StudyMed医師国家試験

保険料を払えない人の医療は誰が守る?―社会保険と公的扶助の境界線

第102回医師国家試験 H問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第102回 H問題 第16問

生活に困窮している国民に医療を保障している制度はどれか。

  1. a.介護保険
  2. b.簡易保険
  3. c.国民年金
  4. d.生活保護
  5. e.国民健康保険

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は日本の社会保障制度の全体像から、生活に困窮した人の医療を支える仕組みを選ぶ問題だ。着眼点は、それぞれの制度が「保険料を出し合う社会保険なのか、税で直接支える公的扶助なのか」、そして「何を保障する制度なのか」の2点。まずは社会保障の大きな分類から思い出してみよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、社会保険・公的扶助・社会福祉・公衆衛生の4本柱と習いました。
ドクタードクター
その通り。社会保険には医療保険、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険がある。加入者が保険料を出し合って病気や老齢などのリスクに備える仕組みだから、保険料を負担できることが前提になる。では、保険料すら払えないほど生活に困っている人はどうなると思う?
医学生医学生
国民健康保険なら自営業や無職の人も入れるので、困窮している人もそこでカバーされるのかなと思いました。
ドクタードクター
そこが一番引っかかりやすいところだね。国民健康保険は、被用者保険や後期高齢者医療制度に入っていない人が加入する地域保険で、国民皆保険を支える大事な制度だ。ただ、あくまで保険料を納めて、医療費の一部を自己負担する社会保険であって、困窮者に特化した制度ではない。しかも実は、生活保護を受けている世帯は国民健康保険の被保険者から除外されるんだ。
医学生医学生
えっ、皆保険なのに外れる人がいるんですか。
ドクタードクター
そう、ここが重要なポイント。生活保護受給者は医療保険の枠外に出て、その医療は生活保護の医療扶助で保障される。だから正解は生活保護だ。生活保護は保険料の拠出を前提とせず、税を財源にして最低限度の生活を保障する最後のセーフティネットで、日本国憲法第25条の生存権を具体化した制度なんだ。
医学生医学生
生存権の「健康で文化的な最低限度の生活」ですね。医療扶助だと、窓口でお金を払うんでしょうか。
ドクタードクター
医療扶助は原則として指定医療機関での現物給付、つまり医療そのものを提供する形で行われ、本人の自己負担は原則として生じない。受けられる医療の内容は国民健康保険の診療方針や診療報酬に準じているよ。ほかの選択肢も整理しておこう。介護保険はどうかな。
医学生医学生
40歳以上が保険料を払って、要介護認定を受けた人が介護サービスを受ける社会保険なので、医療の保障ではないですね。
ドクタードクター
その通り。65歳以上が第1号、40〜64歳の医療保険加入者が第2号被保険者だ。ちなみに生活保護受給者が介護を必要とする場合は、介護扶助が自己負担分などをまかなう。国民年金はどう?
医学生医学生
20歳以上60歳未満の全員が入る基礎年金で、老齢・障害・遺族の所得保障が目的ですから、これも医療とは別物だと思います。
ドクタードクター
正解。低所得で保険料を納めにくい場合には免除や納付猶予の制度があり、生活扶助を受けている人は法定免除になる。残る簡易保険は、聞き慣れないかもしれないね。
医学生医学生
名前に「保険」とあるので公的な制度かと思ってしまいました。
ドクタードクター
簡易保険、いわゆる「かんぽ」は、かつて国が営んでいた加入手続きの簡便な生命保険で、本人の希望で入る任意の保険だ。郵政民営化以降は民間の生命保険会社が新規契約を引き受けている。困窮者の医療を公的に保障するものではないよ。
医学生医学生
つまり、保険料を払える人を支えるのが社会保険で、それでも生活が成り立たない人を税で支えるのが生活保護、という二段構えなんですね。
ドクタードクター
よくまとまったね。発展知識として、生活保護には生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭の8種類の扶助があり、医療扶助と介護扶助は原則現物給付、それ以外は原則金銭給付だ。保護費の中では医療扶助が約半分を占め、最も大きい。また4つの基本原理のうち「保護の補足性」、つまり資産や能力、他の制度、扶養義務者の扶養などを活用しても足りない分を補うという考え方も押さえておきたい。
医学生医学生
臨床実習の内科で、医療費が払えず受診を控えていた患者さんにソーシャルワーカーさんが生活保護の申請を案内していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそういう場面で知識が生きる。生活保護は申請保護が原則だけど、急迫した状況では職権保護も可能だ。実施機関は福祉事務所で、医療ソーシャルワーカーと連携することが多い。経済的な理由で治療が途切れそうな患者さんに気づいたら、早めに相談につなぐのも医師の大切な役割だよ。

まとめ

生活に困窮した人の医療は、公的扶助である生活保護の医療扶助によって保障され、原則として指定医療機関での現物給付で行われ、自己負担は原則生じません。生活保護は憲法第25条の生存権に基づき税を財源とする最後のセーフティネットで、受給者は国民健康保険の適用除外となる点が重要です。介護保険・国民年金・国民健康保険は保険料の拠出を前提とする社会保険で、簡易保険は任意加入の生命保険であり、いずれも困窮者の医療保障を目的とする制度ではありません。生活保護には8種類の扶助があり、保護費の約半分を医療扶助が占めます。社会保険と公的扶助の役割分担を理解しておくことは、経済的困難を抱える患者を適切な支援につなぐ臨床の場面で必ず役立ちます。

解答・解説

正解はdです

日本の社会保障制度のなかで、経済的に困窮した人の医療を支える仕組みを問う問題である。 日本の社会保障は大きく、社会保険(医療保険・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険)、公的扶助(生活保護)、社会福祉、公衆衛生に分けられる。社会保険は、加入者が保険料を出し合い、病気・老齢・要介護などのリスクに備える仕組みであり、保険料を負担できることが前提となる。これに対して公的扶助は、保険料の拠出を前提とせず、税財源によって、生活に困窮し最低限度の生活を維持できない人を直接支える最後のセーフティネットである。 公的扶助の中心は生活保護法に基づく生活保護であり、日本国憲法第25条の生存権(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)を具体化した制度である。生活保護には8種類の扶助があり、そのうち医療扶助が困窮者の医療を保障している。したがって設問の制度は生活保護である。 各選択肢が「社会保険なのか、公的扶助なのか、民間・任意の保険なのか」「何を保障する制度なのか」を整理して考えるとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  介護保険

    誤り。介護保険は介護保険法に基づく社会保険で、市町村(特別区を含む)が保険者となり、40歳以上の者が被保険者として保険料を納める。65歳以上が第1号被保険者、40〜64歳の医療保険加入者が第2号被保険者である。要介護・要支援と認定された人に介護サービスを給付する制度であり、医療を保障する制度ではない。なお、生活保護受給者が介護を必要とする場合は、生活保護の介護扶助が介護保険の自己負担分などをまかなう(40〜64歳で医療保険未加入の生活保護受給者は介護保険の被保険者とならず、介護費用は介護扶助で全額給付される)。

  2. ×b.  簡易保険

    誤り。簡易保険(簡易生命保険、通称「かんぽ」)は、かつて国(のちに日本郵政公社)が営んでいた、手続きが簡便で加入しやすい任意加入の生命保険である。2007年の郵政民営化以降、新規契約はかんぽ生命保険(民間の生命保険会社)が引き受けており、民営化前の旧契約は独立行政法人に引き継がれて政府保証が維持されている。いずれにしても本人の希望で加入する生命保険であり、生活困窮者の医療を公的に保障する制度ではない。

  3. ×c.  国民年金

    誤り。国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する公的年金制度(基礎年金)である。老齢・障害・死亡(遺族)に際して基礎年金を支給し、所得を保障することが目的であり、医療を保障する制度ではない。なお、所得が低く保険料の納付が難しい場合には保険料の免除・納付猶予の制度があり、生活保護(生活扶助)受給者は法定免除の対象となる。

  4. ○d.  生活保護

    正しい。生活保護は生活保護法に基づく公的扶助で、資産や能力などあらゆるものを活用してもなお生活に困窮する人に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、最低限度の生活を保障するとともに自立を助長することを目的とする。8種類の扶助のうち医療扶助が医療を保障しており、原則として指定医療機関において現物給付(医療そのものの提供)の形で行われ、本人の自己負担は原則として生じない。生活保護受給者は国民健康保険の適用除外となるため、その医療費は医療扶助でまかなわれる。医療扶助は生活保護費の中で最も大きな割合(約半分)を占めている。

  5. ×e.  国民健康保険

    誤り。国民健康保険は、被用者保険(健康保険組合・協会けんぽ・共済組合など)や後期高齢者医療制度に加入していない人、例えば自営業者、農業従事者、無職の人、非正規雇用で被用者保険の対象とならない人などが加入する医療保険(社会保険)である。都道府県と市町村が保険者となる。保険料を納め、医療費の一部を自己負担する仕組みであり、困窮者に特化した医療保障ではない。むしろ生活保護を受けている世帯は国民健康保険の被保険者から除外され、医療扶助に移行する。なお医療扶助で受けられる医療の内容は、国民健康保険の診療方針・診療報酬に準じている。

生活保護の4つの基本原理

1) 国家責任の原理:国が生活に困窮するすべての国民に対し、最低限度の生活を保障する。 2) 無差別平等の原理:困窮に至った理由を問わず、要件を満たせば等しく保護を受けられる。 3) 最低生活保障の原理:健康で文化的な最低限度の生活を維持できる水準を保障する。 4) 保護の補足性の原理:資産・能力・他の法律による給付・扶養義務者の扶養などを活用しても足りない分を補う。

生活保護の4つの原則

申請保護の原則(急迫時は職権保護も可能)、基準及び程度の原則、必要即応の原則、世帯単位の原則。

8種類の扶助

生活扶助(食費・光熱費など日常生活費)、教育扶助(義務教育の費用)、住宅扶助(家賃など)、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助(就労のための技能習得など、高校就学費を含む)、葬祭扶助。医療扶助と介護扶助は原則として現物給付、その他は原則として金銭給付である。

生活保護の動向

被保護者数は近年おおむね200万人前後で推移し、世帯類型では高齢者世帯が過半数を占める。保護費の内訳では医療扶助が約半分を占め、最大である。実施機関は福祉事務所(都道府県・市・特別区が設置)であり、国が費用の4分の3を負担する。

日本の医療保険制度の全体像

被用者保険(健康保険・共済組合・船員保険)、国民健康保険(地域保険)、後期高齢者医療制度(75歳以上)により国民皆保険が実現されている。ただし生活保護受給者はこれらの枠外で、医療扶助によって医療が保障される。

POINT

・生活困窮者の医療は、公的扶助である生活保護の医療扶助で保障される(原則現物給付、自己負担なし)。 ・生活保護受給者は国民健康保険の適用除外となる。 ・生活保護は憲法第25条(生存権)に基づき、税を財源とする。 ・扶助は8種類(生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭)。医療扶助と介護扶助は現物給付。 ・保護費の中で最も割合が大きいのは医療扶助である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。