「濃さ」を決めるのは水―血清Naを下げるホルモンはどれか
第103回医師国家試験 B問題 第27問
国試問題にチャレンジ
血清ナトリウム値を低下させるのはどれか。
- a.インスリン
- b.サイロキシン
- c.バソプレシン
- d.アルドステロン
- e.コルチコステロン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血清Na濃度はNaの総量ではなくNaと水の比率で決まるため、自由水だけを再吸収させるバソプレシンが過剰になると体液が希釈され低Na血症をきたします。その代表がSIADHで、細胞外液量はほぼ正常のまま、血漿浸透圧低値・尿浸透圧の不適切な高値・尿中Na排泄の持続を示します。アルドステロンやコルチコステロンはNaを保持する方向に働き、インスリンが下げるのは血清Kであり、甲状腺ホルモンはむしろ「不足」が低Na血症の原因となります。低Na血症の診療では、浸透圧と細胞外液量による分類、そして慢性例での緩徐な補正が重要です。「量」と「濃さ」を分けて考える視点は、水・電解質異常全般を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
血清ナトリウム(Na)値に各ホルモンがどう作用するかを問う問題である。
血清Na濃度は「水とNaの比」で決まる
血清Na濃度は、体内のNaの総量そのものではなく、体液中のNaと水の比率を表している。そのため、次の2つを区別して考える必要がある。 ・Naの量を調節するホルモン: アルドステロンなど。体液の「量」(細胞外液量)を主に調節する。 ・水の量を調節するホルモン: バソプレシン(抗利尿ホルモン: ADH)。体液の「濃さ」(浸透圧、すなわちNa濃度)を主に調節する。 水だけを体内に保持するホルモンが過剰になると、体液が薄まり、血清Na濃度は低下する。一方、Naの再吸収を促すホルモンは、Naと一緒に水も引き込むため、Na濃度はあまり変わらないか、やや上昇する。
正解を導く考え方
バソプレシンは、腎集合管にある水チャネル(アクアポリン2)を増やして、自由水(溶質を含まない水)の再吸収を促す。分泌が過剰になると、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)のように水が体内に貯留し、希釈性の低ナトリウム血症をきたす。したがって、血清Na値を低下させるのはバソプレシンである。 ほかの選択肢のうち、アルドステロンとコルチコステロンはNaを保持する方向に働く。インスリンとサイロキシンは、血清Na値を直接低下させるホルモンではない。
選択肢考察
- ×a. インスリン
インスリンの主な作用は、血糖値を下げることと、同化(グリコーゲン・脂肪・タンパク質の合成)の促進である。電解質に関しては、細胞膜のNa+/K+-ATPaseを活性化して、カリウムを細胞内に移動させる。この作用は高カリウム血症の治療(グルコース・インスリン療法)に利用される。つまり、インスリンが下げるのは血清カリウムであり、ナトリウムではない。インスリンには腎尿細管でのNa再吸収を促す作用もあり、Naを保持する方向に働く。なお、高血糖のときにはブドウ糖が浸透圧物質として働き、細胞内の水が細胞外へ移動するため、血漿中のNaが実際に薄まって低Na血症が生じる。これは高浸透圧性(希釈性)の低Na血症であり、測定上のアーチファクトである偽性低Na血症(高度の脂質異常症・高タンパク血症で生じる)とは別の病態である。目安として血糖が100 mg/dL上昇するごとに血清Naは約1.6〜2.4 mEq/L低下する。インスリンで血糖が下がると水が細胞内へ戻るため、血清Na値はむしろ上昇する。
- ×b. サイロキシン
サイロキシン(T4)は甲状腺ホルモンである。基礎代謝を高めるなどの作用をもつが、血清Na値を直接低下させる作用はない。臨床的に低Na血症と関係するのは、むしろ甲状腺ホルモンの不足(甲状腺機能低下症)の方である。機能低下症では、心拍出量と糸球体濾過量(GFR)が低下して、自由水の排泄が障害される。重症例(粘液水腫)では低Na血症をきたすことがある。なお、甲状腺中毒症周期性四肢麻痺のように甲状腺ホルモン過剰で問題になるのは、主に低カリウム血症である。
- ○c. バソプレシン
バソプレシン(ADH)は視床下部で産生され、下垂体後葉から分泌される。腎集合管の主細胞にあるV2受容体に結合すると、アクアポリン2が管腔側の細胞膜に組み込まれ、自由水の再吸収が高まる。Naを伴わずに水だけが体内に戻るため、体液が希釈され、血清Na濃度が低下する。SIADH(肺小細胞癌、中枢神経疾患、薬剤などが原因)では、ADHが不適切に分泌され続ける。その結果、細胞外液量はほぼ正常のまま(浮腫・脱水なし)、低Na血症、血漿浸透圧の低下、尿浸透圧の不適切な高値(100 mOsm/kg以上)、尿中Na排泄の持続を示す。
- ×d. アルドステロン
アルドステロンは副腎皮質球状層から分泌される鉱質コルチコイドである。遠位尿細管の後半から集合管にかけて、上皮型Naチャネル(ENaC)とNa+/K+-ATPaseを増やす。その結果、Naの再吸収と、K+・H+の尿中への排泄(分泌)を促進する。Naを保持する方向に働くため、血清Na値を低下させることはない。原発性アルドステロン症では、血清Naは正常上限からやや高値となり、低カリウム血症と代謝性アルカローシスを伴う。Naが大きく上昇しないのは、Naと一緒に水も保持されるうえ、細胞外液量が増えると尿中へのNa排泄が再び増える現象(エスケープ現象)が起こるためである。逆に、アルドステロンが欠乏するAddison病では、低Na血症と高K血症をきたす。
- ×e. コルチコステロン
コルチコステロンは副腎皮質で産生されるステロイドで、アルドステロンが合成される途中の前駆体である。弱い糖質コルチコイド作用と鉱質コルチコイド作用をあわせもつ。鉱質コルチコイド作用によってNaの再吸収を促すため、Naを保持する方向に働き、血清Na値を低下させない。17α-水酸化酵素欠損症では、コルチコステロンや11-デオキシコルチコステロン(DOC)が過剰に作られ、高血圧と低カリウム血症をきたす。
低ナトリウム血症の考え方
低Na血症(血清Na 135 mEq/L未満)は、多くの場合「Naに対して水が相対的に多すぎる」状態である。まず血漿浸透圧を測定し、血漿浸透圧が正常の偽性低Na血症(高度の脂質異常症・高タンパク血症による測定上のアーチファクト)と、血漿浸透圧が高い高浸透圧性低Na血症(高血糖やマンニトール投与などで水が細胞外へ移動し、Naが実際に希釈される)を除外する。そのうえで、細胞外液量によって次のように分類する。 ・細胞外液量が減少: 嘔吐・下痢、利尿薬(特にサイアザイド系)、Addison病、塩類喪失性腎症など。 ・細胞外液量がほぼ正常: SIADH、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能低下症(コルチゾール欠乏)、心因性多飲など。 ・細胞外液量が増加(浮腫を伴う): 心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群。有効循環血漿量が減るため、ADHが非浸透圧性に分泌される。
主なホルモンと電解質
・バソプレシン: 水の再吸収を促す。過剰では低Na血症(SIADH)、欠乏では高Na血症・多尿(尿崩症)。 ・アルドステロン: Naの再吸収とK・H+の分泌を促す。過剰では低K血症・代謝性アルカローシス・高血圧、欠乏では低Na血症・高K血症。 ・コルチゾール: ADH分泌を抑える方向に働く。欠乏すると(続発性副腎不全を含む)ADH過剰となり、低Na血症をきたす。 ・インスリン: Kを細胞内へ取り込ませる。高K血症の治療に使われる。 ・心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)・脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP): Na利尿を促す。中枢性塩類喪失症候群との関連も議論される。
治療上の注意
慢性の低Na血症を急速に補正すると、浸透圧性脱髄症候群(橋中心髄鞘崩壊症など)を起こす危険がある。補正速度はおおむね24時間で10 mEq/L以内(ハイリスク例ではさらに緩やかに)を目安とする。SIADHの治療の基本は水分制限であり、V2受容体拮抗薬(トルバプタン)が用いられることもある。
POINT
・血清Na濃度はNaと水の比で決まり、水の出入りを調節するバソプレシンが最も直接的に影響する。 ・バソプレシンはV2受容体からアクアポリン2を介して自由水を再吸収させ、希釈性の低Na血症(SIADH)をきたす。 ・アルドステロンとコルチコステロンはNaを保持する方向に働く。 ・インスリンが下げるのは血清カリウムである。 ・甲状腺機能「低下症」と副腎皮質機能低下症は、低Na血症の原因として重要である。
