StudyMed医師国家試験

脳室周囲・脳幹・頸髄に散らばる白い影―「場所」と「時間」で読み解く多発性硬化症

第102回医師国家試験 I問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第48問

26歳の男性。四肢の運動障害を主訴に来院した。頭部単純MRIのT2強調水平断像(A),頭部造影MRIのT1強調水平断像(B),頭部単純MRIのT2強調水平断像(C)および頸部単純MRIのT2強調矢状断像(D)を別に示す。  最も考えられる疾患はどれか。

第102回 I問題 第48問の問題画像
  1. a.神経膠腫
  2. b.転移性腫瘍
  3. c.多発性硬化症
  4. d.進行性多巣性白質脳症
  5. e.副腎白質ジストロフィー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い人の四肢の運動障害を頭部と頸部のMRIから診断する問題だ。注目してほしいのは2点。病変が中枢神経の「どこに」あるか、そして造影MRIで病変ごとに「染まり方が違う」こと。まずは、T2強調像で白く見える病変がどこに分布しているか、整理してみようか。
医学生医学生
両側の側脳室のまわりの白質に丸い高信号がいくつもあって、ほかに脳幹と上位頸髄にも高信号があります。
ドクタードクター
その通り。脳室周囲白質、脳幹というテント下、そして脊髄。中枢神経のまったく別々の場所に病変が散らばっているね。これを「空間的多発」と呼ぶ。
医学生医学生
神経内科の講義で、多発性硬化症の診断は「空間的多発と時間的多発」だと習いました。でも時間的多発って、何回か再発するのを見ないと分からないんじゃないですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。経過を追って新しい病変が出てくるのを確認するのが一つの方法だけど、実は1回のMRIでも時間的多発を示せることがある。そこで造影T1強調像を見てほしい。病変のうち、どれが造影されている?
医学生医学生
右の側脳室周囲の病変の一部だけがリング状に染まっていて、ほかの病変は染まっていません。
ドクタードクター
そこがポイントなんだ。造影剤が病変に入るのは、炎症で血液脳関門が壊れているとき。つまり造影される病変は今まさに活動している新しい脱髄巣で、造影されない病変は時間が経った古い病変だと考えられる。新旧の病変が同時に存在するということは、病変が別々の時期にできた、つまり時間的多発を意味するんだ。
医学生医学生
なるほど、1枚の画像の中に「過去」と「現在」が写っているんですね。それなら若い成人で空間的にも時間的にも多発しているので、多発性硬化症ですね。
ドクタードクター
正解。多発性硬化症は中枢神経の髄鞘が自己免疫機序で障害される脱髄性疾患で、20〜40歳代に多い。女性に多いけれど、男性にももちろん起こる。活動性病変が辺縁の一部が欠けたリング状、いわゆるopen ringに造影されるのもこの病気の特徴の一つだよ。では、ほかの選択肢も確認しよう。まず神経膠腫はどうかな。
医学生医学生
リング状に造影されるのを見て、一瞬膠芽腫を思い浮かべてしまいました。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だね。ただ神経膠腫は基本的に単発の腫瘤をつくって、周囲を圧排したり浮腫を伴ったりする。膠芽腫のリング状造影は壊死を伴う厚く不整なものだ。今回のように脳室周囲、脳幹、頸髄に小さな病変がばらばらに散らばるパターンは、神経膠腫らしくない。
医学生医学生
転移性腫瘍なら多発しますよね。そこは迷いました。
ドクタードクター
多発しうる点は確かに紛らわしい。でも転移は血行性なので灰白質と白質の境界に好発し、ほとんどの病変が造影され、病変の大きさの割に広い浮腫を伴うのが典型だ。今回は造影されない病変が多く、浮腫も乏しい。26歳で原発巣の手がかりもなく、脊髄内の病変まであるとなると考えにくいね。
医学生医学生
進行性多巣性白質脳症も「多巣性」の白質病変なので、名前だけ見ると似ている気がします。
ドクタードクター
名前に引っ張られやすいところだね。PMLはJCウイルスがオリゴデンドロサイトに感染して起こる脱髄で、HIV感染症や血液疾患、免疫抑制薬の使用など細胞性免疫が落ちた人に起こる。病変は皮質下白質に非対称に広がって融合し、通常は造影効果に乏しく、脊髄病変はまれだ。免疫不全の背景もない若い人で、脳室周囲の類円形病変と頸髄病変がある今回とは合わない。
医学生医学生
副腎白質ジストロフィーは小児科の講義で出てきました。X連鎖性で男の子に多い病気ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。ABCD1遺伝子の変異で極長鎖脂肪酸がたまる病気で、大脳型は学童期の男児に多く、頭頂後頭葉の白質や脳梁膨大部に左右対称で広範な病変をつくる。成人では脊髄症が主体の病型もあるけれど、いずれもびまん性・対称性で、小さな病変が散らばる今回のパターンとは違う。
医学生医学生
分布、形、造影のされ方、それに患者背景を組み合わせて鑑別するんですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識もまとめておこう。McDonald診断基準では、脳室周囲、皮質・皮質直下、テント下、脊髄の4領域のうち2領域以上の病変で空間的多発とする。2017年の改訂では、髄液のオリゴクローナルバンド陽性を時間的多発の代わりに使えるようになった。臨床ではUhthoff徴候やLhermitte徴候、両側のMLF症候群なども手がかりになるよ。
医学生医学生
臨床実習で、視神経炎で入院した方が視神経脊髄炎だったと聞きました。多発性硬化症との区別も大事ですか。
ドクタードクター
とても大事。視神経脊髄炎スペクトラム障害は抗アクアポリン4抗体が関わり、重い視神経炎や3椎体以上に及ぶ長い脊髄病変が特徴だ。多発性硬化症の再発予防に使うインターフェロンβなどで悪化しうるから、治療を始める前に鑑別しておく必要がある。急性増悪期はステロイドパルス療法が基本で、再発予防には疾患修飾薬を使う。ナタリズマブなど一部の薬ではPMLの発症に注意が必要で、今回の選択肢同士が臨床ではつながっているんだ。

まとめ

若年成人で、脳室周囲白質・脳幹・脊髄といった中枢神経の異なる部位に病変があれば空間的多発、造影される活動性病変と造影されない陳旧性病変が同時にあれば時間的多発を示し、多発性硬化症が最も考えられます。神経膠腫は単発の腫瘤と圧排、転移性腫瘍は皮髄境界のほぼすべて造影される病変と広い浮腫、PMLは免疫不全患者の皮質下白質に広がる造影されにくい病変、副腎白質ジストロフィーは男児に多い左右対称でびまん性の白質病変が特徴で、分布・形態・造影パターン・背景から区別できます。診断にはMcDonald基準が用いられ、髄液オリゴクローナルバンドも時間的多発の代わりとして使えます。長い脊髄病変や重症視神経炎では抗AQP4抗体陽性の視神経脊髄炎スペクトラム障害を必ず鑑別し、治療薬の選択を誤らないことが重要です。「場所」と「時間」の二つの軸で画像を読む視点は、脱髄性疾患全般の理解の基礎になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・26歳の若年男性、四肢の運動障害:大脳や脊髄など中枢神経の複数部位の障害が考えられる。 ・頭部単純MRI T2強調水平断像(A):両側の側脳室周囲の白質に、類円形の高信号病変が複数散在している。 ・頭部造影MRI T1強調水平断像(B):Aでみられた病変のうち一部(右側脳室周囲の病変)のみが造影され、辺縁がリング状に造影されている。他の病変は造影されていない。 ・頭部単純MRI T2強調水平断像(C):脳幹(中脳付近)に高信号病変を認める。 ・頸部単純MRI T2強調矢状断像(D):上位頸髄内に高信号病変を認める。

診断に至るプロセス

1.空間的多発(dissemination in space) 病変が脳室周囲白質・脳幹(テント下)・脊髄という中枢神経の異なる部位に存在している。これらはいずれも多発性硬化症(MS:multiple sclerosis)の脱髄巣の好発部位である。 2.時間的多発(dissemination in time) 造影MRIでは、血液脳関門が破綻している活動性(新しい)病変は造影され、時間が経過した病変は造影されない。同一時点のMRIで造影される病変と造影されない病変が混在していることは、病変が異なる時期に生じたこと、すなわち時間的多発を示す。 3.年齢・性別 20〜40歳代の若年成人の発症はMSとして典型的である(女性に多いが男性にもみられる)。 以上のように、中枢神経白質の病変が空間的・時間的に多発しており、多発性硬化症が最も考えられる。腫瘍性病変(神経膠腫、転移性腫瘍)、ウイルス感染による脱髄(進行性多巣性白質脳症)、遺伝性代謝疾患(副腎白質ジストロフィー)とは、病変の分布・形態・造影パターン・患者背景で鑑別する。

選択肢考察

  1. ×a.  神経膠腫

    神経膠腫(グリオーマ)は脳実質内に発生する原発性脳腫瘍で、通常は単発の腫瘤を形成し、周囲への圧排や浮腫を伴う。低悪性度の星細胞腫は造影されないことが多く、膠芽腫は壊死を伴う不整なリング状造影を示す。本例のように脳室周囲・脳幹・頸髄に小さな病変が多数散在する分布は神経膠腫としては非典型的である。

  2. ×b.  転移性腫瘍

    転移性脳腫瘍は多発しうるが、血行性転移のため灰白質と白質の境界部に好発し、ほとんどの病変が造影され、病変の大きさに比べて広範な周囲浮腫を伴うのが典型的である。本例では造影される病変と造影されない病変が混在し、浮腫も乏しい。また26歳で原発巣を示す情報もなく、脊髄内の病変も合わせると転移性腫瘍は考えにくい。

  3. ○c.  多発性硬化症

    多発性硬化症は、中枢神経の白質に脱髄巣が空間的・時間的に多発する自己免疫性疾患である。本例では脳室周囲白質、脳幹、頸髄という好発部位に病変が散在し(空間的多発)、造影される活動性病変と造影されない陳旧性病変が同時に存在する(時間的多発)。若年成人の発症も典型的であり、画像所見は多発性硬化症に合致する。活動性の病変では、辺縁が不完全なリング状(open ring)に造影されることもMSの特徴の一つである。

  4. ×d.  進行性多巣性白質脳症

    進行性多巣性白質脳症(PML:progressive multifocal leukoencephalopathy)は、JCウイルスがオリゴデンドロサイトに感染して起こる脱髄性疾患で、HIV感染症、悪性リンパ腫などの血液疾患、免疫抑制薬・生物学的製剤の使用など細胞性免疫が低下した患者に生じる。病変は皮質下白質(U線維を含む)に非対称性に広がり、融合して拡大し、通常は造影効果や占拠効果に乏しい。脊髄病変はまれである。免疫不全の背景がなく、脳室周囲の類円形病変や脊髄病変がみられる本例とは合わない。

  5. ×e.  副腎白質ジストロフィー

    副腎白質ジストロフィー(ALD:adrenoleukodystrophy)は、ABCD1遺伝子の変異による X連鎖性の遺伝性疾患で、極長鎖脂肪酸が蓄積する。大脳型では主に小児期(学童期)の男児に発症し、頭頂後頭葉の白質や脳梁膨大部に左右対称性の広範な病変を生じ、病変の前縁が造影される。成人では脊髄症を主体とする副腎脊髄ニューロパチー(AMN)の病型もある。いずれも病変はびまん性・対称性であり、本例のように散在する小さな類円形病変が非対称に分布するパターンとは異なる。

多発性硬化症(MS)の概要

中枢神経(脳、脊髄、視神経)の髄鞘が自己免疫機序により障害される脱髄性疾患である。若年成人(20〜40歳代)に多く、女性に多い。欧米の白人に多く、日本では比較的まれだが増加傾向にある。

臨床像

・再発と寛解を繰り返す再発寛解型が多く、一部は経過とともに障害が徐々に進行する二次性進行型へ移行する。初めから進行性の一次性進行型もある。 ・症状:視神経炎(片眼の視力低下、眼球運動時痛)、運動麻痺、感覚障害、小脳症状、複視、排尿障害など多彩。 ・特徴的な徴候:Uhthoff徴候(体温上昇で症状が一過性に悪化)、Lhermitte徴候(頸部前屈で背部から四肢に電撃痛が走る)、両側性の内側縦束(MLF)症候群、有痛性強直性けいれん。

検査

・MRI:脳室周囲白質(脳室に垂直に並ぶ卵円形病変、ovoid lesion)、皮質・皮質直下、テント下(脳幹・小脳)、脊髄が好発部位。脊髄病変は通常短く、3椎体未満のことが多い。 ・髄液:オリゴクローナルバンド陽性、IgG index上昇。 ・視覚誘発電位(VEP):潜時の延長。

診断(McDonald診断基準の考え方)

・空間的多発:脳室周囲、皮質・皮質直下、テント下、脊髄の4領域のうち2領域以上に病変がある。 ・時間的多発:造影病変と非造影病変が同時に存在する、または経過中に新たな病変が出現する。2017年改訂では、髄液オリゴクローナルバンド陽性を時間的多発の代わりとして用いることができる。 ・他疾患の除外が前提である。

鑑別として重要な視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)

抗アクアポリン4(AQP4)抗体が関与し、重症の視神経炎や3椎体以上に及ぶ長い脊髄病変が特徴である。MSで用いられる薬剤(インターフェロンβなど)で増悪しうるため、鑑別が重要である。

治療

・急性増悪期:ステロイドパルス療法、効果不十分なら血漿浄化療法。 ・再発予防(疾患修飾療法):インターフェロンβ、グラチラマー酢酸塩、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、ナタリズマブ、オファツムマブなど。ナタリズマブなど一部の薬剤ではPMLの発症に注意が必要である。

POINT

・多発性硬化症は「空間的多発」と「時間的多発」で診断する。 ・好発部位:脳室周囲白質、皮質・皮質直下、テント下(脳幹・小脳)、脊髄、視神経。 ・造影される病変(新しい)と造影されない病変(古い)の混在は時間的多発を示す。 ・若年成人・女性に多く、再発と寛解を繰り返す。 ・PMLは免疫不全患者の皮質下白質病変、ALDは男児の対称性びまん性白質病変、転移性腫瘍は皮髄境界の造影病変と広範な浮腫で区別する。 ・長い脊髄病変や重症視神経炎では抗AQP4抗体陽性のNMOSDを鑑別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。