StudyMed医師国家試験

母子保健法か母体保護法か―法律の名前と統計のU字カーブで解く母子保健

第103回医師国家試験 B問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第103回 B問題 第29問

我が国の母子保健で正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.母子健康センターは各都道府県に1か所設置されている。
  2. b.妊産婦健康診査は母体保護法に基づき実施される。
  3. c.妊産婦死亡率は経済協力開発機構〈OECD〉加盟国で最も高い。
  4. d.自然死産率を妊婦の年齢別にみると25~29歳が最も低い。
  5. e.周産期死亡率は戦後改善している。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は我が国の母子保健について、制度と統計をまとめて問う問題だ。着眼点は3つ。どの法律に基づくのか、誰が実施するのか、そして主要な統計がどう推移しているか。この3つを意識しながら選択肢を見ていこう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、母子保健法と母体保護法の名前が似ていて混乱した記憶があります。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。妊産婦や乳幼児の健康診査、母子健康手帳の交付、保健指導や訪問指導といった母子保健サービスはすべて母子保健法に基づく。一方の母体保護法は、不妊手術と人工妊娠中絶について定めた法律なんだ。
医学生医学生
ということは、妊産婦健康診査が母体保護法に基づくというのは誤りですね。
ドクタードクター
その通り。妊産婦健診の根拠は母子保健法で、実施主体は市町村。公費負担は14回分程度が標準とされている。ちなみに母体保護法は1996年に優生保護法から改正・改称されたもので、人工妊娠中絶ができるのは妊娠22週未満、行えるのは都道府県医師会が指定する母体保護法指定医に限られる。
医学生医学生
産婦人科の実習で、指定医の先生しか中絶手術ができないと聞きました。では、母子健康センターは都道府県に1か所ずつあるのでしょうか。
ドクタードクター
ここで2つ目の着眼点、実施主体が効いてくる。1994年の母子保健法改正以降、母子保健サービスの多くは住民に身近な市町村が担っている。母子健康センターも設置主体は市町村で、しかも「必要に応じて設置するよう努める」という努力義務なんだ。都道府県に1か所という形ではないよ。
医学生医学生
保健所は都道府県単位のイメージがあったので、つい都道府県と思ってしまいました。
ドクタードクター
その連想で引っかかる人は多いね。さらに今は、妊娠期から子育て期まで切れ目なく支援する母子健康包括支援センター、いわゆる子育て世代包括支援センターを経て、児童福祉部門と一体化したこども家庭センターへの移行が進んでいる。いずれも市町村の拠点だ。
医学生医学生
次は統計ですね。日本の妊産婦死亡率がOECDで最も高いというのは、さすがに違う気がします。
ドクタードクター
正しい感覚だ。戦後直後は出産10万対で100を大きく超えていたけれど、医療の進歩と周産期医療体制の整備で劇的に下がって、近年は出産10万対で数件程度。OECD加盟国の中でも最も低い部類に入る。だから「最も高い」は誤りだね。
医学生医学生
周産期死亡率が戦後改善しているというのは、同じ理由で正しいと考えてよいですか。
ドクタードクター
そう、それが正解の一つだ。周産期死亡は妊娠満22週以後の死産と生後1週未満の早期新生児死亡を合わせたもので、出産千対で表す。昭和20〜30年代の出産千対40前後から、現在は3台と世界最高水準の低さになった。背景には施設分娩の普及、NICUを含む周産期医療ネットワークの整備、妊婦健診の充実がある。
医学生医学生
NICUの実習で、超低出生体重児が元気に退院していくのを見て驚きました。最後の自然死産率の年齢別というのは、どう考えればいいでしょう。
ドクタードクター
自然死産率は母の年齢とU字型の関係を示す。若年でも高年齢でも高く、25〜29歳が最も低い。だからこれも正しい選択肢だ。10歳代では社会的要因や妊婦健診の未受診、高年齢では染色体異常や妊娠合併症の増加が背景にあると考えられている。
医学生医学生
高齢になるほど上がるだけだと思っていましたが、若年側でも上がるのがポイントなんですね。
ドクタードクター
その通り。単調増加と思い込むと間違えやすい。ここで指標の定義も整理しておこう。死産は妊娠満12週以後の死児の出産で、自然死産と人工死産に分けて出産千対で表す。新生児死亡は生後4週未満、乳児死亡は生後1年未満の死亡で、どちらも出生千対。乳児死亡率は地域の衛生状態や生活水準を反映する指標とされている。
医学生医学生
分母が出産なのか出生なのか、CBTの勉強でも混乱しました。死産を含むかどうかで決まるということですね。
ドクタードクター
いい整理だね。死産が分子に入る指標は分母も死産を含めた出産、生まれた後の死亡だけを見る指標は出生が分母になる。もう一つ、周産期死亡の定義は1995年に妊娠満28週以後から満22週以後に変わっているから、長期推移を比べるときは注意が必要だ。臨床に出ると、母子健康手帳の交付や乳幼児健診の案内など、患者さんに制度を説明する場面も多い。法律と実施主体を正しく知っておくことは、そのまま実務に役立つよ。

まとめ

我が国の母子保健では、妊産婦・乳幼児の健康診査や母子健康手帳、保健指導などは母子保健法に基づき、主に市町村が実施します。母体保護法は不妊手術と人工妊娠中絶を定める法律で、健診の根拠法ではなく、母子健康センターも市町村が努力義務として設置するものです。妊産婦死亡率・周産期死亡率・乳児死亡率は戦後大きく低下して世界最低水準にあり、自然死産率は母の年齢別に25〜29歳で最も低いU字型を示します。各指標の定義と分母(出産か出生か)、周産期死亡の定義変更もあわせて押さえると、統計問題に強くなります。制度と統計を結びつけて理解することは、妊婦や家族への説明など臨床現場でも役立つ基盤となります。

解答・解説

正解はd, eです

我が国の母子保健について、制度の根拠法、設置主体、主要な統計指標を横断的に問う問題である。 押さえておくべき点は大きく3つある。 第一に根拠法の区別である。妊産婦・乳幼児の健康診査、母子健康手帳、保健指導、訪問指導などの母子保健サービスは「母子保健法」に基づく。一方、「母体保護法」は不妊手術と人工妊娠中絶を規定する法律であり、健診制度とは関係しない。 第二に実施主体である。1994年の母子保健法改正以降、母子保健サービスの多くは住民に身近な市町村が担っている。 第三に統計である。我が国の妊産婦死亡率・周産期死亡率・乳児死亡率は戦後大きく低下し、現在は世界で最も低い水準にある。自然死産率は母体年齢と関係し、若年と高年齢の両端で高く、20歳代後半で最も低いU字型を示す。 これらを踏まえると、統計の傾向を正しく述べたd・eが正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  母子健康センターは各都道府県に1か所設置されている。

    母子健康センターは母子保健法に定められた施設で、設置主体は市町村である。法律上は「市町村は必要に応じて設置するよう努めなければならない」という努力義務であり、各都道府県に1か所という形で設置されるものではない。なお、その後の法改正で、妊娠期から子育て期まで切れ目のない支援を行う母子健康包括支援センター(いわゆる子育て世代包括支援センター)が位置づけられ、さらに現在は児童福祉部門と一体化したこども家庭センターへの移行が進められている。いずれも市町村が設置する拠点である。

  2. ×b.  妊産婦健康診査は母体保護法に基づき実施される。

    妊産婦健康診査の根拠法は母子保健法であり、市町村が実施主体となる(公費負担は14回分程度が標準とされる)。母体保護法は、母性の生命・健康を保護する目的で不妊手術および人工妊娠中絶について定める法律で、健診の根拠とはならない。人工妊娠中絶を行えるのは都道府県医師会が指定する医師(母体保護法指定医)であることも併せて覚えておくとよい。

  3. ×c.  妊産婦死亡率は経済協力開発機構〈OECD〉加盟国で最も高い。

    我が国の妊産婦死亡率は、戦後直後には出産10万対で100を大きく超えていたが、医療の進歩と周産期医療体制の整備によって著しく低下した。近年は出産10万対で数件(例: 2022年は4.2)と、OECD加盟国の中でも最も低い部類に属する。したがって「最も高い」は誤りである。

  4. ○d.  自然死産率を妊婦の年齢別にみると25~29歳が最も低い。

    死産は妊娠満12週以後の死児の出産で、自然死産と人工死産に分けられる。自然死産率(出産千対)を母の年齢別にみると、25〜29歳が最も低く(2022年で7.3前後)、それより若い年齢層と高い年齢層で上昇するU字型の分布を示す。10歳代では社会的要因や妊婦健診の未受診、高年齢では染色体異常や妊娠合併症の増加が背景にあると考えられる。

  5. ○e.  周産期死亡率は戦後改善している。

    周産期死亡は、妊娠満22週以後の死産と生後1週未満の早期新生児死亡を合わせたもので、周産期死亡率はこれを「出生数+妊娠満22週以後の死産数」(出産)千対で表す。我が国では戦後一貫して低下し、昭和20〜30年代の出産千対40前後から、現在は出産千対3台と世界最高水準の低さに達している。背景には施設分娩の普及、新生児集中治療室(NICU)を含む周産期医療ネットワークの整備、妊婦健診の充実などがある。なお1995年に定義が「妊娠満28週以後」から「満22週以後」に変更されたため、長期推移を比較する際には注意が必要である。

母子保健の主な指標と定義

・妊産婦死亡率: 妊娠中または妊娠終了後満42日未満の女性の死亡のうち、妊娠・分娩に関連する原因によるもの。出産(出生+死産)10万対で表す(国際比較では出生10万対を用いることもある)。 ・周産期死亡率: 妊娠満22週以後の死産+早期新生児死亡(生後1週未満)を、出産(出生+妊娠満22週以後の死産)千対で表す。 ・死産率: 妊娠満12週以後の死児の出産を出産(出生+死産)千対で表す。自然死産と人工死産に分ける。 ・新生児死亡率: 生後4週(28日)未満の死亡を出生千対で表す。 ・乳児死亡率: 生後1年未満の死亡を出生千対で表す。地域の衛生状態・生活水準を反映する指標とされる。

母子保健法の主な内容

・母子健康手帳の交付(妊娠の届出を受けて市町村が交付) ・妊産婦・乳幼児の健康診査(1歳6か月児健診・3歳児健診は市町村に実施義務) ・保健指導、新生児・妊産婦・未熟児の訪問指導 ・低出生体重児(2,500g未満)の届出、未熟児養育医療 ・母子保健の拠点となる施設(母子健康センター→母子健康包括支援センター→こども家庭センターへと変遷)

母体保護法

・不妊手術と人工妊娠中絶に関する事項を定める。1996年に優生保護法から改正・改称された。 ・人工妊娠中絶が可能なのは妊娠22週未満で、実施は母体保護法指定医に限られる。

POINT

・妊産婦健診・母子健康手帳・乳幼児健診の根拠法は母子保健法、不妊手術・人工妊娠中絶は母体保護法。 ・母子保健サービスの主な実施主体は市町村。 ・我が国の妊産婦死亡率・周産期死亡率・乳児死亡率は戦後大きく低下し、世界最低水準。 ・自然死産率は母の年齢別で25〜29歳が最も低いU字型。 ・周産期死亡=妊娠満22週以後の死産+早期新生児死亡(生後1週未満)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。