転んで立てない高齢女性―四大骨折の筆頭「大腿骨近位部骨折」を見逃すな
第102回医師国家試験 H問題 第19問
国試問題にチャレンジ
高齢者の転倒で骨折が最も起こりやすいのはどれか。
- a.頭蓋骨
- b.鼻骨
- c.中手骨
- d.大腿骨
- e.中足骨
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者は筋力・バランス能力の低下や視力障害、認知機能低下、多剤服用などで転倒しやすく、さらに骨粗鬆症を背景に立った高さからの転倒でも骨折する(脆弱性骨折)ため、転倒骨折が大きな問題となります。代表は大腿骨近位部骨折・椎体骨折・橈骨遠位端骨折・上腕骨近位端骨折の四大骨折で、なかでも大腿骨近位部骨折は側方への転倒で大転子を打って生じ、高齢女性に多く、寝たきりの主要な原因となります。頭蓋骨・鼻骨・中手骨・中足骨の骨折は、交通事故、殴打、スポーツ、重量物の落下、疲労などそれぞれ別の受傷機転が典型であり、高齢者の転倒骨折の代表ではありません。大腿骨頸部骨折は関節包内で血流が乏しく人工骨頭置換術、転子部骨折は関節包外で骨接合術が中心となり、いずれも早期手術・早期離床が原則です。骨折の治療とあわせて骨粗鬆症治療と転倒予防に取り組む視点は、高齢者医療に関わるすべての医師に求められます。
解答・解説
正解はdです
高齢者が転倒したときに生じやすい骨折の部位を問う問題である。 高齢者の骨折を考えるうえでは、「転倒しやすい」ことと「骨がもろい」ことの二つを組み合わせて考えるとよい。加齢に伴う筋力・バランス能力の低下、視力障害、認知機能低下、多剤服用(睡眠薬・降圧薬など)により高齢者は転倒しやすい。さらに閉経後女性を中心に骨粗鬆症(骨量が減り骨の微細構造が劣化して骨折しやすくなった状態)が背景にあるため、立った高さからの転倒のような小さな外力でも骨折が起こる。このような骨折を脆弱性骨折という。 骨粗鬆症を背景とした脆弱性骨折の代表は、大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折・転子部骨折)、椎体骨折(脊椎圧迫骨折)、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位端骨折の4つであり、高齢者の四大骨折と呼ばれる。このうち大腿骨近位部骨折は、横向きに倒れて大転子部を床に打ちつけることで生じる典型的な転倒骨折であり、受傷原因の大部分が屋内での転倒である。選択肢の中で四大骨折に含まれるのは大腿骨だけであり、d が正解となる。 一方、頭蓋骨・鼻骨・中手骨・中足骨の骨折は、交通事故、殴打、重量物の落下、スポーツ、繰り返しの負荷など、それぞれ別の受傷機転で起こるのが典型であり、高齢者の転倒骨折の代表とはいえない。
選択肢考察
- ×a. 頭蓋骨
頭蓋骨骨折には線状骨折、陥没骨折、頭蓋底骨折があり、交通事故や高所からの墜落など頭部に強い直達外力(外力が加わった場所そのものに生じる力)が加わったときに生じるのが典型である。高齢者の転倒で頭部を打つことはあるが、問題となるのは骨折よりも慢性硬膜下血腫などの頭蓋内出血であり、骨折頻度として最も多い部位ではない。
- ×b. 鼻骨
鼻骨骨折は顔面骨骨折の中では最も頻度が高いが、殴打やスポーツ中の衝突など顔面、特に鼻部を強く打ったときに起こる外傷であり、若年〜中年男性に多い。高齢者の転倒で特徴的に多い骨折ではない。
- ×c. 中手骨
中手骨骨折は、局所の打撲や圧迫などの直達外力、あるいはひねり(回旋)による介達外力(離れた部位に加わった力が伝わって生じる力)で起こる。拳で物を殴ったときに第5中手骨頸部が折れるものはボクサー骨折と呼ばれ、若年男性に多い。スポーツ外傷として多く、高齢者の転倒骨折の代表ではない。なお、高齢者が転倒して手をついたときに起こりやすいのは中手骨ではなく橈骨遠位端骨折である。
- ○d. 大腿骨
高齢者の転倒で最も問題となるのが大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折と転子部骨折)である。骨粗鬆症で骨強度が低下しているうえ、側方に倒れると大転子部に直接衝撃が加わり、体重を支える構造上、頸部・転子部に力が集中しやすい。受傷原因の多くは屋内での転倒で、70歳を過ぎると急増し80歳代にピークがある。閉経後骨粗鬆症の影響で女性に多い。受傷後は立位・歩行が困難となり、寝たきりや生命予後の悪化につながるため、原則として早期手術と早期離床が勧められる。
- ×e. 中足骨
中足骨骨折は、重量物が足に落ちる、車輪に轢かれるといった直達外力や、足関節をひねったときの介達外力(第5中足骨基部骨折など)で生じる。また長距離の行軍やランニングなど繰り返しの負荷による疲労骨折(行軍骨折)の好発部位でもある。いずれも高齢者の転倒で特徴的に起こる骨折ではない。
高齢者の四大骨折(脆弱性骨折)
・大腿骨近位部骨折(頸部骨折・転子部骨折):側方への転倒で大転子を打って受傷。寝たきりの主要な原因となる。 ・椎体骨折(脊椎圧迫骨折):尻もちや、重い物を持ち上げる・くしゃみなど軽微な負荷でも生じ、自覚のないまま進行することもある。胸腰椎移行部に多い。 ・橈骨遠位端骨折:転倒時に手をついて受傷する(Colles骨折が代表)。四大骨折の中では比較的若い年齢(閉経後早期)から増える。 ・上腕骨近位端骨折:転倒時に肩を打つ、または手をついて受傷する。
大腿骨頸部骨折と転子部骨折の違い
・頸部骨折は関節包内の骨折で、骨頭への血流が途絶えやすく、偽関節や大腿骨頭壊死を起こしやすい。転位の大きいものでは人工骨頭置換術が選択されることが多い。 ・転子部骨折は関節包外の骨折で、血流が豊富なため骨癒合は得やすく、髄内釘などによる骨接合術が行われることが多い。
高齢者が転倒しやすい要因
・内的要因:筋力・バランス能力の低下、歩行障害、視力障害、認知機能低下、起立性低血圧、睡眠薬・降圧薬などの服用 ・外的要因:段差、滑りやすい床、暗い照明、履物など ・過去1年間に転倒歴のある高齢者は再転倒・骨折のリスクが高い。
予防
骨粗鬆症の診断と薬物治療、運動療法による筋力・バランスの改善、住環境の整備、ヒッププロテクターの使用などにより、転倒と骨折の両方を防ぐことが重要である。
POINT
・高齢者の転倒で最も問題となる骨折は大腿骨近位部骨折(頸部骨折・転子部骨折)である。 ・背景に骨粗鬆症があり、立った高さからの転倒でも骨折する(脆弱性骨折)。 ・高齢者の四大骨折:大腿骨近位部、椎体、橈骨遠位端、上腕骨近位端。 ・大腿骨近位部骨折は高齢女性に多く、70歳以降に急増し80歳代にピークがある。寝たきりの原因となるため早期手術・早期離床が原則。
