StudyMed医師国家試験

計画して終わりにしない―PDCAサイクルで「医療の質」を回し続ける

第102回医師国家試験 H問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第102回 H問題 第18問

PDCAサイクル〈デミングサイクル〉について正しいのはどれか。

  1. a.倫理指針
  2. b.診療録開示手順
  3. c.質改善の方法論
  4. d.医療廃棄物処理手順
  5. e.医療機関相互の診療情報提供手段

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療の質管理の基本用語、PDCAサイクルの正体を問う問題だ。選択肢には倫理、記録、廃棄物、情報連携と、病院運営に関わりそうな言葉が並んでいるけれど、着眼点は「これは規範や手順なのか、それとも改善のための考え方なのか」という一点。まずPDCAが何の頭文字か言えるかな。
医学生医学生
Plan、Do、Check、Actですよね。社会医学の講義で聞いた覚えはあるんですが、具体的に何に使うのかはぼんやりしています。
ドクタードクター
4つ言えれば出発点としては十分。Planは現状を把握して課題を見つけ、目標と方法を決める段階。Doは計画どおりに実行する段階。Checkは結果を測って、目標に届いたか、計画とどこがずれたかを検証する段階。Actは評価をもとに、うまくいったやり方は標準化し、問題点は直して次の計画に反映させる段階だ。
医学生医学生
Actで終わりではなく、また次のPlanに戻るということですか。
ドクタードクター
そこが一番大事なところ。一周で終わらせず繰り返し回すことで、質が少しずつ上がっていく。そのイメージから「らせん(スパイラル)を上っていく」とよく表現されるんだ。もともとは製造業の品質管理の考え方で、統計学者のデミングらが広めたことからデミングサイクルとも呼ばれる。原型はシューハートが示した手法とされているよ。
医学生医学生
工場の品質管理から来たものなんですね。そうなると、選択肢の中では質改善の方法論が当てはまりそうです。
ドクタードクター
正解。PDCAサイクルは、業務や品質を継続的に良くしていくための方法論、つまりマネジメントの枠組みなんだ。ほかの選択肢がなぜ違うのかも整理しておこう。まず倫理指針はどう思う?
医学生医学生
研究倫理の講義で、ヘルシンキ宣言やインフォームド・コンセントの話と一緒に出てきました。守るべきルールという印象です。
ドクタードクター
その通り。倫理指針は研究や診療で守るべき規範を定めたもので、国の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」では倫理審査委員会での審査なども求めている。行動の基準を示すものであって、回して改善していく方法論ではない。
医学生医学生
診療録開示手順も、決まった手続きを示すものですよね。
ドクタードクター
そう。患者さん本人などの請求を受けて、本人確認をし、開示できるかを判断して閲覧や複写に応じる、という手続きだ。個人情報保護法や厚生労働省の指針に沿って行われる。医療廃棄物処理手順も同じく具体的な手順で、感染性廃棄物は廃棄物処理法に基づいて分別・梱包・保管・運搬・処分の方法が決められている。
医学生医学生
臨床実習の初日のオリエンテーションで、バイオハザードマークの色分けを教わりました。注射針は黄色の容器でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。液状・泥状のものは赤、固形状のものは橙、鋭利なものは黄だ。それから医療機関相互の診療情報提供手段は、紹介状にあたる診療情報提供書や、ICTを使った地域医療連携ネットワークなど情報を伝える手段のこと。これも改善の考え方そのものではない。
医学生医学生
正解以外はどれも「決まったルールや手段」で、PDCAだけが「良くし続けるための考え方」という違いなんですね。
ドクタードクター
その区別ができれば、この種の問題は迷わない。では医療現場での具体例を考えてみよう。たとえば病棟で転倒・転落事故を減らしたいとき、PDCAをどう回すと思う?
医学生医学生
まず発生状況を分析して対策を立てて、実施して、発生件数で効果を見る……という流れでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれ。効果の乏しかった対策は見直して次の計画に反映させる。医療安全ではインシデント報告の分析と再発防止策、院内感染対策では手指衛生の遵守率や感染症発生率の監視、ほかにも病院機能評価や都道府県の医療計画、健康日本21の中間評価・最終評価などで同じ考え方が使われている。
医学生医学生
Checkで何を測るかが、けっこう大事そうですね。
ドクタードクター
鋭いね。医療の質はドナベディアンの3つの視点、つまり構造(施設・設備・人員)、過程(実際に行われた診療やケア)、結果(死亡率・合併症発生率・患者満足度など)で評価される。こうした指標はクオリティ・インディケーターと呼ばれ、Checkの材料になる。また、CheckをStudy(学習・検討)に置き換えたPDSAサイクルもあって、小さな規模で変化を試して結果から学ぶことを重視する考え方として、医療の質改善の現場で使われているよ。
医学生医学生
研修医になったら、カンファレンスやインシデント対策の場でPDCAを意識してみます。
ドクタードクター
ぜひそうしてほしい。計画を立てて実行するだけで終わらせず、評価して次につなげる習慣は、個人の診療にもチーム医療にも役立つからね。

まとめ

PDCAサイクルは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)の4段階を繰り返して業務や品質を継続的に高める質改善の方法論で、品質管理の分野でデミングらが広めたことからデミングサイクルとも呼ばれます。一周で終わらず、Actで得た知見を次のPlanに反映させて、らせん状に質を高めていく点が本質です。倫理指針、診療録開示手順、医療廃棄物処理手順、診療情報提供の手段は、いずれも特定の規範・手順・手段であり、改善の方法論とは性質が異なります。医療現場では医療安全、院内感染対策、病院機能評価、医療計画の評価などに広く応用され、Checkではドナベディアンの構造・過程・結果の視点に基づく指標が活用されます。PDCAの考え方は、医療の質と安全をチームで継続的に高めていくための共通言語として、臨床に出てからも役立ちます。

解答・解説

正解はcです

医療の質や安全の管理で用いられる基本的な考え方であるPDCAサイクルについて問う問題である。 PDCAサイクルは、業務や品質を継続的に改善していくための管理手法(マネジメントの方法論)である。次の4段階の頭文字をとって名付けられている。 ・Plan(計画):現状を把握して課題を明らかにし、目標とそれを達成する方法を立てる。 ・Do(実行):計画に沿って実施する。 ・Check(評価):実施した結果を測定し、目標どおりに進んだか、計画とのずれはどこかを検証する。 ・Act(改善・処置):評価に基づいて、うまくいったやり方は標準化し、問題点は是正して次の計画に反映させる。 Actで得た知見が次のPlanにつながるため、一周で終わらず繰り返し回すことが本質である。回すたびに質が一段ずつ高まっていく様子は、らせん(スパイラル)を上っていくイメージで表現される。 もともとは製造業の品質管理の分野で、統計学者W. エドワーズ・デミング(W. Edwards Deming)らによって広められた考え方であり(原型はシューハートの提唱した手法とされる)、そのためデミングサイクルとも呼ばれる。現在では医療を含むあらゆる分野の業務改善に使われ、医療の質改善、医療安全対策、院内感染対策、病院機能評価、地域医療計画の評価などに活用されている。 選択肢の中で「継続的な改善の方法」を表しているのは質改善の方法論のみであり、ほかは特定の規範や手順・手段を指すもので、PDCAサイクルとは別物である。

選択肢考察

  1. ×a.  倫理指針

    誤り。倫理指針は、研究や診療において守るべき倫理的な規範を定めたものである。医学研究の分野では、ヘルシンキ宣言や、国の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」などがあり、インフォームド・コンセントの取得や倫理審査委員会での審査などを求めている。行動の基準を示す規範であって、計画・実行・評価・改善を繰り返して質を高める方法論ではない。

  2. ×b.  診療録開示手順

    誤り。診療録(カルテ)の開示は、患者本人などの請求に応じて診療記録を閲覧・複写させる手続きであり、個人情報保護法や厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」に沿って行われる。開示請求の受付、本人確認、開示の可否の判断などの手順を定めたものであり、PDCAサイクルとは関係がない。

  3. ○c.  質改善の方法論

    正しい。PDCAサイクルは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)の4段階を繰り返し、業務や品質を継続的に高めていくための方法論である。製造業の品質管理から生まれ、現在では医療の質改善にも広く用いられている。例えば、転倒・転落事故を減らすために、発生状況を分析して対策を立て(P)、実施し(D)、発生件数などの指標で効果を測り(C)、効果の乏しい対策を見直して次の計画に反映させる(A)、という形で運用される。

  4. ×d.  医療廃棄物処理手順

    誤り。医療機関から出る廃棄物のうち、血液が付着したものや使用済みの注射針など感染のおそれがあるものは感染性廃棄物として、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)と国のマニュアルに沿って処理される。分別・梱包・保管・運搬・処分の方法が決められており、容器にはバイオハザードマークを付ける(液状・泥状のものは赤、固形状のものは橙、注射針などの鋭利なものは黄)。これは具体的な処理の手順であり、PDCAサイクルではない。

  5. ×e.  医療機関相互の診療情報提供手段

    誤り。医療機関どうしで患者の診療情報をやり取りする手段には、診療情報提供書(いわゆる紹介状)、画像データなどの受け渡し、ICTを活用した地域医療連携ネットワーク(電子的な診療情報の共有)などがある。これらは情報を伝達するための手段であり、質を継続的に改善するための方法論であるPDCAサイクルとは異なる。

医療の質の評価(ドナベディアンの3つの視点)

医療の質は、構造(structure:施設・設備・人員配置など)、過程(process:実際に行われた診療やケアの内容)、結果(outcome:死亡率、合併症発生率、患者満足度など)の3つの側面から評価される。質改善を進める際には、これらの指標(クオリティ・インディケーター)を測定し、PDCAサイクルのCheckに活用する。

医療分野でのPDCAサイクルの活用例

・医療安全管理:インシデント・アクシデント報告を集めて分析し、再発防止策を立案・実施・評価・見直しする。 ・院内感染対策:手指衛生の遵守率や感染症発生率を監視し、対策を改善する。 ・病院機能評価:第三者評価を受けて課題を明らかにし、改善につなげる。 ・医療計画・健康増進計画:都道府県の医療計画や健康日本21などで、目標設定と中間評価・最終評価を行い、政策を見直す。 ・労働安全衛生マネジメントシステム:職場の安全衛生水準を継続的に向上させる仕組みとしてPDCAサイクルが組み込まれている。

関連する手法

PDCAの変形として、Check(評価)をStudy(学習・検討)に置き換えたPDSAサイクルも、医療の質改善の現場で用いられる。小さな規模で変化を試し、その結果から学んで改善を重ねていくことを重視する考え方である。

POINT

・PDCAサイクル=Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)を繰り返す質改善の方法論。 ・デミングらにより品質管理の分野で広められたため、デミングサイクルとも呼ばれる。 ・繰り返し回すことで、らせん状に質が向上していくことを目指す。 ・医療安全、院内感染対策、病院機能評価、医療計画など、医療の質管理に広く応用されている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。