StudyMed医師国家試験

2年ぶりに戻ってきた「監視されている」―覚せい剤精神病のフラッシュバックを時間軸で読む

第102回医師国家試験 I問題 第78問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第78問

28歳の女性。B型肝炎の治療のために内科に入院した。入院当日に大声を出して興奮状態となったため精神科に転科となった。「盗聴され,監視されている」,「殺される」とおびえながら話す。以前,覚せい剤の乱用で同様の状態が発生したことがあるが,ここ2年間は覚せい剤を使用していなかった。今回の入院を契機に急激にこのような状態となった。意識は清明。  最も考えられるのはどれか。

  1. a.覚せい剤の急性中毒状態
  2. b.覚せい剤の身体依存状態
  3. c.覚せい剤依存症の離脱症状
  4. d.覚せい剤使用中止の反跳現象
  5. e.覚せい剤精神病のフラッシュバック

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、覚せい剤に関連した精神状態を見分ける問題だ。カギは「最後に使ったのはいつか」という時間軸と、「何をきっかけに症状が出たか」の2点。まずは、この患者さんの今の状態をどう表現するかから考えてみよう。
医学生医学生
盗聴されている、監視されている、殺されるとおびえているので、被害妄想や注察妄想がある幻覚妄想状態だと思います。
ドクタードクター
その通り。幻聴を伴っている可能性も高いね。そしてもう一つ大事なのが、意識が清明だという点だ。入院当日の急な興奮というと、せん妄をまず思い浮かべる人も多いけれど、意識障害がないから、せん妄に伴う精神症状ではないと考えられる。
医学生医学生
精神科の実習で、病棟から夜間に興奮した患者さんの相談が来て、まず意識障害の有無を確認するよう教わりました。
ドクタードクター
いい習慣だね。では背景だ。過去に覚せい剤の乱用で同じような状態になったことがある、と書かれている。覚せい剤を長く使うと、統合失調症によく似た幻覚妄想状態が出ることがあり、これを覚せい剤精神病と呼ぶ。
医学生医学生
じゃあ、今回もまた覚せい剤を使ったことによる急性中毒ではないんですか。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でも問題文では、ここ2年間使っていないとされている。急性中毒は使っている最中や使った直後に、薬が体内にある状態で起こるものだ。頻脈や散瞳、発汗、高体温といった交感神経症状とともに、興奮や多弁、ときに幻覚妄想が出る。2年間使っていないなら、薬の直接作用とは言えない。
医学生医学生
なるほど。では、やめたことによる離脱症状や反跳現象はどうでしょう。
ドクタードクター
それも時間軸で考えよう。反跳現象は薬の効果が切れていく時期、つまり中止直後に起こる反動で、強い疲労感、脱力、過眠、抑うつ気分が中心だ。いわゆる「つぶれ」だね。現在の診断基準では精神刺激薬の離脱として扱われている。どちらにしても中止後まもなくの話で、症状も活動性の低下が主体だから、2年後に出た興奮を伴う被害妄想とは時期も症状も合わない。
医学生医学生
身体依存状態という選択肢もありましたが、これはどう考えればいいですか。
ドクタードクター
薬理学の講義で依存の分類を習ったと思うけど、覚せい剤は精神依存がとても強い一方で、アルコールやオピオイドのような明確な身体依存はできにくいとされている。それに、依存状態というのは状態の名前であって、今回の急な幻覚妄想を説明するものではないんだ。
医学生医学生
そうすると、長く使っていなかったのに、昔と同じ症状が急に戻ってきた、ということになりますね。
ドクタードクター
そこが核心だ。覚せい剤精神病を一度経験した人は、長期間断薬していても、ストレスや不眠、飲酒、少量の再使用などをきっかけに、以前と同じような精神病症状が再燃することがある。これを自然再燃、いわゆるフラッシュバックと呼ぶ。今回は入院という環境の変化と心理的ストレスが引き金になったと考えられる。
医学生医学生
だから正解は覚せい剤精神病のフラッシュバックなんですね。でも、なぜ2年も経ってから再燃するんでしょう。
ドクタードクター
いい疑問だね。背景には逆耐性、あるいは感作と呼ばれる現象があると考えられている。多幸感などの効果には耐性がついて使用量が増えていく一方、精神病症状を起こす作用については、繰り返し使うほど脳が過敏になり、少しの刺激で症状が出やすくなるんだ。
医学生医学生
耐性とは逆に、どんどん反応しやすくなるということですか。CBTの勉強で用語だけ覚えていましたが、やっと意味がつながりました。
ドクタードクター
そう、その過敏さが長く残るのがやっかいなところだ。発展的な話をすると、覚せい剤はドパミンやノルアドレナリンの放出を促し、再取り込みを阻害する。覚せい剤精神病が統合失調症の陽性症状にそっくりなことは、統合失調症のドパミン仮説を支える根拠の一つにもなってきた。ただ覚せい剤精神病では、対人的な疎通性が比較的保たれ、陰性症状が目立ちにくいといった違いも挙げられる。
医学生医学生
臨床で実際にこういう患者さんを診たら、まず何をすればいいでしょうか。
ドクタードクター
問題文の情報だけで再使用がないと決めつけず、尿中薬物検査などで最近の使用がないか確認することが大切だ。急性期は抗精神病薬で症状を落ち着かせ、その後は断薬を続けるための依存症治療、つまり心理社会的治療や自助グループにつなげていく。そして、ストレスや不眠、飲酒が再燃の引き金になることを本人と共有しておくことも再発予防になるよ。
医学生医学生
最後に使った時期で、急性中毒、反跳・離脱、フラッシュバックと並べて整理すると、迷わずに選べそうです。

まとめ

覚せい剤に関連する精神状態は、使用中・直後の急性中毒、中止直後の反跳現象(離脱)、長期連用中の覚せい剤精神病、長期断薬後のフラッシュバック(自然再燃)という時間軸で整理すると鑑別しやすくなります。過去に覚せい剤精神病を経験した人は、長く断薬していても、ストレス・不眠・飲酒・少量の再使用などを契機に、意識清明のまま被害妄想や注察妄想などの幻覚妄想状態を再燃させることがあり、その背景には逆耐性(感作)があると考えられています。覚せい剤は精神依存が非常に強い一方で明確な身体依存はできにくく、中止直後の疲労・過眠・抑うつは反跳として時期と症状から区別します。臨床では尿中薬物検査で再使用の有無を確認し、抗精神病薬による対症療法と依存症治療を組み合わせて再燃を防ぎます。最終使用からの経過時間と発症の契機を確認する姿勢は、物質関連障害全般の診療に通じる基本です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・28歳女性。B型肝炎の治療目的で内科に入院した当日に、大声を出して興奮し精神科へ転科となった。 ・「盗聴され、監視されている」(注察・被害妄想)、「殺される」(被害妄想)とおびえている。幻聴を伴っている可能性も高く、全体として幻覚妄想状態である。 ・意識は清明であり、せん妄など意識障害に伴う精神症状ではない。 ・過去に覚せい剤(アンフェタミン類、日本で乱用されるのは主にメタンフェタミン)の乱用で同様の状態を経験している。 ・最近2年間は覚せい剤を使っていない。 ・入院という環境変化・心理的ストレスを契機に急激に発症した。

診断に至る考え方

覚せい剤を長期間使用すると、統合失調症によく似た幻覚妄想状態(覚せい剤精神病)が生じる。いったん覚せい剤精神病を経験した人では、断薬して長期間が経過した後でも、心理的ストレス、不眠、飲酒、少量の覚せい剤の再使用などをきっかけに、かつての精神病症状と同様の症状が再燃することがある。これを自然再燃、いわゆるフラッシュバックと呼ぶ。背景には、覚せい剤の反復使用によって脳が刺激に過敏となる「逆耐性(感作)」という現象があると考えられている。 本例は「2年間使用していない」ので薬物の直接作用(急性中毒)は否定でき、中止直後に起こる反応(反跳現象・離脱)も時期が合わない。そのうえで「以前と同様の状態」が「入院というストレスを契機に」「意識清明下で」急激に出現している点が、フラッシュバックの典型像に一致する。

設問の視点

覚せい剤に関連する精神状態を、(1)使用中の急性中毒、(2)中止直後の反跳・離脱、(3)長期断薬後の再燃(フラッシュバック)という時間軸で整理できるかを問う問題である。最終使用からの経過時間と、発症の契機に注目すれば答えは一つに絞れる。なお、実際の臨床では尿中薬物検査などで再使用がないかを確認する必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  覚せい剤の急性中毒状態

    急性中毒は覚せい剤を使用している最中あるいは使用直後に生じる状態で、交感神経刺激による頻脈・高血圧・散瞳・発汗・高体温などの身体症状とともに、多弁、興奮、不穏、錯乱、ときに急性の幻覚妄想状態を呈する。本例は2年間使用しておらず、薬物が体内にある状況ではないため、急性中毒とは考えられない。

  2. ×b.  覚せい剤の身体依存状態

    覚せい剤は精神依存(薬物を強く渇望し、使用をやめられない状態)が非常に強い一方、アルコールやオピオイド、ベンゾジアゼピン系薬のような明確な身体依存(中断により重篤な身体的離脱症状が出る状態)は形成されにくいとされる。また「依存状態」は症状の説明ではなく、2年間断薬している本例の急性の幻覚妄想状態を説明するものではない。

  3. ×c.  覚せい剤依存症の離脱症状

    離脱症状は、薬物を連用している人が急に中断・減量したときに、中断後まもなく(数時間〜数日単位で)生じる症状である。覚せい剤ではアルコール離脱のような振戦・けいれん・自律神経症状を伴う身体的離脱は目立たない。仮に中止後の不調があるとしても、それは中止直後から数週以内の話であり、2年間使っていない本例で幻覚妄想が出現したことの説明にはならない。

  4. ×d.  覚せい剤使用中止の反跳現象

    反跳現象は、覚せい剤の効果が切れていく時期に、それまでの過剰な覚醒の反動として現れる状態で、強い疲労感、脱力、過眠・傾眠、抑うつ気分、不快気分などを特徴とする(いわゆる「つぶれ」)。現在の診断基準(DSM-5)では精神刺激薬の離脱として扱われている。出現時期は使用中止の直後であり、症状も活動性の低下が中心で、2年後に生じた興奮を伴う幻覚妄想状態とは時期も症状も一致しない。

  5. ○e.  覚せい剤精神病のフラッシュバック

    過去に覚せい剤精神病(同様の幻覚妄想状態)を経験した人が、長期間断薬していても、ストレス・不眠・飲酒などを契機に同じような精神病症状を再燃させる現象がフラッシュバック(自然再燃)である。本例は、以前の乱用時と同様の被害妄想・注察妄想が、2年間の断薬後に入院というストレスを契機として、意識清明のもと急激に出現しており、この概念に最もよく当てはまる。

覚せい剤(アンフェタミン類)の薬理

覚せい剤は、神経終末からのドパミン・ノルアドレナリンの放出を促し、再取り込みを阻害することで中枢神経を強く興奮させる。使用すると眠気や疲労感が消え、爽快感・多幸感が得られるため乱用されやすい。日本では覚醒剤取締法で規制されている。

依存・耐性の特徴

・精神依存:非常に強い。 ・身体依存:アルコールやオピオイドのような明確な身体依存は形成されにくいとされる(使用中止後の疲労・過眠・抑うつなどの反跳は現在の診断基準では離脱として扱われる)。 ・耐性:多幸感などの効果には耐性が生じやすく、使用量が増えやすい。 ・逆耐性(感作):精神病症状を引き起こす作用に関しては、反復使用によってむしろ少量で症状が出やすくなる。フラッシュバックや少量再使用での速やかな再燃の基盤と考えられている。

覚せい剤関連の精神状態の時間軸

・使用中・直後:急性中毒(興奮、多弁、不眠、交感神経症状、ときに錯乱・幻覚妄想) ・中止直後〜数日:反跳現象(疲労、脱力、過眠、抑うつ、焦燥) ・長期連用中:覚せい剤精神病(幻聴、被害妄想、注察妄想などの幻覚妄想状態) ・長期断薬後:フラッシュバック(ストレス、不眠、飲酒、少量再使用などを契機に精神病症状が再燃)

覚せい剤精神病と統合失調症

覚せい剤精神病は幻聴や被害・注察妄想など、統合失調症の陽性症状とよく似た症状を示す。一方で、症状が周囲の状況に左右されやすい、対人的な接触や疎通性が比較的保たれている、陰性症状が目立ちにくい、といった特徴が挙げられる。統合失調症のドパミン仮説を支持する根拠の一つとなってきた。治療は抗精神病薬による対症療法と、断薬の継続を支える依存症治療(心理社会的治療、自助グループなど)が中心となる。

POINT

・覚せい剤は精神依存が強く、明確な身体依存は形成されにくい。 ・覚せい剤精神病は統合失調症に類似した幻覚妄想状態を呈する。 ・長期断薬後もストレス・不眠・飲酒などを契機に精神病症状が再燃する(フラッシュバック、自然再燃)。背景に逆耐性(感作)がある。 ・中止直後の疲労・過眠・抑うつは反跳現象(離脱)であり、時期と症状で区別する。 ・最終使用からの経過時間と発症の契機を確認することが鑑別の鍵である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。