StudyMed医師国家試験

ワルファリン内服中の被殻出血―血腫を広げないための「リバース」という発想

第102回医師国家試験 G問題 第55問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第55問

65歳の男性。頭痛と右片麻痺とのため搬入された。10年前に高血圧,5年前に心房細動を指摘されており,ワルファリン服用中である。頭部CTで左被殻出血と診断された。  投与すべき薬剤はどれか。

  1. a.ヘパリン
  2. b.ドパミン
  3. c.リドカイン
  4. d.ビタミンK
  5. e.ニトログリセリン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、抗凝固薬を飲んでいる人に脳出血が起きたとき、まず何をすべきかを問う問題だ。注目点は「心房細動でワルファリンを服用中」という背景。出血そのものだけでなく、出血を止まりにくくしている薬の存在をどう扱うかがテーマになる。
医学生医学生
高血圧の既往があって被殻出血なので、典型的な高血圧性脳出血ですよね。左の被殻だから右片麻痺というのも合います。
ドクタードクター
そうだね。被殻は高血圧性脳出血の最多部位で、長年の高血圧でレンズ核線条体動脈という穿通枝が傷んで破綻する。左被殻の血腫が内包を圧迫・破壊するから、対側の右半身が麻痺する。ここまでは診断の確認だ。問題はその先、ワルファリンが効いた状態で出血している点なんだ。
医学生医学生
血が固まりにくいから、血腫がどんどん大きくなってしまうということですか。
ドクタードクター
その通り。抗凝固薬服用中の脳出血は、そうでない例に比べて血腫が増大しやすく、予後も悪いことが知られている。だから急性期の柱は、抗凝固薬をすぐ中止する、抗凝固作用を速やかに打ち消す、血圧をしっかり下げる、の3つになる。
医学生医学生
薬理学の講義で、ワルファリンはビタミンKに拮抗すると習いました。だから拮抗薬はビタミンKですね。
ドクタードクター
正解。もう少し踏み込むと、ワルファリンはビタミンKエポキシド還元酵素を阻害して、還元型ビタミンKの再生を妨げる。その結果、肝臓で第II、VII、IX、X因子がγ-カルボキシ化されず、働かない凝固因子しかできなくなる。ビタミンKを静注すれば、この阻害を乗り越えて凝固因子の産生が回復するんだ。
医学生医学生
ということは、ビタミンKを打ってもすぐには効かないんでしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。凝固因子を新しく作り直すのを待つことになるから、効果が出るまで数時間から半日ほどかかる。そこで今は、凝固因子そのものを補うプロトロンビン複合体製剤、いわゆるPCCをビタミンKと併用して、PT-INRを速やかに正常化させることが推奨されている。PCCが使えなければ新鮮凍結血漿を使うけれど、容量負荷が大きく効果も遅いのが弱点だ。
医学生医学生
ヘパリンも抗凝固薬なので、むしろ悪化させてしまいますよね。
ドクタードクター
そう、ヘパリンはアンチトロンビンに結合してその作用を強め、トロンビンや第Xa因子を不活化する薬だ。脳出血の急性期に使えば血腫を広げるので禁忌。ちなみにヘパリンを中和するのはプロタミン硫酸塩で、ワルファリンとビタミンKの関係と対にして覚えておくといい。
医学生医学生
ドパミンはショックのときの昇圧薬なので、出血を広げる方向に働いてしまいそうです。
ドクタードクター
その理解でいい。脳出血の急性期は血腫増大を防ぐためにむしろ降圧が必要だから、昇圧薬を使う理由はない。リドカインはNaチャネル遮断薬で、局所麻酔や心室性不整脈に使う薬だ。この症例には心室性不整脈を示す所見もないし、心房細動の治療薬でもない。
医学生医学生
ニトログリセリンは血圧を下げるので、降圧目的なら使えそうな気がしたのですが。
ドクタードクター
いい迷いどころだね。確かに降圧作用はあるけれど、脳血管を拡張させて頭蓋内圧を上げるおそれがあるので、脳出血の降圧薬としては適さない。脳出血急性期にはニカルジピンなどのカルシウム拮抗薬の持続静注がよく使われる。目標は収縮期血圧140 mmHg未満で、できるだけ早く下げて1週間ほど維持するのが現在の考え方だ。
医学生医学生
以前は脳血流が落ちるから下げすぎは危険だと聞いた気がします。
ドクタードクター
かつてはそういう考えもあったけれど、現在のガイドラインでは早期の積極的降圧が勧められている。ただし過度に急激な降圧は避ける、というバランスも大事だよ。
医学生医学生
整理すると、抗凝固薬を中止して、ビタミンKとPCCでリバースし、カルシウム拮抗薬で降圧する、という流れですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に発展知識を。最近はワルファリン以外に直接作用型経口抗凝固薬、DOACを飲んでいる人も多い。ダビガトランにはイダルシズマブ、リバーロキサバンやアピキサバンなどの第Xa因子阻害薬にはアンデキサネット アルファという特異的中和薬がある。救急外来では、搬送された脳卒中患者が何の抗凝固薬をいつ飲んだかを最初に確認することが、治療の第一歩になるんだ。
医学生医学生
救急科の実習でも、お薬手帳をまず確認するよう言われました。その意味がよくわかりました。
ドクタードクター
それに被殻出血では、病巣側への共同偏視や、優位半球なら失語も伴いうる。血腫量が多く圧迫所見が強い中等症では手術も検討されるから、神経所見とCTをあわせて経過を追っていこう。

まとめ

心房細動などでワルファリンを服用中の患者に脳出血が起きると、凝固能低下のため血腫が増大しやすく予後も悪くなります。急性期には抗凝固薬を直ちに中止し、ビタミンKの静注でビタミンK依存性凝固因子(第II、VII、IX、X因子)の産生を回復させますが、効果発現に時間がかかるため、PCC(使えなければ新鮮凍結血漿)を併用して速やかにPT-INRを是正します。あわせてニカルジピンなどのカルシウム拮抗薬で収縮期血圧140 mmHg未満を目標に降圧し、ヘパリンや昇圧薬は禁忌、頭蓋内圧を上げうるニトログリセリンも適しません。ヘパリンにはプロタミン、DOACにはイダルシズマブやアンデキサネット アルファと、抗凝固薬ごとの中和法を整理しておくことは、救急の現場で迷わず動くための基礎になります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・65歳男性、頭痛と右片麻痺で救急搬入。 ・既往:高血圧(10年前から)、心房細動(5年前から)。心房細動による心原性脳塞栓症の予防のためワルファリンを服用中。 ・頭部CTで左被殻出血。左大脳半球の被殻出血が内包を圧迫・破壊するため、対側(右)の片麻痺が生じている。

病態の考え方

被殻は高血圧性脳出血の好発部位であり、長年の高血圧による穿通枝(レンズ核線条体動脈)の血管壊死が背景にある。これに加え、ワルファリンによって凝固能が低下しているため、出血が止まりにくく、血腫が拡大して症状が悪化する危険が高い。抗凝固薬服用中の脳出血は、非服用例に比べて血腫増大が多く予後も悪いことが知られている。

設問への考え方

抗凝固薬服用中の脳出血では、①抗凝固薬を直ちに中止する、②抗凝固作用を速やかに是正(リバース)する、③血圧を十分に下げる、が急性期治療の柱である。ワルファリンはビタミンK依存性凝固因子(第II、VII、IX、X因子)の産生を抑えることで作用するため、その拮抗にはビタミンKを投与する。選択肢の中で投与すべき薬剤はビタミンKである。 なお、ビタミンKは肝臓での凝固因子の新たな合成を促す薬であり、効果が現れるまで数時間以上かかる。そのため現在は、ビタミンKの静注に加えて、凝固因子そのものを補う乾燥濃縮人プロトロンビン複合体(PCC)を投与し、PT-INR(プロトロンビン時間の国際標準比)を速やかに是正することが推奨されている。PCCが使えない場合は新鮮凍結血漿(FFP)が用いられる。

選択肢考察

  1. ×a.  ヘパリン

    ヘパリンは抗凝固薬である。それ自体は凝固因子を直接阻害せず、生体内の凝固阻止因子であるアンチトロンビン(アンチトロンビンIII)に結合してその作用を強め、トロンビンや第Xa因子などのセリンプロテアーゼを不活性化する。したがってアンチトロンビンが欠乏すると十分な効果が出ない。脳出血の急性期に投与すれば凝固能がさらに低下し血腫を拡大させるため、投与してはならない(禁忌)。なお、ヘパリンの作用を中和する薬はプロタミン硫酸塩である。

  2. ×b.  ドパミン

    ドパミンはカテコラミン製剤で、用量に応じて腎血流増加(低用量)、心収縮力増強(中等量)、血管収縮による昇圧(高用量)の作用を示し、ショックや急性心不全の循環維持に用いる。脳出血の急性期には血腫増大を防ぐためにむしろ降圧が必要であり、昇圧作用をもつドパミンを用いる理由はない。

  3. ×c.  リドカイン

    リドカインはNaチャネル遮断作用をもつ局所麻酔薬であり、クラスIb群抗不整脈薬として心室性不整脈(心室頻拍など)の治療にも用いられる。本例の問題は抗凝固療法中の脳出血であり、心室性不整脈を示す所見もないため適応はない。心房細動の治療薬でもない。

  4. ○d.  ビタミンK

    ワルファリンはビタミンKエポキシド還元酵素を阻害して還元型ビタミンKの再生を妨げ、肝臓でのビタミンK依存性凝固因子(第II、VII、IX、X因子)の活性化(γ-カルボキシ化)を抑えることで抗凝固作用を発揮する。ビタミンKを静注すれば、この阻害を乗り越えて凝固因子の産生が回復し、ワルファリンの作用を打ち消すことができる。ただし凝固因子の新たな合成を介するため効果発現には時間を要する(数時間〜半日程度)。脳出血のように緊急に是正が必要な場合は、PCC(または入手できない場合は新鮮凍結血漿)を併用して凝固因子を直接補い、速やかにPT-INRを正常化させる。

  5. ×e.  ニトログリセリン

    ニトログリセリンは硝酸薬で、主に静脈を、高用量では動脈も拡張させ、狭心症発作や急性心不全の治療に用いる。静注で降圧に用いられることもあるが、脳血管を拡張させて頭蓋内圧を上昇させるおそれがあり、頭蓋内圧亢進が懸念される脳出血の降圧薬としては適さない。脳出血急性期の降圧にはニカルジピンなどのカルシウム拮抗薬の持続静注が一般に用いられる。

抗凝固薬服用中の脳出血への対応

・抗凝固薬を直ちに中止する。 ・ワルファリン:ビタミンK静注+PCC(乾燥濃縮人プロトロンビン複合体)でPT-INRを是正する。PCCが使えなければ新鮮凍結血漿(FFP)を用いる。FFPは大量の容量負荷が必要で、効果発現も遅い。 ・直接作用型経口抗凝固薬(DOAC):ダビガトラン(トロンビン阻害薬)にはイダルシズマブ、第Xa因子阻害薬(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンなど)にはアンデキサネット アルファといった特異的中和薬がある。 ・ヘパリン:プロタミン硫酸塩で中和する。

脳出血急性期の血圧管理

・かつては脳循環の自動調節能が障害されているため過度の降圧は危険とする考えもあったが、現在は収縮期血圧140 mmHg未満を目標にできるだけ早期に降圧し、7日間程度維持することが勧められている(過度の急激な降圧は避ける)。 ・降圧薬としてはニカルジピン、ジルチアゼムなどのカルシウム拮抗薬の持続静注がよく用いられる。 ・いわゆる止血薬(トラネキサム酸など)の有効性は確立していない。

被殻出血

・高血圧性脳出血で最も多い部位で、レンズ核線条体動脈の破綻による。 ・症状:対側片麻痺、対側感覚障害、同名半盲、病巣側への共同偏視。優位半球(通常は左)では失語を伴う。 ・手術(開頭血腫除去術など)の適応は、神経症状が中等症で血腫量が31 mL以上かつ圧迫所見が高度な場合などが目安とされる。意識清明の軽症例や、深昏睡の最重症例は手術適応とならないことが多い。 ・血腫量はCT上の(最大長径 × それに直交する最大径 × 高さ)÷ 2 で概算できる。

POINT

・ワルファリン服用中の出血 → 中止して、ビタミンK静注(+PCC、なければFFP)で拮抗する。 ・ワルファリンはビタミンK依存性凝固因子(II、VII、IX、X)の産生を抑える。ビタミンKの効果発現には時間がかかる。 ・ヘパリンの拮抗薬はプロタミン。脳出血にヘパリン投与は禁忌。 ・脳出血急性期は収縮期血圧140 mmHg未満を目標に降圧する(カルシウム拮抗薬静注など)。 ・被殻出血 → 対側片麻痺、病巣側への共同偏視。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。