StudyMed医師国家試験

湿疹・易感染・血小板減少の男児―Wiskott-Aldrich症候群から遺伝形式を読み解く

第102回医師国家試験 G問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第41問

1歳の男児。湿疹を主訴に来院した。生後6か月ころから湿疹を認め治療していたが軽快しなかった。皮膚の搔破によってしばしば膿痂疹を形成した。身長68 cm(-1.5 SD),体重7.1 kg(-2.0 SD)。体温37.0℃。脈拍96/分,整。全身に湿疹を認める。右肋骨弓下に肝を1 cm触知する。血液所見:赤血球370万,Hb 9.8 g/dL,Ht 30%,白血球13,000(桿状核好中球5%,分葉核好中球30%,好酸球10%,単球2%,リンパ球53%),血小板2.1万。血液生化学所見:IgG 1,260 mg/dL(基準460~1,220),IgA 200 mg/dL(基準16~128),IgM 10 mg/dL(基準57~260)。CRP 2.1 mg/dL。  この疾患と遺伝形式が同じなのはどれか。2つ選べ。

  1. a.Duchenne型進行性筋ジストロフィー
  2. b.Huntington病
  3. c.結節性硬化症
  4. d.血友病A
  5. e.フェニルケトン尿症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳児期から続く難治性の湿疹をきっかけに原発性免疫不全症を見抜き、その遺伝形式を問う2段構えの問題だ。注目してほしいのは、湿疹以外に何がそろっているか、そして免疫グロブリンの偏り方だよ。まず、湿疹が治りにくい1歳児と聞いて何を考える?
医学生医学生
最初はアトピー性皮膚炎かなと思いました。小児科の実習でも、乳児の湿疹はまずアトピーを考えると教わりました。
ドクタードクター
自然な発想だね。ただ、アトピー性皮膚炎では著明な血小板減少やIgMの低下は説明できない。掻き壊したところに膿痂疹を繰り返すのは細菌への易感染性を示唆しているし、成長障害もある。湿疹・易感染性・血小板減少、この3つがそろったら何が浮かぶかな。
医学生医学生
Wiskott-Aldrich症候群ですね。免疫学の講義で3主徴として覚えました。
ドクタードクター
その通り。しかも男児で、IgMが著明に低く、IgAは高く、IgGはほぼ正常というパターンも典型的だ。IgEも高くなりやすい。WAS遺伝子に変異があってWASPというタンパクが働かず、アクチン細胞骨格の再構成ができないために、T細胞・B細胞・血小板の機能がそろって障害されるんだ。
医学生医学生
血小板減少というとITPとの区別が気になります。
ドクタードクター
良いところに気づいたね。WASの血小板は数が少ないだけでなくサイズが小さいのが特徴で、平均血小板容積が低下する。ITPでは破壊が亢進して若い大型血小板が増えるから、そこが鑑別点になる。さて本題の遺伝形式だ。WASはどうだろう。
医学生医学生
男児に発症するので、X連鎖劣性遺伝だと思います。
ドクタードクター
正解。原因遺伝子はX染色体短腕にある。だから選択肢からX連鎖劣性の疾患を選べばいい。Duchenne型進行性筋ジストロフィーはどうかな。
医学生医学生
ジストロフィン遺伝子がX染色体上にあって、患者はほぼ男児なのでX連鎖劣性です。神経内科の講義でGowers徴候の動画を見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。母親が保因者のことが多いけれど、約3分の1は新生突然変異とされる。もう一つの正解は血友病Aだ。第VIII因子の遺伝子がX染色体長腕にあり、やはりX連鎖劣性。第IX因子が欠乏する血友病Bも同じ遺伝形式だよ。
医学生医学生
Huntington病は常染色体優性ですよね。CAGリピートが伸びて表現促進現象を起こすと習いました。
ドクタードクター
その通りで、特に父親由来で表現促進が目立つ。結節性硬化症も常染色体優性で、TSC1かTSC2の変異によるけれど、患者の多くは家族歴のない新生突然変異なんだ。てんかん、知的障害、顔面の血管線維腫が特徴だね。
医学生医学生
フェニルケトン尿症は新生児マススクリーニングの対象で、常染色体劣性でしたね。
ドクタードクター
そう。先天代謝異常症の多くは常染色体劣性と覚えておくと整理しやすい。ここでX連鎖劣性遺伝の性質もおさらいしよう。父から息子へは伝わらず、保因者の母から生まれる男児の2分の1が発症し、女児の2分の1が保因者になる。
医学生医学生
X連鎖劣性の免疫不全なら、Bruton型の無ガンマグロブリン血症や慢性肉芽腫症の多くもそうですよね。
ドクタードクター
いい整理だ。ほかにFabry病、Hunter症候群、G6PD欠乏症、Lesch-Nyhan症候群などもX連鎖劣性。CBTや国試では遺伝形式の横断問題がよく出るから、グループで覚えておこう。最後にWASの臨床面だ。易感染性では莢膜をもつ細菌やウイルスに弱く、出血は血便や紫斑、ときに頭蓋内出血まで起こしうる。さらに自己免疫疾患や悪性リンパ腫の合併も多い。
医学生医学生
治療はどうするんですか。
ドクタードクター
根治療法は造血幹細胞移植だ。それまでの間は、感染予防、免疫グロブリン補充、出血対策を並行して行う。乳児の湿疹に出血傾向や感染の反復が重なったら、アトピーと決めつけず血算と血小板サイズを確認する習慣をつけてほしい。

まとめ

乳児期からの難治性湿疹、易感染性、血小板減少の3主徴を示す男児で、IgM低値・IgA高値・IgGほぼ正常という免疫グロブリンのパターンがあれば、Wiskott-Aldrich症候群を考えます。WAS遺伝子の変異によるX連鎖劣性遺伝の疾患で、小型血小板がITPとの鑑別点となり、根治療法は造血幹細胞移植です。同じX連鎖劣性遺伝にはDuchenne型筋ジストロフィーや血友病A・Bがあり、Huntington病と結節性硬化症は常染色体優性、フェニルケトン尿症は常染色体劣性です。疾患の診断から遺伝形式へとつなげる横断的な整理は、遺伝カウンセリングや家族への説明にも直結する重要な知識です。

解答・解説

正解はa, dです

所見の整理

・1歳男児。生後6か月ころから治りにくい湿疹が続いている。 ・掻き壊した部位に膿痂疹(とびひ、主に黄色ブドウ球菌やレンサ球菌による皮膚の細菌感染)を繰り返す → 細菌に対する易感染性が疑われる。 ・身長・体重ともに発育が遅れている(体重-2.0 SD)。 ・血小板2.1万/μLと著明な血小板減少。Hb 9.8 g/dLの貧血もあり、CRP 2.1 mg/dLと炎症反応が上昇している。 ・免疫グロブリンはIgGがほぼ正常上限、IgAは高値、IgMは10 mg/dLと著明な低値。

診断へのプロセス

乳児期からの難治性湿疹だけならアトピー性皮膚炎も考えるが、アトピー性皮膚炎では血小板減少やIgMの著明な低下は起こらない。湿疹・発熱・肝腫大をきたすLangerhans細胞組織球症(旧称Letterer-Siwe病など)も鑑別に挙がるが、この疾患で免疫グロブリンの特徴的な偏りはみられない。 「湿疹」「易感染性」「血小板減少」の3徴がそろい、さらに男児で「IgM低値・IgA高値(IgGはおおむね正常)」という免疫グロブリンのパターンを示すことから、Wiskott-Aldrich症候群(WAS)と診断できる。

設問の考え方

WASはX染色体上のWAS遺伝子の変異で起こるX連鎖劣性遺伝(伴性劣性遺伝)の疾患である。したがって選択肢の中からX連鎖劣性遺伝をとる疾患を2つ選べばよい。Duchenne型進行性筋ジストロフィーと血友病AがX連鎖劣性遺伝であり、Huntington病と結節性硬化症は常染色体優性遺伝、フェニルケトン尿症は常染色体劣性遺伝である。

選択肢考察

  1. ○a.  Duchenne型進行性筋ジストロフィー

    X染色体短腕(Xp21)にあるジストロフィン遺伝子の変異によって、筋細胞膜を支えるジストロフィン蛋白が欠損する疾患で、X連鎖劣性遺伝をとる。そのため患者はほぼ男児に限られ、母親が保因者であることが多い(約1/3は新生突然変異とされる)。WASと同じ遺伝形式であり、正解である。

  2. ×b.  Huntington病

    第4染色体短腕(4p16.3)にあるハンチンチン(HTT)遺伝子内のCAGリピートが異常に伸長することで発症し、常染色体優性遺伝をとる。世代を経るごとにリピートが伸びて発症年齢が早まる表現促進現象(特に父親由来の場合に顕著)を示す。X連鎖劣性遺伝のWASとは遺伝形式が異なるため誤りである。

  3. ×c.  結節性硬化症

    TSC1遺伝子(9q34、ハマルチンをコード)またはTSC2遺伝子(16p13.3、チュベリンをコード)の変異によって起こり、常染色体優性遺伝をとる。ただし患者の多く(約2/3)は家族歴のない新生突然変異による。てんかん、知的障害、顔面の血管線維腫などを特徴とする。遺伝形式がWASと異なるため誤りである。

  4. ○d.  血友病A

    X染色体長腕(Xq28)にある第VIII因子遺伝子の変異によって凝固第VIII因子の活性が低下する疾患で、X連鎖劣性遺伝をとる。患者はほぼ男性で、女性は通常保因者となる。第IX因子が欠乏する血友病BもX連鎖劣性遺伝である。WASと同じ遺伝形式であり、正解である。

  5. ×e.  フェニルケトン尿症

    フェニルアラニンをチロシンに変換するフェニルアラニン水酸化酵素(PAH、遺伝子は第12染色体)の欠損により、血中フェニルアラニンが蓄積する先天代謝異常症である。常染色体劣性遺伝をとり、新生児マススクリーニングの対象疾患に含まれる。遺伝形式がWASと異なるため誤りである。

Wiskott-Aldrich症候群(WAS)の概要

・原因:X染色体短腕(Xp11)にあるWAS遺伝子の変異により、WASP(Wiskott-Aldrich syndrome protein)が欠損・機能低下する。WASPは血球系細胞でアクチン細胞骨格の再構成を担い、その異常によりT細胞・B細胞・血小板などの機能が障害される。 ・遺伝形式:X連鎖劣性遺伝のため、ほぼ男児に発症する。 ・3主徴:①難治性湿疹(アトピー性皮膚炎に類似)、②易感染性(肺炎球菌など莢膜をもつ細菌やウイルスに感染しやすい)、③血小板減少による出血傾向(血便、紫斑、頭蓋内出血など)。 ・血小板の特徴:数が減るだけでなく、サイズが小さい(小型血小板、平均血小板容積の低下)のが特徴で、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の大型血小板との鑑別点になる。 ・免疫グロブリン:IgM低値、IgA・IgE高値、IgGは正常〜軽度変化というパターンが典型的である。多糖体抗原に対する抗体産生が不良で、同種血球凝集素(抗A・抗B抗体、主にIgM)が低値となる。 ・合併症:自己免疫疾患(自己免疫性溶血性貧血、血管炎など)や悪性リンパ腫の発生頻度が高い。 ・治療:根治療法は造血幹細胞移植である。感染予防、免疫グロブリン補充、出血対策などを並行して行う。

主な疾患の遺伝形式の整理

・X連鎖劣性遺伝:Duchenne型・Becker型筋ジストロフィー、血友病A・B、WAS、X連鎖無ガンマグロブリン血症(Bruton型)、慢性肉芽腫症(多くはX連鎖型)、Fabry病、Hunter症候群、G6PD欠乏症、Lesch-Nyhan症候群など。 ・常染色体優性遺伝:Huntington病、結節性硬化症、神経線維腫症1型・2型、Marfan症候群、筋強直性ジストロフィー、家族性大腸腺腫症、遺伝性球状赤血球症など。 ・常染色体劣性遺伝:フェニルケトン尿症、多くの先天代謝異常症(ガラクトース血症、ホモシスチン尿症など)、Wilson病、嚢胞性線維症、脊髄性筋萎縮症など。

X連鎖劣性遺伝の特徴

・患者はほとんどが男性で、女性は通常保因者となる。 ・父から息子への伝達はない(父は息子にY染色体を渡すため)。 ・保因者の母から生まれる男児の1/2が発症し、女児の1/2が保因者となる。

POINT

・湿疹+易感染性+血小板減少(小型血小板)の男児ではWiskott-Aldrich症候群を考える。 ・WASの免疫グロブリンはIgM低値、IgA・IgE高値、IgGほぼ正常。 ・WASはX連鎖劣性遺伝。同じ遺伝形式にDuchenne型筋ジストロフィー、血友病A・Bがある。 ・Huntington病・結節性硬化症は常染色体優性遺伝、フェニルケトン尿症は常染色体劣性遺伝。 ・WASの根治療法は造血幹細胞移植。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。