StudyMed医師国家試験

骨髄は満員なのに血液は足りない―「無効造血」で読み解く骨髄異形成症候群

第102回医師国家試験 I問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第1問

骨髄異形成症候群でみられないのはどれか。

  1. a.髄外造血
  2. b.汎血球減少
  3. c.環状鉄芽球
  4. d.過形成骨髄
  5. e.骨髄細胞の染色体異常

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、骨髄異形成症候群、略してMDSでみられる所見を問う問題だ。「みられないもの」を選ぶ形式だから、MDSの病態をきちんと理解しているかが試される。キーワードは「無効造血」。まず、MDSがどんな病気か説明できるかな。
医学生医学生
造血幹細胞の異常で血球が減る病気で、白血病に移行しやすいと講義で習いました。
ドクタードクター
いいね。もう少し詳しく言うと、造血幹細胞に遺伝子変異や染色体異常が起こり、その異常クローンが骨髄の造血を占めてしまう腫瘍性疾患なんだ。異常な細胞は骨髄の中で盛んに増えるけれど、成熟する途中でアポトーシスに陥りやすく、正常な血球として末梢血に出ていけない。これが無効造血だ。
医学生医学生
作っているのに出荷できない工場、みたいなイメージですか。
ドクタードクター
うまいたとえだね。だからMDSでは、骨髄は細胞が多いのに末梢血では血球が減る、という一見矛盾した組み合わせになる。これを踏まえて、骨髄の細胞密度はどうなると思う?
医学生医学生
異常クローンが増えているので、正形成から過形成になることが多い、ということですね。
ドクタードクター
その通り。骨髄は過形成なのに末梢血は血球減少、この乖離こそ無効造血の証拠でMDSの特徴なんだ。ただし一部に低形成MDSもあって、その場合は再生不良性貧血との鑑別が問題になる。では末梢血はどうかな。
医学生医学生
貧血が多いと聞きますが、白血球や血小板も減って汎血球減少になることもありますよね。
ドクタードクター
そう。貧血が最も多いけれど、好中球減少や血小板減少を伴って2系統以上、あるいは3系統すべての減少を呈することが多い。高齢者の原因不明の汎血球減少では、再生不良性貧血と並んでMDSを鑑別に挙げるのが鉄則だ。次は環状鉄芽球。これは何だったか覚えている?
医学生医学生
鉄染色で、赤芽球の核の周りを鉄の顆粒が輪のように囲んでいる細胞ですよね。鉄芽球性貧血の所見だと思っていたので、MDSと結びついていませんでした。
ドクタードクター
多くの人がそこで引っかかる。ヘム合成がうまくいかず、利用されない鉄がミトコンドリアにたまって核の周りに並ぶのが環状鉄芽球だ。MDSでは赤芽球系の異形成の一つとして出現し、環状鉄芽球が多い病型は独立して扱われてきた。SF3B1遺伝子変異と強く関連していることも押さえておこう。
医学生医学生
染色体異常もMDSでよくみられるんですよね。血液内科の実習で、5qマイナスの患者さんにレナリドミドが使われていました。
ドクタードクター
まさにそれ。骨髄細胞の約半数に染色体異常がみられて、del(5q)、7番モノソミーやdel(7q)、8番トリソミー、del(20q)などが代表的だ。染色体異常の種類は予後分類の重要な因子で、単独のdel(5q)は比較的予後がよくレナリドミドがよく効く一方、7番の異常や複雑核型は予後不良とされる。
医学生医学生
そうすると残るのは髄外造血です。これはMDSではみられないということですか。
ドクタードクター
正解。髄外造血は、骨髄が線維化などで造血の場として機能しなくなったときや、高度の溶血で造血需要が極端に高まったときに、肝臓や脾臓で代償的に造血が行われる現象だ。MDSでは骨髄そのものは過形成で、造血の場は保たれている。問題は作られた細胞の質のほうだから、髄外造血は通常の特徴とはいえないんだ。
医学生医学生
髄外造血といえば原発性骨髄線維症ですね。病理の講義で涙滴赤血球の写真を見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。原発性骨髄線維症では、著明な脾腫、涙滴赤血球、末梢血に赤芽球や幼若顆粒球が出る白赤芽球症、骨髄穿刺でのドライタップが特徴だ。MDSと対比すると、場所がなくなって外で作るのが骨髄線維症、場所はあるのに上手に作れないのがMDS、と整理できる。
医学生医学生
なるほど。MDSの診断では、異形成の形態も大事なんですよね。
ドクタードクター
そう。顆粒球系では偽ペルゲル核異常や脱顆粒、巨核球系では微小巨核球などがみられる。各系統で10%以上の異形成、芽球比率20%未満がMDSの目安で、20%以上ならAMLと判断する。それから、ビタミンB12や葉酸の欠乏、薬剤、アルコールでも異形成は起こりうるから、これらの除外も忘れずに。治療は低リスクなら輸血などの支持療法が中心、高リスクならアザシチジンなどの低メチル化薬、適応があれば唯一の根治療法である同種造血幹細胞移植を検討する。
医学生医学生
病態から考えると、どの所見がMDSらしいか自然に整理できますね。
ドクタードクター
その通り。丸暗記ではなく「無効造血」という一つの軸から所見を説明できるようにしておくと、応用が利くよ。

まとめ

骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞のクローン性疾患で、異常な細胞が骨髄内で増殖しながら成熟途中でアポトーシスに陥る「無効造血」が病態の中心です。そのため骨髄は正形成〜過形成なのに末梢血では汎血球減少を呈し、環状鉄芽球や偽ペルゲル核異常などの異形成、約半数での染色体異常(del(5q)、-7、+8など)がみられます。一方、髄外造血は原発性骨髄線維症のように骨髄が造血の場として機能しなくなった場合の代償現象であり、造血の場が保たれているMDSでは通常みられません。高齢者の汎血球減少では再生不良性貧血との鑑別や、ビタミンB12・葉酸欠乏など二次的な異形成の除外も重要です。「場所はあるのに上手に作れない」MDSと「場所を失った」骨髄線維症を対比して理解することで、血液疾患全般の病態整理に役立ちます。

解答・解説

正解はaです

骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)の特徴的な所見を問う一般問題である。 MDSは、造血幹細胞に遺伝子変異や染色体異常が生じ、そのクローン(同じ異常をもつ細胞集団)が骨髄の造血を占める腫瘍性疾患である。異常クローンは骨髄内で盛んに増殖するが、成熟する途中でアポトーシス(細胞死)に陥りやすく、末梢血へ正常な血球を十分に送り出せない。この現象を無効造血という。 このため、MDSでは次のような一見逆説的な組み合わせがみられる。 ・骨髄は細胞が多い(正形成〜過形成) ・それにもかかわらず末梢血では血球が減少する(2系統以上の血球減少や汎血球減少) ・血球には形態異常(異形成)がみられ、赤芽球系では環状鉄芽球が出現することがある ・骨髄細胞の約半数に染色体異常がみられる 一方、髄外造血は、骨髄が線維化などで造血の場として機能しなくなったときに、肝臓や脾臓などで造血が代償的に行われる現象である。MDSでは骨髄そのものは造血の場として保たれており(むしろ過形成)、問題は産生された細胞の質にあるため、髄外造血は通常の特徴とはいえない。「みられないもの」を選ぶ本問では、髄外造血が正解となる。

選択肢考察

  1. ○a.  髄外造血

    髄外造血は、骨髄線維症のように骨髄での造血が物理的に障害された場合や、サラセミアなど高度の溶血で造血需要が極端に高まった場合に、肝臓・脾臓などで造血が行われる現象である。代表例である原発性骨髄線維症では、著明な脾腫と、末梢血に赤芽球・幼若顆粒球が出現する白赤芽球症(leukoerythroblastosis)、涙滴赤血球がみられる。MDSでは骨髄は細胞に富み、造血の場としては保たれている。血球減少の原因は造血の場の喪失ではなく無効造血であるため、髄外造血は通常みられない。よって本問の正解である。

  2. ×b.  汎血球減少

    MDSでは異常クローンが無効造血をきたすため、末梢血の血球が減少する。貧血が最も多いが、白血球(とくに好中球)減少や血小板減少を伴い、2系統の血球減少や3系統すべての減少(汎血球減少)を呈することが多い。高齢者の原因不明の汎血球減少では、再生不良性貧血と並んでMDSを鑑別に挙げる。MDSでみられる所見である。

  3. ×c.  環状鉄芽球

    環状鉄芽球は、骨髄の鉄染色(ベルリンブルー染色)で、ミトコンドリアに沈着した鉄顆粒が赤芽球の核の周りを環状に取り囲むようにみえる細胞である。ヘム合成の障害により鉄が利用されずミトコンドリアに蓄積することで生じ、鉄芽球性貧血の特徴である。MDSでは赤芽球系の異形成の一つとして出現し、環状鉄芽球が多い病型(かつてのFAB分類のRARS、WHO分類ではMDS with ring sideroblasts、2022年のWHO第5版ではSF3B1変異をもつ低芽球MDS)が独立して扱われている。SF3B1遺伝子変異と強い関連がある。MDSでみられる所見である。

  4. ×d.  過形成骨髄

    MDSの骨髄は、異常クローンの増殖により正形成〜過形成であることが多い。「骨髄は過形成なのに末梢血は血球減少」という乖離が無効造血を示し、MDSの特徴となる。ただし一部に低形成を示す例(低形成MDS)があり、この場合は再生不良性貧血との鑑別が問題となる。MDSでみられる所見である。

  5. ×e.  骨髄細胞の染色体異常

    MDSでは骨髄細胞の染色体分析で約半数に異常がみられる。代表的なものに5番染色体長腕欠損〔del(5q)〕、7番染色体モノソミー〔-7〕や7番長腕欠損〔del(7q)〕、8番トリソミー〔+8〕、20番染色体長腕欠損〔del(20q)〕などがある。染色体異常の種類は予後分類(IPSS-Rなど)の重要な因子であり、例えば単独のdel(5q)は予後が比較的良く、レナリドミドがよく効く。一方、-7や複雑核型は予後不良である。MDSでみられる所見である。

MDSの概要

・造血幹細胞のクローン性疾患で、中高年〜高齢者に多い。抗癌薬や放射線治療の後に発症する治療関連MDSもある。 ・無効造血による血球減少、血球の形態異常(異形成)、急性骨髄性白血病(AML)へ移行しやすいことが3大特徴である。

主な異形成所見

・赤芽球系:環状鉄芽球、巨赤芽球様変化、多核赤芽球 ・顆粒球系:偽ペルゲル核異常(核の分葉が少ない好中球)、脱顆粒(顆粒の乏しい好中球) ・巨核球系:微小巨核球、分離多核巨核球

診断のポイント

・末梢血の血球減少、骨髄の異形成(各系統の10%以上)、骨髄の芽球比率(20%未満。20%以上はAML)で判断する。 ・ビタミンB12・葉酸欠乏、薬剤性、アルコールなど二次的に異形成をきたす原因を除外する。 ・分類はかつてFAB分類が用いられ、現在はWHO分類(およびICC分類)が用いられる。

治療

・低リスク:輸血などの支持療法、造血因子、del(5q)にはレナリドミド ・高リスク:アザシチジンなどの低メチル化薬、適応があれば同種造血幹細胞移植(唯一の根治療法)

髄外造血をきたす代表的疾患

・原発性骨髄線維症(著明な脾腫、涙滴赤血球、白赤芽球症、ドライタップ) ・サラセミアなど高度の慢性溶血性貧血

POINT

・MDSは「過形成骨髄+末梢血球減少」の無効造血が特徴である。 ・異形成として環状鉄芽球、偽ペルゲル核異常、微小巨核球などがみられる。 ・骨髄細胞の約半数に染色体異常(del(5q)、-7、+8、del(20q)など)がある。 ・髄外造血は骨髄線維症の特徴であり、MDSでは通常みられない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。