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赤ちゃんの検査値は「小さな大人」ではない―ALPが高いのは骨が育っている証拠

第102回医師国家試験 H問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第102回 H問題 第11問

乳児の血液検査で基準値が成人よりも高いのはどれか。

  1. a.ヘモグロビン
  2. b.IgA
  3. c.尿素窒素
  4. d.ナトリウム
  5. e.ALP

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳児と成人で血液検査の基準値がどう違うかを問う問題だ。ポイントは「成長期の体でいま何が起きているか」を考えること。骨が伸びている、免疫が育っている途中、赤血球が入れ替わっている、こうした生理現象が検査値に表れるんだ。まず直感でどれが高そうだと思う?
医学生医学生
赤ちゃんは顔が赤いですし、生まれたときは多血っぽいと習ったので、ヘモグロビンが高いのかなと思いました。
ドクタードクター
半分正解で、半分は落とし穴だね。出生直後の新生児は、子宮内の低酸素環境に適応していたためヘモグロビンが17〜19 g/dL程度と成人より高い。でも生まれて肺呼吸が始まると酸素が十分に得られるので、エリスロポエチンの分泌が減り、胎児期の赤血球も壊れていく。その結果、生後2〜3か月で最低になるんだ。
医学生医学生
生理的貧血ですね。小児科の講義で、新生児期と乳児期を混同するなと言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
その通り。乳児期を通じてヘモグロビンは11 g/dL前後と成人より低いから、今回の問いには当てはまらない。次に免疫グロブリンのIgAはどうだろう。
医学生医学生
胎盤を通るのはIgGだけなので、IgAは生まれたときほぼゼロのはずです。母乳にIgAが含まれるから補われるのかな、とも思いましたが。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。母乳中の分泌型IgAは赤ちゃんの腸管の粘膜を局所的に守るけれど、血中のIgAを上げるわけではない。IgAは自分で作れるようになるのが遅く、成人値に近づくのは思春期ごろ。乳児期は成人より明らかに低いんだ。
医学生医学生
では尿素窒素はどうですか。腎機能が未熟だから高くなる気もします。
ドクタードクター
腎機能の未熟さを考えたのはよい発想だけど、実際には乳児のBUNは成人と大きく変わらないか、むしろやや低めになることが多い。成長期はたんぱく質が体を作る材料として盛んに使われる、つまり同化が優位だから、分解産物の尿素があまり増えないんだ。
医学生医学生
ナトリウムは、年齢でそんなに変わるイメージがありません。
ドクタードクター
そう、ナトリウムは細胞外液の浸透圧を決める主役だから、年齢を問わず135〜145 mEq/L程度の狭い範囲に厳密に保たれている。カリウムやクロールも同様で、主要電解質には大きな年齢差がない。ただし骨代謝に関わる無機リンは成長期に高めになる点は覚えておこう。
医学生医学生
骨代謝ということは、残ったALPが正解ですね。骨芽細胞から出る酵素だと生化学で習いました。
ドクタードクター
正解。ALPは肝臓・胆管、骨、小腸、胎盤などに存在する酵素で、小児では骨の成長に伴って骨芽細胞が活発に働くため、骨型ALPが大量に血中に出てくる。乳幼児期と思春期の成長スパートの時期には、成人の数倍になるのが正常なんだ。
医学生医学生
臨床実習の小児科で、ALPが高い子がいて肝臓が悪いのかと思ったら、指導医に「子どもだから普通」と言われました。
ドクタードクター
まさにそこが臨床での注意点。小児のALP高値をそのまま肝胆道疾患や骨疾患と判断してはいけない。ちなみにALPにはアイソザイムがあって、成人では肝型が主体、小児では骨型が主体だ。さらに乳幼児では、ほかに異常がないのにALPが成人の10倍以上まで一時的に上がる一過性高ALP血症もあり、数か月で自然に正常化して治療は不要なんだ。
医学生医学生
逆に、本当に病的なALP高値はどんなときですか。
ドクタードクター
ビタミンD欠乏などによるくる病、副甲状腺機能亢進症、胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞が代表だ。くる病なら骨のX線像や血清リン・カルシウム、胆汁うっ滞なら黄疸や直接ビリルビンといった、ほかの所見とあわせて判断する。逆にALPが低すぎる場合は、骨の石灰化が障害される低ホスファターゼ症を考える。それと、日本では2020年度からALPの測定法がJSCC法からIFCC法に変わり、数値がおよそ3分の1になったから、基準値を見るときは測定法も意識しておこう。
医学生医学生
年齢と測定法の両方を確認してから値を読む、ということですね。
ドクタードクター
そうだね。小児では、白血球数が多くリンパ球優位、クレアチニンは筋肉量が少ないため低い、など年齢で変わる項目がほかにもある。「子どもの基準値」で読む癖をつけておこう。

まとめ

乳児の検査値は成長・発達を反映して成人と異なるものが多く、年齢別の基準値で解釈する必要があります。骨の成長が盛んな乳幼児期と思春期には骨芽細胞由来の骨型ALPが増え、ALPは成人の数倍になるのが正常で、一過性高ALP血症のように著明高値でも治療不要な場合があります。一方、ヘモグロビンは新生児期に高いものの生後2〜3か月の生理的貧血を経て乳児期は成人より低く、IgAは胎盤を通過しないため乳児期は低値、ナトリウムなどの主要電解質やBUNには大きな年齢差がありません。小児のALP高値を安易に肝胆道疾患と判断せず、くる病や胆汁うっ滞などの病的状態は他の所見とあわせて見極める姿勢が、小児診療での検査値の読み方の基本になります。

解答・解説

正解はeです

小児の検査値は、成長・発達の段階によって成人と大きく異なるものがあり、年齢に応じた基準値で判断する必要がある。本問は乳児期(生後1か月~1歳未満)の血液検査で、成人より基準値が高い項目を問うている。 考え方の軸は「成長期に特有の生理現象を反映する項目はどれか」である。 ・骨が盛んに作られている:骨芽細胞(骨を作る細胞)の活動を反映するALP(アルカリホスファターゼ)や、骨の材料となる無機リンは高値になる。 ・免疫が未熟:自分で作る抗体(IgA、IgMなど)はまだ少なく、低値である。IgGだけは胎盤を通って母体から移行するため出生時は高いが、その後いったん低下する。 ・赤血球の造り替えの時期:新生児期に高かったヘモグロビンは、生後2~3か月に最低となり(生理的貧血)、乳児期を通じて成人より低い。 ・体液の恒常性:ナトリウムなどの主要電解質は、乳児でも成人とほぼ同じ範囲に厳密に保たれている。 以上から、成長に伴う骨形成の盛んさを反映して乳児期に明らかな高値を示すALPが正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  ヘモグロビン

    出生直後の新生児は、子宮内の低酸素環境に適応するためヘモグロビンが高く、約17~19 g/dL程度と成人より高値である。しかし出生後は肺呼吸で酸素が十分に得られるためエリスロポエチン(赤血球産生を促すホルモン)の分泌が減り、胎児期の赤血球も壊れていく。その結果、生後2~3か月にヘモグロビンは10~11 g/dL程度まで下がる(生理的貧血)。乳児期の値は11 g/dL前後と、成人(男性約13.5~17.5 g/dL、女性約11.5~15 g/dL)より低い。乳児では10~10.5 g/dL程度が貧血を判断する境目の目安となる。

  2. ×b.  IgA

    IgAは胎盤を通過しないため、出生時の血中濃度はほぼゼロである。生後、乳児自身が徐々に産生するようになり、目安として生後6か月で20 mg/dL程度、1歳で50~80 mg/dL程度、5歳で約185 mg/dLと上昇し、15歳前後で成人値(おおよそ100~400 mg/dL程度、平均270 mg/dL程度)に近づく。免疫グロブリンの中でも成人値に達するのが遅く、乳児期は成人より明らかに低い。なお、母乳中の分泌型IgAは乳児の腸管を局所的に守るが、血中濃度を上げるものではない。

  3. ×c.  尿素窒素

    尿素窒素(BUN)は、たんぱく質が分解されてできるアンモニアが肝臓で尿素に変えられたもので、腎臓から排泄される。乳児では成人との年齢差は大きくなく、むしろ成長のためにたんぱく質が体を作る材料として盛んに使われる(同化が優位になる)ため、やや低めになることが多い。成人より高いとはいえない。

  4. ×d.  ナトリウム

    血清ナトリウムは細胞外液の浸透圧を決める主要な電解質であり、年齢を問わず135~145 mEq/L程度の狭い範囲に保たれる。カリウムやクロールも含め、主要電解質の基準値に大きな年齢差はない。ただし、新生児期にはカルシウムがやや低め、無機リンは高めであるなど、骨代謝に関わるミネラルには年齢差がある。

  5. ○e.  ALP

    ALP(アルカリホスファターゼ)は肝臓・胆管、骨(骨芽細胞)、小腸、胎盤などに存在する酵素である。小児では骨の成長に伴い骨芽細胞が活発に働くため、骨由来のALP(骨型アイソザイム)が大量に血中に出てくる。その結果、骨の成長が著しい乳幼児期と、成長が加速する思春期には、成人の数倍の高値を示すのが正常である。小児のALP高値をそのまま肝胆道疾患や骨疾患と判断してはならない。

ALPとアイソザイム

ALPは構造の違いからいくつかのアイソザイム(同じ働きをもつが由来の異なる酵素)に分けられる。主なものは肝型(ALP2)、骨型(ALP3)、胎盤型(ALP4)、小腸型(ALP5)である。成人では肝型が主体であるが、小児では骨型が主体となる。胎盤型は妊娠後期に上昇し、小腸型は血液型がB型・O型の人で脂肪の多い食事の後に上昇しやすい。 なお、日本ではALPの測定法が2020年度からJSCC法からIFCC法に切り替えられ、同じ検体でも数値が約3分の1になった。基準値を読むときは測定法にも注意する。

小児期のALPに関する知識

・乳幼児期と思春期に高値となり、思春期の成長スパート後に成人値へ低下する。 ・一過性高ALP血症:乳幼児に、ほかに異常がないのにALPが成人の10倍以上にまで一時的に上がることがある。数か月以内に自然に正常化し、治療は不要である。 ・病的なALP高値の例:くる病(ビタミンD欠乏などで骨の石灰化が障害される)、副甲状腺機能亢進症、胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞。 ・低ALP血症:低ホスファターゼ症(ALP遺伝子の異常による骨の石灰化障害)で見られる。

年齢で基準値が大きく変わる主な検査項目

・成人より高い:ALP、無機リン(成長期)、白血球数(乳児期はリンパ球優位)、新生児期のヘモグロビン、出生直後のIgG(母体由来) ・成人より低い:乳児期のヘモグロビン、IgA・IgM(自己産生が未熟)、クレアチニン(筋肉量が少ないため) ・年齢差が小さい:ナトリウム、カリウム、クロールなどの主要電解質

POINT

・乳児期と思春期は骨の成長が盛んなため、骨型ALPが増え、ALPは成人の数倍の高値となるのが正常である。 ・ヘモグロビンは新生児期に高いが、生後2~3か月に生理的貧血で最低となり、乳児期は成人より低い。 ・IgAは胎盤を通過せず出生時ほぼゼロで、成人値に達するのは思春期頃である。 ・ナトリウムなどの主要電解質やBUNには大きな年齢差はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。