利尿薬が奪ったカリウム―脱力と結びつく検査値を見極める
第102回医師国家試験 G問題 第49問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。下肢脱力発作を主訴に来院した。1か月前から時々朝起床時に両下肢に力が入らないことがあったが,数時間で回復していた。今朝も同様の脱力があり,昼を過ぎても回復しなかった。高血圧があり,他院でサイアザイド系降圧薬を3か月前から処方されている。神経学的には両下肢近位筋に筋力低下を認めるが,筋萎縮,深部腱反射消失および感覚障害はない。その他身体所見に異常はない。血液所見:赤血球530万,Ht 50%,白血球6,700,血小板37万。血液生化学所見:尿素窒素32.0 mg/dL,クレアチニン1.6 mg/dL,AST 40 IU/L,ALT 35 IU/L,Na 148 mEq/L,K 2.2 mEq/L,Cl 115 mEq/L,CK 460 IU/L(基準40~200)。 検査値の異常で症状と関係があるのはどれか。2つ選べ。
- a.ヘマトクリット〈Ht〉
- b.尿素窒素
- c.ナトリウム
- d.カリウム
- e.クレアチンキナーゼ〈CK〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
サイアザイド系利尿薬は、集合管へのNa到達量の増加とアルドステロン系の活性化を通じて腎からのK喪失を招き、低K血症の代表的な原因となります。高度の低K血症では静止膜電位が保てず近位筋優位の弛緩性筋力低下が起こり、持続すれば筋細胞が傷害されてCKが上昇する(低K血症性ミオパチー)ため、脱力と直接関係する検査値異常は低K血症とCK上昇です。一方、Ht上昇・BUN/Cr比の上昇・軽度の高Na血症は利尿薬による脱水を反映した所見で、脱力の原因ではありません。体内K総量が保たれる甲状腺中毒性周期性四肢麻痺との違いや、高血圧+低K血症で原発性アルドステロン症を鑑別に挙げる視点も重要です。複数の異常値を「原因」と「結果」に分けて読み解く姿勢は、電解質異常を扱うあらゆる場面で役立ちます。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・55歳男性。1か月前から、朝起きたときに両下肢に力が入らない発作を繰り返し、これまでは数時間で自然に回復していた。今回は昼を過ぎても回復しない。 ・高血圧に対し、3か月前からサイアザイド系降圧薬(利尿薬)を内服している。 ・両下肢の近位筋に筋力低下があるが、筋萎縮・深部腱反射消失・感覚障害はない。つまり末梢神経障害や脊髄障害を示す所見はなく、筋そのもの(またはその興奮性)の障害が考えやすい。 ・検査:K 2.2 mEq/Lと高度の低K血症、CK 460 IU/Lと上昇。ほかにHt 50%、BUN 32.0 mg/dL、Cr 1.6 mg/dL(BUN/Cr比20)、Na 148 mEq/L、Cl 115 mEq/Lと、血液濃縮と脱水を示す所見がある。
病態の考え方
サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管でのNa再吸収を抑える。その結果、より下流の集合管に届くNaが増え、さらに循環血液量減少によってレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化するため、集合管からのK排泄が増える。こうして腎からKが失われ、内服開始後に低K血症が進行したと考えられる。 Kは細胞内に多く細胞外に少ないイオンで、その濃度差が筋細胞の静止膜電位を決めている。血清Kが大きく下がると膜の興奮性が保てなくなり、骨格筋が収縮できなくなって筋力低下・弛緩性麻痺が起こる(一般に血清K 2.5 mEq/L未満で起こりやすい)。朝の起床時に発作が起こりやすいのは、前夜の食事(炭水化物)によるインスリン分泌でKが細胞内へ移動することなどが関与する。さらに低K血症が持続すると、運動時の筋血流増加(Kによる局所の血管拡張)が損なわれることや筋細胞の代謝障害により、筋細胞が傷害されてCKが血中に漏れ出る(低K血症性ミオパチー、重症では横紋筋融解症)。今回、脱力が数時間で回復せず長引いているのは、慢性的なK欠乏による筋障害が加わったためと考えられる。 以上より、下肢脱力という症状と直接関係する検査値異常は、低K血症とCK上昇である。Ht・BUN・Naの異常は利尿薬による脱水を反映したもので、脱力の直接の原因ではない。なお、高血圧に低K血症を伴う場合は、利尿薬の影響だけでなく原発性アルドステロン症が潜んでいる可能性もあり、K補正後の再評価(レニン・アルドステロン測定)も考慮する。
選択肢考察
- ×a. ヘマトクリット〈Ht〉
Htは成人男性の基準(おおむね40~50%)の上限にあり、赤血球数530万も高めである。利尿薬による水分喪失で血漿量が減り、血液が濃縮された(相対的赤血球増加)ためと考えられる。Htの上昇そのものが筋力低下を起こすわけではなく、症状とは直接関係しない。
- ×b. 尿素窒素
BUN 32.0 mg/dL、Cr 1.6 mg/dLと上昇しており、BUN/Cr比は20である。BUN/Cr比が高いことは、脱水による腎血流低下(腎前性の腎機能低下)を示唆する。この程度の窒素血症で筋力低下が起こることはなく、症状の原因ではない。
- ×c. ナトリウム
Na 148 mEq/Lと軽度の高Na血症で、Clも高い。これは利尿薬による水分喪失に加え、低K血症が腎の尿濃縮力を低下させて(腎性尿崩症様の状態)水が失われやすくなっていることなどが関与する。高Na血症が高度になると意識障害やけいれんなど中枢神経症状を起こすが、148 mEq/L程度では下肢近位筋の脱力は説明できない。なお、サイアザイドではむしろ低Na血症が起こりやすいことも知っておくとよい。
- ○d. カリウム
K 2.2 mEq/Lは高度の低K血症である。細胞内外のK濃度差は筋細胞の静止膜電位を決めており、低K血症では膜の興奮性が損なわれて骨格筋が収縮できず、四肢、特に近位筋優位の弛緩性筋力低下が起こる。サイアザイドは集合管からのK排泄を増やすため、内服開始後に低K血症が進行し、脱力発作の原因となったと考えられる。
- ○e. クレアチンキナーゼ〈CK〉
CK 460 IU/Lと基準(40~200)の2倍以上に上昇しており、骨格筋細胞の傷害を示す。低K血症が持続すると、運動時の筋血流の増加が妨げられることや筋細胞の代謝障害により筋細胞が壊れ、CKが血中に漏れ出る(低K血症性ミオパチー)。脱力が数時間で回復せず持続していることと合わせ、筋そのものの障害を反映した、症状と関係する検査値異常である。
低K血症の主な原因
・摂取不足:食事摂取不良、神経性食思不振症など。 ・細胞内への移動:インスリン、β2刺激薬、アルカローシス、甲状腺中毒性周期性四肢麻痺など。 ・腎からの喪失:サイアザイド系・ループ利尿薬、原発性アルドステロン症、Cushing症候群、偽性アルドステロン症(甘草)、Bartter症候群・Gitelman症候群、尿細管性アシドーシスなど。 ・腎以外からの喪失:嘔吐、下痢、下剤の乱用など。
低K血症の症状
・筋:筋力低下、弛緩性麻痺、横紋筋融解症(CK上昇)。重症では呼吸筋麻痺。 ・平滑筋:便秘、麻痺性イレウス。 ・心:心電図でT波平低化、U波出現、ST低下。不整脈(特にジギタリス内服中は注意)。 ・腎:尿濃縮力障害による多尿(腎性尿崩症様)、代謝性アルカローシスの助長。
サイアザイド系利尿薬の代表的な副作用
低K血症、低Na血症、低Mg血症、高Ca血症、高尿酸血症、耐糖能異常、脂質異常症、代謝性アルカローシス、光線過敏症。
低K血症性周期性四肢麻痺との関係
周期性四肢麻痺は、発作的に弛緩性四肢麻痺を繰り返す病態で、日本では甲状腺機能亢進症に伴うもの(甲状腺中毒性周期性四肢麻痺、若年~中年男性に多い)が大部分を占め、遺伝性(Caチャネル・Naチャネル遺伝子の異常)はまれである。炭水化物の多い食事、激しい運動後の休息、飲酒などを誘因に、Kが細胞内へ急激に移動して起こる。この場合の低K血症は一過性で、体内のK総量は保たれており、CK上昇は目立たないことが多い。本例のように利尿薬による持続的なK喪失が背景にある場合は、体内のK総量が減少しており、筋障害によるCK上昇を伴いやすい。鑑別のため甲状腺機能の確認も必要である。
治療
Kの補充(経口または点滴静注)と原因薬の中止・変更を行う。静注では、濃度と速度(一般に末梢静脈から40 mEq/L以下、20 mEq/時以下)を守り、心電図モニター下で行う。
POINT
・サイアザイド系・ループ利尿薬は腎からのK喪失を起こし、低K血症の代表的な原因となる。 ・高度の低K血症(おおむね2.5 mEq/L未満)では、近位筋優位の弛緩性筋力低下が起こる。 ・持続する低K血症は筋細胞を傷害し、CK上昇(低K血症性ミオパチー・横紋筋融解症)をきたす。 ・Ht上昇、BUN/Cr比の上昇、高Na血症は利尿薬による脱水の所見であり、脱力の直接の原因ではない。 ・高血圧+低K血症では原発性アルドステロン症も鑑別に挙げる。
