父の早すぎる心筋梗塞と高いコレステロール―家族性高コレステロール血症はアキレス腱に触れて見抜く
第102回医師国家試験 H問題 第23問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。健康診査でコレステロール高値を指摘され来院した。血清総コレステロール324 mg/dL。他に異常を指摘されなかった。自覚症状はない。父親は43歳時に心筋梗塞で死亡している。 診断上重要なのはどれか。
- a.頸部触診
- b.胸部聴診
- c.腹部触診
- d.アキレス腱の触診
- e.上下肢の動脈の触診
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
総コレステロールの著明な上昇に、若くして起きた冠動脈疾患の家族歴が加わる場合は、常染色体優性遺伝の家族性高コレステロール血症(FH)を疑います。FHではLDLの高値が長く続くことで腱黄色腫が生じ、とくにアキレス腱の肥厚は特異性の高い身体所見であるため、診察ではアキレス腱を触診し、必要に応じてX線軟線撮影や超音波で厚さを測ります。成人FHは高LDLコレステロール血症、腱黄色腫または皮膚結節性黄色腫、FHまたは早発性冠動脈疾患の家族歴のうち2項目以上で診断し、甲状腺や心血管系の診察は続発性脂質異常症や合併症の評価には役立っても、FHの診断の決め手にはなりません。治療は食事療法とスタチンが基本で、エゼチミブやPCSK9阻害薬、LDLアフェレシスも選択肢となります。発端者を見つけて家族のスクリーニングにつなげることが早発性冠動脈疾患の予防に直結するため、健診の検査値と家族歴から疾患を想起し、的を絞った診察を行う力は重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・40歳女性、自覚症状なし。健康診査で血清総コレステロール324 mg/dLと著明高値を指摘された。 ・ほかの検査項目に異常はなく、甲状腺機能低下症・ネフローゼ症候群・胆汁うっ滞などの続発性(二次性)脂質異常症を疑わせる情報はない。 ・父親が43歳という若さで心筋梗塞により死亡している(早発性冠動脈疾患の家族歴)。
診断へのプロセス
健康診査で見つかる高コレステロール血症の多くは総コレステロール220〜280 mg/dL程度にとどまる。300 mg/dLを超える著明な上昇が、エストロゲンの作用でLDLコレステロールが比較的低く保たれやすい閉経前の女性にみられた場合、まず遺伝性(原発性)の脂質異常症を考える。さらに、父親の若年での心筋梗塞死は、常染色体優性遺伝形式をとる高LDLコレステロール血症、すなわち家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)を強く示唆する。本例はヘテロ接合体FH(表現型としてはⅡa型脂質異常症)を最も疑う。
設問の考え方
FHの診断は、①高LDLコレステロール血症、②腱黄色腫(アキレス腱肥厚を含む)または皮膚結節性黄色腫、③FHまたは早発性冠動脈疾患の家族歴、の3項目のうち2項目以上を満たすかどうかで行う。本例は①(総コレステロール著明高値から高LDLコレステロール血症が推定される)と③をすでに満たしうるが、診察で確認すべき最も特徴的な身体所見は②の腱黄色腫であり、その代表がアキレス腱の肥厚である。したがって、ベッドサイドで行うべき診断上重要な診察はアキレス腱の触診である。ほかの選択肢は、動脈硬化の合併症や続発性脂質異常症の評価には役立つことがあっても、FHそのものの診断を裏付ける所見ではない。
選択肢考察
- ×a. 頸部触診
頸部触診では主に甲状腺腫の有無や性状を調べる。甲状腺機能低下症はLDL受容体の発現低下を介して続発性の高コレステロール血症を起こすため、鑑別の一環として意味はあるが、本例では他に異常を指摘されておらず、またFHでは甲状腺に異常を認めない。FHの診断を裏付ける所見は得られないため、最も重要な診察とはいえない。
- ×b. 胸部聴診
胸部聴診は心雑音や肺の異常音の評価に用いる。ホモ接合体FHでは大動脈弁上狭窄・大動脈弁狭窄による収縮期雑音を聴取することがあるが、本例のような無症状のヘテロ接合体FHでは通常異常を認めない。FHに特異的な所見ではなく、診断には直結しない。
- ×c. 腹部触診
腹部触診では肝脾腫や、腹部大動脈瘤による拍動性腫瘤などを調べる。腹部大動脈瘤は動脈硬化の結果として生じうるが、FHに特異的な所見ではなく、無症状の40歳女性でFHを診断する根拠にはならない。
- ○d. アキレス腱の触診
FHではLDL受容体の機能低下により血中LDLが長期間高値となり、腱にコレステロールを取り込んだマクロファージ(泡沫細胞)が沈着して腱黄色腫を形成する。その好発部位がアキレス腱で、腱の肥厚や結節として触知される。腱黄色腫はFHの診断基準項目の一つであり、FHに非常に特異性の高い身体所見である。視診だけでは見逃されやすいが、左右のアキレス腱をつまむように触診すると肥厚を捉えられることが多い。確認にはX線軟線撮影や超音波検査で腱の厚さを計測する。したがって、本例で診断上最も重要な診察である。
- ×e. 上下肢の動脈の触診
上下肢の動脈拍動の触診は、末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)や大動脈炎症候群などによる動脈の狭窄・閉塞の評価に有用である。FHでは動脈硬化が進みやすいため合併症評価としての意義はあるが、動脈硬化性疾患はFHに特有の所見ではなく、FHの診断そのものを裏付けることはできない。
家族性高コレステロール血症(FH)の概要
・LDL受容体、またはその機能に関わるアポリポ蛋白B(APOB)、PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)の遺伝子変異により、肝臓でのLDLの取り込みが低下し、血中LDLコレステロールが出生時から高値となる常染色体優性遺伝疾患である。 ・ヘテロ接合体は一般人口の数百人に1人程度と頻度の高い遺伝性疾患であり、ホモ接合体はきわめてまれである。ホモ接合体ではLDLコレステロールが著しく高く、小児期から黄色腫や冠動脈疾患・大動脈弁狭窄を生じる。 ・表現型はⅡa型(LDL上昇)が典型で、Ⅱb型をとることもある。
成人FHの診断(日本動脈硬化学会の基準の要点)
①高LDLコレステロール血症(未治療時LDLコレステロール180 mg/dL以上) ②腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚)または皮膚結節性黄色腫 ③FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内) → 2項目以上を満たせばFHと診断する。早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満の発症をいう。アキレス腱肥厚はX線軟線撮影または超音波検査で厚さを測定して判定する。
臨床経過と治療
・無治療のヘテロ接合体FHでは、冠動脈疾患が男性で平均50歳前後、女性で60歳代に発症しやすく、突然死の形で発症することもある。 ・治療の基本は食事療法とスタチンで、効果不十分ならエゼチミブ、PCSK9阻害薬などを併用する。薬物療法で制御困難な例(特にホモ接合体)ではLDLアフェレシスを行う。 ・常染色体優性遺伝のため、発端者が見つかったら家族(子や兄弟姉妹)のスクリーニングを行うことが重要である。
高コレステロール血症の鑑別
・続発性:甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、閉塞性黄疸(胆汁うっ滞)、クッシング症候群、薬剤(ステロイドなど)など。 ・原発性:FHのほか、家族性複合型脂質異常症(FCHL;一般人口の約100人に1人と頻度が高く、家系内でⅡa・Ⅱb・Ⅳ型が混在し、典型的にはⅡb型を呈する)、家族性Ⅲ型脂質異常症(手掌線状黄色腫が特徴)など。腱黄色腫はFHに特徴的で、FCHLでは通常みられない。
POINT
・総コレステロール著明高値+若年性冠動脈疾患の家族歴 → 家族性高コレステロール血症(FH)を疑う。 ・FHに特徴的な身体所見は腱黄色腫、とくにアキレス腱肥厚であり、診察ではアキレス腱を触診する。 ・FHの診断は、高LDLコレステロール血症・腱黄色腫/皮膚結節性黄色腫・家族歴のうち2項目以上。 ・常染色体優性遺伝であり、家族スクリーニングと早期からのLDL低下治療が重要。
