「空のパイ」が教える病変の居場所―同名性上四半盲とMeyer係蹄で側頭葉を指し示す
第102回医師国家試験 I問題 第47問
国試問題にチャレンジ
15歳の男子。右上下肢のけいれん発作を主訴に来院した。近医で頭部CTでの異常を指摘された。意識は清明。同名性右上四半盲を認める。頭部単純MRIのT2強調像(A)と左内頸動脈造影側面像(B)とを別に示す。 病変の局在はどこか。

- a.前頭葉
- b.頭頂葉
- c.側頭葉
- d.後頭葉
- e.基底核
対話形式の解説
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ドクターまとめ
同名性四半盲は視放線の障害を示し、上四半盲なら反対側の側頭葉、下四半盲なら反対側の頭頂葉が責任病変となります。これは視野の上半分を運ぶ線維がMeyer係蹄として側頭葉内を前方へ迂回し、下半分を運ぶ線維が頭頂葉深部を通るためで、「pie in the sky」「pie on the floor」と覚えると整理しやすいでしょう。本例では右上下肢の焦点発作と右上四半盲がともに左半球を示し、T2強調像の左側頭葉の高信号占拠性病変と、脳血管造影での中大脳動脈枝の上方圧排が側頭葉病変を裏づけます。後頭葉病変では黄斑回避を伴う同名半盲、視交叉病変では両耳側半盲となるなど、視覚路全体の地図を押さえておくことが局在診断の基本です。症候から病変部位を推定する力は、画像を見る前の見立てとしても、てんかん外科の合併症理解としても臨床で役立ちます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・15歳男子、右上下肢のけいれん発作:左大脳半球に焦点をもつ焦点発作と考えられる。 ・同名性右上四半盲:両眼とも右上の1/4の視野が欠ける。左側の視放線のうち、下側の線維束(Meyer係蹄〈Meyerループ〉)の障害を示す。 ・頭部MRI T2強調像(A):左大脳半球の後方外側、側頭葉(後部)に境界明瞭な類円形の均一な高信号病変がある。脳脊髄液に近い強い高信号で、嚢胞性の病変と考えられる。周囲の脳構造は圧排されている。 ・左内頸動脈造影側面像(B):病変部に一致して血管の乏しい領域があり、中大脳動脈の枝が下方から上方へ押し上げられるように偏位している。腫瘍濃染などの異常血管はなく、側頭葉の占拠性病変(mass effect)を裏づける。
局在診断の考え方
視覚路は、網膜 → 視神経 → 視交叉 → 視索 → 外側膝状体 → 視放線 → 後頭葉視覚野(鳥距溝周囲)と続く。視交叉より後方の片側の障害では、反対側の同名性の視野欠損が生じる。 視放線のうち、網膜の下半分(=視野の上半分)からの情報を運ぶ線維は、外側膝状体を出たあと側頭葉内を前方へ大きく迂回し(Meyer係蹄)、側脳室下角の外側を通って後頭葉へ向かう。一方、視野の下半分を運ぶ線維は頭頂葉の深部を通る。 したがって、 ・側頭葉の障害 → 反対側の同名性上四半盲("pie in the sky") ・頭頂葉の障害 → 反対側の同名性下四半盲("pie on the floor") となる。本例の右上四半盲は左側頭葉の病変を示し、MRI・脳血管造影の所見とも一致する。右上下肢のけいれんは、左側頭葉の病変に由来する発作が隣接する運動野に波及したもの、あるいは病変の圧排による皮質刺激によるものと考えられる。 病変の組織診断(嚢胞性病変、低悪性度腫瘍など)は画像だけでは確定できないが、本問で問われているのは局在であり、視野欠損のパターンから側頭葉と判断することが要点である。
選択肢考察
- ×a. 前頭葉
前頭葉には視放線は通らないため、前頭葉に限局した病変では同名性四半盲は生じない。左前頭葉の中心前回(一次運動野)の病変であれば右上下肢のけいれんは説明できるが、視野障害を説明できない。画像上も病変は前頭葉ではなく左大脳半球の後方外側にある。
- ×b. 頭頂葉
頭頂葉の深部には視野の下半分を担う視放線(上方の線維束)が通るため、左頭頂葉の病変では右同名性下四半盲が生じる。本例は上四半盲であり合わない。
- ○c. 側頭葉
視野の上半分を担う視放線の線維はMeyer係蹄として側頭葉内を前方へ迂回して走行するため、左側頭葉の病変では右同名性上四半盲が生じる。MRI T2強調像で左側頭葉に高信号の占拠性病変があり、脳血管造影で中大脳動脈の枝が下から上へ圧排されていることも、側頭葉病変として矛盾しない。
- ×d. 後頭葉
後頭葉視覚野(鳥距溝周囲)の障害では、反対側の同名半盲が典型的であり、中大脳動脈と後大脳動脈の二重支配により黄斑回避を伴うことが多い。鳥距溝の下唇に限局した障害なら上四半盲も起こりうるが、画像上の病変は後頭葉ではなく側頭葉にあり、中大脳動脈の圧排所見とも合わない。
- ×e. 基底核
基底核(線条体・淡蒼球など)の病変は不随意運動や錐体外路症状の原因となるが、視放線は基底核を通らないため、同名性四半盲は説明できない。また、基底核の病変はけいれん発作の原因となりにくい。画像上も病変は基底核より外側・後方の側頭葉にある。
視覚路の障害部位と視野欠損
・視神経:同側眼の全盲(片眼の視力障害) ・視交叉(下垂体腺腫などで中央部が圧迫):両耳側半盲 ・視索:反対側の同名半盲(不一致性のことが多い) ・視放線の側頭葉部(Meyer係蹄):反対側の同名性上四半盲 ・視放線の頭頂葉部:反対側の同名性下四半盲 ・後頭葉視覚野:反対側の同名半盲(黄斑回避を伴うことが多い)
Meyer係蹄(Meyerループ)
外側膝状体から出た視放線のうち、網膜下半分(視野上半分)の情報を運ぶ線維は、側頭葉内で側脳室下角の前方へループを描いて回り込んでから後頭葉へ向かう。側頭葉腫瘍のほか、てんかん外科手術(側頭葉前部切除)後の合併症として上四半盲が生じることもこの走行による。
脳血管造影でみる占拠性病変
腫瘍や嚢胞などの占拠性病変があると、周囲の血管が押しのけられる(偏位・圧排)。側頭葉の病変では中大脳動脈やシルビウス裂の血管群が上方へ押し上げられる。病変自体に血管が乏しい場合は無血管野として描出される。
側頭葉てんかんと焦点発作
側頭葉の病変は、若年者の焦点てんかんの原因として重要である。発作が隣接する運動野に広がると、反対側の上下肢のけいれんとして現れることがある。
POINT
・同名性上四半盲 → 反対側の側頭葉(Meyer係蹄)の障害 ・同名性下四半盲 → 反対側の頭頂葉の障害 ・同名半盲(黄斑回避あり) → 反対側の後頭葉の障害 ・両耳側半盲 → 視交叉の障害(下垂体腺腫など) ・脳血管造影で中大脳動脈枝が下から上へ圧排 → 側頭葉の占拠性病変を示唆
