T細胞もB細胞も守れない―原発性免疫不全症を「壊れた部品」で仕分ける
第112回医師国家試験 F問題 第21問
国試問題にチャレンジ
T細胞系,B細胞系がともに障害される原発性免疫不全症はどれか。
- a.慢性肉芽腫症
- b.重症複合免疫不全症
- c.無ガンマグロブリン血症
- d.Chédiak-Higashi症候群
- e.DiGeorge症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
原発性免疫不全症は、T細胞(細胞性免疫)、B細胞(液性免疫)、食細胞、補体のどこが障害されるかで分類すると理解しやすくなります。T細胞系とB細胞系がともに障害される代表は重症複合免疫不全症で、γc欠損やADA欠損などが原因となり、乳児期早期からあらゆる病原体による重症感染と体重増加不良をきたします。X連鎖無ガンマグロブリン血症はB細胞系、DiGeorge症候群はT細胞系主体、慢性肉芽腫症とChédiak-Higashi症候群は食細胞の異常です。SCIDでは弱毒生ワクチンが禁忌で、輸血には照射血を用い、根治は造血幹細胞移植です。障害部位と感染しやすい病原体を結びつけて整理しておくと、易感染性の患者を前にしたときの鑑別に直結します。
解答・解説
正解はbです
問われていること
原発性免疫不全症(先天的な遺伝子異常により免疫系の一部が欠損・機能低下する疾患群)を、障害される免疫の構成要素ごとに分類できるかを問う問題である。
考え方
免疫系は大きく、①T細胞が中心となる細胞性免疫、②B細胞が産生する抗体による液性免疫、③好中球やマクロファージなどの食細胞、④補体、に分けて整理するとよい。原発性免疫不全症はおおむね次のように分類される。 ・T細胞系とB細胞系の両方が障害される:複合免疫不全症(代表は重症複合免疫不全症) ・主にB細胞系(抗体産生)が障害される:抗体産生不全症(X連鎖無ガンマグロブリン血症など) ・主にT細胞系が障害される:DiGeorge症候群(22q11.2欠失症候群)など ・食細胞の数や機能が障害される:慢性肉芽腫症、Chédiak-Higashi症候群など ・補体が欠損する:補体欠損症 B細胞が十分な抗体を作るにはヘルパーT細胞の助けが必要なため、T細胞が欠損するとB細胞が存在していても抗体産生は障害される。重症複合免疫不全症ではT細胞が欠如し、病型によってはB細胞自体も欠如するため、細胞性免疫と液性免疫の両方が破綻する。よって正解は重症複合免疫不全症である。
選択肢考察
- ×a. 慢性肉芽腫症
食細胞機能異常症である。NADPHオキシダーゼの構成分子の遺伝子異常により、好中球・単球・マクロファージが貪食後に活性酸素(スーパーオキシドなど)を産生できず、殺菌能が低下する。黄色ブドウ球菌などのカタラーゼ陽性菌やアスペルギルスなどの真菌による感染と、肉芽腫形成を繰り返す。T細胞・B細胞は正常である。
- ○b. 重症複合免疫不全症
重症複合免疫不全症(SCID: severe combined immunodeficiency)は、T細胞の分化が障害され、さらにB細胞の欠如やT細胞の補助不足による抗体産生不全を伴うため、細胞性免疫と液性免疫の両方が障害される。代表的な原因として、X連鎖性のIL-2受容体共通γ鎖(γc)欠損やアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症がある。生後早期から細菌・ウイルス・真菌・ニューモシスチスなどあらゆる病原体による重症感染症を反復し、体重増加不良を伴う。弱毒生ワクチン(BCG、ロタウイルスワクチンなど)は禁忌であり、根治療法は造血幹細胞移植である。T細胞系・B細胞系がともに障害される疾患として本問の条件に合致する。
- ×c. 無ガンマグロブリン血症
B細胞系の障害による抗体産生不全症である。代表のX連鎖無ガンマグロブリン血症(Bruton型)は、Bruton型チロシンキナーゼ(BTK)遺伝子の異常によりB細胞の成熟が障害され、末梢血のB細胞がほぼ欠如し、全クラスの免疫グロブリンが著減する。母体由来IgGが減少する生後数か月以降に、肺炎球菌やインフルエンザ菌などの化膿菌感染を反復し、エンテロウイルス感染も重症化しやすい。T細胞系は保たれる。治療は免疫グロブリンの定期補充である。
- ×d. Chédiak-Higashi症候群
食細胞機能異常症である。リソソーム輸送に関わるLYST遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝疾患で、好中球などの細胞内に巨大顆粒がみられ、遊走能や殺菌能が低下して細菌感染を反復する。メラノソームの異常による部分白皮症、出血傾向、神経障害を伴い、血球貪食性リンパ組織球症に移行することがある。T細胞系とB細胞系の両方が主に障害される疾患ではない。
- ×e. DiGeorge症候群
多くは染色体22q11.2の微細欠失によって起こり、第3・第4咽頭嚢の発生異常のため胸腺低形成(T細胞の減少)、副甲状腺低形成による低カルシウム血症、円錐動脈幹異常(Fallot四徴症、総動脈幹症など)、特徴的顔貌、口蓋裂などを示す。主にT細胞系が障害され、ウイルス・真菌・細胞内寄生菌などに易感染性となる。免疫不全の程度は軽症例が多く、B細胞数は通常保たれる。T細胞系とB細胞系がともに障害される代表的疾患とはいえない。
障害部位ごとの易感染性の特徴
・T細胞系(細胞性免疫)の障害:ウイルス、真菌(カンジダなど)、ニューモシスチス、結核菌などの細胞内寄生菌による感染。 ・B細胞系(液性免疫)の障害:肺炎球菌・インフルエンザ菌などの莢膜をもつ化膿菌による呼吸器感染症や中耳炎の反復。発症は母体由来IgGが減る生後6か月頃以降が多い。 ・食細胞の障害:黄色ブドウ球菌などの細菌や、アスペルギルスなどの真菌による皮膚・リンパ節・肺の膿瘍。 ・補体の障害:C5〜C9(膜侵襲複合体)欠損ではナイセリア属(髄膜炎菌など)感染を反復する。
T細胞系・B細胞系がともに障害される主な疾患
・重症複合免疫不全症(γc欠損、ADA欠損など):最も重症で、乳児期早期から致死的感染を起こす。 ・Wiskott-Aldrich症候群:X連鎖性。湿疹、血小板減少(小型血小板)、易感染性を三徴とする。 ・毛細血管拡張性運動失調症:小脳性運動失調、眼球結膜の毛細血管拡張、易感染性を示し、悪性腫瘍を合併しやすい。
重症複合免疫不全症の要点
・生後早期からの重症感染症反復、慢性下痢、体重増加不良。 ・リンパ球数の著減、胸腺陰影の欠如、低ガンマグロブリン血症。 ・弱毒生ワクチン接種で全身感染を起こすことがある。 ・輸血は放射線照射血を用いる(移植片対宿主病の予防)。 ・根治は造血幹細胞移植。ADA欠損症では酵素補充療法や遺伝子治療も行われる。
POINT
・T細胞系とB細胞系がともに障害される代表は重症複合免疫不全症(SCID)。他にWiskott-Aldrich症候群、毛細血管拡張性運動失調症も複合型。 ・B細胞系のみ:X連鎖無ガンマグロブリン血症(BTK異常)。 ・T細胞系が主体:DiGeorge症候群(22q11.2欠失、胸腺低形成)。 ・食細胞の異常:慢性肉芽腫症(NADPHオキシダーゼ異常)、Chédiak-Higashi症候群(巨大顆粒)。 ・障害部位から易感染性を示す病原体を推定できるようにする。
