StudyMed医師国家試験

消えた心雑音が告げるもの―若年女性の突然死とEisenmenger症候群

第102回医師国家試験 G問題 第50問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第50問

19歳の女性。以前から心疾患のため外来に通院していた。日常の動作はできるが階段や坂を上ると息苦しくなった。2年前に少量の喀血があった。1か月前に受診したときの現症は,身長157 cm,体重42 kg。軽度のチアノーゼとばち指とを認めた。Ⅱ音の亢進を認めたが,心雑音は聴取しなかった。呼吸音に異常を認めなかった。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しなかった。浮腫を認めなかった。この時の心電図(A)と胸部エックス線写真(B)とを別に示す。今朝,起床して洗顔をしている途中に倒れ,心肺停止状態で搬入された。蘇生術が行われたが死亡が確認された。  診断はどれか。

第102回 G問題 第50問の問題画像
  1. a.Eisenmenger症候群
  2. b.QT延長症候群
  3. c.WPW症候群
  4. d.拡張型心筋症
  5. e.完全房室ブロック

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心疾患で通院していた若い女性が突然亡くなった症例から、背景にある病態を診断する問題だ。選択肢はどれも突然死を起こしうる疾患なので、「突然死」だけでは絞れない。チアノーゼとばち指、Ⅱ音、心雑音の有無、そして心電図と胸部エックス線写真を組み合わせて考えよう。まず、チアノーゼとばち指から何が言えるかな。
医学生医学生
慢性的な低酸素血症ですね。若い人なので、チアノーゼ性の先天性心疾患でしょうか。Fallot四徴症とか。
ドクタードクター
先天性心疾患を考えるのは良い出発点だ。ただ、Fallot四徴症や完全大血管転位症のような疾患は乳児期から高度のチアノーゼを示し、多くは早い時期に手術が必要になる。手術なしで19歳まで日常生活を送れていて、チアノーゼも軽度というのは合わないね。次にⅡ音の亢進と喀血に注目してみよう。
医学生医学生
Ⅱ音亢進は肺高血圧のサインだと、OSCE対策の心音聴診の練習で習いました。喀血も肺高血圧と関係がありますか。
ドクタードクター
ある。肺動脈圧が高い状態が続くと肺の血管が破綻して喀血を起こすことがあるんだ。画像も同じ方向を示しているよ。心電図ではV1〜V3の高いR波と右軸偏位があって右室肥大を示し、胸部エックス線写真では心拡大はないけれど、左第2弓が突出して肺門部の肺動脈が拡張している。どれも高度の肺高血圧を示す所見だ。
医学生医学生
でも、心疾患があるのに心雑音がないのが不思議です。
ドクタードクター
そこがこの問題の最大のポイントだ。心室中隔欠損症や動脈管開存症などの左→右シャント疾患では、肺血流の多い状態が長く続くと肺小動脈に閉塞性病変ができて、肺血管抵抗が上がっていく。肺動脈圧が体血圧に近づくと左右の圧較差がなくなってシャント血流が減り、それまで聞こえていた雑音が小さくなったり消えたりするんだ。
医学生医学生
さらに右側の圧が高くなると、シャントが右→左に逆転して静脈血が体循環に流れ込む。だからチアノーゼが出るんですね。
ドクタードクター
その通り。左→右シャント疾患が高度の肺高血圧で逆シャント化した状態がEisenmenger症候群だ。チアノーゼ、ばち指、Ⅱ音亢進、喀血、右室肥大、肺動脈拡張、雑音の消失をすべて一つの病態で説明できる。不整脈や肺出血などで突然死を来しうる点も、今回の転帰と合致する。
医学生医学生
ほかの選択肢も突然死を起こしますよね。QT延長症候群はどう否定しますか。
ドクタードクター
QT延長症候群、WPW症候群、完全房室ブロックの3つは、いずれも心電図で診断する疾患だ。今回の心電図はQT時間が基準範囲内で、torsade de pointesの素地となる再分極の遅れはない。WPW症候群ならPQ短縮、デルタ波、QRS幅の延長がそろうはずだけど、それも認めない。
医学生医学生
循環器内科の実習で、WPWはPQが短くてQRSの立ち上がりがなだらかになると教わりました。完全房室ブロックはP波とQRS波がバラバラに出るんでしたよね。
ドクタードクター
そう、房室解離だね。今回は洞調律で、P波ごとに一定のPQ時間でQRS波が続いているから、房室伝導は保たれている。そもそもこれらの不整脈疾患では、チアノーゼや肺高血圧の所見を説明できない。
医学生医学生
拡張型心筋症は、心拡大がないことで否定できますか。
ドクタードクター
その通り。拡張型心筋症は心室の拡大と収縮能低下が本態だから、胸部エックス線写真で心胸郭比が大きくなり、心不全が進むと肺うっ血や胸水も出てくる。今回は心拡大も肺うっ血もなく、チアノーゼや肺動脈拡張も説明できない。
医学生医学生
Eisenmenger症候群になってしまったら、欠損孔を閉じても良くならないんですよね。
ドクタードクター
大事なところだ。この段階の肺血管病変は不可逆で、シャントの閉鎖術はむしろ禁忌になる。右心系の圧の逃げ道がなくなって右心不全が悪化するからだ。治療はエンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、プロスタサイクリン製剤などの肺血管拡張薬が中心で、根治的には心肺同時移植が検討される。
医学生医学生
右→左シャントがあると、奇異性塞栓や脳膿瘍にも注意が必要だと病態生理の講義で聞きました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。静脈系の血栓や細菌が、肺というフィルターを通らずに体循環へ入るから起こるんだ。ほかにも二次性多血症による過粘稠症状や、動脈管開存症が原因のときに下肢優位にチアノーゼが出る解離性チアノーゼも特徴的だ。管理面では、脱水や急な血管拡張、高地滞在が状態を悪化させうること、そして妊娠は母体死亡率が高く原則として避けるべきとされることも覚えておこう。若い女性の患者さんでは、早い段階からの説明が欠かせないよ。
医学生医学生
左→右シャント疾患は、肺高血圧が不可逆になる前に見つけて治療することが大切なんですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題のメッセージだ。シャント疾患の経過で雑音が小さくなったら「良くなった」と安心するのではなく、「肺高血圧が進んだのでは」と疑う視点を持ってほしい。

まとめ

Eisenmenger症候群は、心室中隔欠損症や動脈管開存症などの左→右シャント疾患で肺血流増加が続き、肺血管の閉塞性病変と高度の肺高血圧によってシャントが右→左へ逆転した病態です。逆シャント化するとシャント雑音は減弱・消失し、チアノーゼとばち指が現れ、Ⅱ音亢進・喀血・右室肥大・左第2弓突出といった肺高血圧の所見がそろいます。突然死を来すQT延長症候群・WPW症候群・完全房室ブロックは心電図所見で、拡張型心筋症は心拡大の有無で鑑別できます。この段階ではシャント閉鎖術は禁忌で、肺血管拡張薬や心肺移植が治療の選択肢となり、妊娠は原則避けるべきとされます。「雑音の消失は改善ではなく悪化のサインかもしれない」という視点は、先天性心疾患を長期に診るうえで欠かせない考え方です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・19歳女性、以前から心疾患で外来通院中(先天性心疾患の存在が示唆される) ・階段や坂で息切れ:労作時呼吸困難(NYHA心機能分類Ⅱ度相当) ・2年前の少量喀血:肺高血圧に伴う肺血管の破綻を示唆する ・軽度のチアノーゼとばち指:慢性的な低酸素血症、すなわち右→左シャントの存在を示す ・Ⅱ音の亢進:Ⅱ音の肺動脈成分(ⅡP)の増強で、肺高血圧の代表的な聴診所見 ・心雑音なし:本来あるはずのシャント雑音が消えている ・肝腫大・浮腫なし:明らかな右心不全の徴候はまだない ・洗顔中に突然倒れ、心肺停止で死亡:突然死

画像所見

心電図(A)では、V1〜V3で高いR波がみられ、右軸偏位を伴う。これは肺高血圧による圧負荷を反映した右室肥大の所見である。QT時間の延長、デルタ波(δ波)、房室伝導障害は認めない。胸部エックス線写真(B)では心胸郭比(CTR)は正常範囲で心拡大はなく、左第2弓(肺動脈)の突出と肺門部肺動脈の拡張がみられる。肺うっ血や胸水はない。

診断までの考え方

若年者でチアノーゼとばち指を伴う心疾患なので、まず先天性心疾患を考える。ただし、チアノーゼは軽度で、手術を受けずに19歳まで日常生活が送れていることから、Fallot四徴症、完全大血管転位症、総肺静脈還流異常症、三尖弁閉鎖症などの、乳児期から高度のチアノーゼを呈する疾患は考えにくい。 一方、Ⅱ音亢進・喀血・心電図の右室肥大・肺動脈の拡張はそろって高度の肺高血圧を示す。心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)などの左→右シャント疾患では、肺血流の増加が長く続くと肺小動脈に閉塞性病変が生じ、肺血管抵抗が上昇する。肺動脈圧が体血圧と同等以上になると、左右の圧較差がなくなってシャント血流が減る(あるいは逆転する)ため、それまで聞こえていたシャント雑音が小さくなるか消失する。さらにシャントが右→左に逆転すると静脈血が体循環に流れ込み、チアノーゼが出現する。心雑音を聴取しないこと、軽度のチアノーゼがあることは、まさにこの段階を示している。 このように左→右シャント疾患が高度の肺高血圧のために逆シャント化した状態がEisenmenger症候群であり、本例はこれに不整脈などを契機とした突然死を来したと考えられる。

設問への考え方

選択肢には突然死を来しうる疾患が並んでいるが、QT延長症候群・WPW症候群・完全房室ブロックはいずれも心電図で診断される疾患であり、本例の心電図にはそれぞれの特徴的所見がない。拡張型心筋症は心拡大が前提となるが、本例の胸部エックス線写真では心拡大がない。チアノーゼ、ばち指、Ⅱ音亢進、喀血、右室肥大、肺動脈拡張をすべて説明できるのはEisenmenger症候群のみである。

選択肢考察

  1. ○a.  Eisenmenger症候群

    左→右シャントを持つ先天性心疾患が、長期の肺血流増加によって肺血管閉塞性病変と高度の肺高血圧を来し、シャントが右→左へ逆転した病態である。本例の軽度チアノーゼ・ばち指(右→左シャントによる低酸素血症)、Ⅱ音亢進・喀血(肺高血圧)、心雑音の消失(左右の圧較差消失によるシャント血流の減少)、心電図の右室肥大と右軸偏位、胸部エックス線写真の左第2弓突出と肺動脈拡張は、すべてこの病態で矛盾なく説明できる。Eisenmenger症候群では不整脈、肺出血、肺動脈の解離・破裂などにより突然死を来しうるため、本例の転帰とも合致する。

  2. ×b.  QT延長症候群

    QT延長症候群は心筋の再分極が遅れる疾患で、torsade de pointes(多形性心室頻拍)から心室細動を起こし、失神や若年者の突然死を来す。突然死という点では本例と共通するが、本例の心電図ではQTc(心拍数で補正したQT時間)は約0.40秒で基準範囲内であり、延長はない。また、QT延長症候群ではチアノーゼ、ばち指、Ⅱ音亢進、右室肥大、肺動脈拡張は説明できない。

  3. ×c.  WPW症候群

    WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群は心房と心室をつなぐ副伝導路(Kent束)を持つ疾患で、心電図ではPQ時間の短縮(0.12秒未満)、QRS立ち上がりのデルタ波、QRS幅の延長を示す。心房細動を合併すると副伝導路を介して極めて速い心室応答となり、心室細動から突然死を来すことがある。本例の心電図ではPQ時間は約0.13秒と短縮しておらず、QRS幅も延長しておらず、明らかなデルタ波はない。V1のQRSの立ち上がりが一見デルタ波のように見えても、PQ短縮とQRS延長を伴わない以上WPW症候群とは判断できない。チアノーゼや肺高血圧所見も説明できない。

  4. ×d.  拡張型心筋症

    拡張型心筋症は左室(ときに両心室)の拡大と収縮能低下を特徴とし、心不全や心室性不整脈による突然死を来す。胸部エックス線写真では心拡大(CTRの増大)がみられ、心不全が進むと肺うっ血や胸水を伴う。本例は心胸郭比が正常範囲で心拡大がなく、肺うっ血や胸水もない。チアノーゼやばち指、肺動脈の拡張を主とする所見も拡張型心筋症では説明できない。

  5. ×e.  完全房室ブロック

    完全房室ブロック(Ⅲ度房室ブロック)では心房から心室への興奮伝導が完全に途絶え、心電図ではP波とQRS波がそれぞれ独立したリズムで出現する(房室解離)。徐脈による失神(Adams-Stokes発作)や突然死の原因となる。本例の心電図は洞調律で、P波ごとに一定のPQ時間(約0.13秒、基準は0.12〜0.20秒)でQRS波が続いており、房室伝導障害はない。

Eisenmenger症候群の成り立ち

1. VSD、PDA、ASD、房室中隔欠損症などの左→右シャント疾患で肺血流が増加する。 2. 肺小動脈に高い血流と圧が加わり続けると、内膜肥厚・中膜肥厚・叢状病変などの閉塞性病変が進行する(病理学的な重症度はHeath-Edwards分類で表される)。 3. 肺血管抵抗が上昇し、肺動脈圧が体血圧に近づく・上回ると、シャントは両方向性から右→左へ逆転する。 4. 肺血管病変はこの段階では不可逆的で、欠損孔を閉じても肺高血圧は改善しない。 シャントの部位が大きく圧が高いVSDやPDAは早期(乳幼児期)に肺血管病変が進みやすく、ASDは比較的遅れて成人期に進行することが多い。

主な症状・所見

・労作時呼吸困難、易疲労感、失神 ・チアノーゼ、ばち指 ・二次性多血症(赤血球増加)と過粘稠症候群(頭痛、めまいなど) ・喀血(肺血管の破綻) ・奇異性塞栓や脳膿瘍(右→左シャントのため静脈系の血栓や細菌がフィルターとなる肺を経ずに体循環へ入る) ・Ⅱ音(肺動脈成分)の亢進。シャント雑音は減弱・消失し、代わりに肺動脈弁逆流によるGraham Steell雑音(拡張期の漸減性雑音)や三尖弁逆流雑音を聴取することがある ・PDAによるEisenmenger化では、動脈管が下行大動脈の左鎖骨下動脈分岐より遠位に開口するため、下肢に強く上肢に乏しいチアノーゼ(differential cyanosis:解離性チアノーゼ)がみられる

検査所見

・心電図:右軸偏位、右室肥大(V1の高いR波、ストレインパターン)、右房負荷 ・胸部エックス線写真:左第2弓の突出、肺門部肺動脈の拡張と末梢肺血管陰影の急な先細り(pruning)。心拡大は目立たないことが多い ・心エコー、心臓カテーテル検査:シャント部位の同定、肺動脈圧・肺血管抵抗の評価

治療と管理

・シャントの閉鎖術(原疾患の根治手術)は禁忌である。右心系の逃げ道がなくなり右心不全が悪化するためである。 ・肺動脈性肺高血圧症の治療薬(エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、プロスタサイクリン製剤など)が用いられる。 ・根治的な治療は心肺同時移植(または肺移植と心内修復術)である。 ・妊娠は母体死亡率が高く、原則として避けるべきとされる。 ・過度の瀉血、脱水、急な血管拡張(体血管抵抗の低下は右→左シャントを増やす)、高地滞在などは状態を悪化させうるため注意する。

若年者の突然死を来す主な心疾患

肥大型心筋症、QT延長症候群、Brugada症候群、WPW症候群、カテコラミン誘発多形性心室頻拍、冠動脈起始異常、心筋炎、不整脈原性右室心筋症、Marfan症候群による大動脈解離、肺高血圧症(Eisenmenger症候群を含む)などがある。

POINT

・左→右シャント疾患に高度の肺高血圧が加わり、シャントが右→左へ逆転した病態がEisenmenger症候群である。 ・逆シャント化すると、それまでのシャント雑音は減弱・消失し、チアノーゼとばち指が現れる。「心雑音がないのにチアノーゼとⅡ音亢進」は重要な手がかりである。 ・肺高血圧の所見:Ⅱ音(ⅡP)亢進、喀血、心電図の右室肥大・右軸偏位、胸部エックス線写真の左第2弓突出と肺動脈拡張。 ・Eisenmenger症候群に至った後のシャント閉鎖術は禁忌。治療は肺血管拡張薬と心肺移植である。妊娠は避ける。 ・突然死を来す不整脈疾患(QT延長症候群、WPW症候群、完全房室ブロック)は心電図所見、拡張型心筋症は心拡大の有無で否定できる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。