StudyMed医師国家試験

転んで立てない高齢女性―四大骨折の筆頭「大腿骨近位部骨折」を見逃すな

第102回医師国家試験 H問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第102回 H問題 第19問

高齢者の転倒で骨折が最も起こりやすいのはどれか。

  1. a.頭蓋骨
  2. b.鼻骨
  3. c.中手骨
  4. d.大腿骨
  5. e.中足骨

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者が転倒したときにどこが折れやすいかを問う問題だ。考えるコツは「なぜ高齢者は転びやすいのか」と「なぜ骨が折れやすいのか」の2つを組み合わせること。まず、高齢者が転びやすい理由から挙げてみようか。
医学生医学生
筋力やバランス能力の低下、視力の低下、あとは認知機能の低下でしょうか。
ドクタードクター
いいね。それに加えて、睡眠薬や降圧薬など複数の薬を飲んでいることも大きな要因だ。起立性低血圧でふらつくこともある。段差や滑りやすい床、暗い照明といった環境の要因も重なる。では、骨が折れやすい理由は?
医学生医学生
骨粗鬆症ですね。閉経後の女性に多いと内分泌の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。骨粗鬆症は骨量が減って骨の微細構造が劣化し、骨折しやすくなった状態だ。そのため立った高さからの転倒のような小さな外力でも折れてしまう。こうした骨折を脆弱性骨折と呼ぶ。代表的なのが「高齢者の四大骨折」だけど、言えるかな。
医学生医学生
大腿骨近位部、脊椎の圧迫骨折、橈骨遠位端……あと一つが思い出せません。
ドクタードクター
上腕骨近位端だね。大腿骨近位部骨折、椎体骨折、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位端骨折の4つ。選択肢の中でこの4つに入るのは大腿骨だけだから、答えは大腿骨になる。
医学生医学生
大腿骨と聞くと、交通事故のような強い外力で折れるイメージがあったので少し意外です。
ドクタードクター
若い人の大腿骨骨幹部骨折なら確かに高エネルギー外傷だね。でも高齢者で問題になるのは脚の付け根、つまり頸部や転子部だ。横向きに倒れて大転子のあたりを床に打つと、体重を支える構造上この部分に力が集中する。骨粗鬆症で骨が弱っていれば、屋内での転倒で簡単に折れてしまう。70歳を過ぎると急増して80歳代にピークがあり、女性に多い。
医学生医学生
整形外科の臨床実習で、家の中で転んで立てなくなった80代の女性が救急搬送されてきて、大腿骨頸部骨折だったのを見ました。
ドクタードクター
まさに典型例だね。では残りの選択肢も見ておこう。頭蓋骨はどうだろう。
医学生医学生
転んで頭を打つ高齢者は多い気がしますが……。
ドクタードクター
頭を打つこと自体は多い。ただ頭蓋骨骨折は交通事故や高所からの墜落など、強い直達外力で起こるのが典型だ。高齢者の転倒で頭部を打ったときに本当に怖いのは、骨折よりも慢性硬膜下血腫などの頭蓋内出血のほうなんだ。
医学生医学生
鼻骨は顔面骨折の中で一番多いと聞いたことがあります。
ドクタードクター
そう、顔面骨骨折では最も多い。でも殴打やスポーツでの衝突で起こる外傷で、若年〜中年の男性に多い。中手骨も同様で、拳で物を殴って第5中手骨頸部が折れるボクサー骨折が有名だね。中足骨は重い物が足に落ちる、足をひねるといった外傷のほか、ランニングや行軍による疲労骨折の好発部位だ。
医学生医学生
転んで手をついた場合は、中手骨ではなく橈骨遠位端が折れるんですよね。
ドクタードクター
その通り。Colles骨折が代表だね。四大骨折の中では比較的早い年代、閉経後早期から増えてくる。手をついて折れたということは骨粗鬆症のサインでもあるから、その後の骨折予防を考えるきっかけにしたい。
医学生医学生
大腿骨近位部骨折は、頸部骨折と転子部骨折で治療が違うと習った気がします。
ドクタードクター
大事なポイントだね。頸部骨折は関節包の内側の骨折で、骨頭への血流が途絶えやすく、偽関節や大腿骨頭壊死を起こしやすい。転位が大きければ人工骨頭置換術が選ばれることが多い。転子部骨折は関節包の外側で血流が豊富なので骨がつきやすく、髄内釘などによる骨接合術が中心になる。
医学生医学生
なるべく早く手術するのが原則なんでしょうか。
ドクタードクター
そう。大腿骨近位部骨折は立つことも歩くこともできなくなるから、放っておくと寝たきりになり、肺炎や褥瘡、筋力低下が進んで生命予後も悪くなる。だから原則として早期手術と早期離床が勧められる。そして手術で終わりではなく、骨粗鬆症の診断と薬物治療、運動療法による筋力・バランスの改善、住環境の整備、ヒッププロテクターの活用などで、次の転倒と骨折を防ぐことが大切だ。過去1年に転倒歴のある人は再転倒のリスクが高いことも覚えておこう。

まとめ

高齢者は筋力・バランス能力の低下や視力障害、認知機能低下、多剤服用などで転倒しやすく、さらに骨粗鬆症を背景に立った高さからの転倒でも骨折する(脆弱性骨折)ため、転倒骨折が大きな問題となります。代表は大腿骨近位部骨折・椎体骨折・橈骨遠位端骨折・上腕骨近位端骨折の四大骨折で、なかでも大腿骨近位部骨折は側方への転倒で大転子を打って生じ、高齢女性に多く、寝たきりの主要な原因となります。頭蓋骨・鼻骨・中手骨・中足骨の骨折は、交通事故、殴打、スポーツ、重量物の落下、疲労などそれぞれ別の受傷機転が典型であり、高齢者の転倒骨折の代表ではありません。大腿骨頸部骨折は関節包内で血流が乏しく人工骨頭置換術、転子部骨折は関節包外で骨接合術が中心となり、いずれも早期手術・早期離床が原則です。骨折の治療とあわせて骨粗鬆症治療と転倒予防に取り組む視点は、高齢者医療に関わるすべての医師に求められます。

解答・解説

正解はdです

高齢者が転倒したときに生じやすい骨折の部位を問う問題である。 高齢者の骨折を考えるうえでは、「転倒しやすい」ことと「骨がもろい」ことの二つを組み合わせて考えるとよい。加齢に伴う筋力・バランス能力の低下、視力障害、認知機能低下、多剤服用(睡眠薬・降圧薬など)により高齢者は転倒しやすい。さらに閉経後女性を中心に骨粗鬆症(骨量が減り骨の微細構造が劣化して骨折しやすくなった状態)が背景にあるため、立った高さからの転倒のような小さな外力でも骨折が起こる。このような骨折を脆弱性骨折という。 骨粗鬆症を背景とした脆弱性骨折の代表は、大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折・転子部骨折)、椎体骨折(脊椎圧迫骨折)、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位端骨折の4つであり、高齢者の四大骨折と呼ばれる。このうち大腿骨近位部骨折は、横向きに倒れて大転子部を床に打ちつけることで生じる典型的な転倒骨折であり、受傷原因の大部分が屋内での転倒である。選択肢の中で四大骨折に含まれるのは大腿骨だけであり、d が正解となる。 一方、頭蓋骨・鼻骨・中手骨・中足骨の骨折は、交通事故、殴打、重量物の落下、スポーツ、繰り返しの負荷など、それぞれ別の受傷機転で起こるのが典型であり、高齢者の転倒骨折の代表とはいえない。

選択肢考察

  1. ×a.  頭蓋骨

    頭蓋骨骨折には線状骨折、陥没骨折、頭蓋底骨折があり、交通事故や高所からの墜落など頭部に強い直達外力(外力が加わった場所そのものに生じる力)が加わったときに生じるのが典型である。高齢者の転倒で頭部を打つことはあるが、問題となるのは骨折よりも慢性硬膜下血腫などの頭蓋内出血であり、骨折頻度として最も多い部位ではない。

  2. ×b.  鼻骨

    鼻骨骨折は顔面骨骨折の中では最も頻度が高いが、殴打やスポーツ中の衝突など顔面、特に鼻部を強く打ったときに起こる外傷であり、若年〜中年男性に多い。高齢者の転倒で特徴的に多い骨折ではない。

  3. ×c.  中手骨

    中手骨骨折は、局所の打撲や圧迫などの直達外力、あるいはひねり(回旋)による介達外力(離れた部位に加わった力が伝わって生じる力)で起こる。拳で物を殴ったときに第5中手骨頸部が折れるものはボクサー骨折と呼ばれ、若年男性に多い。スポーツ外傷として多く、高齢者の転倒骨折の代表ではない。なお、高齢者が転倒して手をついたときに起こりやすいのは中手骨ではなく橈骨遠位端骨折である。

  4. ○d.  大腿骨

    高齢者の転倒で最も問題となるのが大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折と転子部骨折)である。骨粗鬆症で骨強度が低下しているうえ、側方に倒れると大転子部に直接衝撃が加わり、体重を支える構造上、頸部・転子部に力が集中しやすい。受傷原因の多くは屋内での転倒で、70歳を過ぎると急増し80歳代にピークがある。閉経後骨粗鬆症の影響で女性に多い。受傷後は立位・歩行が困難となり、寝たきりや生命予後の悪化につながるため、原則として早期手術と早期離床が勧められる。

  5. ×e.  中足骨

    中足骨骨折は、重量物が足に落ちる、車輪に轢かれるといった直達外力や、足関節をひねったときの介達外力(第5中足骨基部骨折など)で生じる。また長距離の行軍やランニングなど繰り返しの負荷による疲労骨折(行軍骨折)の好発部位でもある。いずれも高齢者の転倒で特徴的に起こる骨折ではない。

高齢者の四大骨折(脆弱性骨折)

・大腿骨近位部骨折(頸部骨折・転子部骨折):側方への転倒で大転子を打って受傷。寝たきりの主要な原因となる。 ・椎体骨折(脊椎圧迫骨折):尻もちや、重い物を持ち上げる・くしゃみなど軽微な負荷でも生じ、自覚のないまま進行することもある。胸腰椎移行部に多い。 ・橈骨遠位端骨折:転倒時に手をついて受傷する(Colles骨折が代表)。四大骨折の中では比較的若い年齢(閉経後早期)から増える。 ・上腕骨近位端骨折:転倒時に肩を打つ、または手をついて受傷する。

大腿骨頸部骨折と転子部骨折の違い

・頸部骨折は関節包内の骨折で、骨頭への血流が途絶えやすく、偽関節や大腿骨頭壊死を起こしやすい。転位の大きいものでは人工骨頭置換術が選択されることが多い。 ・転子部骨折は関節包外の骨折で、血流が豊富なため骨癒合は得やすく、髄内釘などによる骨接合術が行われることが多い。

高齢者が転倒しやすい要因

・内的要因:筋力・バランス能力の低下、歩行障害、視力障害、認知機能低下、起立性低血圧、睡眠薬・降圧薬などの服用 ・外的要因:段差、滑りやすい床、暗い照明、履物など ・過去1年間に転倒歴のある高齢者は再転倒・骨折のリスクが高い。

予防

骨粗鬆症の診断と薬物治療、運動療法による筋力・バランスの改善、住環境の整備、ヒッププロテクターの使用などにより、転倒と骨折の両方を防ぐことが重要である。

POINT

・高齢者の転倒で最も問題となる骨折は大腿骨近位部骨折(頸部骨折・転子部骨折)である。 ・背景に骨粗鬆症があり、立った高さからの転倒でも骨折する(脆弱性骨折)。 ・高齢者の四大骨折:大腿骨近位部、椎体、橈骨遠位端、上腕骨近位端。 ・大腿骨近位部骨折は高齢女性に多く、70歳以降に急増し80歳代にピークがある。寝たきりの原因となるため早期手術・早期離床が原則。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。