最初の60秒で何をするか―新生児蘇生は「気道」から始まる
第102回医師国家試験 G問題 第39問
国試問題にチャレンジ
新生児蘇生法で正しいのはどれか。
- a.気道吸引を十分に行う。
- b.気道確保のために側臥位にする。
- c.最初に静脈路を確保する。
- d.児の両足首を持って逆さにして揺さぶる。
- e.Apgarスコアの1分値を測定してから蘇生を始める。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児の心停止の多くは低酸素の結果として起こるため、新生児蘇生では呼吸の確立が最優先であり、気道→呼吸→循環の順に進めます。初期処置は保温、仰臥位でのスニッフィングポジション、必要に応じた口腔→鼻腔の順の吸引、皮膚の乾燥と刺激で、本問では気道吸引が正解とされていますが、現行のガイドラインではルーチンの吸引は推奨されず、必要時に限られる点にも注意が必要です。無呼吸・あえぎ呼吸または心拍100/分未満なら生後60秒以内に人工呼吸を開始し、Apgarスコアの評価を待って蘇生を遅らせてはいけません。静脈路(臍帯静脈)の確保は、胸骨圧迫を行っても心拍60/分未満が続きアドレナリン投与が必要な段階で行い、逆さにして揺さぶるような危険な刺激は禁忌です。成人の救命処置との違いを病態から理解しておくことが、分娩の現場で迷わず動くための土台になります。
解答・解説
正解はaです
出生直後の新生児は、胎内の肺呼吸をしない状態から、自力で肺呼吸を始める状態へ急激に移行しなければならない。この移行がうまくいかない状態が新生児仮死であり、その多くは呼吸の問題(無呼吸・換気不全)から始まる。新生児では心停止の大部分が低酸素の結果として起こるため、蘇生では「まず呼吸を確立すること」が何より重要となる。 わが国の新生児蘇生法(NCPR: Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation)の流れは、おおむね次の順である。 1. 出生直後に「早産児か」「弱い呼吸・啼泣か」「筋緊張低下か」を確認する。 2. 蘇生が必要なら初期処置を行う: 保温、体位保持(仰臥位で頸部をやや伸展させた姿勢)、気道開通(必要に応じて口腔→鼻腔の順に吸引)、皮膚の乾燥と刺激。 3. 呼吸と心拍を評価し、無呼吸・あえぎ呼吸、または心拍100/分未満であれば、生後60秒以内を目標に人工呼吸(バッグ・マスク換気)を開始する。 4. 有効な人工呼吸を続けても心拍60/分未満なら胸骨圧迫を加え、それでも改善しなければアドレナリン投与を考慮する(ここで静脈路、主に臍帯静脈路が必要となる)。 つまり、気道(A)→呼吸(B)→循環(C)の順を守り、評価と処置を同時進行で進めるのが原則である。この流れに照らすと、気道の確保・開通につながる処置が正しく、静脈路確保を最初に行う、評価のために蘇生開始を遅らせる、危険な刺激を加えるといった選択肢は誤りとなる。
選択肢考察
- ○a. 気道吸引を十分に行う。
正しい(出題当時の標準的な考え方)。羊水・粘液・血液などの分泌物が気道を塞いでいると、その後の自発呼吸や人工呼吸が有効にならないため、気道の開通は蘇生の最初の段階に位置づけられる。吸引は口腔を先に、次いで鼻腔の順に行う。鼻腔を先に刺激すると反射的に息を吸い込み、口腔内の分泌物を誤嚥するおそれがあるためである。 なお、現在の新生児蘇生法では、ルーチンの吸引は推奨されず、分泌物による気道閉塞が疑われる場合や人工呼吸が必要な場合に限って吸引を行うとされている。過度の、あるいは深い吸引は迷走神経反射による徐脈・無呼吸を招くため、吸引圧(100 mmHg程度まで)と時間に注意する。また羊水混濁(胎便混入)がある場合も、元気のない児に対してルーチンに気管吸引を行うことは現在は推奨されず、人工呼吸の開始を遅らせないことが優先される。
- ×b. 気道確保のために側臥位にする。
誤り。新生児蘇生での気道確保は仰臥位で行い、頸部を軽く伸展させて鼻先を突き出すような姿勢(スニッフィングポジション)をとる。新生児は後頭部が大きく、仰臥位にするだけで頸部が前屈して気道が狭くなりやすいため、肩の下に薄いタオルを入れて調整する。頸部の過伸展や過屈曲は気道を狭めるので避ける。必要に応じて下顎を挙上する。側臥位では人工呼吸や胸骨圧迫ができず、呼吸・心拍の評価もしにくい。
- ×c. 最初に静脈路を確保する。
誤り。新生児仮死の本態は呼吸の確立不全であり、多くは気道開通と有効な人工呼吸だけで心拍が回復する。静脈路確保に時間をかけて換気の開始が遅れると、低酸素が進行して予後を悪化させる。静脈路(新生児では主に臍帯静脈カテーテル)は、有効な人工呼吸と胸骨圧迫を行っても心拍が60/分未満のままで、アドレナリン投与や循環血液量の補充が必要になった段階で確保する。
- ×d. 児の両足首を持って逆さにして揺さぶる。
誤り。逆さにして揺さぶる行為は、頭蓋内出血などの損傷を起こす危険があり、行ってはならない。呼吸を促す刺激としては、タオルで皮膚を拭いて乾かす、背部をやさしくこする、足底を指ではじく・軽くたたく、といった穏やかな方法を用いる。こうした刺激を行っても有効な自発呼吸が得られない場合は、刺激を繰り返して時間を浪費せず、速やかに人工呼吸に移る。
- ×e. Apgarスコアの1分値を測定してから蘇生を始める。
誤り。Apgarスコアは出生後1分と5分に、心拍数・呼吸・筋緊張・反射・皮膚色の5項目をそれぞれ0〜2点で採点する評価法であるが、蘇生開始の判断には用いない。1分値を待ってから蘇生を始めると、人工呼吸を開始すべき生後60秒以内という重要な時間(ゴールデンミニット)を失ってしまう。蘇生の要否は出生直後の呼吸・筋緊張、その後の呼吸と心拍数で判断し、Apgarスコアは蘇生と並行して記録する。
Apgarスコア
・心拍数: なし0点、100/分未満1点、100/分以上2点 ・呼吸: なし0点、弱い啼泣・不規則1点、強い啼泣2点 ・筋緊張: だらりとしている0点、四肢をやや屈曲1点、活発に動かす2点 ・反射(刺激への反応): 反応なし0点、顔をしかめる1点、啼泣・咳・くしゃみ2点 ・皮膚色: 全身蒼白またはチアノーゼ0点、体幹ピンク・四肢チアノーゼ1点、全身ピンク2点 合計7点以上を正常、4〜6点を第1度仮死(軽症)、3点以下を第2度仮死(重症)とする。1分値は出生時の状態、5分値は神経学的予後との関連が強いとされる。
新生児蘇生の主な数値
・人工呼吸の開始基準: 無呼吸・あえぎ呼吸、または心拍100/分未満。生後60秒以内に開始する。 ・人工呼吸の回数: 40〜60回/分。正期産児では空気(酸素濃度21%)で開始し、パルスオキシメータ(右手に装着)で酸素飽和度を確認しながら酸素濃度を調整する。 ・胸骨圧迫の開始基準: 有効な人工呼吸を30秒行っても心拍60/分未満。胸骨圧迫と人工呼吸の比は3:1(1分間に圧迫90回+換気30回)。圧迫は両母指法(胸郭包み込み両母指圧迫法)が推奨される。 ・薬物: アドレナリンを臍帯静脈から投与する。
保温の重要性
新生児は体重に比べて体表面積が大きく、羊水で濡れた状態では蒸発により急速に体温を失う。低体温は酸素消費の増大や代謝性アシドーシスを招くため、ラジアントウォーマーの下で温めたタオルを用いて速やかに乾かす。
POINT
・新生児蘇生は呼吸の確立が最優先で、A(気道)→B(呼吸)→C(循環)の順に進める。 ・初期処置: 保温、仰臥位でスニッフィングポジション、必要時の吸引(口→鼻の順)、皮膚乾燥と刺激。 ・無呼吸・あえぎ呼吸または心拍100/分未満なら、生後60秒以内に人工呼吸を開始する。 ・心拍60/分未満が続けば胸骨圧迫(3:1)、さらにアドレナリン(臍帯静脈)。静脈路確保は後回し。 ・Apgarスコアを待たずに蘇生を開始する。逆さにして揺さぶるのは禁忌。 ・現行のガイドラインでは、ルーチンの吸引や羊水混濁時のルーチン気管吸引は推奨されない。
