「最重症」の免疫不全―重症複合免疫不全症は生後すぐの体重増加不良で気づく
第118回医師国家試験 D問題 第11問
国試問題にチャレンジ
重症複合免疫不全症で正しいのはどれか。
- a.全身のリンパ節が腫大する。
- b.ウイルスへの免疫は保たれる。
- c.顕性遺伝(優性遺伝)の形式をとる。
- d.血清免疫グロブリンは正常範囲である。
- e.生後間もなくから体重増加は不良となる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
重症複合免疫不全症(SCID)は、T細胞の分化・機能障害に伴って抗体産生も障害される、原発性免疫不全症で最も重症の病型です。細菌・ウイルス・真菌などあらゆる病原体に易感染性を示し、生後早期から遷延性下痢や鵞口瘡、肺炎を繰り返して体重増加不良となります。リンパ組織や胸腺は低形成で、免疫グロブリンは低値(乳児早期は母体由来IgGに注意)、遺伝形式は共通γ鎖異常によるX連鎖潜性が最多で、ほかは常染色体潜性です。生ワクチンは禁忌、輸血には放射線照射血を用い、根治療法は早期の造血幹細胞移植であり、TRECによる新生児スクリーニングも行われています。「T細胞とB細胞の両方が働かない」という病態から所見を導く考え方は、ほかの原発性免疫不全症を整理する際の土台にもなります。
解答・解説
正解はeです
重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency:SCID)は、T細胞の分化・機能が先天的に障害され、それに伴ってB細胞による抗体産生も働かなくなる、原発性免疫不全症のなかで最も重症の病型である。「複合」とは、細胞性免疫(T細胞)と液性免疫(B細胞・抗体)の両方が障害されていることを指す。B細胞の数自体が保たれる病型(T−B+)もあるが、B細胞が抗体を作るにはヘルパーT細胞の助けが必要なため、結局は抗体産生も不十分になる。 この病態から、次のような特徴を順に導くことができる。 ・細菌、ウイルス、真菌、ニューモシスチスなどあらゆる病原体に易感染性を示す。 ・生後早期から感染を反復し、遷延性の下痢や鵞口瘡(口腔カンジダ症)、肺炎を起こして体重が増えない。 ・リンパ球が著減し、胸腺陰影やリンパ節・扁桃などのリンパ組織は低形成となる。 ・血清免疫グロブリンは低値となる(ただし生後数か月までは胎盤を通過した母体由来IgGが残るため、IgGは見かけ上保たれることがある)。 ・遺伝形式はX連鎖潜性遺伝または常染色体潜性遺伝である。 設問は「正しいもの」を選ぶ問題であり、SCIDの基本病態(T細胞とB細胞の両方の機能不全)に照らして各選択肢を検討すれば、生後早期からの体重増加不良が正しいとわかる。
選択肢考察
- ×a. 全身のリンパ節が腫大する。
誤り。SCIDではリンパ球が作られないため、リンパ節、扁桃、胸腺などのリンパ組織はむしろ低形成・萎縮となり、感染を起こしてもリンパ節が腫れにくい。例外として、RAG1/RAG2遺伝子などの部分的な機能低下で起こるOmenn症候群では、自己反応性の活性化T細胞が増殖してリンパ節腫脹、肝脾腫、紅皮症を来すが、これはSCIDの典型像ではない。
- ×b. ウイルスへの免疫は保たれる。
誤り。ウイルス感染細胞の排除には細胞傷害性T細胞などによる細胞性免疫が中心的な役割を果たす。SCIDではT細胞が欠損・機能不全となるため、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルスなどの感染が重症化・遷延しやすい。生ワクチン(BCG、ロタウイルスワクチンなど)の接種によりワクチン株による播種性感染を起こす危険もあり、生ワクチンは禁忌である。
- ×c. 顕性遺伝(優性遺伝)の形式をとる。
誤り。SCIDの遺伝形式は潜性(劣性)遺伝である。最も頻度が高いのは、サイトカイン受容体の共通γ鎖(IL2RG遺伝子)の異常によるX連鎖潜性遺伝のSCIDで、男児に発症する。そのほか、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症、JAK3欠損症、RAG1/RAG2欠損症などは常染色体潜性遺伝の形式をとり、男女ともに発症する。
- ×d. 血清免疫グロブリンは正常範囲である。
誤り。B細胞が欠損している病型ではもちろん、B細胞が存在する病型でもヘルパーT細胞の助けがないためクラススイッチや抗体産生が起こらず、IgG・IgA・IgMはいずれも低値となる。ただし新生児期から乳児期早期には、胎盤を通じて移行した母体由来のIgGが残っているため、IgGが一見正常にみえることがあり、評価には注意が必要である(IgAやIgMは母体から移行しないため低値となる)。
- ○e. 生後間もなくから体重増加は不良となる。
正しい。SCIDの乳児は生後早期から細菌・ウイルス・真菌感染を反復し、特に腸管感染による遷延性下痢や、口腔・食道のカンジダ症による哺乳不良がみられるため、体重が増えず発育不良(failure to thrive)となる。重症肺炎(ニューモシスチス肺炎など)も合併しやすく、造血幹細胞移植などの根本治療を行わなければ多くは乳児期のうちに重症感染症で死亡する。
SCIDの主な病型
・X連鎖SCID(共通γ鎖欠損):最多。IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、IL-21受容体に共通するγ鎖の異常。T−B+NK−型。 ・JAK3欠損症:共通γ鎖の下流のシグナル分子の異常。常染色体潜性。T−B+NK−型で、臨床像はX連鎖SCIDに類似する。 ・ADA欠損症:プリン代謝異常で有害な代謝産物がリンパ球に蓄積する。常染色体潜性。T−B−NK−型。酵素補充療法や遺伝子治療が行われることがある。 ・RAG1/RAG2欠損症:T細胞受容体・B細胞受容体の遺伝子再構成ができない。常染色体潜性。T−B−NK+型。部分欠損ではOmenn症候群(紅皮症、リンパ節腫脹、肝脾腫、好酸球増多、高IgE血症)を呈する。
検査所見
・末梢血リンパ球数の著減(特にT細胞) ・血清免疫グロブリン低値(乳児早期は母体由来IgGに注意) ・胸部X線・CTで胸腺陰影の欠如 ・T細胞の新生能を反映するTREC(T細胞受容体切除環)の低値。乾燥ろ紙血でのTREC測定は新生児スクリーニングにも利用されている。
管理と治療
・生ワクチン(BCG、ロタウイルスなど)は禁忌。 ・輸血が必要な場合は、輸血後移植片対宿主病(GVHD)を防ぐため放射線照射血を用いる。 ・感染予防(ST合剤によるニューモシスチス肺炎予防、抗真菌薬など)と免疫グロブリン補充療法を行う。 ・根治療法は造血幹細胞移植であり、重症感染症を起こす前の早期移植ほど成績がよい。
他の原発性免疫不全症との比較
・X連鎖無ガンマグロブリン血症(Bruton病):B細胞欠損。主に細菌感染を反復し、生後数か月以降(母体由来IgG低下後)に発症。リンパ節・扁桃は低形成。 ・DiGeorge症候群(22q11.2欠失):胸腺低形成によるT細胞減少、低Ca血症、心奇形。 ・慢性肉芽腫症:好中球の殺菌能障害。カタラーゼ陽性菌・真菌感染、肉芽腫形成。
POINT
・SCIDはT細胞とB細胞(抗体産生)の両方が障害される最重症の原発性免疫不全症。 ・生後早期から細菌・ウイルス・真菌感染を反復し、遷延性下痢、鵞口瘡、肺炎、体重増加不良を来す。 ・リンパ球著減、胸腺陰影欠如、リンパ組織低形成、免疫グロブリン低値。 ・遺伝形式はX連鎖潜性(共通γ鎖異常、最多)または常染色体潜性(ADA欠損など)。 ・生ワクチン禁忌、輸血は放射線照射血、根治は造血幹細胞移植。 ・リンパ節腫脹を伴うのは例外的なOmenn症候群。
