むくみを「治す」ビタミン―薬剤性浮腫の仲間はずれを見抜く
第102回医師国家試験 H問題 第15問
国試問題にチャレンジ
浮腫の原因とならないのはどれか。
- a.β遮断薬
- b.ビタミンB1薬
- c.卵胞ホルモン薬
- d.カルシウム拮抗薬
- e.非ステロイド性抗炎症薬
対話形式の解説
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医学生まとめ
薬剤性浮腫の多くは、腎でのNa・水貯留による体液量増加か、血管拡張による毛細血管圧上昇によって生じます。カルシウム拮抗薬は細動脈優位の拡張で毛細血管圧を上げるため利尿薬が効きにくく、非ステロイド性抗炎症薬は腎のプロスタグランジンを抑えてNa・水を貯留させ、エストロゲンはNa再吸収促進とレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化で、β遮断薬は心拍出量低下や心不全増悪を介して浮腫を起こしえます。これに対しビタミンB1は投与で浮腫を起こさず、逆に欠乏すると脚気心(高拍出性心不全)による浮腫をきたすため、補充によって改善させる側に位置づけられます。ほかにも副腎皮質ステロイド、甘草、ピオグリタゾン、ACE阻害薬による血管性浮腫などが知られており、浮腫の診療では臓器疾患の検索と並行して服薬歴を丁寧に確認することが欠かせません。
解答・解説
正解はbです
薬剤性浮腫(薬の副作用として生じる浮腫)に関する知識を問う問題である。 浮腫とは、間質(細胞と細胞の間)に水分が過剰にたまった状態をいう。毛細血管での水の出入りはスターリングの法則で説明され、浮腫は主に次のいずれかの機序で生じる。 1) 毛細血管内の静水圧の上昇(体液量の増加、静脈うっ滞、細動脈拡張による毛細血管圧上昇) 2) 血漿膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症) 3) 毛細血管透過性の亢進(炎症、アレルギー) 4) リンパ流の障害 薬剤性浮腫では、1) の機序、すなわち「腎でのNa・水の再吸収が増えて細胞外液量が増える」か「血管拡張によって毛細血管圧が上がる」ものが多い。代表的な原因薬には、カルシウム拮抗薬(特にジヒドロピリジン系)、NSAIDs、エストロゲン製剤、副腎皮質ステロイド、甘草(グリチルリチン)、チアゾリジン系糖尿病薬(ピオグリタゾン)、β遮断薬(心機能低下を介する)などがある。 本問は「原因とならないもの」を選ぶ否定型である。選択肢のうちビタミンB1は、補充することで浮腫を起こすことはなく、逆に欠乏すると脚気(湿性脚気・脚気心)として浮腫をきたす。この点が他の4つと明確に異なる。
選択肢考察
- ×a. β遮断薬
浮腫の原因となりうる。β遮断薬は心臓のβ1受容体を遮断して心拍数と心収縮力を低下させ、心拍出量を減らす。心拍出量が落ちると腎は「有効循環血液量が減った」と感知してNaと水を再吸収し、細胞外液量が増えて浮腫を生じる。特に心機能が低下している患者に急に導入・増量すると心不全を悪化させ、うっ血による下腿浮腫や肺うっ血を招くことがある(慢性心不全では少量から慎重に漸増する)。また末梢血管のβ2受容体遮断により相対的にα作用が優位となり、末梢循環が悪化することも関与しうる。したがって「浮腫の原因とならない」には該当しない。
- ○b. ビタミンB1薬
浮腫の原因とならない薬剤であり、本問の正解である。ビタミンB1(チアミン)は水溶性ビタミンで、過剰分は尿中に排泄されるため過剰症はほとんど知られておらず、投与によって浮腫を起こすことはない。むしろ問題になるのは欠乏である。チアミンが欠乏すると糖代謝(ピルビン酸脱水素酵素などの補酵素)が障害され、末梢血管が拡張して高拍出性心不全(脚気心)をきたし、浮腫の原因となる(湿性脚気)。重症の急性型は衝心脚気と呼ばれる。つまりビタミンB1は、補うことで浮腫を改善させる側の薬であり、他の選択肢と逆の位置づけにある。
- ×c. 卵胞ホルモン薬
浮腫の原因となる。卵胞ホルモン(エストロゲン)は腎尿細管でのNa再吸収を促進し、Naと水を体内に貯留させる。また肝臓でのアンギオテンシノーゲン産生を増やすことでレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)を活性化し、これもNa貯留に働く。経口避妊薬やホルモン補充療法で体重増加やむくみがみられるのはこのためであり、月経前や妊娠中にむくみやすいこととも関連する。
- ×d. カルシウム拮抗薬
浮腫の原因となる代表的な薬剤である。特にアムロジピン、ニフェジピンなどのジヒドロピリジン系で頻度が高く、用量依存性に下腿(足首周囲)の浮腫がみられる。機序は、細動脈(毛細血管の手前)が強く拡張する一方で細静脈側はあまり拡張しないため、毛細血管内の静水圧が上昇し、水分が間質へ漏れ出すことによる。体液量の増加によるものではないため利尿薬は効きにくく、ACE阻害薬やARB(静脈側も拡張させる)の併用で軽減することが知られている。
- ×e. 非ステロイド性抗炎症薬
浮腫の原因となる。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジン(PG)の産生を抑える。腎では、PGE2やPGI2が輸入細動脈を拡張させて腎血流・糸球体濾過量(GFR)を保ち、さらに尿細管でのNa再吸収を抑えてNa排泄を促す働きをもつ。NSAIDsでこれが抑えられると、Na・水の排泄が低下して体液貯留、浮腫、血圧上昇をきたす。特に心不全、肝硬変、脱水など、RAA系や交感神経系が亢進していてPGによる代償的な血管拡張に腎血流が依存している状態では、腎機能低下と浮腫が起こりやすい。COX-2選択的阻害薬でも同様の注意が必要である。
浮腫の分類と主な原因
全身性浮腫:心性(うっ血性心不全)、肝性(肝硬変による低アルブミン血症と門脈圧亢進)、腎性(ネフローゼ症候群、急性・慢性腎炎、腎不全)、内分泌性(甲状腺機能低下症の粘液水腫、クッシング症候群、原発性アルドステロン症では通常目立たない)、妊娠・月経関連、栄養障害性(低栄養による低アルブミン血症、脚気)、薬剤性、特発性浮腫。 局所性浮腫:静脈性(深部静脈血栓症、静脈瘤)、リンパ性(リンパ節郭清後、フィラリア症)、炎症性、血管性浮腫(クインケ浮腫、ACE阻害薬によるものを含む)。
全身性浮腫の基本的な成り立ち
多くの全身性浮腫は、腎からのNa排泄が減って細胞外液量が増えることで起こる。その背景には、腎そのものの障害(腎不全、糸球体腎炎など)と、有効循環血液量の減少(心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群による低アルブミン血症など)に反応したRAA系・交感神経系・バソプレシンの亢進がある。
浮腫をきたす主な薬剤と機序
カルシウム拮抗薬:細動脈拡張による毛細血管圧上昇 NSAIDs:腎PG産生低下によるNa・水貯留 エストロゲン:Na再吸収促進、RAA系活性化 副腎皮質ステロイド:鉱質コルチコイド作用によるNa貯留 甘草(グリチルリチン):偽アルドステロン症(低K血症、高血圧を伴う) チアゾリジン系(ピオグリタゾン):集合管でのNa再吸収促進(心不全患者には禁忌) β遮断薬:心拍出量低下、心不全増悪 ACE阻害薬:ブラジキニン増加による血管性浮腫(局所性)
ビタミンB1欠乏症
脚気(末梢神経障害、高拍出性心不全による浮腫)、ウェルニッケ脳症(意識障害、眼球運動障害、失調)、乳酸アシドーシスなどをきたす。アルコール多飲、偏食、ビタミンを含まない高カロリー輸液などが危険因子である。
POINT
・薬剤性浮腫の代表:カルシウム拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、NSAIDs、エストロゲン、副腎皮質ステロイド、甘草、ピオグリタゾン、β遮断薬(心機能低下例)。 ・カルシウム拮抗薬の浮腫は細動脈拡張による毛細血管圧上昇が原因で、利尿薬が効きにくい。 ・NSAIDsは腎のプロスタグランジンを抑えてNa・水を貯留させる。 ・ビタミンB1は投与で浮腫を起こさない。欠乏すると脚気心(高拍出性心不全)で浮腫をきたす。
