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「妊娠はするのに育たない」―不育症の原因を不妊症と切り分けて考える

第103回医師国家試験 B問題 第31問

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第103回 B問題 第31問

不育症の原因となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.染色体異常
  2. b.高プロラクチン血症
  3. c.副甲状腺機能低下症
  4. d.抗リン脂質抗体症候群
  5. e.子宮腔癒着〈Asherman症候群〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は不育症の原因を選ぶ問題だ。最大の着眼点は、「妊娠が成立しない」不妊症と、「妊娠は成立するのに流産や死産を繰り返す」不育症をきちんと区別できるかどうか。選択肢には、不妊症の原因として有名なものが紛れ込んでいるよ。
医学生医学生
不育症と不妊症って、講義ではまとめて聞いた気がして、正直あいまいです。
ドクタードクター
多くの人がそうだね。まず定義から整理しよう。わが国では、妊娠は成立するけれど流産・死産を2回以上繰り返して生児が得られない状態を不育症と呼ぶことが多い。流産を2回繰り返すのが反復流産、3回以上連続するのが習慣流産だ。つまり不育症の原因は「受精卵や胎児が育ち続けられない理由」で、不妊症の原因は「排卵や受精、着床がうまくいかない理由」と考えると分けやすい。
医学生医学生
そうすると、育たない理由として真っ先に浮かぶのは染色体異常です。流産の原因で一番多いのは胎児の染色体異常だと習いました。
ドクタードクター
その通り。ひとつひとつの流産の最大の原因は、トリソミーなど胎児側の偶発的な染色体異常だ。ただ不育症として重要なのは、夫婦のどちらかが均衡型相互転座やRobertson転座、逆位といった均衡型の構造異常を持っている場合なんだ。流産を繰り返す夫婦を調べると、数%から10%程度で見つかるとされている。
医学生医学生
均衡型なら遺伝情報の過不足はないので、本人は健康なんですよね。それでも流産につながるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。保因者本人は健康だけど、減数分裂で配偶子をつくるときに、染色体の一部が多すぎたり足りなかったりする不均衡な配偶子ができうる。その配偶子から生じた受精卵は部分的な過不足を抱えるので、流産に至りやすいんだ。だから染色体異常は不育症の原因として正しい。
医学生医学生
もうひとつは抗リン脂質抗体症候群だと思います。膠原病内科の実習で、SLEに合併して血栓症を起こした患者さんを担当しました。
ドクタードクター
素晴らしい、まさにその疾患だ。ループスアンチコアグラントや抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体が持続的に陽性となり、動静脈の血栓症と妊娠合併症を起こす自己免疫疾患だね。胎盤の血管で血栓ができたり、絨毛の機能が抗体で直接障害されたりして、反復流産、妊娠10週以降の胎児死亡、妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全による早産を引き起こす。
医学生医学生
不育症の原因の中でも、治療できるものとして大事なんですね。
ドクタードクター
そう。低用量アスピリンとヘパリンの併用で生児獲得率の改善が期待できるので、不育症の検査では必ず確認する。では残りの選択肢を見よう。高プロラクチン血症はどうかな。
医学生医学生
乳汁漏出と無月経が出るので、妊娠しにくくなるほう、つまり不妊症の原因でしょうか。
ドクタードクター
正解。プロラクチンがGnRHの分泌を抑えて排卵障害や黄体機能不全を起こす。原因はプロラクチノーマやドパミン受容体拮抗薬などの薬剤だ。主に不妊症の原因として位置づけられていて、流産を繰り返すこととの直接的な因果関係は確立していないので、ここでは選ばない。
医学生医学生
Asherman症候群も、掻爬のあとで子宮内腔が癒着して着床できなくなる病気だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。過度な内膜掻爬などで基底層が傷つき、感染も加わって子宮腔の前後壁が癒着した状態だ。月経量の減少や無月経、着床障害による不妊症が主な臨床像になる。流産との関連を指摘する報告もあるけれど、この選択肢の中では不妊症側の原因と考えるのが妥当で、染色体異常や抗リン脂質抗体症候群ほど不育症の原因として確立していない。診断は子宮鏡や子宮卵管造影、治療は子宮鏡下の癒着剥離術だよ。
医学生医学生
副甲状腺機能低下症は……甲状腺の病気が流産に関係すると聞いたことがあって、少し引っかかりました。
ドクタードクター
そこが出題者のねらいだ。不育症のリスク因子とされるのは甲状腺機能の異常、つまり甲状腺機能低下症や亢進症、甲状腺自己抗体陽性などだ。副甲状腺機能低下症はPTH不足による低カルシウム血症でテタニーやけいれんを起こす病気で、不育症との関連は知られていない。名前に引っ張られないことが大切だね。
医学生医学生
整理すると、育たない理由が不育症、妊娠できない理由が不妊症で、似た名前の臓器にも注意、ということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床の視点を加えておこう。不育症のリスク因子には、夫婦染色体異常、抗リン脂質抗体症候群のほかに、中隔子宮などの子宮形態異常や、甲状腺機能異常、コントロール不良の糖尿病などの内分泌異常がある。ただ、検査をしても明らかな因子が見つからない例が半数以上を占めるんだ。
医学生医学生
原因がわからないと、患者さんはとてもつらいと思います。産婦人科の実習でも、流産後の方への声かけの難しさを感じました。
ドクタードクター
大切な感覚だね。原因不明例でも、特別な治療なしで次の妊娠で生児を得られる可能性は比較的高いとされていて、精神的な支援が重要と考えられている。夫婦染色体異常が見つかった場合は遺伝カウンセリングを行い、自然妊娠でも累積では生児を得られることが多いこと、場合によっては着床前遺伝学的検査が選択肢になることを丁寧に説明する。抗リン脂質抗体症候群は、12週以上の間隔をあけて抗体が持続陽性であることを確認して診断する点も押さえておこう。

まとめ

不育症は、妊娠は成立するものの流産・死産を繰り返して生児が得られない状態であり、妊娠そのものが成立しない不妊症とは区別して考えます。確立した原因としては、均衡型転座などの夫婦の染色体構造異常と、胎盤の血栓や絨毛障害を起こす抗リン脂質抗体症候群が代表的で、後者は低用量アスピリンとヘパリンで治療できる重要な因子です。高プロラクチン血症やAsherman症候群は主に排卵障害・着床障害を介した不妊症の原因であり、副甲状腺機能低下症は不育症のリスク因子である甲状腺機能異常と混同させる選択肢です。不育症の約半数以上は原因不明で、その場合でも次回妊娠で生児を得られる可能性は比較的高く、精神的支援が欠かせません。定義の違いを軸に原因を整理しておくことは、国家試験だけでなく、流産を経験した夫婦に寄り添う臨床の場でも役立ちます。

解答・解説

正解はa, dです

不育症とは、妊娠は成立するものの、流産・死産を繰り返して生児を得られない状態をいう。我が国では一般に2回以上の流産・死産がある場合を不育症とし、流産を3回以上連続して繰り返す場合を習慣流産(反復流産は2回)とよぶ。「妊娠が成立しない」不妊症とは区別して考えることが本問のポイントである。 不育症の主なリスク因子として、次のものが知られている。 ①夫婦の染色体異常(均衡型相互転座、Robertson転座、逆位など) ②抗リン脂質抗体症候群などの凝固異常 ③子宮形態異常(中隔子宮、双角子宮など) ④内分泌異常(甲状腺機能異常、コントロール不良の糖尿病など) ただし、検査をしても明らかなリスク因子が見つからない例(偶発的な胎児染色体異常の反復を含む)が半数以上を占める。 選択肢のうち、確立した不育症の原因は夫婦の染色体異常と抗リン脂質抗体症候群である。高プロラクチン血症と子宮腔癒着(Asherman症候群)は、主として排卵障害や着床障害を介して「妊娠しにくくなる」不妊症の原因として扱われる。副甲状腺機能低下症は、名前の似た甲状腺機能低下症と混同させるための選択肢である。

選択肢考察

  1. ○a.  染色体異常

    流産を繰り返す夫婦の染色体を調べると、数%〜10%程度で夫婦のいずれかに構造異常が見つかる。多くは均衡型相互転座、Robertson転座、逆位などの均衡型構造異常であり、保因者本人は遺伝情報の過不足がないため健康である。しかし配偶子(卵子・精子)がつくられる減数分裂の際に不均衡な染色体を持つ配偶子が生じ、その受精卵は染色体の部分的な過不足のため流産に至りやすい。なお、一回ごとの流産の最大の原因は胎児(胎芽)側の偶発的な染色体異常(トリソミーなど)であり、これも流産の反復に関与しうる。

  2. ×b.  高プロラクチン血症

    高プロラクチン血症はプロラクチンがゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌を抑えることで排卵障害や黄体機能不全を起こし、乳汁漏出と無月経(乳汁漏出無月経症候群)を呈する。原因には下垂体プロラクチノーマや薬剤(ドパミン受容体拮抗薬など)がある。主に不妊症の原因として位置づけられ、流産の反復との直接的な因果関係は確立していないため、本問では不育症の原因としない。

  3. ×c.  副甲状腺機能低下症

    副甲状腺機能低下症は副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌不足により低カルシウム血症・高リン血症を来し、テタニーやけいれんを起こす疾患であり、不育症との関連は知られていない。不育症のリスク因子とされるのは甲状腺機能の異常(甲状腺機能低下症・亢進症、甲状腺自己抗体陽性など)であり、名称の似た副甲状腺と取り違えないよう注意する。

  4. ○d.  抗リン脂質抗体症候群

    抗リン脂質抗体症候群(APS)は、ループスアンチコアグラント(LA)、抗カルジオリピン抗体(aCL)、抗β2グリコプロテインI抗体などの抗リン脂質抗体が持続的に陽性となり、動脈・静脈の血栓症や妊娠合併症を起こす自己免疫疾患である。胎盤の血管で血栓が生じたり、絨毛(トロホブラスト)の機能が直接障害されたりすることで、反復流産、妊娠10週以降の子宮内胎児死亡、妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全による早産などを引き起こす。不育症の代表的な治療可能な原因であり、低用量アスピリンとヘパリンの併用療法で生児獲得率の改善が期待できる。全身性エリテマトーデス(SLE)に合併することもあり、血小板減少を伴うことがある。

  5. ×e.  子宮腔癒着〈Asherman症候群〉

    Asherman症候群は、流産・分娩後の過度な子宮内膜掻爬などで内膜の基底層が損傷され、さらに感染が加わることで子宮腔の前後壁が部分的または広範に癒着した状態である。内膜が再生しにくいため、月経量の減少や無月経、着床障害による不妊症を来すのが主な臨床像である。流産との関連を指摘する報告もあるが、本問の選択肢の中では不妊症の原因として位置づけられ、不育症の原因としては染色体異常や抗リン脂質抗体症候群ほど確立していない。診断は子宮鏡や子宮卵管造影で行い、治療は子宮鏡下癒着剥離術である。

不育症と関連用語

・流産: 妊娠22週未満の妊娠の終結。妊娠12週未満を早期流産、12週以後22週未満を後期流産という。 ・反復流産: 流産を2回繰り返すもの。 ・習慣流産: 流産を3回以上連続して繰り返すもの。 ・不育症: 妊娠は成立するが、流産・死産を2回以上繰り返し生児が得られない状態(生化学的妊娠は原則として回数に含めない)。

不育症の主なリスク因子と対応

・夫婦染色体異常: 遺伝カウンセリングを行う。自然妊娠でも累積では生児を得られることが多い。着床前遺伝学的検査(PGT-SR)が選択肢となる場合もある。 ・抗リン脂質抗体症候群: 低用量アスピリン+ヘパリン療法。 ・子宮形態異常: 中隔子宮などでは子宮鏡下中隔切除術が検討される。 ・甲状腺機能異常・糖尿病: 妊娠前からの管理・治療。 ・原因不明例: 特別な治療なしでも次回妊娠で生児を得られる可能性が比較的高く、精神的支援(テンダー・ラビング・ケア)が重要とされる。

抗リン脂質抗体症候群の分類基準(改訂札幌基準)の概要

臨床所見: ①動静脈血栓症、②妊娠合併症(妊娠10週未満の原因不明の連続3回以上の流産、妊娠10週以降の原因不明の形態正常胎児の死亡、妊娠高血圧腎症・子癇または胎盤機能不全による妊娠34週未満の早産)のいずれか。 検査所見: LA、aCL(IgG/IgM)、抗β2グリコプロテインI抗体(IgG/IgM)のいずれかが12週以上の間隔をあけて2回以上陽性。 臨床所見と検査所見をそれぞれ1つ以上満たすときにAPSと分類する。なお、2023年にACR/EULARの新しい分類基準も公表されている。

不妊症の原因として扱われるもの

高プロラクチン血症(排卵障害)、多嚢胞性卵巣症候群、卵管閉塞、子宮内膜症、Asherman症候群(着床障害)、男性因子など。

POINT

・不育症は「妊娠は成立するが流産・死産を繰り返す」状態、不妊症は「妊娠が成立しない」状態であり、区別して考える。 ・不育症の確立したリスク因子: 夫婦の染色体構造異常(均衡型転座など)、抗リン脂質抗体症候群、子宮形態異常、甲状腺機能異常など。 ・抗リン脂質抗体症候群は治療可能な原因として重要で、低用量アスピリン+ヘパリンで治療する。 ・高プロラクチン血症、Asherman症候群は主に不妊症の原因。副甲状腺機能低下症は無関係(甲状腺と混同しない)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。