泣かない赤ちゃんに最初の30秒でできること―新生児蘇生は「拭いて、刺激して」から始まる
第103回医師国家試験 B問題 第47問
国試問題にチャレンジ
分娩直後の新生児。在胎39週,経腟分娩で出生した。羊水混濁は認めない。出生直後に啼泣はなく自発呼吸も認めない。四肢にチアノーゼを認め,筋緊張は弱い。心拍数100/分。 直ちに行うのはどれか。2つ選べ。
- a.乾布による全身の水分の拭き取り
- b.背部・足底部刺激
- c.心臓マッサージ
- d.静脈路確保
- e.気管挿管
対話形式の解説
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ドクターまとめ
出生直後に早産児、弱い呼吸・啼泣、筋緊張低下のいずれかがあれば、新生児蘇生法に従ってまず初期処置(保温、体位保持、必要時の気道開通、皮膚の乾燥と刺激)を約30秒で行います。乾いたタオルでの拭き取りは低体温を防ぐと同時に呼吸を誘発する刺激となり、背部や足底の刺激とともに「直ちに」行う処置です。その後も無呼吸(あえぎ呼吸を含む)や心拍数100/分未満が続けば出生後60秒以内を目標にバッグ・マスク換気を開始し、有効な換気30秒後も心拍数60/分未満なら胸骨圧迫を3:1で加え、さらに改善しなければ臍帯静脈からのアドレナリン投与へ進みます。吸引は気道閉塞時に限り、胎便混濁児へのルーチンの気管内吸引も現在は推奨されていません。換気を最優先とする新生児特有の蘇生の考え方を理解しておくことは、分娩に立ち会うすべての医療者に欠かせない知識です。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・在胎39週の正期産児、経腟分娩で出生 ・羊水混濁(胎便による羊水の汚れ)はない ・出生直後に啼泣がなく、自発呼吸もない ・四肢にチアノーゼ、筋緊張は弱い ・心拍数100/分
状態の評価
出生直後の児の状態を点数化するApgarスコアに当てはめると、心拍数(100以上で2点)2点、呼吸(なし)0点、筋緊張(弱い)1点、皮膚色(体幹はピンクで四肢のみチアノーゼ)1点、刺激に対する反応(啼泣なし)0〜1点となり、合計4〜5点程度の新生児仮死の状態と考えられる。ただし、実際の蘇生ではApgarスコアの算出を待たずに、呼吸・心拍・筋緊張などを見ながら手順に沿って処置を進める。
新生児蘇生の流れと設問の考え方
新生児蘇生法(NCPR:日本版の新生児蘇生プログラム)では、出生直後に「早産児か」「弱い呼吸・啼泣か」「筋緊張低下か」を確認し、いずれかに当てはまれば直ちに「初期処置」を行う。本例は自発呼吸・啼泣がなく筋緊張も弱いので、初期処置の対象である。 初期処置は、(1)保温(ラジアントウォーマー下に置く)、(2)体位保持(肩の下に薄いタオルを入れ、頭部をやや後屈させて気道をまっすぐにする「スニッフィングポジション」)、(3)気道開通(分泌物で気道が塞がれている場合に口腔、次いで鼻腔を吸引する)、(4)皮膚の乾燥と刺激(乾いた温かいタオルで羊水を拭き取り、背部をこする・足底を指ではじくなどの刺激を加える)からなり、30秒程度で行う。 その後、呼吸と心拍を評価し、自発呼吸がない(あえぎ呼吸を含む)か心拍数が100/分未満であれば、出生後60秒以内を目標にバッグ・マスクによる人工呼吸(陽圧換気)を開始する。30秒間の有効な人工呼吸を行っても心拍数が60/分未満であれば、人工呼吸に胸骨圧迫を加える。さらに改善しなければアドレナリン投与を考え、そのために臍帯静脈などの血管路を確保する。 したがって、出生直後の本例で「直ちに」行うのは、初期処置に含まれる全身の水分の拭き取りと、背部・足底の皮膚刺激である。
選択肢考察
- ○a. 乾布による全身の水分の拭き取り
新生児は体重あたりの体表面積が大きく皮下脂肪も少ないため、羊水で濡れたままでは蒸散により急速に熱を失う。低体温は酸素消費の増加、代謝性アシドーシス、低血糖、肺血管抵抗の上昇などを招き、仮死からの回復を妨げる。あらかじめ温めたラジアントウォーマー下で、乾いた温かいタオルで全身を拭き、濡れたタオルは取り除く。拭き取りは保温であると同時に皮膚への刺激となって呼吸を誘発する効果もあり、初期処置として直ちに行う。
- ○b. 背部・足底部刺激
背中をタオルでこする、足底を指ではじく・軽くたたくといった皮膚刺激(触覚刺激)は、自発呼吸を誘発するための初期処置の一つである。一次性無呼吸(仮死の早い段階で起こる無呼吸)であれば、この刺激で自発呼吸が始まることが多い。ただし、刺激を長く続けて人工呼吸の開始を遅らせてはならず、初期処置後も無呼吸(あえぎ呼吸を含む)や心拍数100/分未満が続けば、ためらわずにバッグ・マスクによる人工呼吸に進む。
- ×c. 心臓マッサージ
新生児蘇生における胸骨圧迫(心臓マッサージ)は、30秒間の有効な人工呼吸を行っても心拍数が60/分未満のときに開始する。圧迫は両母指で胸骨下部を押す方法(胸郭包み込み両母指圧迫法)が推奨され、胸の厚さの約1/3の深さで、圧迫3回に対して人工呼吸1回(3:1)の比で行う。本例は心拍数100/分と保たれており、初期処置も行っていない段階で胸骨圧迫を行う適応はない。
- ×d. 静脈路確保
新生児蘇生で血管路の確保が必要になるのは、有効な人工呼吸と胸骨圧迫を行っても心拍数60/分未満が続き、アドレナリン投与や循環血液量を補う輸液が必要な段階である。その場合、出生直後の児では臍帯静脈カテーテルが最も確実な経路となる。本例ではまず初期処置と呼吸の確立が優先であり、出生直後に直ちに行う処置ではない。
- ×e. 気管挿管
新生児の人工呼吸はまずバッグ・マスクで行い、多くの場合それで有効な換気が得られる。気管挿管は、マスク換気が有効でない場合、人工呼吸が長時間必要な場合、胸骨圧迫を行う場合、先天性横隔膜ヘルニアが疑われる場合などに考慮する。初期処置もまだ行っていない段階で、直ちに気管挿管を行うことはない。なお、羊水の胎便混濁があっても、元気のない児にルーチンで気管挿管・気管内吸引を行うことは現在は推奨されていない。
Apgarスコア
出生後1分と5分に評価し、各項目0〜2点、合計10点で採点する。 ・心拍数: なし0点、100/分未満1点、100/分以上2点 ・呼吸: なし0点、弱い啼泣・不規則な呼吸1点、強い啼泣2点 ・筋緊張: だらりとしている0点、四肢をいくらか曲げる1点、活発に動かす2点 ・刺激に対する反応: 反応なし0点、顔をしかめる1点、泣く・咳やくしゃみをする2点 ・皮膚色: 全身蒼白またはチアノーゼ0点、体幹ピンク・四肢チアノーゼ1点、全身ピンク2点 一般に7点以上を正常、4〜6点を軽症仮死、3点以下を重症仮死とする。5分値は神経学的予後との関連が強い。Apgarスコアは児の状態を記録する指標であり、蘇生を開始するかどうかの判断は1分値を待たずに行う。
新生児蘇生法(NCPR)の要点
・出生直後の確認: 早産児、弱い呼吸・啼泣、筋緊張低下のいずれかがあれば初期処置へ。いずれもなければ母親のそばで保温などのルーチンケアを行う。 ・初期処置: 保温、体位保持、必要時の気道開通(口腔→鼻腔の順に吸引)、皮膚乾燥と刺激。吸引は、分泌物による気道閉塞がある場合に限って行い、ルーチンには行わない(過度の吸引は徐脈や無呼吸を誘発する)。 ・評価: 呼吸と心拍数。心拍数は聴診や臍帯基部の拍動触知で確認し、必要に応じて心電図モニターも用いる。 ・人工呼吸: 自発呼吸なし(あえぎ呼吸を含む)または心拍数100/分未満で開始し、出生後60秒以内の開始を目指す。パルスオキシメータを右手(動脈管より上流の部位)に装着する。正期産児では空気(酸素濃度21%)から開始する。 ・胸骨圧迫: 有効な人工呼吸を30秒行っても心拍数60/分未満なら開始し、人工呼吸と3:1で組み合わせる。 ・薬物: それでも心拍数60/分未満が続けばアドレナリンを投与する(臍帯静脈経由が望ましい)。 ・自発呼吸はあるが努力呼吸やチアノーゼが続く場合は、SpO2を測定しながらCPAP(持続気道陽圧)や酸素投与を考慮する。
羊水胎便混濁への対応の変遷
かつては胎便吸引症候群の予防のため、頭部娩出時の口腔・咽頭吸引や、元気のない児への気管挿管による気管内吸引がルーチンで行われていたが、有効性が示されず、現在はいずれもルーチンでは推奨されていない。胎便による気道閉塞が疑われる場合に吸引を行う。
POINT
・出生直後、早産・弱い呼吸や啼泣・筋緊張低下のいずれかがあれば、まず初期処置(保温、体位保持、必要時の気道開通、皮膚乾燥と刺激)を行う。 ・初期処置後も無呼吸(あえぎ呼吸を含む)または心拍数100/分未満 → バッグ・マスクによる人工呼吸(出生後60秒以内が目標)。 ・有効な人工呼吸30秒後も心拍数60/分未満 → 胸骨圧迫(人工呼吸と3:1)を追加し、改善がなければアドレナリン投与。 ・静脈路確保や気管挿管は、初期処置と人工呼吸の後の段階の処置である。
