ピントが合わない幼少期―弱視を生むのは「目」ではなく「脳の発達」
第103回医師国家試験 D問題 第12問
国試問題にチャレンジ
弱視をきたしやすいのはどれか。3つ選べ。
- a.近視
- b.遠視
- c.不同視
- d.眼瞼内反
- e.先天白内障
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
弱視は、視覚の感受性期(生後早期からおおむね8歳前後)に網膜の中心窩へ鮮明な像が届かないことで、視覚系の神経回路が十分に発達しない状態です。強度遠視は遠くも近くもピントが合わず屈折異常弱視や調節性内斜視の原因となり、不同視では屈折異常の強い方の眼が抑制されて片眼性の弱視を生じ、先天白内障では像そのものが遮られて最も重い形態覚遮断弱視をきたします。一方、近視は近くで像が結ばれるため通常は弱視になりにくく、眼瞼内反は角膜刺激が主体で結像を妨げにくい点が対照的です。治療は原因除去、完全な屈折矯正、遮閉訓練が柱であり、感受性期を逃さないよう3歳児健診などで早期に発見することが重要です。「中心窩に鮮明な像が届くか」という一つの視点で整理すると、弱視の病型と原因疾患を論理的に理解できます。
解答・解説
正解はb, c, eです
弱視とは
弱視とは、眼球そのものや視路に器質的な病変が見当たらない(あるいは病変の程度に見合わないほど)にもかかわらず、眼鏡などで屈折を矯正しても視力が十分に出ない状態をいう。原因は、視覚の発達期(感受性期。生後早期から特に強く、おおむね8歳前後まで続く)に、網膜の中心窩(黄斑部)に鮮明な像が結ばれない状態が続き、網膜から大脳の視覚野に至る視覚系の神経回路が正常に発達しなかったことにある。つまり、弱視は「目」ではなく「視覚の発達」の障害である。
正解を導く考え方
選択肢ごとに「乳幼児期に、中心窩へピントの合った像が届かない状態が続くか」を考えればよい。 ・屈折異常なら、日常生活の中で網膜にピントが合う距離が存在するか、調節(水晶体の厚みを変えてピントを合わせる働き)で補えるかを考える。 ・片眼だけ条件が悪いなら、脳が良い方の眼ばかりを使い、悪い方の眼の発達が取り残されないかを考える。 ・光の通り道(角膜・水晶体・硝子体)が混濁しているなら、像そのものが網膜に届かない(形態覚遮断)と考える。 この観点から、遠視(特に強度)、不同視、先天白内障が弱視をきたしやすい。一方、近視は近くを見ればピントが合い、眼瞼内反は角膜への刺激症状が主で結像を妨げにくいため、弱視の原因となりにくい。
選択肢考察
- ×a. 近視
近視は、平行光線が網膜より前方で焦点を結ぶ屈折状態である。遠くはぼやけるが、眼に近い物体からの光は網膜上に焦点を結ぶため、近くは鮮明に見える。乳幼児の生活では手元の物を見る時間が長いので、中心窩に鮮明な像が入る機会が確保され、視覚の発達は妨げられにくい。したがって通常の近視は弱視の原因となりにくい。ただし、非常に強い近視(ピントの合う距離が極端に近い場合)や、片眼だけ強い近視で不同視になっている場合には弱視を生じうる点は知っておくとよい。
- ○b. 遠視
遠視は、平行光線が網膜より後方で焦点を結ぶ屈折状態である。遠くを見るときですら調節を働かせないとピントが合わず、近くを見るときはさらに強い調節が必要になる。軽度の遠視なら子どもの豊富な調節力で補えるが、強度の遠視では調節で補いきれず、遠くも近くも常にぼやけた像しか中心窩に届かない。そのため両眼とも視覚の発達が障害され、屈折異常弱視を生じやすい。また、過剰な調節に伴う輻湊(寄り目)が誘発されて調節性内斜視を合併し、斜視弱視の原因にもなる。以上より遠視は弱視をきたしやすい。
- ○c. 不同視
不同視とは、左右眼の屈折度に差がある状態であり、臨床的にはおおむね2ジオプトリー(D)以上の差があるものを指すことが多い。調節は両眼に等しく働くため、脳は屈折異常の軽い方の眼に合わせてピントを合わせ、屈折異常の強い方の眼では常にぼやけた像となる。脳はぼやけた方の眼からの情報を抑制するようになり、その眼の視力が発達しない(不同視弱視)。片眼性で、もう一方の眼がよく見えているため本人も周囲も気付きにくく、3歳児健診などで初めて発見されることが多い。とくに遠視性の不同視で生じやすい。以上より不同視は弱視をきたしやすい。
- ×d. 眼瞼内反
眼瞼内反は、まぶたの縁が眼球側に向かって内側へ反転した状態であり、それに伴って睫毛が角膜や結膜に触れる(睫毛内反、いわゆる逆さまつげ)。乳幼児では下眼瞼に多く、流涙、眼脂、充血、角膜上皮の点状の傷などを生じる。しかし瞳孔領をふさいだり、光の通り道を遮って結像を妨げたりすることは通常なく、視覚の発達を障害しないため、弱視の原因にはなりにくい。成長とともに自然軽快することも多く、症状が強い場合に手術を検討する。なお、瞳孔を覆うほどの眼瞼下垂(上まぶたが垂れる状態)であれば形態覚遮断弱視の原因となるので、両者を混同しないこと。
- ○e. 先天白内障
先天白内障は、生まれつき水晶体が混濁している疾患である。混濁が瞳孔領にかかる程度に強いと、光が網膜に届かず、中心窩に像が結ばれない。視覚の発達に最も重要な時期に視覚刺激そのものが遮断されるため、形態覚遮断弱視という最も重度で治りにくい弱視を生じる。特に片眼性の場合は、健眼優位となってより強い弱視になりやすい。弱視を防ぐには、視性刺激遮断の影響が大きい生後早期(生後数か月以内が目安とされる)に手術で混濁した水晶体を除去し、その後コンタクトレンズや眼鏡などで屈折矯正を行ったうえで、弱視訓練を続ける必要がある。以上より先天白内障は弱視をきたしやすい。
弱視の分類
・屈折異常弱視:両眼の強い屈折異常(主に強度遠視、強い乱視)により、両眼とも鮮明な像を得られないために生じる。 ・不同視弱視:左右眼の屈折度の差により、屈折異常の強い方の眼に生じる。片眼性。 ・斜視弱視:斜視のため片眼が常に目標を中心窩でとらえられず、脳がその眼の像を抑制することで生じる。内斜視(特に調節性内斜視)に多い。 ・形態覚遮断弱視:先天白内障、瞳孔を覆う眼瞼下垂、角膜混濁、硝子体出血などで網膜への像の入力が遮られて生じる。乳児期の眼帯の長期使用でも起こりうる。最も重症化しやすい。
感受性期と治療
視覚の発達には感受性期があり、生後早期ほど影響を受けやすく、おおむね8歳前後までに治療を始めることが重要である。治療の基本は、原因の除去(白内障手術など)と完全な屈折矯正(眼鏡装用。遠視ではアトロピンなどの調節麻痺薬を点眼して屈折度を正確に測定したうえで処方する)であり、片眼性弱視では健眼をアイパッチで遮閉して弱視眼を使わせる遮閉訓練などを追加する。感受性期を過ぎると、治療しても視力の改善は得にくい。
早期発見
片眼性弱視は日常生活で気付かれにくいため、3歳児健康診査での視力検査や屈折検査(フォトスクリーナーなどを用いた機器による屈折検査)が早期発見に重要である。
POINT
・弱視は、視覚の感受性期(生後早期〜8歳前後)に中心窩へ鮮明な像が届かないことで生じる視覚発達の障害である。 ・弱視をきたしやすい:強度遠視(屈折異常弱視、調節性内斜視)、不同視(おおむね2D以上の左右差)、斜視、先天白内障・眼瞼下垂などの形態覚遮断。 ・近視は近くでピントが合うため、通常は弱視になりにくい。 ・眼瞼内反(睫毛内反)は角膜上皮障害が主で、結像を妨げないため弱視の原因となりにくい。 ・形態覚遮断弱視は最も重症で、早期の原因除去が必要である。
