せき止められた合成経路―21-水酸化酵素欠損症で「上がるもの・下がるもの」を見抜く
第103回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
21-水酸化酵素欠損症による先天性副腎皮質過形成で高値を示すのはどれか。2つ選べ。
- a.ACTH
- b.ナトリウム
- c.コルチゾール
- d.アルドステロン
- e.17α-ヒドロキシプロゲステロン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
21-水酸化酵素欠損症は先天性副腎皮質過形成の約90%を占める常染色体潜性遺伝疾患で、酵素の欠損によりコルチゾールとアルドステロンが低値となり、負のフィードバックの解除でACTHが上昇し、酵素の基質である17α-ヒドロキシプロゲステロンが蓄積して著明な高値を示します。行き場を失った前駆体は副腎アンドロゲン系へ流れ、女児の外性器男性化や骨年齢の促進をきたし、アルドステロン不足は低ナトリウム血症・高カリウム血症・レニン高値を伴う塩類喪失を招きます。17α-ヒドロキシプロゲステロンは新生児マススクリーニングの測定項目であり、DOC蓄積で高血圧・低カリウム血症をきたす11β-水酸化酵素欠損症との違いも重要です。治療は糖質コルチコイド補充によるACTH抑制が柱で、塩類喪失型では鉱質コルチコイドと食塩も補います。合成経路の「どこで止まるか」から上流・下流・フィードバックを推論する考え方は、他の酵素欠損症や内分泌疾患の理解にもそのまま応用できます。
解答・解説
正解はa, eです
先天性副腎皮質過形成(congenital adrenal hyperplasia:CAH)は、副腎皮質でコレステロールからステロイドホルモンを合成する酵素のいずれかが先天的に欠けているために起こる常染色体潜性(劣性)遺伝疾患群である。そのうち最も多いのが21-水酸化酵素(CYP21A2)欠損症で、CAH全体の約90%を占める。 本問は「酵素が止まると何が起こるか」を合成経路に沿って考えれば解ける。
21-水酸化酵素の働き
・プロゲステロン → 11-デオキシコルチコステロン(DOC):鉱質コルチコイド系(最終産物はアルドステロン) ・17α-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)→ 11-デオキシコルチゾール:糖質コルチコイド系(最終産物はコルチゾール)
酵素欠損の結果
①酵素より下流の産物が作れない:コルチゾールとアルドステロンが低下する。 ②コルチゾール低下により、視床下部-下垂体への負のフィードバックが弱まり、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌が増える。 ③増えたACTHが副腎皮質を持続的に刺激して副腎が過形成(腫大)する。 ④酵素の手前で基質(17-OHP、プロゲステロン)が蓄積する。 ⑤行き場を失った前駆体は、21-水酸化酵素を必要としない副腎アンドロゲン系(デヒドロエピアンドロステロン〔DHEA〕、アンドロステンジオン→テストステロン)へ流れ込み、アンドロゲン過剰となる。 したがって高値となるのは、フィードバックで上昇するACTHと、酵素の基質として蓄積する17-OHPである。
選択肢考察
- ○a. ACTH
21-水酸化酵素が欠損するとコルチゾールが十分に作られない。コルチゾールは通常、視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)と下垂体のACTHの分泌を抑えている(負のフィードバック)。この抑制が外れるためACTHは高値となる。高ACTHは副腎皮質を過剰に刺激して過形成を起こすとともに、蓄積した前駆体をアンドロゲン合成へ流し込む原動力にもなる。皮膚や外陰部の色素沈着も、ACTHと同じ前駆体(POMC)に由来するメラニン細胞刺激作用による。
- ×b. ナトリウム
アルドステロンは腎の集合管でナトリウムを再吸収し、カリウムを排泄させるホルモンである。本症ではアルドステロンが不足するため尿中へナトリウムが失われ(塩類喪失)、血清ナトリウムは低値となる。同時に高カリウム血症、脱水、代謝性アシドーシスを伴いやすい。特に重症の塩類喪失型では新生児期(生後1〜2週頃)に哺乳不良・体重増加不良・嘔吐・ショック(副腎クリーゼ)をきたし得る。なお、軽症の単純男性化型ではアルドステロン不足が代償され、ナトリウムが正常範囲に保たれることもあるが、高値になることはない。
- ×c. コルチゾール
コルチゾールの合成には、17-OHPを11-デオキシコルチゾールへ変換する21-水酸化の段階が必須である。この酵素が欠けるとコルチゾールは作られにくくなり、低値となる(軽症例ではACTH上昇による代償で基礎値は正常範囲のこともあるが、高値にはならない)。コルチゾール不足はACTH上昇の原因であり、低血糖やストレス時の副腎不全の原因にもなる。
- ×d. アルドステロン
アルドステロンの合成経路でも、プロゲステロンを11-デオキシコルチコステロン(DOC)へ変換する段階に21-水酸化酵素が必要である。そのため欠損によりアルドステロンは低値となる。アルドステロン不足に反応して血漿レニン活性は上昇する。これに対し、11β-水酸化酵素欠損症では鉱質コルチコイド作用をもつDOCが蓄積するため、高血圧・低カリウム血症をきたし、レニンとアルドステロンはむしろ抑制される。この違いは両者を見分ける重要な点である。
- ○e. 17α-ヒドロキシプロゲステロン
17α-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)は21-水酸化酵素の直接の基質である。酵素が働かないため変換されずに蓄積し、さらにACTHによる刺激で産生が増えるため著明な高値となる。本症の最も重要な診断マーカーであり、日本の新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)では濾紙血の17-OHPを測定して本症を拾い上げている。尿中では17-OHPの代謝産物であるプレグナントリオールの排泄が増加する。
副腎皮質ステロイド合成の概略
コレステロール → プレグネノロン → プロゲステロン → (21-水酸化)→ DOC → コルチコステロン → アルドステロン プレグネノロン/プロゲステロン → (17α-水酸化)→ 17-OHプレグネノロン/17-OHP → (21-水酸化)→ 11-デオキシコルチゾール → (11β-水酸化)→ コルチゾール 17-OHプレグネノロン/17-OHP → (17,20-リアーゼ)→ DHEA/アンドロステンジオン → テストステロン
21-水酸化酵素欠損症の病型
・塩類喪失型:酵素活性がほぼない最重症型。新生児期に低ナトリウム血症、高カリウム血症、脱水、ショックをきたす。 ・単純男性化型:アルドステロン産生がある程度保たれ、塩類喪失は目立たない。アンドロゲン過剰の症状が主体となる。 ・非古典型:軽症で、思春期以降に多毛、月経異常、早発陰毛などで気づかれる。
主な臨床像
・女児(46,XX):胎児期からのアンドロゲン過剰による外性器の男性化(陰核肥大、陰唇癒合)。内性器(子宮・卵巣)は正常である。 ・男児(46,XY):出生時の外性器異常は目立たず、塩類喪失や色素沈着、のちの仮性思春期早発症で気づかれる。 ・両性とも:アンドロゲン過剰で幼児期に身長が伸び骨年齢が進むが、骨端線が早く閉じるため最終身長は低くなる。
検査所見のまとめ
高値:ACTH、17-OHP、プロゲステロン、副腎アンドロゲン(DHEA-S、アンドロステンジオン、テストステロン)、血漿レニン活性、血清カリウム、尿中プレグナントリオール 低値:コルチゾール、アルドステロン、血清ナトリウム
治療
糖質コルチコイド(ヒドロコルチゾン)の補充でコルチゾール不足を補い、ACTHを抑えて過剰なアンドロゲン産生を抑制する。塩類喪失型では鉱質コルチコイド(フルドロコルチゾン)と食塩も補充する。女児の外性器異常には必要に応じて外科的治療を行う。
POINT
・21-水酸化酵素欠損症はCAHの約90%を占める最多の病型である。 ・下流(コルチゾール、アルドステロン)が低値、上流の基質(17-OHP)が高値、フィードバックでACTHが高値となる。 ・余った前駆体は副腎アンドロゲンへ流れ、女児の外性器男性化や骨年齢促進をきたす。 ・アルドステロン不足により低ナトリウム血症、高カリウム血症、レニン高値をきたす(塩類喪失)。 ・新生児マススクリーニングでは17-OHPを測定する。 ・11β-水酸化酵素欠損症はDOC蓄積による高血圧・低カリウム血症をきたし、この点で21-水酸化酵素欠損症と区別される。
