眼の奥で鳴る「シューシュー」―外傷後に完成する内頸動脈海綿静脈洞瘻と瘻孔塞栓術
第102回医師国家試験 I問題 第46問
国試問題にチャレンジ
82歳の女性。交通外傷で搬入された。入院46日後,右眼の突出に気付き,右眼奥でシューシューと音がすると訴えた。意識は清明。右前頭部で拍動性雑音を聴取する。右眼強膜の血管怒張を認める。両眼部の写真(A)(B)と右内頸動脈造影側面像(C)とを別に示す。 治療として適切なのはどれか。

- a.副腎皮質ステロイド薬点眼
- b.甲状腺ホルモン薬投与
- c.抗けいれん薬投与
- d.放射線治療
- e.瘻孔塞栓術
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
拍動性眼球突出、結膜の充血・浮腫、拍動性雑音の三大徴候がそろえば内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)を考えます。外傷で海綿静脈洞内の内頸動脈が損傷され、動脈血が海綿静脈洞へ流れ込むと眼静脈が逆流・うっ血し、受傷数日〜数週後に眼症状として現れるのが典型です。確定診断は脳血管造影で、動脈相での海綿静脈洞・上眼静脈の早期描出が特徴です。高流量の直接型は自然閉鎖が期待しにくく、視力障害・脳神経麻痺・脳出血を防ぐため、血管内治療による瘻孔塞栓術が第一選択となり、ステロイド点眼や放射線治療は根本治療になりません。眼球突出をみたら雑音の聴取を忘れず、甲状腺眼症や眼窩腫瘍との鑑別を意識することが臨床で重要です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・交通外傷の既往があり、受傷から46日後という亜急性〜慢性期に症状が出現している。 ・右眼球突出:眼窩内の容積が増えている、あるいは眼窩からの静脈還流が妨げられていることを示す。 ・「右眼奥でシューシューと音がする」という自覚的雑音と、右前頭部で聴取される拍動性雑音(bruit):近傍に高流量の血流、特に動脈血が低圧の静脈系へ直接流れ込む短絡(シャント)の存在を示唆する。 ・右眼強膜(結膜)の血管怒張:眼静脈の還流障害によるうっ血である。 ・写真(A)(B)では右眼の結膜血管の怒張・充血がみられ、右内頸動脈造影側面像(C)では動脈相の早い時期から海綿静脈洞およびそこから流出する静脈(上眼静脈など)が造影される、すなわち内頸動脈海綿静脈洞部での動静脈短絡を示す所見である。
診断に至るプロセス
拍動性眼球突出・結膜の充血と浮腫・拍動性雑音は、内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF:carotid-cavernous fistula)の三大徴候である。外傷を契機に海綿静脈洞内を走る内頸動脈の壁が損傷され、動脈血が海綿静脈洞へ直接流れ込むと、海綿静脈洞の圧が上昇し、そこへ注ぐ上眼静脈・下眼静脈が逆流・怒張する。その結果、眼窩のうっ血による眼球突出、結膜の充血・浮腫(chemosis)が起こる。 鑑別として、Basedow病による眼症や眼窩内腫瘍は眼球突出をきたすが拍動性雑音は伴わない。結膜炎は充血をきたすが眼球突出や雑音は伴わない。動眼神経麻痺(内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤など)では眼瞼下垂や眼球運動障害は出るが眼球突出はきたさない。海綿静脈洞部の硬膜動静脈瘻は類似の症状を呈しうるが、外傷と無関係に高齢女性などに自然発生することが多く、流量も比較的少ない。本例は外傷後の発症であり、造影所見と合わせて外傷性の直接型CCFと診断する。
治療の考え方
外傷性の直接型CCFは内頸動脈と海綿静脈洞が直接交通する高流量の短絡であり、自然閉鎖は期待しにくい。放置すると視力障害(網膜静脈うっ滞、眼圧上昇による緑内障、視神経障害)、外眼筋麻痺、さらに皮質静脈への逆流が生じれば脳出血や静脈性梗塞の危険がある。したがって、血管内治療(カテーテル治療)で瘻孔を閉鎖することが根治的治療となる。
選択肢考察
- ×a. 副腎皮質ステロイド薬点眼
副腎皮質ステロイド薬点眼は、アレルギー性結膜炎やぶどう膜炎など眼の炎症性疾患に用いる。本例の結膜血管怒張は炎症ではなく、動静脈短絡による眼静脈のうっ血が原因であり、点眼で原因を取り除くことはできない。
- ×b. 甲状腺ホルモン薬投与
甲状腺ホルモン薬(レボチロキシン)は甲状腺機能低下症の治療薬である。眼球突出で連想されるのはむしろ甲状腺機能亢進症(Basedow病)だが、その場合でも甲状腺ホルモン薬は用いない。さらに甲状腺眼症では拍動性雑音は生じず、本例とは合わない。
- ×c. 抗けいれん薬投与
動静脈短絡の血流が皮質静脈へ逆流し、脳表の静脈圧が上昇すると、けいれん発作を生じる危険が高まる。そのような場合には抗けいれん薬を考慮することもあるが、本例ではけいれん症状はなく、抗けいれん薬は病態そのもの(瘻孔)を治療するものではない。根本治療にはならないため、治療として適切とはいえない。
- ×d. 放射線治療
定位放射線治療(ガンマナイフなど)は脳動静脈奇形(AVM)の治療に用いられ、硬膜動静脈瘻の一部でも選択肢となる。しかし効果(血管の閉塞)が得られるまでに数か月〜数年を要する。本例のような外傷性の高流量の直接型内頸動脈海綿静脈洞瘻では、速やかな瘻孔閉鎖が必要であり、放射線治療は適応とならない。
- ○e. 瘻孔塞栓術
外傷性内頸動脈海綿静脈洞瘻の標準的治療は、血管内カテーテルを用いた瘻孔の閉鎖である。経動脈的に内頸動脈から瘻孔を通して離脱式バルーンやコイルを海綿静脈洞側に留置する方法、経静脈的(下錐体静脈洞や上眼静脈経由)に海綿静脈洞をコイルなどで塞栓する方法があり、内頸動脈の血流を温存しつつ短絡を止めることを目指す。瘻孔が閉鎖されれば眼静脈のうっ血が解除され、眼球突出・結膜充血・雑音は改善する。
内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)
海綿静脈洞内を走行する内頸動脈(またはその硬膜枝・外頸動脈の硬膜枝)と海綿静脈洞の間に異常な短絡が生じた状態である。
分類
・直接型(Barrow分類A型):内頸動脈本幹と海綿静脈洞が直接交通する。多くは外傷(特にトルコ鞍近傍に及ぶ頭蓋底骨折)に伴い、若年〜中年の男性に多い。海綿静脈洞部内頸動脈瘤の破裂でも生じる。高流量で症状が強い。 ・間接型(B〜D型):内頸動脈や外頸動脈の硬膜枝を介して海綿静脈洞に短絡する、いわゆる海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻である。中高年女性に多く、自然発生することが多い。低流量で症状は比較的軽い。
症状
・三大徴候:拍動性眼球突出、結膜の充血・浮腫(chemosis)、拍動性雑音(bruit) ・その他:外眼筋麻痺(海綿静脈洞内を通る動眼・滑車・外転神経の障害、特に外転神経麻痺が多い)、眼圧上昇、視力障害、頭痛、鼻出血など ・外傷性の場合、受傷直後ではなく数日〜数週後に発症することが多い(内頸動脈壁の損傷部に形成された仮性動脈瘤が破れて短絡が完成すると考えられている)。
検査
CTやMRIで上眼静脈の拡張や海綿静脈洞の拡大がみられる。確定診断と治療計画の立案には脳血管造影が必須であり、動脈相での早期の海綿静脈洞・眼静脈の描出が特徴である。
治療
・直接型:血管内治療による瘻孔閉鎖(経動脈的な離脱式バルーン・コイル塞栓、経静脈的塞栓など)が第一選択。 ・間接型:自然閉鎖することもあり、軽症なら経過観察や用手的頸動脈圧迫も選択肢となる。症状の強い例や皮質静脈逆流がある例では経静脈的塞栓術を行う。放射線治療が用いられることもある。
POINT
・拍動性眼球突出+結膜充血・浮腫+拍動性雑音 → 内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF) ・頭部外傷(頭蓋底骨折)の数日〜数週後に発症する直接型が典型。 ・海綿静脈洞の圧上昇により眼静脈が逆流・怒張することが症状の本態。 ・確定診断は脳血管造影(動脈相での海綿静脈洞・眼静脈の早期描出)。 ・治療は血管内治療による瘻孔塞栓術。 ・眼球突出があっても拍動性雑音がなければBasedow病や眼窩腫瘍を考える。
