朝起きたら白目が真っ赤!―派手な見た目でも「何もしない」が正解の結膜下出血
第103回医師国家試験 A問題 第30問
国試問題にチャレンジ
26歳の女性。右眼の異常を主訴に来院した。昨夜,就寝時に右の目尻にわずかな痛みを感じた。今朝起きたところ右眼が赤くなったことに気付いた。眼脂はなかった。視力は,右1.0(矯正不能),左1.0(矯正不能)。角膜は透明で,前房は深く清明である。前眼部写真を別に示す。 対応として適切なのはどれか。

- a.経過観察
- b.圧迫眼帯
- c.電気焼灼
- d.止血薬内服
- e.ビタミン薬点眼
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
突然の片眼の赤みでも、眼脂がなく、視力が正常で角膜・前房に異常がなく、血管の形が見えない面状の赤い斑であれば球結膜下出血と診断できます。結膜の小血管が破れて結膜と強膜の間に血液がたまった状態で、受診時には出血は止まっており、数日〜2週程度で自然に吸収されるため経過観察が適切です。止血薬、焼灼、圧迫眼帯、ビタミン点眼はいずれも吸収を早めず、見た目は派手でも視力に影響しないことを説明して安心させることが大切です。ただし繰り返す場合は高血圧や血液疾患、抗血栓薬の内服を、外傷後なら眼球破裂などを、眼脂や強い充血を伴えば急性出血性結膜炎を考えます。赤い目を「結膜充血」「毛様充血」「結膜下出血」に見分け、緊急性のあるものを除外する考え方は、どの診療科でも役立つ基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・26歳の女性。就寝時に右の目尻にわずかな痛みを感じ、翌朝に右眼が赤くなっていることに気付いた。突然発症で、自覚症状は軽い。 ・眼脂(めやに)はない → 細菌性・ウイルス性結膜炎など感染性の炎症は考えにくい。 ・視力は両眼とも1.0で低下していない。 ・角膜は透明、前房は深く清明 → 角膜炎、ぶどう膜炎(前房内の炎症細胞やフレア)、急性緑内障発作(浅前房、角膜浮腫)などは否定的である。 ・前眼部写真では、白目(球結膜)の下に境界の比較的はっきりした、べったりとした赤い出血斑が広がっている。血管が1本1本拡張して見える「充血」とは異なる所見である。
診断
以上から球結膜下出血と診断する。結膜の細い血管が破綻し、結膜と強膜(白目の外壁)の間に血液がたまった状態である。軽い痛みや異物感は出血に伴うことがあるが、視機能に影響しない。
鑑別のポイント
・結膜炎(細菌性・ウイルス性・アレルギー性):眼脂、流涙、かゆみ、びまん性の結膜充血を伴う。急性出血性結膜炎(エンテロウイルス70型、コクサッキーウイルスA24変異株による)では結膜下出血も生じるが、強い異物感・眼脂・結膜充血・濾胞を伴い、感染力が強い。本例は眼脂などの炎症所見がなく否定的である。 ・毛様充血を示す疾患(角膜炎、虹彩毛様体炎、急性緑内障発作):角膜輪部を中心とした充血、視力低下、眼痛、角膜混濁・前房の異常を伴う。本例はいずれもない。 ・強膜炎・上強膜炎:深部の血管の充血で、特に強膜炎では強い眼痛を伴う。
設問の考え方
球結膜下出血は自然に吸収される良性の病態であり、治療を必要としない。したがって対応は経過観察でよい。患者には、見た目は派手でも視力に影響はなく、1〜2週程度で自然に吸収されること、吸収の過程で黄色っぽく色が変わることを説明して安心させる。
選択肢考察
- ○a. 経過観察
球結膜下出血は、出血した血液が結膜下組織で自然に吸収されて消える。小さなものは数日、広範なものでも通常1〜2週(大きい場合は2〜3週)で消退し、視力障害などの後遺症を残さない。本例は視力正常、角膜・前房に異常がなく、感染や炎症を示す所見もないため、特別な処置は不要で経過観察が適切である。ただし、繰り返す場合や他部位の出血を伴う場合は、高血圧、血液疾患(血小板減少、凝固異常)、抗凝固薬・抗血小板薬の内服などの有無を確認する。
- ×b. 圧迫眼帯
圧迫眼帯は、眼瞼の手術後など、皮下出血や腫脹を抑える目的で用いられることがあるが、すでに生じた結膜下出血を早く吸収させる効果はない。結膜下出血は自然に消えるため、視界をさえぎり日常生活に支障をきたす眼帯をする必要はない。
- ×c. 電気焼灼
電気焼灼は、出血が続いている血管を焼いて止血する処置である。結膜下出血は受診時には出血がすでに止まっており、たまった血液が吸収されるのを待てばよいので、焼灼の対象となる出血点は存在しない。むしろ不要な組織損傷を招くため行わない。
- ×d. 止血薬内服
止血薬(トラネキサム酸、カルバゾクロムなど)は出血を止めたり再出血を防いだりするための薬で、一見有効そうに思えるが、すでに止血して吸収を待つだけの結膜下出血の経過を短くする効果はない。トラネキサム酸には血栓症のリスクもあり、通常は投与しない。
- ×e. ビタミン薬点眼
ビタミン薬の点眼(ビタミンB2、B12など)は眼精疲労などに用いられることがあるが、結膜下出血の吸収を促す効果は示されていない。本疾患では通常行わない。
球結膜下出血の概要
・球結膜の小血管が破れて、結膜と強膜の間に出血が広がった状態。白目の一部または全体が鮮紅色に染まって見える。 ・原因:特発性(原因不明)が最も多い。そのほか、くしゃみ・咳・嘔吐・いきみ(努責)・重量物の持ち上げなど静脈圧の急上昇、眼をこする・コンタクトレンズなどの軽い外傷、高血圧、動脈硬化、糖尿病、血液疾患(白血病、血小板減少症、凝固異常)、抗凝固薬・抗血小板薬の内服、急性出血性結膜炎などの感染症。高齢者では結膜弛緩症に伴うこともある。 ・症状:自覚症状に乏しく、鏡を見たり他人に指摘されたりして気付くことが多い。軽い異物感や違和感を伴うことがある。視力は低下しない。 ・経過:数日〜2週程度で自然に吸収される。吸収過程で赤色から黄色調へと変化する。
注意すべき状況
・繰り返す結膜下出血や、皮下出血・歯肉出血などを伴う場合:血圧測定、血算・凝固検査で全身疾患を検索する。 ・強い外傷後の場合:眼球破裂(強膜損傷)や眼窩壁骨折などが隠れていないか、視力・眼圧・眼球運動・眼底を確認する。 ・眼脂・強い充血・異物感を伴い、両眼に広がる場合:急性出血性結膜炎など感染症を考え、感染予防の指導を行う。
充血と結膜下出血の違い
・結膜充血:結膜の血管が拡張し、個々の血管が見える。眼瞼結膜・円蓋部で強く、角膜に近づくほど弱い。結膜炎で典型的。 ・毛様充血:角膜輪部周囲に強い、紫紅色の充血。角膜炎、虹彩毛様体炎、急性緑内障発作など、眼球内部や角膜の炎症を示す。 ・結膜下出血:血管の形は見えず、面状・斑状に赤く染まる。
POINT
・突然の片眼の赤み+眼脂なし+視力正常+角膜・前房正常+面状の出血斑 → 球結膜下出血 ・球結膜下出血は自然に吸収される(通常1〜2週)ため、治療不要で経過観察 ・眼帯、焼灼、止血薬、点眼薬は吸収を早めない ・再発を繰り返す場合は、高血圧・血液疾患・抗凝固薬内服の有無を確認する ・急性出血性結膜炎との鑑別は、眼脂・充血などの炎症所見の有無
