StudyMed医師国家試験

胆汁が届かないと骨が折れる―胆道閉鎖症術後に補うべきビタミン

第102回医師国家試験 G問題 第54問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第54問

2歳の男児。生後2か月で胆道閉鎖症と診断され,根治手術が行われた。術後の胆汁排泄は不良で,胆管炎を繰り返し,肝硬変と診断されている。左上腕骨に病的骨折を認める。  補うべき栄養素はどれか。

  1. a.亜鉛
  2. b.セレン
  3. c.ビオチン
  4. d.ビタミンC
  5. e.ビタミンD

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胆道閉鎖症の術後に胆汁がうまく出ていない子どもに起きた病的骨折から、不足している栄養素を考える問題だ。ポイントは「胆汁が腸に届かないと何が吸収できなくなるか」と「骨折を説明できる栄養素はどれか」の2つを結びつけること。まず、胆汁の役割から整理しようか。
医学生医学生
胆汁は脂肪の消化吸収を助けるんですよね。生理学の講義でミセル形成を習いました。
ドクタードクター
そう。胆汁酸が脂質を包み込んでミセルという小さな粒子を作り、それによって脂肪が小腸から吸収される。このとき一緒に吸収されるのが脂溶性ビタミンだ。どのビタミンだったか覚えているかな。
医学生医学生
A、D、E、Kですね。語呂で覚えました。
ドクタードクター
その通り。胆汁が腸管に届かない状態が続くと、脂肪吸収障害とともにこの4つがそろって欠乏する。そのうえで、骨折と結びつくのはどれだろう。
医学生医学生
骨ならカルシウムの吸収に関わるビタミンDだと思います。でもビタミンKも骨の代謝に関係すると聞いたことがあって、少し迷います。
ドクタードクター
良いところに気づいたね。ビタミンKも骨の蛋白に関わるけれど、欠乏の主な症状は凝固因子の産生低下による出血傾向だ。小児の病的骨折を最も直接的に説明するのはビタミンD欠乏によるくる病だよ。活性型ビタミンDが足りないと腸からのカルシウムとリンの吸収が落ち、骨基質である類骨の石灰化がうまくいかない。成長期の子どもでは骨端線の石灰化障害を伴うくる病として現れ、骨がもろくなって変形や病的骨折を起こす。
医学生医学生
この子は肝硬変にもなっていますが、それも関係しますか。
ドクタードクター
関係しうる。ビタミンDは肝臓で25位が水酸化され、次に腎臓で1α位が水酸化されて活性型になる。肝機能が落ちるとこの最初の段階も障害されうるから、吸収障害と活性化障害の二重のハンディがあるわけだ。
医学生医学生
吸収も活性化も両方やられているなら、ビタミンDが答えですね。ほかの選択肢はどう考えればいいですか。
ドクタードクター
順に見ていこう。まず亜鉛。亜鉛は十二指腸から空腸で吸収される微量元素で、吸収に胆汁酸はいらない。欠乏すると口や肛門の周りの皮膚炎、脱毛、味覚障害、成長障害などが出る。
医学生医学生
小児科の講義で、腸性肢端皮膚炎の写真を見ました。開口部の周りがただれていたのが印象的です。
ドクタードクター
まさにそれ。セレンは抗酸化酵素の構成成分で、欠乏すると心筋症や筋症状、爪の白色化が起こる。長期の中心静脈栄養で問題になるけれど、胆汁排泄障害で特異的に欠乏するものではない。ビオチンは水溶性ビタミンで、欠乏すると湿疹様の皮膚炎や脱毛が出る。特殊ミルクや生卵白の大量摂取で問題になるけれど、やはり胆汁は関係ない。
医学生医学生
ビタミンCは壊血病で骨膜下出血が起こるので、骨とつながる気がするのですが。
ドクタードクター
鋭いね。ビタミンCはコラーゲン合成に必要で、欠乏すると骨形成障害や骨膜下出血を起こし、乳幼児では痛みで手足を動かさなくなる偽性麻痺が知られている。ただ、水溶性で吸収に胆汁は関与しないから、この子の胆汁排泄障害から予想される欠乏ではないんだ。病態のつながりで考えると、ビタミンDが一番すっきり説明できる。
医学生医学生
「胆汁うっ滞+病的骨折=ビタミンD欠乏によるくる病」という流れですね。
ドクタードクター
その通り。ここから発展知識だ。胆汁うっ滞のある子どもでは、ビタミンDだけでなく4種類の脂溶性ビタミンをまとめて補充するのが基本になる。Aが不足すれば夜盲や角膜乾燥、Eなら溶血性貧血や失調などの神経症状、Kなら出血傾向が起こる。くる病ではALP高値や低リン血症がみられ、X線で骨幹端の杯状陥凹や毛羽立ちがみられるよ。
医学生医学生
胆道閉鎖症そのものについても確認したいです。手術は葛西手術でしたよね。
ドクタードクター
そう、肝門部空腸吻合術だ。早期に手術するほど胆汁排泄が得られやすいので、遷延性黄疸や灰白色便に早く気づくことが大切で、母子健康手帳の便色カードがその役目を担っている。術後は逆行性胆管炎、脂溶性ビタミン欠乏、肝硬変と門脈圧亢進症が問題になり、胆汁が出ない例や肝硬変が進んだ例は肝移植の適応になる。
医学生医学生
小児外科の実習で、便色カードを使って保護者に説明している場面を見学しました。早期発見がその後の栄養や骨の問題まで左右するんですね。
ドクタードクター
そういうこと。外来で胆汁うっ滞の子を診るときは、黄疸や肝機能だけでなく、成長や骨、出血傾向にも目を配ることが大切だよ。

まとめ

胆汁酸は脂質をミセルに取り込んで吸収を助けるため、胆汁排泄障害では脂肪とともに脂溶性ビタミン(A、D、E、K)が欠乏します。ビタミンDが不足するとカルシウム・リンの吸収が低下して骨の石灰化が障害され、小児ではくる病として骨の脆弱化や病的骨折を来します。ビタミンDは肝臓と腎臓で順に水酸化されて活性型となるため、肝硬変では活性化の障害も加わりえます。亜鉛、セレン、ビオチン、ビタミンCは吸収に胆汁をほとんど必要とせず、胆汁うっ滞と骨折の組み合わせを説明できません。胆道閉鎖症術後の管理では、胆管炎や肝硬変だけでなく脂溶性ビタミンの補充と骨・成長の評価が重要であり、栄養素の吸収経路を病態と結びつけて理解することが臨床で役立ちます。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・2歳男児。生後2か月で胆道閉鎖症(congenital biliary atresia:肝外胆管が閉塞し胆汁が腸管へ流れない疾患)と診断され、根治手術(肝門部空腸吻合術=葛西手術)を受けている。 ・術後も胆汁排泄が不良で、胆管炎を繰り返し、肝硬変に進行している。 ・左上腕骨に病的骨折(通常なら折れない程度の外力で起こる骨折)がある。

病態の考え方

胆汁中の胆汁酸は、腸管内で脂肪をミセル(胆汁酸が脂質を包み込んだ微小な粒子)に取り込み、脂肪とともに脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収を可能にしている。胆汁が腸管に届かない状態が続くと、脂肪吸収障害とともに脂溶性ビタミンがそろって欠乏する。 さらに本児は肝硬変に至っている。ビタミンDは肝臓で25位が水酸化されて25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)になり、次いで腎臓で1α位が水酸化されて活性型の1,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH)2D)になる。肝機能低下はこの活性化の第一段階も障害しうる。 活性型ビタミンDが不足すると腸管からのカルシウム・リンの吸収が低下し、骨基質(類骨)の石灰化が障害される。成長期の小児ではこれがくる病(骨端線の石灰化障害を伴う骨軟化)として現れ、骨が脆弱になり、骨変形や病的骨折を来す。

設問への考え方

「胆汁排泄障害(胆汁うっ滞)」と「病的骨折」を結びつけると、脂溶性ビタミンであるビタミンDの吸収障害によるくる病が最も考えやすい。したがって補充すべき栄養素はビタミンDである。水溶性ビタミンや微量元素の吸収は胆汁への依存度が低く、骨折とも直接結びつかない。

選択肢考察

  1. ×a.  亜鉛

    亜鉛は主に十二指腸から空腸で吸収される微量元素で、吸収に胆汁酸を必要としない。欠乏すると口囲・肛門周囲など開口部周囲の皮膚炎やびらん(腸性肢端皮膚炎様の皮疹)、脱毛、味覚障害、下痢、成長障害、創傷治癒遅延などを生じる。胆汁うっ滞と病的骨折の組み合わせを説明するものではない。

  2. ×b.  セレン

    セレンはグルタチオンペルオキシダーゼなどの構成成分として抗酸化作用を担う微量元素である。欠乏すると心筋症(中国の克山病が有名)、筋肉痛・筋力低下などの筋症状、爪の白色化などを来す。長期の中心静脈栄養などで問題となるが、胆汁排泄障害で特異的に欠乏するものではなく、病的骨折の原因にもならない。

  3. ×c.  ビオチン

    ビオチン(ビタミンB7、ビタミンHとも呼ばれる)は水溶性ビタミンで、カルボキシラーゼ群の補酵素として糖新生・脂肪酸合成などに関わる。欠乏すると脂漏性皮膚炎様の湿疹、脱毛、舌炎、代謝性アシドーシスなどがみられる。生卵白の大量摂取やビオチンを含まない特殊ミルク・経腸栄養で問題になるが、吸収に胆汁は不要であり、骨折とは結びつかない。

  4. ×d.  ビタミンC

    ビタミンC(アスコルビン酸)は水溶性ビタミンで、コラーゲンの合成(プロリン・リシンの水酸化)に必要であり、抗酸化作用ももつ。欠乏症は壊血病で、血管壁の脆弱化による歯肉出血・皮下出血、骨膜下出血、骨形成障害などを来す。乳幼児では骨膜下出血による四肢の疼痛で動かさなくなる症状(偽性麻痺)が知られる。ただし吸収に胆汁は関与せず、本児の胆汁排泄障害から予想される欠乏ではない。

  5. ○e.  ビタミンD

    ビタミンDは脂溶性ビタミンであり、腸管での吸収に胆汁酸によるミセル形成が必要である。胆道閉鎖症術後の胆汁排泄不良では吸収が大きく低下し、加えて肝硬変では肝臓での25位水酸化も障害されうる。その結果、カルシウム・リンの吸収が低下して骨の石灰化が障害され、くる病(成長期の骨軟化)を生じ、骨の脆弱化から病的骨折に至る。本児の病的骨折を説明でき、補充すべき栄養素である。

胆道閉鎖症の概要

・新生児〜乳児期に肝外胆管が炎症性に閉塞・消失する疾患で、女児にやや多い。 ・症状は遷延性黄疸、灰白色便(淡黄色〜白色の便)、濃褐色尿、肝腫大。便色カードによる早期発見が行われている。 ・治療は肝門部空腸吻合術(葛西手術)で、生後60日以内など早期に手術するほど胆汁排泄が得られやすい。 ・術後の問題:逆行性胆管炎、胆汁排泄不良による脂肪吸収障害と脂溶性ビタミン欠乏、肝硬変への進行と門脈圧亢進症(食道・胃静脈瘤、脾腫・血小板減少、高アンモニア血症など)。胆汁排泄が得られない例や肝硬変が進行した例では肝移植の適応となる。

胆汁うっ滞で起こる脂溶性ビタミン欠乏

・ビタミンA:夜盲、眼球乾燥症(角膜乾燥)、皮膚の角化異常 ・ビタミンD:くる病(小児)、骨軟化症(成人)、低カルシウム血症、病的骨折 ・ビタミンE:溶血性貧血、脊髄小脳変性様の神経症状(深部感覚障害、失調) ・ビタミンK:凝固因子(II、VII、IX、X)の産生低下による出血傾向、プロトロンビン時間延長 胆汁うっ滞がある小児では、これら4種類をまとめて補充するのが基本であり、ビタミンD補充としては活性型ビタミンD製剤が用いられることも多い。

ビタミンDの代謝

皮膚(紫外線)での産生または食事からの吸収 → 肝臓で25位水酸化(25(OH)D:体内のビタミンD量の指標)→ 腎臓で1α位水酸化(1,25(OH)2D:活性型)→ 腸管からのカルシウム・リン吸収促進、骨石灰化の維持。 くる病では血清アルカリホスファターゼ(ALP)高値、低リン血症や低カルシウム血症、X線で骨幹端の杯状陥凹(cupping)・毛羽立ち(fraying)などがみられる。

主な微量元素・水溶性ビタミン欠乏の症状

・亜鉛:開口部周囲の皮膚炎、脱毛、味覚障害、成長障害 ・セレン:心筋症、筋症状、爪の白色化 ・ビオチン:湿疹様皮膚炎、脱毛 ・ビタミンC:壊血病(出血傾向、骨膜下出血) ・ビタミンB1:脚気、Wernicke脳症

POINT

・胆汁排泄障害(胆汁うっ滞)では脂肪吸収障害により脂溶性ビタミン(A、D、E、K)が欠乏する。 ・胆汁うっ滞+病的骨折 → ビタミンD欠乏によるくる病を考える。 ・ビタミンDは肝臓(25位)と腎臓(1α位)で水酸化されて活性型となる。肝硬変も活性化障害の一因になりうる。 ・胆道閉鎖症術後の問題点:胆管炎、脂溶性ビタミン欠乏、肝硬変・門脈圧亢進症。進行例は肝移植の適応。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。