青い唇は何を語るか―還元ヘモグロビンから読み解くチアノーゼの原因
第102回医師国家試験 I問題 第39問
国試問題にチャレンジ
チアノーゼを起こすのはどれか。
- a.頸肩腕障害
- b.過敏性肺臓炎
- c.一酸化炭素中毒
- d.メチル水銀中毒
- e.ポリ塩化ビフェニル〈PCB〉中毒
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
チアノーゼは毛細血管血中の還元ヘモグロビンが約5 g/dL以上に増えると出現し、動脈血の酸素飽和度が低下する中心性と、末梢での酸素消費が増える末梢性に分けられます。過敏性肺炎は有機粉塵の反復吸入によるアレルギー性間質性肺炎で、拡散障害と拘束性換気障害による低酸素血症から中心性チアノーゼをきたしえます。一酸化炭素中毒は強い組織低酸素を起こすものの、一酸化炭素ヘモグロビンが鮮紅色のため典型的にはチアノーゼを呈さず、パルスオキシメータでもSpO2が見かけ上正常となる点に注意が必要です。メチル水銀中毒(水俣病)、PCB中毒(カネミ油症)、頸肩腕障害は呼吸・循環障害を主体としません。チアノーゼの成り立ちを理解しておくと、貧血や異常ヘモグロビンが絡む見逃しやすい低酸素状態にも対応できるようになります。
解答・解説
正解はbです
チアノーゼとは、皮膚や粘膜(口唇、爪床、耳朶など)が青紫色に見える状態をいう。毛細血管内の血液中で、酸素と結合していないヘモグロビン(還元ヘモグロビン、デオキシヘモグロビン)が一定量以上に増えると出現する。目安は毛細血管血中の還元ヘモグロビンが約5 g/dL以上である。異常ヘモグロビンでは少量でも出現し、メトヘモグロビンではおよそ1.5 g/dL以上、スルフヘモグロビンでは約0.5 g/dL以上で認められる。 チアノーゼは大きく2つに分けられる。 ・中心性チアノーゼ:動脈血そのものの酸素飽和度が低下して起こる。原因は肺での酸素化の障害(間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉、肺水腫など)や、右左シャントを伴う先天性心疾患(Fallot四徴症など)である。全身の皮膚・粘膜(舌や口腔粘膜を含む)にみられる。 ・末梢性チアノーゼ:動脈血の酸素化は正常だが、末梢の血流が遅くなり組織での酸素の抜き取りが増えて起こる。寒冷曝露、心拍出量低下、Raynaud現象、静脈閉塞などが原因で、手足の先端に目立ち、舌や口腔粘膜にはみられない。 なお、還元ヘモグロビンの「量」が基準になるため、貧血の患者では低酸素でもチアノーゼが出にくく、多血症の患者では軽い低酸素でも出やすい。 本問の選択肢では、肺胞・間質に炎症が起こり酸素の取り込み(拡散)が障害される過敏性肺炎が、中心性チアノーゼの原因となる。その他は、呼吸・循環障害を主病態としない職業性・環境性疾患や、ヘモグロビンが鮮紅色を呈してチアノーゼとして現れにくい一酸化炭素中毒である。
選択肢考察
- ×a. 頸肩腕障害
チアノーゼは起こさない。頸肩腕障害は、キーボード入力(打鍵作業)、レジ打ち、組み立てライン作業など、上肢を反復して使ったり頸部・肩を同じ姿勢で長時間保持したりする作業によって生じる作業関連疾患である。症状は頸部から肩・上肢にかけての凝り、痛み、しびれ、だるさ、脱力などの運動器・末梢神経症状が中心で、呼吸や循環を障害する病態ではない。
- ○b. 過敏性肺臓炎
チアノーゼを起こしうる。過敏性肺炎(過敏性肺臓炎)は、真菌(夏型過敏性肺炎の原因となるトリコスポロンなど)、好熱性放線菌(農夫肺)、鳥の糞や羽毛に含まれる蛋白(鳥関連過敏性肺炎)などの有機粉塵を繰り返し吸入することで起こるアレルギー性の間質性肺炎である。主にⅢ型(免疫複合体型)とⅣ型(遅延型)アレルギーが関与し、細気管支から肺胞にかけてリンパ球浸潤と類上皮細胞肉芽腫が形成される。肺胞壁が厚くなって酸素の拡散が障害され、肺のコンプライアンスが低下して拘束性換気障害をきたすため、低酸素血症が生じ、重症例や急性増悪時、慢性化して線維化が進んだ例では中心性チアノーゼが出現する。抗原曝露の数時間後に発熱、咳、呼吸困難が起こり、抗原から離れると改善するのが特徴である。
- ×c. 一酸化炭素中毒
典型的にはチアノーゼを起こさない。一酸化炭素(CO)は不完全燃焼、自動車の排気ガス、炭鉱事故、練炭などで発生し、ヘモグロビンに対して酸素の200倍以上の親和性で結合して一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)を形成する。これにより酸素運搬能が失われ、さらに酸素解離曲線が左方移動して組織に酸素を渡しにくくなるため、重い組織低酸素に陥る。しかしCO-Hbは鮮紅色(チェリーレッド)を呈し、還元ヘモグロビンは増えないため、皮膚や粘膜は青紫色にならず、典型的にはチアノーゼとして現れない(鮮紅色の皮膚所見も実際には死後や重症例以外では目立たないことが多い)。また、通常のパルスオキシメータはCO-HbをO2-Hbと区別できないためSpO2が見かけ上正常に表示される点にも注意が必要で、診断にはCOオキシメトリーによるCO-Hb濃度の測定を行う。
- ×d. メチル水銀中毒
チアノーゼは起こさない。メチル水銀は脂溶性の有機水銀で、中枢神経系に蓄積して障害を起こす。代表例が、工場排水に含まれたメチル水銀が魚介類に濃縮され、それを食べた住民に発生した水俣病(熊本・新潟)である。求心性視野狭窄、小脳性運動失調、構音障害、難聴、四肢末端優位の感覚障害を特徴とし、これらをまとめてHunter-Russell症候群とよぶ。胎盤を通過するため胎児性水俣病も生じた。主病変は神経系であり、呼吸・循環障害によるチアノーゼはみられない。
- ×e. ポリ塩化ビフェニル〈PCB〉中毒
チアノーゼは起こさない。PCBは脂溶性で体内に蓄積しやすい有機塩素化合物で、1968年のカネミ油症事件では、米ぬか油の製造過程で熱媒体として用いられたPCB(およびその加熱によって生じたポリ塩化ジベンゾフラン〈PCDF〉などのダイオキシン類)が油に混入し、摂取した多数の人に健康被害が生じた。症状は塩素痤瘡(クロルアクネ)とよばれる痤瘡様皮疹、皮膚・爪・歯肉の黒褐色の色素沈着、眼脂の増加、肝機能障害、全身倦怠感などで、母体から胎児への移行により皮膚が黒い新生児(いわゆる黒い赤ちゃん)もみられた。呼吸・循環障害によるチアノーゼは主症状ではない。
チアノーゼの発生機序と原因
・中心性チアノーゼ(動脈血の酸素飽和度低下) 肺疾患:間質性肺炎・過敏性肺炎、COPD、肺水腫、肺塞栓、重症肺炎など 心疾患:右左シャントを伴うチアノーゼ性先天性心疾患(Fallot四徴症、完全大血管転位症など)、Eisenmenger症候群 その他:高地などの低酸素環境、肺胞低換気 ・末梢性チアノーゼ(末梢での酸素消費増大) 寒冷曝露、心拍出量低下(ショック・心不全)、Raynaud現象、動脈閉塞・静脈うっ滞 ・異常ヘモグロビンによるもの メトヘモグロビン血症(亜硝酸塩、硝酸塩を含む井戸水による乳児、ダプソン・局所麻酔薬などの薬剤、先天性):チョコレート色の血液、SpO2の値が約85%付近に固定されやすい スルフヘモグロビン血症
チアノーゼ出現の目安
・還元ヘモグロビン:約5 g/dL以上 ・メトヘモグロビン:約1.5 g/dL以上 ・スルフヘモグロビン:約0.5 g/dL以上
過敏性肺炎の要点
・原因抗原:トリコスポロン(夏型、日本で頻度が高かった)、鳥類蛋白(鳥関連、慢性化しやすい)、好熱性放線菌(農夫肺)、加湿器・空調の微生物(加湿器肺)、イソシアネート(化学物質)など ・病理:リンパ球性胞隔炎、類上皮細胞肉芽腫 ・検査:気管支肺胞洗浄液(BALF)でリンパ球増加(CD4/CD8比は低下することが多い)、胸部CTで小葉中心性の粒状影やすりガラス影、特異抗体(沈降抗体)の検出 ・治療:抗原からの回避が最も重要。重症例では副腎皮質ステロイド
選択肢に登場した職業性・環境性疾患の整理
・頸肩腕障害:反復上肢作業(VDT作業など) ・一酸化炭素中毒:CO-Hb形成による組織低酸素、遅発性の脳障害(間欠型CO中毒)あり。治療は高濃度酸素・高気圧酸素療法 ・メチル水銀中毒:水俣病、Hunter-Russell症候群 ・PCB中毒:カネミ油症、塩素痤瘡・色素沈着
POINT
・チアノーゼは毛細血管血中の還元ヘモグロビンが約5 g/dL以上で出現する(メトヘモグロビンでは約1.5 g/dL以上)。 ・過敏性肺炎は有機粉塵の吸入によるアレルギー性間質性肺炎で、拡散障害・拘束性障害による低酸素血症から中心性チアノーゼをきたしうる。 ・一酸化炭素中毒はCO-Hbが鮮紅色のため典型的にはチアノーゼを呈さず、パルスオキシメータのSpO2も見かけ上正常となる。 ・貧血では低酸素でもチアノーゼが出にくく、多血症では出やすい。 ・メチル水銀中毒=水俣病(Hunter-Russell症候群)、PCB中毒=カネミ油症(塩素痤瘡・色素沈着)、頸肩腕障害=反復上肢作業。
