答・解説
正解はbです
本問は、乳児期に筋緊張低下(hypotonia)を呈する疾患、いわゆるフロッピーインファント(floppy infant)の原因疾患を知っているかを問う問題である。 フロッピーインファントとは、筋緊張が低く、抱き上げるとぐにゃりとして「ぬいぐるみ人形」のように感じられる乳児を指す。引き起こし反応で頭部が後屈したまま遅れてついてくる(head lag)、腋窩で支えて持ち上げると肩から抜け落ちそうになる(slip through)、腹臥位で水平に支えると体が逆U字に垂れ下がる、仰臥位で四肢を投げ出したカエル様肢位(frog leg posture)をとる、などの所見で気づかれる。 原因は大きく二つに分けて考えると整理しやすい。 1. 中枢性(脳・脊髄の上位運動ニューロンの障害): 染色体異常(Down症候群、Prader-Willi症候群など)、脳性麻痺の初期、先天代謝異常など。筋力は比較的保たれ、深部腱反射は正常〜亢進することが多い。 2. 末梢性(下位運動ニューロン〜筋の障害): 脊髄性筋萎縮症(Werdnig-Hoffmann病)、先天性筋強直性ジストロフィー、先天性ミオパチー、先天性筋ジストロフィーなど。筋力低下が目立ち、深部腱反射は低下〜消失する。 選択肢のうち、Hurler症候群だけはこれらのいずれにも当てはまらない。Hurler症候群はムコ多糖が全身の結合組織に蓄積する病気で、関節はむしろ硬くなり(関節拘縮)、筋緊張低下は主要な症状ではない。したがって「筋緊張低下がみられない」ものとして選ぶのはHurler症候群である。
選択肢考察
- ×a. Down症候群
Down症候群(21トリソミー)は、つり上がった眼瞼裂・内眼角贅皮・平坦な鼻根部などの特徴的な顔貌、精神運動発達遅滞、先天性心疾患(心内膜床欠損症など)、十二指腸閉鎖などを合併する染色体異常である。新生児期から乳児期にかけて全身の筋緊張低下と関節の過伸展がほぼ必発で、中枢性フロッピーインファントの代表的な原因である。筋緊張低下がみられる疾患であり、本問の解答には当たらない。
- ○b. Hurler症候群
Hurler症候群はムコ多糖症Ⅰ型(重症型)で、ライソゾーム酵素α-L-イズロニダーゼの欠損により、デルマタン硫酸とヘパラン硫酸が全身の組織に蓄積する常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。乳児期後半から、厚い口唇・巨舌・鞍鼻などの粗な顔貌(ガーゴイル様顔貌)、低身長、多発性異骨症と呼ばれる骨変形、関節拘縮、角膜混濁、肝脾腫、臍・鼠径ヘルニア、精神運動発達遅滞などが進行性に現れる。結合組織への物質蓄積によって関節は硬く動きにくくなるのが特徴で、筋緊張低下(フロッピーインファント)を主症状とする疾患ではない。よって本問の正解である。
- ×c. Prader-Willi症候群
Prader-Willi症候群は15番染色体長腕q11-q13領域の父由来遺伝子が働かないこと(父性欠失や母性片親性ダイソミーなど)で起こる疾患である。症状は年齢で大きく変わり、新生児・乳児期には著明な筋緊張低下と吸啜力の弱さによる哺乳困難が主体で、フロッピーインファントとして発見されることが多い。幼児期以降は過食による高度肥満、低身長、性腺機能低下、知的障害、アーモンド様の眼などが目立つようになる。筋緊張低下がみられる疾患であるため、解答には当たらない。
- ×d. Werdnig-Hoffmann病
Werdnig-Hoffmann病は脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)Ⅰ型で、SMN1遺伝子の異常により脊髄前角細胞(下位運動ニューロン)が変性する常染色体潜性遺伝疾患である。生後6か月までに発症し、全身の高度な筋力低下・筋緊張低下、深部腱反射の消失、舌の線維束性攣縮を呈し、定頸や座位は獲得できない。一方で表情や知能は保たれ、眼球運動も障害されにくい。フロッピーインファントの代表的疾患であり、解答には当たらない。
- ×e. 先天性筋強直性ジストロフィー
筋強直性ジストロフィー1型は19番染色体上のDMPK遺伝子の3塩基(CTG)リピートの異常伸長による常染色体顕性(優性)遺伝疾患である。世代を経るごとにリピートが伸びて発症が早く重くなる表現促進現象がみられ、特に母親から伝わった場合にリピートが大きく伸長して先天型となりやすい。先天型では、出生直後から高度の筋緊張低下、呼吸障害、哺乳・嚥下障害、テント状の上口唇を伴う特有の顔貌、内反足などの関節拘縮を示す。なお、成人型の特徴である筋強直(ミオトニア)は新生児期には目立たない。筋緊張低下がみられる疾患であり、解答には当たらない。
フロッピーインファントの主な原因疾患
中枢性(上位運動ニューロン性) ・染色体異常: Down症候群、Prader-Willi症候群など ・脳障害: 脳性麻痺(特に初期の低緊張期)、低酸素性虚血性脳症、脳奇形 ・先天代謝異常など: ペルオキシソーム病(Zellweger症候群)、先天性甲状腺機能低下症など 末梢性(下位運動ニューロン〜筋) ・脊髄前角: 脊髄性筋萎縮症(Werdnig-Hoffmann病) ・神経筋接合部: 新生児一過性重症筋無力症、乳児ボツリヌス症 ・筋: 先天性筋強直性ジストロフィー、先天性ミオパチー(ネマリンミオパチーなど)、福山型先天性筋ジストロフィー、Pompe病(糖原病Ⅱ型)
中枢性と末梢性の見分け方
・中枢性: 筋力は比較的保たれ、深部腱反射は正常〜亢進。知的発達の遅れやけいれんを伴いやすい。 ・末梢性: 筋力低下が強く、深部腱反射は低下〜消失。知的発達は保たれることが多い(先天性筋強直性ジストロフィーや福山型は知的障害を伴う)。
ムコ多糖症の概要
ムコ多糖(グリコサミノグリカン)を分解するライソゾーム酵素の欠損によって起こる。代表的な病型は、Ⅰ型(Hurler症候群、α-L-イズロニダーゼ欠損、常染色体潜性)とⅡ型(Hunter症候群、イズロン酸-2-スルファターゼ欠損、X連鎖潜性)である。Ⅰ型では角膜混濁がみられるが、Ⅱ型では通常みられない点が鑑別に役立つ。共通する症状は、ガーゴイル様顔貌、骨変形、関節拘縮、肝脾腫、ヘルニア、心弁膜症などで、尿中ムコ多糖の増加と酵素活性の測定で診断する。治療には酵素補充療法や造血幹細胞移植がある。
POINT
・フロッピーインファントの原因は中枢性(Down症候群、Prader-Willi症候群など)と末梢性(Werdnig-Hoffmann病、先天性筋強直性ジストロフィーなど)に分けて覚える。 ・Prader-Willi症候群は「乳児期は筋緊張低下・哺乳困難、幼児期以降は過食・肥満」と年齢で症状が変わる。 ・先天性筋強直性ジストロフィーはCTGリピート伸長による表現促進現象で、母親由来で先天型になりやすい。 ・Hurler症候群(ムコ多糖症Ⅰ型)は関節拘縮・骨変形・ガーゴイル様顔貌・角膜混濁が特徴で、筋緊張低下の原因疾患には含めない。
