母乳がつなぐウイルス―HTLV-1と成人T細胞白血病の「5つの基本」
第102回医師国家試験 I問題 第2問
国試問題にチャレンジ
成人T細胞白血病について正しいのはどれか。
- a.潜伏期は約5年である。
- b.日本海沿岸部に多発する。
- c.白血病細胞はCD 8陽性である。
- d.母乳を介した母子感染がある。
- e.病因ウイルスはHIV-1である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
成人T細胞白血病(ATL)は、レトロウイルスであるHTLV-1の感染を原因とするCD4陽性・CD25陽性の末梢性T細胞腫瘍で、flower cellや高カルシウム血症、日和見感染が特徴です。HTLV-1は感染リンパ球を介して細胞から細胞へ伝播するため、主な感染経路は母乳を介した母子感染で、ほかに性行為感染があり、輸血感染は献血スクリーニングでほぼ防止されています。乳児期の感染から数十年を経て中高年以降に発症し、キャリアの生涯発症率は約5%で、日本では九州・沖縄など西南日本に多くみられます。同じレトロウイルスでもHIV-1がT細胞を破壊するのに対し、HTLV-1はT細胞を腫瘍化させるという対比や、HAMなど他のHTLV-1関連疾患もあわせて押さえておきましょう。妊婦健診での抗体検査と栄養方法の支援は母子感染予防の要であり、病態の理解がそのまま予防医療につながる好例です。
解答・解説
正解はdです
成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL、リンパ腫の形をとるものを含めて成人T細胞白血病・リンパ腫:ATLLとも呼ぶ)の基本事項を問う一般問題である。 ATLは、レトロウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)の感染を原因とする末梢性T細胞腫瘍である。押さえるべき要点は次の5つである。 ・病因:HTLV-1(HIV-1とは別のウイルス) ・感染経路:母乳を介した母子感染が主体。ほかに性行為感染、輸血(現在はスクリーニングで防止) ・潜伏期:乳児期に感染してから数十年を経て、主に中高年以降に発症する ・地域性:日本では九州・沖縄など西南日本に多い ・腫瘍細胞:CD4陽性の成熟ヘルパーT細胞で、CD25も陽性となる HTLV-1は感染したリンパ球と一緒に移ることで伝播し(細胞から細胞への感染)、血漿中の遊離ウイルスではほとんど感染しない。そのため感染リンパ球を多く含む母乳の長期摂取、精液、細胞成分を含む輸血が感染経路となる。この知識を基に選択肢を検討すると、母乳を介した母子感染を述べたdが正しい。
選択肢考察
- ×a. 潜伏期は約5年である。
HTLV-1の感染は多くが乳児期の母乳を介して成立し、そこから数十年(おおむね40〜60年)の無症候性キャリアの期間を経てATLが発症する。そのため発症年齢は中高年以降が中心で、近年は60〜70歳代が多い。キャリアのうちATLを生涯に発症するのは約5%程度にとどまる。「約5年」ではないため誤りである。「5」という数字は生涯発症率と混同しやすいので注意する。
- ×b. 日本海沿岸部に多発する。
HTLV-1キャリアとATLは、日本では九州(特に鹿児島・長崎・宮崎など)、沖縄、四国南部、紀伊半島南部などの西南日本、特に太平洋側や沿岸部・島嶼部に多い。日本海沿岸部に多発するという記述は誤りである。近年は人口移動により大都市圏でもキャリアが増えている。世界的にはカリブ海沿岸、中南米、中央アフリカ、中東の一部などが浸淫地域である。
- ×c. 白血病細胞はCD 8陽性である。
ATL細胞はHTLV-1が感染したヘルパーT細胞由来で、典型的な表面形質はCD3陽性、CD4陽性、CD8陰性、CD25(IL-2受容体α鎖)陽性である。さらにCCR4も高率に陽性であり、抗CCR4抗体モガムリズマブの治療標的となっている。CD8陽性ではないため誤りである。末梢血では核が花びら状に深く切れ込んだ異常リンパ球(flower cell)がみられる。
- ○d. 母乳を介した母子感染がある。
HTLV-1の主な感染経路は母乳を介した母子感染である。母乳中の感染リンパ球を乳児が長期間取り込むことで感染が成立し、長期間の母乳栄養では母子感染率が15〜20%程度に達する。完全人工栄養にすると数%まで低下するため、日本では妊婦健診でHTLV-1抗体検査を行い、キャリアの母親には完全人工栄養を基本として栄養方法を相談・支援している。ほかに性行為感染(主に男性から女性)があり、輸血による感染は1986年以降の献血スクリーニングでほぼ防止されている。記述は正しい。
- ×e. 病因ウイルスはHIV-1である。
ATLの病因ウイルスはHTLV-1である。HTLV-1とヒト免疫不全ウイルス1型(human immunodeficiency virus type 1:HIV-1)はともにレトロウイルスで、どちらもCD4陽性T細胞に感染するが、疾患は大きく異なる。HIV-1はCD4陽性T細胞を破壊して後天性免疫不全症候群(AIDS)を起こすのに対し、HTLV-1は感染T細胞を不死化・腫瘍化させてATLを起こす。したがって誤りである。
ATLの臨床像
・1977年に日本で初めて報告された疾患で、中高年に発症し、やや男性に多い。 ・リンパ節腫脹、肝脾腫、皮膚病変(紅斑・結節など)がみられる。 ・腫瘍細胞がPTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)を産生して高カルシウム血症をきたしやすい。 ・細胞性免疫不全を伴い、ニューモシスチス肺炎、糞線虫症、サイトメガロウイルス感染症などの日和見感染を起こしやすい。 ・血清の可溶性IL-2受容体(sIL-2R)やLDHが高値となる。
病型(下山分類)
・くすぶり型、慢性型、リンパ腫型、急性型の4型に分けられる。 ・急性型・リンパ腫型(および予後不良因子をもつ慢性型)はアグレッシブATLとして化学療法を行い、適応があれば同種造血幹細胞移植を検討する。予後は不良である。 ・くすぶり型・予後不良因子のない慢性型はインドレントATLとして経過観察が基本である。 ・治療薬として多剤併用化学療法のほか、抗CCR4抗体(モガムリズマブ)なども用いられる。
HTLV-1関連疾患
・ATLのほか、HTLV-1関連脊髄症(HAM:痙性対麻痺、排尿障害)、HTLV-1ぶどう膜炎などがある。
HTLV-1とHIVの比較
・いずれもレトロウイルスでCD4陽性T細胞に感染する。 ・HTLV-1:T細胞の腫瘍化(ATL)、主経路は母乳 ・HIV:T細胞の破壊(AIDS)、主経路は性行為・血液
POINT
・病因はHTLV-1(HIVではない)である。 ・主な感染経路は母乳を介した母子感染で、ほかに性行為感染がある。 ・感染から発症まで数十年かかり、キャリアの生涯発症率は約5%である。 ・西南日本(九州・沖縄)に多い。 ・腫瘍細胞はCD4陽性・CD25陽性で、flower cellが特徴である。 ・高カルシウム血症と日和見感染を合併しやすい。
