ドナーのT細胞はどこを狙う?―「自己免疫疾患のそっくりさん」慢性GVHDの標的臓器
第102回医師国家試験 G問題 第29問
国試問題にチャレンジ
慢性GVHDの標的臓器となりにくいのはどれか。
- a.肺
- b.心臓
- c.肝臓
- d.皮膚
- e.唾液腺
対話形式の解説
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ドクターまとめ
慢性GVHDは、ドナー由来T細胞による免疫反応に自己反応性T細胞の除去不全やB細胞の異常活性化が加わり、強皮症・Sjögren症候群・閉塞性細気管支炎に似た自己免疫疾患様の病像をとります。主な標的は皮膚(強皮症様・扁平苔癬様変化)、口腔粘膜・唾液腺、涙腺、肺(閉塞性細気管支炎)、肝臓(胆汁うっ滞型障害)、食道、筋膜・関節などで、心臓が障害されることはまれです。急性GVHDの三大標的である皮膚・消化管・肝臓と対比して覚えると整理しやすく、現在は発症時期ではなく臨床所見で急性・慢性を区別します。移植後の長期フォローでは乾燥症状や息切れなどの訴えから慢性GVHDを早期に拾い上げることが、患者のQOLと予後を守るうえで重要です。
解答・解説
正解はbです
移植片対宿主病(GVHD:graft-versus-host disease)は、同種造血幹細胞移植などで移入されたドナー由来のT細胞が、患者(レシピエント)の組織を異物として認識し攻撃することで生じる病態である。 GVHDは急性と慢性に分けられる。急性GVHDの主な標的は皮膚・消化管(腸管)・肝臓の3臓器である。一方、慢性GVHDは自己免疫疾患に似た病像をとり、線維化や乾燥症状が目立つのが特徴で、皮膚、口腔粘膜、唾液腺、涙腺(眼)、肺、肝臓、食道、筋膜・関節、腟・外陰部など多彩な臓器が侵される。 本問では、慢性GVHDの典型的な病変部位を思い浮かべ、その中に入らない臓器を選べばよい。強皮症やSjögren症候群、閉塞性細気管支炎に似た症状を呈する臓器(皮膚・唾液腺・肺)や、胆汁うっ滞型障害を起こす肝臓はいずれも代表的な標的である。これに対し心臓の病変(心膜炎など)は報告はあるもののまれであり、「標的臓器となりにくい」ものとして心臓を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 肺
肺は慢性GVHDの重要な標的臓器である。代表的な病変は閉塞性細気管支炎(BO:bronchiolitis obliterans)で、細気管支が線維性に狭窄・閉塞し、進行性の閉塞性換気障害(1秒量の低下)と労作時呼吸困難をきたす。呼吸機能検査で閉塞性障害を示し、胸部CTでエアトラッピングがみられれば、肺単独でも慢性GVHDの診断根拠となるほど特徴的な所見である。治療抵抗性で予後不良となることが多い。このほか器質化肺炎がみられることもある。
- ○b. 心臓
心臓は慢性GVHDの標的臓器になりにくい。心膜炎(心膜液貯留)や心筋障害の報告は存在するが頻度は低く、慢性GVHDの典型的な臓器病変には数えられない。慢性GVHDの病変は皮膚・粘膜・外分泌腺・肺・肝臓・消化管上部など上皮組織や結合組織に集中しており、心臓はこれらに比べて障害されることがまれである。したがって本問の正解となる。
- ×c. 肝臓
肝臓は急性・慢性いずれのGVHDでも標的となる。慢性GVHDでは小葉間胆管が障害されるため、ALP(アルカリホスファターゼ)やγ-GTP、ビリルビンの上昇を主体とする胆汁うっ滞型の肝障害を呈することが多く、AST・ALTの上昇を伴うこともある。わが国の慢性GVHDでは口腔病変に次いで頻度の高い病変部位とされる。
- ×d. 皮膚
皮膚は慢性GVHDで最も代表的な標的臓器の一つである。扁平苔癬様皮疹、硬化性病変(強皮症様の皮膚硬化)、多形皮膚萎縮(ポイキロデルマ)、色素沈着・脱失、脱毛、発汗障害、爪の変形・脱落など多彩な変化がみられる。特に強皮症様の硬化や扁平苔癬様皮疹は慢性GVHDに特徴的な所見である。
- ×e. 唾液腺
唾液腺は慢性GVHDの標的となりやすい。唾液分泌が低下して口腔乾燥、味覚異常、口腔内の痛みが生じ、自浄作用の低下から齲歯(虫歯)や歯肉炎・歯周炎を起こしやすくなる。涙腺も同様に障害されて涙液分泌低下、眼の乾燥感、羞明をきたし、全体としてSjögren症候群に類似した病像となる。口腔粘膜の扁平苔癬様変化も含め、口腔病変はわが国の慢性GVHDで最も頻度の高い病変である。
GVHDの発症機序
移植片に含まれる、あるいは生着した造血幹細胞から分化したドナー由来T細胞が、レシピエントの組織適合抗原(HLAやマイナー組織適合抗原)を認識して活性化し、組織を傷害する。慢性GVHDでは胸腺の障害による自己反応性T細胞の除去不全、B細胞の異常活性化と自己抗体産生、線維化を促すサイトカインなどが関与し、自己免疫疾患に類似した臨床像を示す。
急性GVHDと慢性GVHDの比較
・急性GVHD:主な標的は皮膚(斑状丘疹状皮疹)、消化管(大量の下痢)、肝臓(黄疸)。 ・慢性GVHD:皮膚(強皮症様・扁平苔癬様変化)、口腔・唾液腺(口腔乾燥、扁平苔癬様病変)、眼・涙腺(乾燥性角結膜炎)、肺(閉塞性細気管支炎)、肝臓(胆汁うっ滞)、食道(狭窄・ウェブ)、筋膜・関節(筋膜炎、関節拘縮)、腟・外陰部(狭窄・乾燥)など。
発症時期と分類
従来は移植後100日以内の発症を急性、100日以降を慢性と区別していた。現在のNIH(米国国立衛生研究所)の診断基準では、発症時期ではなく臨床所見の性質で区別し、100日以降に急性型の症状が現れる場合(遅発性急性GVHD)や、両者の特徴が混在する場合(オーバーラップ症候群)も定義されている。慢性GVHDの重症度は、かつては限局型(limited)と広汎型(extensive)に分けられていたが、現在は障害臓器の数と程度に基づき軽症・中等症・重症に分類される。
危険因子
先行する急性GVHD、HLA不一致、末梢血幹細胞の使用、高齢のドナー・レシピエント、女性ドナーから男性レシピエントへの移植などが慢性GVHDの危険因子として知られる。
POINT
・急性GVHDの三大標的:皮膚・消化管・肝臓 ・慢性GVHDは自己免疫疾患様(強皮症様、Sjögren症候群様、閉塞性細気管支炎)の病像をとる ・慢性GVHDの主な標的:皮膚、口腔粘膜・唾液腺、涙腺、肺、肝臓、食道、筋膜・関節、腟・外陰部 ・心臓は慢性GVHDの標的となりにくい(心膜炎の報告はあるがまれ) ・肺の閉塞性細気管支炎は予後不良な慢性GVHD病変
