骨髄は満員なのに血液は足りない―「無効造血」で読み解く骨髄異形成症候群
第102回医師国家試験 I問題 第1問
国試問題にチャレンジ
骨髄異形成症候群でみられないのはどれか。
- a.髄外造血
- b.汎血球減少
- c.環状鉄芽球
- d.過形成骨髄
- e.骨髄細胞の染色体異常
対話形式の解説
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ドクターまとめ
骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞のクローン性疾患で、異常な細胞が骨髄内で増殖しながら成熟途中でアポトーシスに陥る「無効造血」が病態の中心です。そのため骨髄は正形成〜過形成なのに末梢血では汎血球減少を呈し、環状鉄芽球や偽ペルゲル核異常などの異形成、約半数での染色体異常(del(5q)、-7、+8など)がみられます。一方、髄外造血は原発性骨髄線維症のように骨髄が造血の場として機能しなくなった場合の代償現象であり、造血の場が保たれているMDSでは通常みられません。高齢者の汎血球減少では再生不良性貧血との鑑別や、ビタミンB12・葉酸欠乏など二次的な異形成の除外も重要です。「場所はあるのに上手に作れない」MDSと「場所を失った」骨髄線維症を対比して理解することで、血液疾患全般の病態整理に役立ちます。
解答・解説
正解はaです
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)の特徴的な所見を問う一般問題である。 MDSは、造血幹細胞に遺伝子変異や染色体異常が生じ、そのクローン(同じ異常をもつ細胞集団)が骨髄の造血を占める腫瘍性疾患である。異常クローンは骨髄内で盛んに増殖するが、成熟する途中でアポトーシス(細胞死)に陥りやすく、末梢血へ正常な血球を十分に送り出せない。この現象を無効造血という。 このため、MDSでは次のような一見逆説的な組み合わせがみられる。 ・骨髄は細胞が多い(正形成〜過形成) ・それにもかかわらず末梢血では血球が減少する(2系統以上の血球減少や汎血球減少) ・血球には形態異常(異形成)がみられ、赤芽球系では環状鉄芽球が出現することがある ・骨髄細胞の約半数に染色体異常がみられる 一方、髄外造血は、骨髄が線維化などで造血の場として機能しなくなったときに、肝臓や脾臓などで造血が代償的に行われる現象である。MDSでは骨髄そのものは造血の場として保たれており(むしろ過形成)、問題は産生された細胞の質にあるため、髄外造血は通常の特徴とはいえない。「みられないもの」を選ぶ本問では、髄外造血が正解となる。
選択肢考察
- ○a. 髄外造血
髄外造血は、骨髄線維症のように骨髄での造血が物理的に障害された場合や、サラセミアなど高度の溶血で造血需要が極端に高まった場合に、肝臓・脾臓などで造血が行われる現象である。代表例である原発性骨髄線維症では、著明な脾腫と、末梢血に赤芽球・幼若顆粒球が出現する白赤芽球症(leukoerythroblastosis)、涙滴赤血球がみられる。MDSでは骨髄は細胞に富み、造血の場としては保たれている。血球減少の原因は造血の場の喪失ではなく無効造血であるため、髄外造血は通常みられない。よって本問の正解である。
- ×b. 汎血球減少
MDSでは異常クローンが無効造血をきたすため、末梢血の血球が減少する。貧血が最も多いが、白血球(とくに好中球)減少や血小板減少を伴い、2系統の血球減少や3系統すべての減少(汎血球減少)を呈することが多い。高齢者の原因不明の汎血球減少では、再生不良性貧血と並んでMDSを鑑別に挙げる。MDSでみられる所見である。
- ×c. 環状鉄芽球
環状鉄芽球は、骨髄の鉄染色(ベルリンブルー染色)で、ミトコンドリアに沈着した鉄顆粒が赤芽球の核の周りを環状に取り囲むようにみえる細胞である。ヘム合成の障害により鉄が利用されずミトコンドリアに蓄積することで生じ、鉄芽球性貧血の特徴である。MDSでは赤芽球系の異形成の一つとして出現し、環状鉄芽球が多い病型(かつてのFAB分類のRARS、WHO分類ではMDS with ring sideroblasts、2022年のWHO第5版ではSF3B1変異をもつ低芽球MDS)が独立して扱われている。SF3B1遺伝子変異と強い関連がある。MDSでみられる所見である。
- ×d. 過形成骨髄
MDSの骨髄は、異常クローンの増殖により正形成〜過形成であることが多い。「骨髄は過形成なのに末梢血は血球減少」という乖離が無効造血を示し、MDSの特徴となる。ただし一部に低形成を示す例(低形成MDS)があり、この場合は再生不良性貧血との鑑別が問題となる。MDSでみられる所見である。
- ×e. 骨髄細胞の染色体異常
MDSでは骨髄細胞の染色体分析で約半数に異常がみられる。代表的なものに5番染色体長腕欠損〔del(5q)〕、7番染色体モノソミー〔-7〕や7番長腕欠損〔del(7q)〕、8番トリソミー〔+8〕、20番染色体長腕欠損〔del(20q)〕などがある。染色体異常の種類は予後分類(IPSS-Rなど)の重要な因子であり、例えば単独のdel(5q)は予後が比較的良く、レナリドミドがよく効く。一方、-7や複雑核型は予後不良である。MDSでみられる所見である。
MDSの概要
・造血幹細胞のクローン性疾患で、中高年〜高齢者に多い。抗癌薬や放射線治療の後に発症する治療関連MDSもある。 ・無効造血による血球減少、血球の形態異常(異形成)、急性骨髄性白血病(AML)へ移行しやすいことが3大特徴である。
主な異形成所見
・赤芽球系:環状鉄芽球、巨赤芽球様変化、多核赤芽球 ・顆粒球系:偽ペルゲル核異常(核の分葉が少ない好中球)、脱顆粒(顆粒の乏しい好中球) ・巨核球系:微小巨核球、分離多核巨核球
診断のポイント
・末梢血の血球減少、骨髄の異形成(各系統の10%以上)、骨髄の芽球比率(20%未満。20%以上はAML)で判断する。 ・ビタミンB12・葉酸欠乏、薬剤性、アルコールなど二次的に異形成をきたす原因を除外する。 ・分類はかつてFAB分類が用いられ、現在はWHO分類(およびICC分類)が用いられる。
治療
・低リスク:輸血などの支持療法、造血因子、del(5q)にはレナリドミド ・高リスク:アザシチジンなどの低メチル化薬、適応があれば同種造血幹細胞移植(唯一の根治療法)
髄外造血をきたす代表的疾患
・原発性骨髄線維症(著明な脾腫、涙滴赤血球、白赤芽球症、ドライタップ) ・サラセミアなど高度の慢性溶血性貧血
POINT
・MDSは「過形成骨髄+末梢血球減少」の無効造血が特徴である。 ・異形成として環状鉄芽球、偽ペルゲル核異常、微小巨核球などがみられる。 ・骨髄細胞の約半数に染色体異常(del(5q)、-7、+8、del(20q)など)がある。 ・髄外造血は骨髄線維症の特徴であり、MDSでは通常みられない。
