血尿の派手さに惑わされない―IgA腎症の予後を決める「蛋白尿」と「血圧」
第103回医師国家試験 D問題 第18問
国試問題にチャレンジ
IgA腎症で腎機能低下の予測因子となるのはどれか。2つ選べ。
- a.高血圧
- b.高度蛋白尿
- c.肉眼的血尿
- d.血清IgA高値
- e.血清補体C3低値
対話形式の解説
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ドクターまとめ
IgA腎症はメサンギウム領域にIgAが沈着する日本で最多の原発性糸球体腎炎で、かつては予後良好とされましたが、診断後約20年で3〜4割が末期腎不全に至ります。腎機能低下の臨床的な予測因子は、持続する高度蛋白尿、高血圧、診断時の腎機能低下であり、組織学的には糸球体硬化、尿細管萎縮・間質線維化、半月体形成(Oxford分類のMEST-C)が重要です。一方、肉眼的血尿の発作、血清IgA高値、血清補体価は診断や鑑別には役立つものの予後因子としては確立しておらず、低補体血症があればほかの腎炎を疑います。蛋白尿と高血圧は予後予測の指標であると同時に、RA系阻害薬やステロイド、扁摘パルスなどの治療標的でもあります。「目立つ所見」と「予後を決める所見」を区別する視点は、慢性腎臓病全般の診療に通じる考え方です。
解答・解説
正解はa, bです
IgA腎症は、糸球体のメサンギウム領域(毛細血管の間を支える部分)にIgAが沈着する慢性糸球体腎炎で、日本では最も頻度の高い原発性糸球体腎炎である。多くは健診での顕微鏡的血尿・蛋白尿で見つかり、上気道感染の直後に肉眼的血尿が出ることもある。 かつては予後良好な疾患と考えられていたが、長期追跡の結果、診断後20年でおよそ3〜4割が末期腎不全に至ることがわかっている。そのため、腎機能が悪化しやすい例を早く見分け、治療を強化することが重要になる。 腎機能低下の予測因子として確立しているのは、臨床所見では①持続する蛋白尿の多さ、②高血圧、③診断時の腎機能低下(血清クレアチニン高値・推算糸球体濾過量(eGFR)低値)である。組織所見では、糸球体硬化、尿細管萎縮・間質線維化、半月体の形成などが挙げられる。蛋白尿と高血圧は、糸球体の中の圧(糸球体内圧)を高めたり、尿細管・間質を障害したりすることで腎障害を進行させる。治療でこれらを改善すれば予後もよくなることから、これらは予後予測の指標であると同時に治療の標的でもある。 一方、血尿の程度、血清IgA値、補体価は、診断や病態の理解には役立つが、腎機能予後の予測因子としては確立していない。
選択肢考察
- ○a. 高血圧
高血圧を伴うIgA腎症は、腎機能が進行性に低下する例が多い。全身の血圧が高いと糸球体内圧が上がって過剰濾過となり、糸球体硬化が進む。また高血圧は、腎内の細動脈の硬化や、すでに腎障害が進んでいることを反映している場合もある。降圧、特にレニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬・アンジオテンシンII受容体拮抗薬)による治療は、蛋白尿を減らし腎機能の低下を遅らせる。
- ○b. 高度蛋白尿
蛋白尿はIgA腎症の腎予後を予測する最も強い臨床因子である。1日の尿蛋白が1g以上(研究によっては0.5g以上)の状態が続く例では、腎機能の低下が起こりやすい。蛋白尿は糸球体の障害の程度を表すだけでなく、尿細管で再吸収される蛋白が尿細管・間質に炎症や線維化を起こし、障害を進める。治療によって尿蛋白が減った例(寛解例)では予後が改善するため、治療効果の判定にも用いられる。
- ×c. 肉眼的血尿
IgA腎症では、上気道炎の直後(1〜3日以内)に肉眼的血尿が出ることがよくある。溶連菌感染後急性糸球体腎炎では感染から1〜2週間後に出るので、潜伏期の違いが鑑別の手がかりになる。肉眼的血尿の発作は目立つ症状だが、その回数や血尿の程度は長期的な腎機能予後の予測因子としては確立していない。肉眼的血尿をきっかけに早く見つかった例では、むしろ予後がよい傾向も報告されている。ただし、肉眼的血尿の際に一時的な急性腎障害を起こすことがある。
- ×d. 血清IgA高値
血清IgAは、IgA腎症の約半数で315mg/dL以上の高値を示し、診断の参考所見とされる。しかし、その値の高さは腎機能の予後とは関係しない。病態の中心は、ヒンジ部の糖鎖が不完全なIgA1(糖鎖異常IgA1)と、それに対する自己抗体がつくる免疫複合体がメサンギウムに沈着することであり、IgAの総量ではない。
- ×e. 血清補体C3低値
IgA腎症では補体の副経路などが働くため、腎組織にはC3がIgAとともに沈着するが、血清補体価(C3・CH50)は通常正常である。血清C3低値はIgA腎症の典型的な所見ではなく、腎予後の予測因子としても確立していない。むしろ低補体血症があれば、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎(C3腎症を含む)、クリオグロブリン血症性腎炎など、ほかの糸球体疾患を考える手がかりとなる。
IgA腎症の概要
・好発:小児〜若年成人。日本では学校検尿や職場健診で見つかることが多い。 ・病態:糖鎖異常IgA1とそれに対する自己抗体(IgGなど)が免疫複合体をつくり、メサンギウムに沈着して、メサンギウム細胞の増殖と基質の増加を起こす。扁桃などの粘膜での免疫反応が関わると考えられている。 ・診断:腎生検で確定する。光学顕微鏡でメサンギウム増殖性糸球体腎炎の像を示し、蛍光抗体法でメサンギウム領域へのIgA(多くはC3も)の顆粒状沈着を認める。 ・診断の参考所見:持続する顕微鏡的血尿(必須)、間欠的または持続的な蛋白尿、血清IgA 315mg/dL以上。
予後の評価
臨床因子(蛋白尿の量、高血圧、診断時の腎機能)と組織所見を組み合わせて、腎不全に進むリスクを分類する。組織所見の評価には、国際的なOxford分類(メサンギウム細胞増多M、管内細胞増多E、分節性硬化S、尿細管萎縮・間質線維化T、半月体C)や、日本の組織学的重症度分類が使われる。
治療
・RA系阻害薬による降圧と蛋白尿の減少(基本となる治療) ・副腎皮質ステロイド(尿蛋白の多い例や組織の活動性が高い例) ・口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用(扁摘パルス、日本で多く行われる) ・減塩、禁煙、脂質異常症の管理など、慢性腎臓病(CKD)としての全般的な管理
POINT
・IgA腎症の腎機能低下の予測因子(臨床):高度蛋白尿(持続する1g/日以上など)、高血圧、診断時の腎機能低下 ・組織学的な予測因子:糸球体硬化、尿細管萎縮・間質線維化、半月体形成(Oxford分類のMEST-C) ・血尿の程度、肉眼的血尿の発作、血清IgA値、血清補体価は予後と関係しない ・IgA腎症の血清補体価は通常正常。低補体血症があれば、ほかの腎炎を考える ・かつては予後良好とされたが、実際には約20年で3〜4割が末期腎不全に至る
