StudyMed医師国家試験

4000Hzの谷が告げる職業病―騒音性難聴は「戻らない」感音難聴

第102回医師国家試験 I問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第40問

騒音性難聴について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.伝音難聴である。
  2. b.前庭機能障害はみられない。
  3. c.低周波音曝露で発生しやすい。
  4. d.高音域の聴力低下が特徴である。
  5. e.騒音曝露を中止すると改善する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は騒音性難聴の基本的な性質を問う問題だ。押さえるべき軸は「障害部位はどこか」「どの周波数が落ちるか」「元に戻るか」の3つ。まずは障害部位から考えてみよう。
医学生医学生
大きな音で鼓膜が傷むイメージがあるので、伝音難聴かなと思ってしまいました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、騒音性難聴で傷むのは内耳の蝸牛、特にコルチ器の外有毛細胞なんだ。だから感音難聴になる。伝音難聴は外耳道・鼓膜・耳小骨といった、音を内耳まで運ぶ経路の障害だね。
医学生医学生
耳鼻科の講義でやった気導と骨導の話ですね。感音難聴なら両方とも同じように下がって、気骨導差は出ないということですか。
ドクタードクター
その通り。耳垢栓塞や中耳炎、耳硬化症なら骨導は保たれて気骨導差が出るけれど、騒音性難聴は気導・骨導ともに閾値が上がる。では、どの周波数から落ちると思う?
医学生医学生
工場の低い機械音みたいな、低い音を浴び続けると低音から落ちるのでは…と思ったんですが。
ドクタードクター
ここがこの問題のひっかけポイントだ。騒音性難聴の発生を最も左右するのは、音の強さと曝露期間の積、つまり総曝露量なんだ。同じ音圧なら低周波音より高周波成分を含む音のほうが内耳への障害性は高いとされるから、「低周波音で起こりやすい」は誤り。そしてどんな騒音でも、聴力低下は4000Hz付近から始まりやすい。
医学生医学生
なぜ4000Hzなんでしょう。
ドクタードクター
外耳道が約3000Hz付近で共鳴して音圧を増強するため、それに対応する蝸牛の部位に負荷が集中しやすいと考えられている。オージオグラムでは4000Hz付近だけが谷状に落ち込む「C5 dip」が初期の特徴で、進行すると周囲へ広がって高音漸傾型・高音急墜型になる。つまり「高音域の聴力低下が特徴」は正しい。
医学生医学生
OSCEの練習でオージオグラムの読み方を習いましたが、C5 dipは典型像として教科書に載っていました。会話音域が保たれるなら、本人は気づきにくいですね。
ドクタードクター
まさにそこが厄介な点で、初期は日常会話にほとんど困らない。だから騒音職場の健康診断では1000Hzと4000Hzを測って早期発見を目指すんだ。次は症状の範囲。めまいは起こると思う?
医学生医学生
内耳の病気なら、メニエール病みたいにめまいも出そうな気がします。
ドクタードクター
いい疑問だね。でも騒音性難聴で傷むのは蝸牛に限られていて、平衡をつかさどる半規管や耳石器などの前庭は障害されない。症状は難聴と耳鳴だけで、前庭機能障害はみられない。だからこれも正しい選択肢だ。対比として覚えておきたいのが急性音響外傷で、爆発音や銃声など強大な音を一度浴びると内耳が強く損傷され、めまいを伴うことがある。
医学生医学生
慢性の騒音性難聴と、一発の急性音響外傷で区別するわけですね。最後の「曝露をやめれば改善する」はどうですか。ライブの後に耳がこもって翌日には治った経験があるので、少し迷います。
ドクタードクター
その体験こそ一過性閾値上昇、TTSと呼ばれる現象だ。静かな環境で休めば数時間〜数日で回復する。でもTTSを繰り返すうちに、回復しない永久的閾値上昇、PTSが残る。これが騒音性難聴で、哺乳類の有毛細胞は再生しないから、曝露をやめても聴力は戻らない。止まるのは進行だけだ。
医学生医学生
つまり正しいのは、前庭機能障害がないことと、高音域の聴力低下が特徴であること。伝音難聴、低周波音で起こりやすい、曝露中止で改善、の3つは誤りですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床・産業保健の観点も補足しよう。一般に85dB(A)以上の騒音への長期曝露が危険とされ、治療法がない以上、耳栓やイヤーマフの着用、騒音源対策、作業時間の管理といった予防がすべてになる。最近は大音量のイヤホンで音楽を聴く若者のヘッドホン難聴も、騒音性難聴の一種として問題になっている。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った職業性疾患の一つとしても出てきました。加齢性難聴も高音から落ちますが、区別できますか。
ドクタードクター
加齢性難聴も両側対称の高音漸傾型感音難聴だけど、C5 dipのような4000Hz付近の限局した谷は典型的ではない。職歴の聴取とオージオグラムの形を合わせて考えるのがコツだね。

まとめ

騒音性難聴は、85dB(A)以上の騒音に長期間曝露されることで蝸牛の外有毛細胞が障害される内耳性の感音難聴で、伝音難聴ではありません。初期には4000Hz付近が谷状に落ち込むC5 dipを示し、進行すると高音漸傾型となるため、会話音域が保たれる初期は自覚されにくいのが特徴です。障害は蝸牛に限られ前庭症状は伴わず、めまいを伴いうる急性音響外傷とは区別されます。発症には曝露音の強さと期間が関与し、低周波音で起こりやすいわけではなく、有毛細胞は再生しないため曝露を中止しても聴力は回復しません。治療法がない以上、防音保護具や定期的な聴力検査による予防と早期発見が重要であり、産業保健の視点からも押さえておきたい疾患です。

解答・解説

正解はb, dです

騒音性難聴は、強い騒音に長期間(多くは年単位、典型的には10年前後以上)繰り返し曝露されることで、内耳の蝸牛にある有毛細胞(主に外有毛細胞)が徐々に障害されて起こる感音難聴である。工場、建設現場、鉱山、造船などで働く人にみられる代表的な職業性疾患で、一般にA特性(ヒトの聴覚の感度に合わせて補正した騒音レベル)で85 dB以上の騒音への長期曝露が危険とされる。 本問を解くうえで押さえるべき特徴は次のとおりである。 ・障害部位:蝸牛(内耳)であり、難聴の種類は感音難聴。 ・聴力像:初期には純音聴力検査で4,000 Hz付近に限局した聴力低下(C5 dip)がみられ、進行すると周囲の周波数へ広がって高音漸傾型・高音急墜型となる。つまり高音域の聴力低下が特徴である。初期は会話音域(500〜2,000 Hz程度)が保たれるため、本人は気づきにくい。 ・左右差:両耳ほぼ対称に生じる。 ・前庭:障害されるのは蝸牛に限られ、めまいなどの前庭機能障害は伴わない。 ・予後:有毛細胞は再生しないため、騒音曝露をやめても聴力は回復しない(難聴の進行が止まるだけである)。 騒音曝露直後に一時的に聴力が低下して数時間〜数日で回復する「一過性閾値上昇(TTS)」とは区別される。TTSを繰り返すうちに回復しない「永久的閾値上昇(PTS)」が生じた状態が騒音性難聴である。

選択肢考察

  1. ×a.  伝音難聴である。

    誤り。騒音性難聴の病変は内耳の蝸牛(コルチ器の有毛細胞)にあるため、感音難聴である。伝音難聴は外耳道や鼓膜・耳小骨など、音を内耳まで伝える経路の障害(耳垢栓塞、中耳炎、耳硬化症など)で生じる。純音聴力検査では、騒音性難聴は気導・骨導とも同程度に閾値が上昇し、気骨導差(air-bone gap)はみられない。

  2. ○b.  前庭機能障害はみられない。

    正しい。騒音性難聴は蝸牛の有毛細胞に限局した障害であり、平衡をつかさどる前庭(耳石器・半規管)は障害されないため、めまいや眼振などの前庭症状は伴わない。症状は難聴と耳鳴に限られる。一方、爆発音や銃声など強大な音に一度だけ曝露して起こる急性音響外傷(音響外傷)では、内耳が強く損傷され、めまいなどの前庭症状を伴うことがある点が異なる。

  3. ×c.  低周波音曝露で発生しやすい。

    誤り。騒音性難聴の発生を最も強く左右するのは、曝露する音のエネルギー(音圧レベル)と曝露期間の積、すなわち総曝露量である。周波数の観点では、同じ音圧であれば低周波音よりも高周波成分を多く含む音のほうが内耳への障害性が高いとされ、低周波音で起こりやすいという記述は誤りである。また、曝露した騒音がどのような周波数であっても、聴力低下は4,000 Hz付近から始まる傾向がある。これは外耳道の共鳴(約3,000 Hz付近で音圧が増強される)などにより、蝸牛のその周波数に対応する部位に負荷が集中しやすいためと考えられている。なお、振動の同時曝露は騒音性難聴を悪化させる方向に働くとされる。

  4. ○d.  高音域の聴力低下が特徴である。

    正しい。騒音性難聴の初期には、オージオグラム上で4,000 Hz付近の聴力が谷状に落ち込むC5 dip(C5は4,096 Hzの音名に由来する)が特徴的で、実際には4,000〜6,000 Hzを中心とした落ち込みとなることが多い。進行すると障害が周囲の周波数へ広がり、高音漸傾型や高音急墜型の感音難聴となる。この高音域主体の聴力低下のため、初期には日常会話の聞き取りに支障が少なく自覚されにくいので、騒音職場では定期的な聴力検査(1,000 Hzと4,000 Hzの測定など)による早期発見が重要である。

  5. ×e.  騒音曝露を中止すると改善する。

    誤り。騒音性難聴は蝸牛有毛細胞の不可逆的な障害によるもので、哺乳類の有毛細胞は再生しないため、騒音曝露をやめても聴力は回復しない。曝露を中止すれば難聴の進行は止まるが、失われた聴力は戻らない。騒音曝露の直後に一時的に聴力が低下し、静かな環境で休めば数時間〜数日で回復するものは一過性閾値上昇(TTS)であり、騒音性難聴の判定では、このような回復しうる部分を除外したうえで永続的な聴力低下を評価する。治療法がないため、耳栓・イヤーマフなどの防音保護具の使用、騒音源対策、作業時間管理による予防が重要となる。

騒音性難聴の要点

・原因:85 dB(A)以上の騒音への長期曝露(多くは年単位)。総曝露量(音圧×時間)が発生に最も関与する。 ・病変:蝸牛の外有毛細胞が主に障害される感音難聴。 ・聴力像:初期はC5 dip(4,000 Hz付近の限局的な落ち込み、実際は4,000〜6,000 Hzを中心とすることが多い)、進行すると高音漸傾型・高音急墜型。両側対称性。 ・症状:難聴、耳鳴。めまいなどの前庭症状はない。 ・予後:不可逆。騒音曝露をやめても回復しないが、進行は止まる。 ・予防:作業環境での騒音源対策、耳栓・イヤーマフの着用、曝露時間の管理、騒音作業従事者への定期健康診断(聴力検査)。

類似疾患との比較

・急性音響外傷(音響外傷):爆発音・銃声など非常に強い音への1回の曝露で発生。内耳の強い損傷によりめまいを伴うことがあり、早期治療(ステロイドなど)で改善しうる場合もある。 ・ヘッドホン(イヤホン)難聴:大音量の音楽を長時間聴くことによる騒音性難聴の一種で、若年者で問題となる。 ・老人性難聴(加齢性難聴):両側対称性の高音漸傾型感音難聴で、C5 dipのような限局的な落ち込みは典型的ではない。 ・一過性閾値上昇(TTS):騒音曝露後の一時的な聴力低下。休息で回復する。これを繰り返すと永久的閾値上昇(PTS)=騒音性難聴へ移行する。

難聴の種類の整理

・伝音難聴:外耳・中耳の障害。気骨導差あり。 ・感音難聴:内耳(内耳性)または蝸牛神経より中枢(後迷路性)の障害。気導・骨導とも低下し、気骨導差なし。騒音性難聴は内耳性感音難聴である。

POINT

・騒音性難聴は蝸牛(有毛細胞)障害による感音難聴で、伝音難聴ではない。 ・初期は4,000 Hz付近のC5 dip、進行すると高音漸傾型となり、高音域の聴力低下が特徴。 ・蝸牛のみの障害で、前庭機能障害(めまい)は伴わない(急性音響外傷との違い)。 ・発生には曝露音のエネルギーと期間が関与し、低周波音で起こりやすいわけではない。 ・不可逆性で、曝露をやめても回復しない。予防(防音保護具、定期聴力検査)が重要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。