「光が走る」「何かが浮かぶ」―患者の言葉を眼科用語に翻訳する
第103回医師国家試験 B問題 第48問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。視覚異常を主訴に来院した。「今朝,新聞を読んでいたら,突然,左側に光が走るように感じた。眼を動かすとはっきりと感じられ,眼を閉じても消えない。以前から,明るいところを見ると,もやもやと浮遊するものが見えていたが,左眼に多く見えるようになった」と言う。 述べられている症状はどれか。2つ選べ。
- a.夜盲
- b.眼精疲労
- c.飛蚊症
- d.光視症
- e.変視症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
実際には光がないのに光が走って見え、眼球運動で強まり閉眼しても消えない症状は光視症で、硝子体による網膜の牽引が原因です。明るく均一な背景で浮遊物が見える症状は飛蚊症で、硝子体の濁りが網膜に影を落とすことで生じます。中高年で両者が急に出現・増加した場合は後部硝子体剝離が多いものの、網膜裂孔や網膜剝離の前ぶれのこともあるため、散瞳下で眼底周辺部まで観察する必要があります。物がゆがむ変視症は黄斑疾患、暗所で見えにくい夜盲は杆体機能障害の症状であり、片頭痛の閃輝暗点は両眼の同側視野に現れる点で光視症と区別します。患者の訴えを正確な症候名に置き換える力は、問診から緊急性のある疾患を拾い上げるための第一歩です。
解答・解説
正解はc, dです
問われていること
本問は疾患の診断ではなく、患者が自分の言葉で語った訴えを、眼科の症候名に置き換えられるかを問う問題である。訴えを一つずつ分解して対応する用語を考える。
訴えの整理
・「突然、左側に光が走るように感じた」「眼を動かすとはっきりと感じられ、眼を閉じても消えない」 → 実際には光の刺激がないのに、稲妻や流れ星のような光が見える症状であり、光視症にあたる。網膜が物理的に引っ張られるなどして視細胞が刺激されると、脳はそれを「光」として感じる。外からの光によるものではないため、眼を閉じても見える。眼を動かすと強まるのは、眼球運動に伴って揺れる硝子体(眼球内を満たすゲル状の組織)が網膜を引っ張るためと考えられる。 ・「明るいところを見ると、もやもやと浮遊するものが見えていた」「左眼に多く見えるようになった」 → 視界に虫や糸くず、煙のような影が漂って見える症状であり、飛蚊症にあたる。硝子体の中の濁りが網膜に影を落として見えるもので、白い壁や青空など明るく均一な背景で目立つ。
背景にある病態
55歳前後は、加齢で硝子体が液化・収縮して網膜から離れる後部硝子体剝離が起こりやすい年齢である。後部硝子体剝離そのものは生理的な変化で、光視症や飛蚊症を生じても多くは心配ない。しかし、硝子体が網膜に強く癒着している部位では、網膜が引きちぎられて網膜裂孔ができ、そこから網膜剝離へ進むことがある。裂孔形成時に網膜の血管が切れると硝子体出血となり、飛蚊症が急に増える。本例のように光視症が突然出現し、飛蚊症が増えたときは、散瞳して眼底周辺部まで詳しく調べ、網膜裂孔・網膜剝離の有無を確認する必要がある。 なお、「左側に光が見える」という訴えだけでは、片眼の症状なのか、両眼の左側の視野に見えている(脳の右側に原因がある)のかは区別できない。片眼ずつ隠して確認することが大切である。
選択肢考察
- ×a. 夜盲
夜盲は、暗い場所や夕暮れ時に見えにくくなる症状で、暗さに目が慣れる暗順応が障害されて起こる。暗所での視覚を担う杆体(かんたい)細胞の障害によるもので、代表的な原因は網膜色素変性(遺伝性)、ビタミンA欠乏(杆体の視物質ロドプシンの材料が不足する)、先天停在性夜盲などである。本例は明るい場所での浮遊物や光を訴えており、暗所で見えにくいという訴えはない。
- ×b. 眼精疲労
眼精疲労は、眼を使う作業を続けたときに眼の疲れ、眼痛、かすみ、頭痛、肩こりなどが生じ、休息をとっても十分に回復しない状態をいう。屈折異常の未矯正や老視、斜位、ドライアイ、長時間のディスプレイ作業などが原因となる。本例の訴えは光や浮遊物が見えるという視覚現象であり、眼の疲れについては述べられていない。
- ○c. 飛蚊症
「明るいところを見ると、もやもやと浮遊するものが見える」という訴えが飛蚊症にあたる。硝子体内の濁りが網膜に影として映るため、視線を動かすと遅れてついてくるように漂い、明るく均一な背景で目立つ。加齢による硝子体の変化や後部硝子体剝離による生理的なものが多いが、網膜裂孔に伴う硝子体出血、ぶどう膜炎(眼内の炎症)による硝子体混濁などでも起こる。本例のように急に数が増えた場合は、網膜裂孔や網膜剝離を除外するため眼底検査が必要である。
- ○d. 光視症
「突然、光が走るように感じた」「眼を動かすとはっきりし、眼を閉じても消えない」という訴えが光視症にあたる。光視症は、実際の光の刺激がないのに稲妻状・流れ星状の光が見える症状で、硝子体が網膜を引っ張ることで視細胞が機械的に刺激されて生じる。外界の光ではないため閉眼しても見え、眼球運動で硝子体が揺れると強くなる。後部硝子体剝離に伴うことが多いが、網膜裂孔や網膜剝離の前ぶれのこともある。
- ×e. 変視症
変視症は、まっすぐな線が曲がって見えるなど物がゆがんで見える症状で、物が実際より大きく見える大視症、小さく見える小視症を含めていうこともある。黄斑上膜、加齢黄斑変性、中心性漿液性脈絡網膜症、黄斑円孔など黄斑部(網膜の中心部)の病気でみられ、Amslerチャート(方眼状の検査表)で検出する。本例ではゆがみの訴えはない。
光視症・飛蚊症と後部硝子体剝離・網膜裂孔
・硝子体は加齢とともに液化・収縮し、網膜から後ろ側が離れる(後部硝子体剝離)。50〜60歳代に多く、強度近視では早く起こる。 ・剝離の際、網膜が引っ張られると光視症、硝子体の濁りや視神経乳頭周囲から外れた組織の輪(Weiss環)が見えると飛蚊症となる。 ・硝子体と網膜の癒着が強い部位では網膜裂孔ができ、放置すると裂孔から液化硝子体が網膜の下に入り込み、裂孔原性網膜剝離に進行する。網膜剝離が広がると、カーテンがかかったような視野欠損や視力低下が生じる。 ・網膜裂孔の段階で見つかれば、網膜光凝固(レーザー)で裂孔の周囲を固めて剝離を予防できる。網膜剝離に至った場合は硝子体手術や強膜バックリング術が必要となる。 ・光視症・飛蚊症が急に出現・増加した場合は、散瞳下で眼底周辺部まで観察することが重要である。
光視症と閃輝暗点の違い
・光視症: 網膜の刺激による。片眼性で、一瞬の光が走ることが多く、眼球運動で誘発されやすい。 ・閃輝暗点: 片頭痛の前兆などでみられる後頭葉視覚野の一過性の機能異常による。ジグザグ状にきらきら光る縁取りをもつ暗点が視野の中で徐々に広がり、5〜60分程度で消える。両眼の同じ側の視野に現れるため、片眼を隠しても見える。
主な眼症状の用語
・飛蚊症: 視界に浮遊物が見える(硝子体混濁) ・光視症: 光刺激がないのに光が見える(網膜への機械的刺激) ・変視症: 物がゆがんで見える(黄斑疾患) ・夜盲: 暗所で見えにくい(杆体機能障害) ・昼盲: 明るい所でかえって見えにくい(錐体機能障害、角膜・水晶体中央の混濁など) ・羞明: まぶしさを強く感じる ・眼精疲労: 眼を使うと疲れやすく、休んでも回復しにくい
POINT
・光が走って見え、眼を閉じても消えない → 光視症(硝子体による網膜の牽引)。 ・明るい背景で浮遊物が見える → 飛蚊症(硝子体混濁)。 ・中高年で光視症と飛蚊症の急な出現・増加をみたら、後部硝子体剝離のほか網膜裂孔・網膜剝離を考え、散瞳下眼底検査を行う。 ・物がゆがんで見える変視症は黄斑疾患、暗所で見えにくい夜盲は杆体機能障害の症状である。
