血糖を「上げる」腫瘍はどれだ―低血糖の原因を3つの箱で整理する
第103回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
低血糖をきたさないのはどれか。
- a.褐色細胞腫
- b.低出生体重児
- c.糖尿病母体児
- d.下垂体前葉機能低下症
- e.糖原病Ⅰ型〈von Gierke病〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血糖はインスリンとインスリン拮抗ホルモン(グルカゴン、カテコラミン、コルチゾール、成長ホルモン)のバランスで保たれ、低血糖の原因は「インスリン作用の過剰」「拮抗ホルモンの不足」「肝臓からの糖の供給障害」に整理できます。糖尿病母体児は胎児期からの高インスリン血症、下垂体前葉機能低下症はACTH・GHの不足、低出生体重児はグリコーゲン貯蔵と糖新生能の未熟さ、糖原病Ⅰ型はグルコース-6-ホスファターゼ系の欠損により、それぞれ低血糖をきたします。一方、褐色細胞腫はカテコラミン過剰によりインスリン分泌抑制や糖新生促進が起こり、高血糖をきたすため低血糖の原因にはなりません。ただし腫瘍摘出直後には反跳性低血糖が起こり得るため、術後の血糖モニタリングが重要です。拮抗ホルモンの「過剰で高血糖、不足で低血糖」という対の関係を押さえることは、内分泌疾患の理解と臨床での血糖管理の基礎になります。
解答・解説
正解はaです
本問は「低血糖をきたさないもの」を1つ選ぶ問題であり、4つの選択肢は低血糖の原因、1つは逆に血糖を上げる病態である。 血糖値は、下げる方向に働くインスリンと、上げる方向に働くインスリン拮抗ホルモン(グルカゴン、カテコラミン、コルチゾール、成長ホルモン)とのバランスで保たれている。空腹時の血糖は、肝臓でのグリコーゲン分解(蓄えた糖を切り出す)と糖新生(乳酸・アミノ酸・グリセロールなどから糖を作る)によって維持される。 低血糖の原因は、大きく次のように整理できる。 ①インスリン作用の過剰:インスリノーマ、インスリンやスルホニル尿素薬の過量、糖尿病母体児の高インスリン血症など ②インスリン拮抗ホルモンの不足:下垂体前葉機能低下症、副腎皮質機能低下症(Addison病)など ③肝臓での糖の供給障害:糖原病、重症肝不全、糖新生能が未熟な新生児(特に低出生体重児)など ④その他:アルコール、敗血症、腎不全、インスリン自己免疫症候群など 一方、褐色細胞腫はインスリン拮抗ホルモンであるカテコラミンを過剰に分泌する腫瘍で、血糖を上げる方向に働き、耐糖能異常・高血糖(二次性糖尿病)をきたす。したがって低血糖をきたさないのは褐色細胞腫である。
選択肢考察
- ○a. 褐色細胞腫
褐色細胞腫は副腎髄質(または副腎外の傍神経節)のクロム親和性細胞から発生し、アドレナリンやノルアドレナリンを過剰に産生する腫瘍である。カテコラミンは、①膵β細胞のα2受容体を介してインスリン分泌を抑える、②肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生を促進する、③末梢組織のインスリン感受性を下げる、④脂肪分解を促進する、といった作用により血糖を上昇させる。そのため高血糖・耐糖能異常をきたし、低血糖の原因にはならない。したがって本問の正解である。なお例外として、腫瘍摘出の直後にはカテコラミンによるインスリン分泌抑制が急に解除され、一時的な反跳性の低血糖が起こり得る。術後はこれに注意して血糖をモニターする。
- ×b. 低出生体重児
低出生体重児(出生体重2,500g未満)は低血糖をきたしやすい。胎児期の肝グリコーゲンと脂肪の蓄えは主に妊娠後期に作られるため、早産児や子宮内発育不全の児ではその貯蔵が少ない。さらに肝臓の糖新生にかかわる酵素系が未熟で、出生により母体からのブドウ糖供給が途絶えると、自力で血糖を維持できず低下しやすい。体重当たりの脳が大きく糖の消費が多いことも一因である。そのため出生後早期から血糖を確認し、必要に応じて早期授乳やブドウ糖輸液を行う。
- ×c. 糖尿病母体児
母体が高血糖であると、ブドウ糖は胎盤を通過して胎児も高血糖になる(インスリンは胎盤を通過しない)。胎児の膵β細胞はこれに反応して増生し、高インスリン血症となる。出生すると母体からのブドウ糖供給は途絶えるが、児の高インスリン状態はすぐには治まらないため、生後数時間以内に低血糖をきたしやすい。糖尿病母体児ではこのほか、巨大児、呼吸窮迫症候群、低カルシウム血症、多血症、高ビリルビン血症、先天奇形(心奇形、尾部退行症候群など)にも注意する。
- ×d. 下垂体前葉機能低下症
下垂体前葉からは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や成長ホルモン(GH)が分泌される。ACTHが不足すると副腎からのコルチゾール分泌が低下し、コルチゾールによる糖新生の促進作用が失われる。またGHもインスリンに拮抗して血糖を上げるホルモンである。これら拮抗ホルモンが欠乏するため、特に空腹時や感染などのストレス時に低血糖をきたしやすい。小児のGH分泌不全でも低血糖が起こり得る。
- ×e. 糖原病Ⅰ型〈von Gierke病〉
糖原病Ⅰ型(von Gierke病)は、肝臓・腎臓のグルコース-6-ホスファターゼの欠損(Ⅰa型)またはグルコース-6-リン酸の輸送体の欠損(Ⅰb型)による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。グルコース-6-リン酸をブドウ糖に変換する最終段階が障害されるため、グリコーゲン分解と糖新生のいずれからも血中へブドウ糖を放出できず、空腹時に高度の低血糖をきたす。使い道のないグルコース-6-リン酸は、グリコーゲンとして肝臓・腎臓に蓄積するほか、乳酸・尿酸・脂肪の産生に回るため、肝腫大、乳酸アシドーシス、高尿酸血症、高脂血症、人形様顔貌、低身長などを伴う。
血糖を上げるホルモン(インスリン拮抗ホルモン)
グルカゴン、カテコラミン(アドレナリン)、コルチゾール、成長ホルモンがある。これらの過剰は高血糖の原因となり、不足は低血糖の原因となる。 ・過剰で高血糖をきたす例:褐色細胞腫、Cushing症候群、先端巨大症、グルカゴノーマ ・不足で低血糖をきたす例:下垂体前葉機能低下症、Addison病、GH分泌不全
褐色細胞腫の要点
・症状は高血圧(持続型または発作型)、高血糖、代謝亢進、頭痛、発汗過多で、英語の頭文字から「5H」と呼ばれる。動悸や体重減少もよくみられる。 ・スクリーニングには血中遊離メタネフリン分画や随時尿中のメタネフリン・ノルメタネフリン測定が有用である。局在診断はCT・MRI、123I-MIBGシンチグラフィなどで行う。 ・かつては両側性、副腎外、悪性、家族性がそれぞれ約10%とされ「10% disease」と呼ばれた。現在は遺伝性(多発性内分泌腫瘍症2型、von Hippel-Lindau病、SDH遺伝子変異など)が約30〜40%に及ぶことがわかっており、また全例が転移の可能性をもつ腫瘍として扱われるため、この呼び方は過去のものになりつつある。 ・治療は、α遮断薬で血圧と循環血漿量を整えたうえで腫瘍を摘出する。β遮断薬を単独で先に使うと、α作用が優位となって血圧が急上昇する危険があるため避ける。
新生児低血糖を起こしやすい児
低出生体重児(早産児・子宮内発育不全児)、糖尿病母体児、仮死児、低体温児、多血症、Beckwith-Wiedemann症候群などである。
POINT
・低血糖の原因は「インスリン過剰」「拮抗ホルモン不足」「肝臓からの糖の供給障害」に分けて考える。 ・褐色細胞腫はカテコラミン過剰により高血糖となる(ただし腫瘍摘出直後は反跳性低血糖に注意する)。 ・糖尿病母体児は胎児期からの高インスリン血症により、生後早期に低血糖をきたす。 ・低出生体重児はグリコーゲン貯蔵の少なさと糖新生能の未熟さにより低血糖をきたす。 ・下垂体前葉機能低下症ではACTH・GH不足により低血糖をきたす。 ・糖原病Ⅰ型はグルコース-6-ホスファターゼ系の欠損により、空腹時低血糖、肝腫大、乳酸アシドーシス、高尿酸血症、高脂血症をきたす。
