卵巣が黙ると下垂体が叫ぶ―閉経後に「FSHが高くなる」理由
第102回医師国家試験 I問題 第43問
国試問題にチャレンジ
55歳の女性。2回経妊,2回経産。顔のほてりと夜間の発汗とを主訴に来院した。2年前に閉経。既往歴と家族歴とに特記すべきことはない。身長160cm,体重62kg。 血中ホルモン値で正しいのはどれか。
- a.LH低値
- b.FSH高値
- c.エストラジオール高値
- d.エストリオール高値
- e.テストステロン高値
対話形式の解説
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ドクターまとめ
閉経では卵胞が枯渇してエストラジオールとインヒビンが激減し、視床下部・下垂体へのネガティブフィードバックが外れるため、FSHとLHはともに上昇します(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。インヒビンはFSHを選択的に抑制するため、FSHの上昇はLHより早く顕著で、卵巣機能低下の指標となります。エストリオール高値は妊娠中の胎児胎盤系でみられる所見であり、テストステロンは閉経後に緩やかに減少し、閉経後の主なエストロゲンは脂肪組織で作られるエストロンです。ほてり・発汗はエストロゲン低下による視床下部の体温調節の変化によると考えられ、診断では甲状腺機能亢進症やうつ病の除外が大切で、治療にはホルモン補充療法(子宮がある場合は黄体ホルモン併用)が最も有効です。フィードバックの原理から性腺系のホルモン変化を導く考え方は、早発卵巣不全や下垂体疾患の鑑別にも応用できます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・55歳女性、2年前に閉経(日本人の平均閉経年齢は約50歳)。 ・主訴は顔のほてり(ホットフラッシュ)と夜間の発汗(寝汗)で、いずれも血管運動神経症状と呼ばれる更年期の代表的症状である。 ・既往歴・家族歴に特記事項はなく、BMIは約24で体格も標準的である。 以上から、閉経に伴うエストロゲン低下による更年期障害(更年期症状)と考えられる。
設問への考え方:閉経後のホルモン動態
視床下部はGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)を分泌し、これが下垂体からLH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)を分泌させる。LH・FSHは卵巣に作用して卵胞を発育させ、エストロゲン(主にエストラジオール)やプロゲステロンを産生させる。卵巣から出たエストロゲンや、顆粒膜細胞が分泌するインヒビンは、視床下部・下垂体に負のフィードバック(ネガティブフィードバック)をかけてゴナドトロピン分泌を抑えている。 閉経では卵巣内の卵胞がほぼ枯渇し、エストラジオールとインヒビンの産生が激減する。その結果フィードバックによる抑制が外れ、下垂体からのFSHとLHはともに著明に増加する。このように「性腺ホルモンは低いのに、ゴナドトロピンは高い」状態を高ゴナドトロピン性性腺機能低下症(hypergonadotropic hypogonadism)という。特にFSHの上昇は早く大きく(閉経後は多くの場合40mIU/mL以上)、卵巣機能低下の指標として用いられる。 したがって本例の血中ホルモンは、FSH高値・LH高値・エストラジオール低値となる。
選択肢考察
- ×a. LH低値
閉経後はエストロゲンによる負のフィードバックが失われるため、LHはFSHと同様に上昇する。低値にはならない。LHの分泌低下を伴う性腺機能低下は、視床下部・下垂体の障害(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)でみられる所見である。
- ○b. FSH高値
卵胞が枯渇してエストラジオールとインヒビン(FSH分泌を選択的に抑制するホルモン)が低下するため、FSHは強く上昇する。インヒビンの低下も加わるため、FSHの上昇はLHよりも早い時期から、より顕著に現れる。FSHは卵巣予備能・卵巣機能の指標であり、閉経前の女性では月経周期の初期(月経開始2〜3日目頃)に測定して評価する。
- ×c. エストラジオール高値
エストラジオールは主に発育卵胞の顆粒膜細胞で、莢膜細胞から供給されるアンドロゲンをアロマターゼで変換して作られる。閉経後は卵胞がほとんど残っていないためエストラジオールは低値となる(多くは10〜20pg/mL未満)。このエストロゲン欠乏が血管運動神経症状や、後に起こる泌尿生殖器の萎縮、骨量減少、脂質異常の原因となる。
- ×d. エストリオール高値
エストリオール(E3)は作用の弱いエストロゲンで、非妊時にはエストラジオールやエストロンの代謝産物として主に尿中に排泄される形である。妊娠中は胎児副腎由来のDHEA-S(デヒドロエピアンドロステロン硫酸)を材料に胎盤で大量に産生されるため高値となり、かつては胎児胎盤機能の指標とされた。閉経後に高値となることはない。
- ×e. テストステロン高値
女性のテストステロンは卵巣(莢膜細胞・間質)と副腎、および末梢でのアンドロゲン変換によって少量作られる。閉経後も卵巣間質からある程度の産生は続くが、加齢とともにむしろ緩やかに減少し、高値にはならない。エストロゲンが大きく下がるため相対的にアンドロゲン優位となることはあるが、テストステロン値そのものが上昇するわけではない。
更年期と更年期障害
閉経(月経が12か月以上ない状態を確認して、最後の月経を閉経とする)の前後5年、合計約10年間を更年期という。この時期に現れる多彩な症状のうち、器質的疾患によらないものを更年期症状、日常生活に支障をきたすほどのものを更年期障害と呼ぶ。 症状は、①血管運動神経症状(ほてり、のぼせ、発汗、動悸)、②精神神経症状(不眠、抑うつ、いらいら、不安)、③その他(肩こり、疲労感、頭痛、関節痛など)に分けられる。
ホットフラッシュの機序
エストロゲン低下により、視床下部の体温調節中枢の設定域が狭くなり、わずかな深部体温上昇でも皮膚血管拡張と発汗という放熱反応が起こると考えられている。視床下部のKNDyニューロン(キスペプチン・ニューロキニンB・ダイノルフィンを発現する神経細胞)の過活動が関与することが明らかになり、ニューロキニン3受容体拮抗薬(フェゾリネタントなど)が新たな治療薬として開発された。ホットフラッシュはLHのパルス状分泌と時間的に一致することが知られるが、下垂体を摘出した女性でも起こることから、LHそのものが原因ではなく、共通の視床下部の変化を反映していると考えられている。
閉経後のホルモン変化のまとめ
・上昇:FSH(著明)、LH ・低下:エストラジオール、プロゲステロン、インヒビン、AMH(抗ミュラー管ホルモン) ・閉経後の主なエストロゲンは、副腎由来のアンドロステンジオンが脂肪組織などのアロマターゼで変換されたエストロン(E1)である。
診断と治療
症状、年齢・月経歴に加え、FSH高値・エストラジオール低値で卵巣機能低下を確認する。甲状腺機能亢進症やうつ病など、似た症状を示す疾患の除外も重要である。治療はホルモン補充療法(HRT:子宮がある女性ではエストロゲンに黄体ホルモンを併用して子宮内膜癌を予防する)、漢方薬(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などを症状や禁忌に応じて選択する。
POINT
・閉経後は卵胞枯渇 → エストラジオール・インヒビン低下 → 負のフィードバック消失 → FSH・LHともに上昇(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。 ・FSHの上昇はLHより早く顕著で、卵巣機能低下の指標となる。 ・エストリオール高値は妊娠(胎児胎盤系)でみられる。 ・閉経後の主なエストロゲンは脂肪組織で作られるエストロン。 ・ほてり・発汗は血管運動神経症状で、HRTが最も有効。
