StudyMed医師国家試験

酸素が意識を奪うとき―高CO2血症のCOPDに潜むCO2ナルコーシスの罠

第102回医師国家試験 H問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第102回 H問題 第12問

高二酸化炭素血症を認める慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉患者で意識障害をきたし得るのはどれか。

  1. a.呼吸中枢刺激薬投与
  2. b.経鼻的持続陽圧呼吸療法
  3. c.気管切開による人工呼吸
  4. d.気管挿管による人工呼吸
  5. e.フェイスマスクからの100%酸素投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回のテーマはCO2ナルコーシスだ。高二酸化炭素血症が続いているCOPD患者で、どんな処置が意識障害を招き得るのかを問う問題。鍵になるのは「その処置は換気を増やすのか、減らすのか」という視点だよ。
医学生医学生
意識障害というと、低酸素で脳がやられるイメージがあります。なので酸素を減らすような処置が原因でしょうか。
ドクタードクター
自然な発想だけど、今回は逆なんだ。まず健常者の呼吸調節から確認しよう。普段の呼吸は主に延髄の中枢化学受容体がPaCO2の上昇、つまり脳脊髄液のpH低下を感知して調節されている。
医学生医学生
生理学の講義で、呼吸の一番の駆動力はCO2だと習いました。
ドクタードクター
その通り。ところが慢性的にPaCO2が高いCOPD患者では、腎臓でHCO3-の再吸収が増えてpHが代償され、中枢化学受容体のCO2への反応が鈍くなる。そのぶん頸動脈小体などの末梢化学受容体が低酸素を感知して呼吸を促す仕組み、いわゆる低酸素性換気ドライブへの依存が高まるんだ。
医学生医学生
ということは、高濃度の酸素を吸わせると、その低酸素の刺激がなくなって呼吸が弱まる……だからフェイスマスクからの100%酸素投与が危ないんですね。
ドクタードクター
正解。換気を補助せずに高濃度酸素を与えると、PaCO2が急上昇してCO2ナルコーシスを起こし得る。しかも機序はそれだけではない。換気の悪い肺胞への血流を絞る低酸素性肺血管収縮が酸素で解除されて、換気血流比の不均等が悪化する。さらに、酸素と結合したヘモグロビンはCO2を運ぶ力が落ちるホールデン効果も加わる。近年はこの2つの寄与も大きいと考えられているよ。
医学生医学生
呼吸ドライブの話だけだと思っていました。肺の血流分布や運搬の話も関わるんですね。
ドクタードクター
そう、複数の機序が重なるからこそ危険なんだ。では残りの選択肢を見よう。呼吸中枢刺激薬はどうかな。
医学生医学生
呼吸を刺激して換気を増やすなら、PaCO2は下がる方向ですよね。
ドクタードクター
そのとおり。ドキサプラムなどは換気量を増やすので、意識障害の原因にはならない。かつては高CO2血症のCOPD急性増悪で酸素と併用されたけれど、今は非侵襲的陽圧換気が普及して出番は限られている。次に経鼻的持続陽圧呼吸療法は?
医学生医学生
睡眠時無呼吸症候群で使うCPAPのイメージです。COPDにも使えるんですか。
ドクタードクター
気道に陽圧をかけて呼吸仕事量を減らし、CO2の排出を助けるから、少なくとも原因側ではなく予防・治療側の処置だ。ただ、高CO2血症のCOPDでは吸気と呼気で圧を変えて換気量を増やせる二相性陽圧換気、つまりNPPVが標準的だという点は押さえておこう。
医学生医学生
気管挿管や気管切開による人工呼吸は、機械で確実に換気するのでCO2を下げられますね。
ドクタードクター
その理解でいい。どちらも換気量を確実に確保してPaCO2を下げる、CO2ナルコーシスの治療手段だ。NPPVで改善しない、意識障害が強く気道を守れない、痰が多く出せない、循環動態が不安定といった場合に侵襲的人工呼吸へ進む。
医学生医学生
救急外来の実習で、COPDの患者さんにリザーバーマスクをつけたら指導医に止められたことがありました。でも酸素を絞りすぎるのも怖い気がします。
ドクタードクター
大事な感覚だね。低酸素血症自体も命に関わるから、「怖いから酸素を与えない」は誤りだ。鼻カニューラの低流量やベンチュリーマスクの24%、28%など低濃度から始め、SpO2 88〜92%程度を目標にする。そして30分〜1時間ほどで動脈血ガスを再検し、PaCO2の上昇やpHの低下がないかを確認するんだ。
医学生医学生
SpO2がよくなっていれば安心、とはいかないんですね。
ドクタードクター
そこが落とし穴。CO2ナルコーシスではSpO2は保たれたまま意識が落ちていくことが多いから、パルスオキシメータだけでは気づけない。傾眠、羽ばたき振戦、頭痛、顔面紅潮や発汗、手の温感といったCO2貯留のサインに注意しよう。血液ガスでは、慢性の高CO2血症ならHCO3-が高くpHはほぼ正常だけど、急にPaCO2が上がると代償が追いつかずpHが下がる。この変化が危険信号だよ。

まとめ

高CO2血症を伴うCOPD患者に換気補助なしで高濃度酸素を投与すると、PaCO2が急上昇して意識障害・呼吸性アシドーシス・呼吸抑制をきたすCO2ナルコーシスを起こし得ます。機序には、低酸素性換気ドライブの消失に加え、低酸素性肺血管収縮の解除による換気血流比不均等の悪化と、ホールデン効果が関与します。呼吸中枢刺激薬やNPPV、気管挿管・気管切開による人工呼吸は換気を増やしてPaCO2を下げる、予防・治療側の手段です。酸素は低流量・低濃度から始めてSpO2 88〜92%を目標とし、SpO2が保たれていても動脈血ガスでPaCO2とpHを確認することが重要です。「その処置は換気を増やすか減らすか」で考える習慣は、救急や病棟での安全な酸素療法の土台になります。

解答・解説

正解はeです

本問のテーマは CO2ナルコーシス である。CO2ナルコーシスとは、高二酸化炭素血症(PaCO2の上昇)が急に進んで、意識障害(傾眠から昏睡)、呼吸性アシドーシス、自発呼吸の低下をきたす病態をいう。

なぜ高CO2血症のCOPD患者で起こりやすいか

健常者の呼吸は、主に延髄の中枢化学受容体がPaCO2の上昇(脳脊髄液のpH低下)を感知することで調節されている。ところが、慢性的に高CO2血症が続くCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者では、腎臓でのHCO3-の再吸収が増えてpHが代償され、中枢化学受容体のCO2に対する反応が鈍くなる。このような患者では、頸動脈小体などの末梢化学受容体が低酸素を感知して呼吸を促す仕組み(低酸素性換気ドライブ)への依存度が高まっている。 ここに高濃度の酸素を投与すると、次のような機序が重なってPaCO2がさらに上昇する。 1. 低酸素による呼吸刺激が消えて換気量が減る。 2. 低酸素性肺血管収縮(換気の悪い肺胞への血流を絞る反応)が解除され、換気の悪い領域に血流が戻るため、換気血流比の不均等が悪化して死腔換気が増える。 3. ホールデン効果:酸素と結合したヘモグロビンはCO2を運ぶ力が落ちるため、血中に溶けたCO2が増える。 近年は2と3の寄与も大きいとされている。いずれにしても、換気の補助をせずに高濃度酸素を投与することが、高CO2血症のCOPD患者で意識障害をきたす典型的な原因である。

設問の考え方

選択肢のうち、換気を補助したり(非侵襲的・侵襲的人工呼吸)、呼吸を促したり(呼吸中枢刺激薬)するものは、PaCO2を下げる方向に働く。反対に、換気を補助せずに酸素だけを高濃度で与える処置はCO2ナルコーシスを誘発し得る。

選択肢考察

  1. ×a.  呼吸中枢刺激薬投与

    ドキサプラム(末梢化学受容体を介して呼吸を刺激する)やジモルホラミンなどの呼吸中枢刺激薬は、換気量を増やしてPaCO2を下げる方向に働く。かつてはCOPD急性増悪で高CO2血症を伴う患者に、酸素投与と併用して短期間用いられた。現在は非侵襲的陽圧換気が普及し、使われる場面は限られるが、少なくとも意識障害を引き起こす処置ではない。

  2. ×b.  経鼻的持続陽圧呼吸療法

    鼻マスクなどを用いて気道に陽圧をかける非侵襲的な呼吸補助である。気管挿管をせずに行えるため、COPD急性増悪で高CO2血症が進むときの換気補助として用いられる(高CO2血症に対しては、吸気と呼気で圧を変えて換気量を増やせる二相性陽圧換気〈NPPV〉が標準的である)。気道を開いて呼吸仕事量を減らし、CO2の排出を助けるため、CO2ナルコーシスの予防・治療側の処置である。

  3. ×c.  気管切開による人工呼吸

    気管切開孔からカニューレを入れて行う侵襲的人工呼吸である。人工呼吸器によって確実に換気量が確保されるため、PaCO2を下げることができる。長期の人工呼吸管理が必要な場合などに行われ、CO2ナルコーシスを改善する側の処置である。

  4. ×d.  気管挿管による人工呼吸

    気管チューブを口または鼻から気管内に挿入して行う侵襲的人工呼吸である。非侵襲的陽圧換気で改善しない場合や、すでに意識障害が進んで気道を守れない場合、呼吸停止が迫っている場合に行われる。換気を確実に補助してPaCO2を下げるため、CO2ナルコーシスの治療手段であり、原因にはならない。

  5. ○e.  フェイスマスクからの100%酸素投与

    換気の補助をせずに高濃度の酸素を投与すると、低酸素による呼吸刺激が消えて換気量が減ることに加え、換気血流比の不均等の悪化やホールデン効果が加わってPaCO2が急上昇する。その結果、CO2ナルコーシスを生じ、意識障害や呼吸抑制をきたし得る。高CO2血症を伴うCOPD患者への酸素投与は、鼻カニューラやベンチュリーマスクで低濃度から始め、SpO2 88~92%程度(PaO2 60 mmHg前後)を目標とし、動脈血ガス分析でPaCO2とpHを確認しながら調整する。

CO2ナルコーシスの症状

・PaCO2の上昇による中枢神経症状:頭痛、傾眠、見当識障害、羽ばたき振戦、昏睡 ・CO2による血管拡張:顔面紅潮、発汗、手の温感、脳血管拡張による頭痛・乳頭浮腫 ・呼吸性アシドーシス(pH低下) 意識障害を起こしている一方でSpO2は保たれていることが多く、パルスオキシメータだけでは気付けない。高CO2血症のリスクがある患者では動脈血ガス分析でPaCO2とpHを確認することが重要である。

COPD患者への酸素投与の原則

・低酸素血症自体も生命に危険であるため、「CO2ナルコーシスが怖いから酸素を与えない」のは誤りである。 ・低流量(鼻カニューラ0.5~1 L/分程度)または吸入酸素濃度を一定に調節できるベンチュリーマスク(24%、28%など)から開始する。 ・目標はSpO2 88~92%程度とし、30分~1時間程度で動脈血ガスを再検してPaCO2の上昇やpHの低下がないか確認する。

高CO2血症が進行したときの対応

1. 非侵襲的陽圧換気(NPPV):マスクを用いた二相性陽圧換気で換気を補助する。呼吸性アシドーシスを伴うCOPD急性増悪では第一選択であり、気管挿管を減らし予後を改善する。 2. 侵襲的人工呼吸(気管挿管・気管切開):NPPVで改善しない、意識障害が高度で気道が守れない、喀痰が多く排出できない、循環動態が不安定などの場合に行う。

慢性高CO2血症の血液ガスの特徴

PaCO2が高くてもpHはほぼ正常範囲に保たれ、HCO3-が高値となる(代償された慢性呼吸性アシドーシス)。ここにPaCO2の急な上昇が加わると代償が追いつかず、pHが低下する。

POINT

・高CO2血症を伴うCOPD患者に換気補助なしで高濃度酸素を投与すると、CO2ナルコーシス(意識障害・呼吸性アシドーシス・呼吸抑制)を起こし得る。 ・機序:低酸素性換気ドライブの消失、低酸素性肺血管収縮の解除による換気血流比不均等の悪化、ホールデン効果。 ・酸素は低流量から開始し、SpO2 88~92%を目標に血液ガスでPaCO2を確認しながら調整する。 ・人工呼吸(NPPV、気管挿管、気管切開)や呼吸中枢刺激薬は、換気を増やしてCO2ナルコーシスを防ぐ・治す側の手段である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。