卵胞が育ちすぎるとき―ゴナドトロピン療法の二大副作用「OHSS」と「多胎」
第102回医師国家試験 G問題 第26問
国試問題にチャレンジ
ゴナドトロピンによる排卵誘発の副作用はどれか。2つ選べ。
- a.貧血
- b.高血圧
- c.骨粗鬆症
- d.腹水貯留
- e.多胎妊娠
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ゴナドトロピン療法はhMGやFSH製剤で卵胞を育て、hCGで排卵させる強力な排卵誘発法で、多数の卵胞が同時に発育しやすいことから多胎妊娠と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が二大副作用となります。OHSSではVEGFなどにより毛細血管透過性が亢進し、腹水・胸水が貯留する一方で血管内は脱水となるため、貧血ではなく血液濃縮(Ht上昇)、高血圧ではなく循環血液量減少や乏尿が起こります。エストロゲンはむしろ高値になるため骨粗鬆症の原因にもなりません。血栓塞栓症は重要な致死的合併症で、利尿薬は原則として避け、輸液で循環血液量を維持します。「血管の外に水が漏れ、中は濃くなる」という病態を理解しておくことが、選択肢の判断にも実際の管理にも直結します。
解答・解説
正解はd, eです
ゴナドトロピン療法は、卵胞刺激ホルモン(FSH)作用をもつ製剤(hMG:ヒト閉経期ゴナドトロピン、またはFSH製剤)を注射して卵胞を発育させ、卵胞が十分に成熟した時点でLH(黄体形成ホルモン)の代わりとなるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を投与して排卵を起こさせる方法である。クロミフェンなどの内服薬で排卵が得られない無排卵症例や、体外受精などの生殖補助医療で用いられる。 卵巣を外から強力に刺激するため、生理的には1個だけ選ばれて成熟するはずの卵胞が同時に多数発育しやすい。ここから本療法の二大副作用が生じる。 ・複数の卵胞が発育・排卵する → 複数の卵が受精しうる → 多胎妊娠 ・多数の卵胞が発育した状態でhCGが作用する → 卵巣が腫大し、全身の毛細血管透過性が亢進する → 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)による腹水・胸水の貯留 OHSSでは血管内の水分がサードスペース(腹腔・胸腔など)に漏れ出すため、血管内は脱水・血液濃縮の状態になる。この病態を理解していれば、貧血や高血圧ではなく「血液濃縮」「循環血液量減少」が起こることが判断でき、選択肢を絞り込める。
選択肢考察
- ×a. 貧血
OHSSでは血管透過性の亢進により血漿成分が血管外へ漏出するため、赤血球が相対的に濃縮される。そのためヘマトクリット(Ht)やヘモグロビン値はむしろ上昇し、Ht 45%以上などの血液濃縮が重症度判定の指標の一つとされる。貧血は本療法の副作用ではない。
- ×b. 高血圧
OHSSでは循環血液量が減少するため、血圧はむしろ低下傾向となり、重症例では低血圧や頻脈、腎血流量低下による乏尿をきたす。ゴナドトロピン療法そのものが高血圧を引き起こすことはない。なお、多胎妊娠となった場合には妊娠高血圧症候群のリスクは高まるが、これは排卵誘発の直接の副作用ではない。
- ×c. 骨粗鬆症
ゴナドトロピンで多数の卵胞が発育すると、卵胞から分泌されるエストロゲンは著しく増加する。エストロゲンには破骨細胞による骨吸収を抑える作用があるため、骨量減少や骨粗鬆症の原因にはならない。エストロゲン低下を招くGnRHアゴニストの長期投与などとは対照的である。
- ○d. 腹水貯留
OHSSの中核となる所見である。多数の卵胞が黄体化した腫大卵巣から、血管内皮増殖因子(VEGF)などの血管作動性物質が大量に産生され、全身の毛細血管透過性が亢進する。血管内の水分が腹腔内へ漏出して腹水が貯留し、重症例では胸水や心嚢液の貯留も起こる。腹部膨満、腹痛、悪心、急激な体重増加などを訴える。したがって正しい。
- ○e. 多胎妊娠
ゴナドトロピン製剤は複数の卵胞を同時に発育させる作用が強いため、一度に複数個の排卵が起こりやすい。それぞれの卵が受精すると二卵性以上の多胎妊娠となる。多胎妊娠は早産、低出生体重児、妊娠高血圧症候群などのリスクが高いため、発育卵胞数が多い周期ではhCG投与を中止するなどの対策がとられる。したがって正しい。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS:ovarian hyperstimulation syndrome)
・誘因:排卵誘発(特にゴナドトロピン療法)で多数の卵胞が発育した状態でのhCG投与。妊娠が成立すると内因性hCGにより増悪・遷延しやすい。 ・リスク因子:若年、やせ、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、血中エストラジオール高値、発育卵胞数が多いこと、OHSSの既往など。 ・病態:腫大卵巣から産生されるVEGFなどにより毛細血管透過性が亢進 → 血管内水分がサードスペースへ移行 → 腹水・胸水、循環血液量減少、血液濃縮、腎血流量減少(乏尿・腎機能障害)、凝固亢進。 ・症状・所見:卵巣腫大、腹部膨満・腹痛、体重増加、Ht上昇、白血球増加、低Na血症・高K血症、低アルブミン血症、肝機能異常。 ・重篤な合併症:血栓塞栓症(脳梗塞など)、急性腎不全、肺水腫・呼吸不全、卵巣茎捻転や卵巣破裂。 ・治療:軽症は経過観察。中等症〜重症では入院のうえ、輸液による循環血液量の維持、アルブミン投与、血栓予防、必要に応じて腹水穿刺を行う。利尿薬は血液濃縮と血栓傾向を悪化させるため原則として用いない。 ・予防:ゴナドトロピンの少量漸増投与、卵胞数が多い周期でのhCG投与中止(キャンセル)、体外受精では全胚凍結(新鮮胚移植を行わず妊娠による増悪を避ける)、GnRHアゴニストによるトリガーなど。
排卵誘発薬の比較
・クロミフェン(内服):抗エストロゲン作用で視床下部からのGnRH分泌を増やす。OHSS・多胎の頻度はゴナドトロピンより低い。子宮内膜の菲薄化や頸管粘液減少などの抗エストロゲン作用が問題となる。 ・ゴナドトロピン(注射):卵巣を直接刺激するため効果が強い一方、OHSSと多胎妊娠の頻度が高い。
POINT
・ゴナドトロピン療法の二大副作用は「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」と「多胎妊娠」。 ・OHSSの本態は毛細血管透過性亢進による血管外への水分漏出であり、腹水・胸水貯留、卵巣腫大をきたす。 ・血管内は脱水となるため、貧血ではなく血液濃縮(Ht上昇)、高血圧ではなく循環血液量減少・乏尿が起こる。 ・血栓症はOHSSの重要な致死的合併症であり、利尿薬は原則禁忌。 ・hCGがOHSSの誘因であり、妊娠成立で悪化しやすい。
