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HbA1cが「低すぎる」とき何を疑う?―糖尿病検査の数字の裏側を読む

第102回医師国家試験 G問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第15問

正しいのはどれか。

  1. a.HbA1cは溶血性貧血で低値を示す。
  2. b.血糖値は静脈血の方が毛細管血よりも高い。
  3. c.ケトン体は蛋白分解亢進によって著増する。
  4. d.血糖値が140 mg/dLの者の60%が尿糖陽性を示す。
  5. e.インスリン分泌能は1日尿中インスリン量測定で評価する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は糖尿病診療で毎日のように使う検査の「意味」と「限界」を問う問題だ。HbA1c、血糖値、ケトン体、尿糖、インスリン分泌能の評価法。それぞれの値がどんな生理学的な仕組みで決まっているかを考えると、正誤はすっきり判断できるよ。
医学生医学生
HbA1cは過去1〜2か月の平均血糖を反映する、とCBTの勉強で丸暗記しました。でも、なぜ1〜2か月なのかまでは考えたことがなかったです。
ドクタードクター
そこが今回のカギなんだ。HbA1cはヘモグロビンにブドウ糖が酵素を介さずに結合した、つまり糖化したものだ。赤血球は約120日生きるから、その間ずっと血糖にさらされて少しずつ糖化が進む。だからHbA1cは血糖そのものだけでなく、赤血球がどれだけ長く血中にいたかにも左右される。
医学生医学生
ということは、赤血球の寿命が短くなると、糖化される時間が足りなくなりますね。
ドクタードクター
その通り。溶血性貧血では赤血球が早く壊れて、糖化の進んでいない若い赤血球の割合が増える。すると実際の平均血糖に比べてHbA1cは見かけ上低くなる。これが正しい記述だ。
医学生医学生
血液内科の実習で溶血性貧血の患者さんを担当したとき、網赤血球が増えていたのを思い出しました。若い赤血球が多いというのはまさにそういうことですね。
ドクタードクター
いい結びつけ方だね。そういう患者さんでは、赤血球寿命の影響を受けないグリコアルブミンや1,5-AGで血糖コントロールを評価する。では次、採血部位による血糖値の違いはどうかな。
医学生医学生
静脈血のほうが高いと書いてありますけど、なんとなく静脈採血の値が「本物」という印象があって迷いました。
ドクタードクター
測定の標準として静脈血を使うことは多いけど、値の大小は別の話だ。ブドウ糖は動脈血で運ばれ、毛細血管を通る間に組織に取り込まれる。組織を通過した後が静脈血だから、動脈血、毛細管血、静脈血の順に低くなる。空腹時の差は小さいけれど、食後は組織の糖取り込みが増えて差が開く。つまりこの記述は大小が逆だ。
医学生医学生
自己血糖測定は指先の毛細管血なので、外来で静脈血の値と少しずれることがあるのはそのせいなんですね。
ドクタードクター
そう。次はケトン体。蛋白分解の亢進で著増する、という記述だ。
医学生医学生
生化学の講義では、ケトン体は肝臓で脂肪酸のβ酸化から作られると習いました。蛋白ではなく脂肪が材料ですよね。
ドクタードクター
正解。インスリン作用不足や飢餓で脂肪組織の中性脂肪が分解され、遊離脂肪酸が肝に流れ込んで大量にβ酸化されるとケトン体が増える。一部のアミノ酸からも作られるが量はわずかだ。蛋白分解が亢進して目立って上がるのはBUNのほうだね。
医学生医学生
尿糖の記述は、血糖140 mg/dLで6割も陽性になるというのが多すぎる気がします。
ドクタードクター
その感覚は正しい。糸球体で濾過されたブドウ糖は近位尿細管のSGLT2などでほぼ全部再吸収されるが、その能力には上限がある。尿に糖が出始める腎の糖排泄閾値は健常者でおよそ160〜180 mg/dLだから、140 mg/dLで多くの人が陽性になることはない。逆に、血糖が正常でも尿糖が出る腎性糖尿は、閾値が低い体質や妊娠、SGLT2阻害薬の服用でみられる。
医学生医学生
最後のインスリン分泌能ですが、尿中インスリンではなくC-ペプチドを測るのでは?
ドクタードクター
よく覚えていたね。インスリンは門脈を通って肝で大部分が分解され、腎でも再吸収・分解されるから、尿中インスリンは分泌量を正しく映さない。プロインスリンからインスリンが切り出されるとき等モルで出るC-ペプチドは肝でほとんど分解されず、一定の割合で尿に出る。だから空腹時の血中C-ペプチドや24時間蓄尿のC-ペプチドで評価するんだ。
医学生医学生
インスリン注射をしている人でも、C-ペプチドなら自分の膵臓がどれだけ働いているか分かるということですね。
ドクタードクター
その通りで、それがC-ペプチドの大きな利点だ。臨床での注意点もまとめておこう。HbA1cが低く出るのは溶血性貧血だけでなく、肝硬変、大量出血や輸血の後、鉄欠乏性貧血の治療開始直後、エリスロポエチン製剤を使っている透析患者などでもみられる。逆に未治療の鉄欠乏性貧血では古い赤血球が多く、高めに出ることがある。
医学生医学生
血糖の自己測定値や症状とHbA1cが合わないときは、まず赤血球側の事情を疑えばいいんですね。
ドクタードクター
そう。グリコアルブミンは約2〜3週間の平均血糖を反映するが、ネフローゼ症候群や甲状腺機能異常などアルブミン代謝が変わる状態では影響を受ける。1,5-AGは数日間の血糖変動を反映するが、SGLT2阻害薬内服中は評価できない。どの指標にも弱点があるから、病態に合わせて使い分けることが大切だよ。

まとめ

HbA1cは赤血球の寿命の間に進む糖化を反映するため、溶血性貧血や出血、肝硬変など赤血球寿命が短縮する病態では見かけ上低値となり、グリコアルブミンや1,5-AGによる評価が必要になります。血糖値は組織での糖取り込みにより動脈血>毛細管血>静脈血の順となり、ケトン体は蛋白分解ではなく脂肪分解と肝での脂肪酸β酸化の亢進で増加します。腎の糖排泄閾値は約160〜180 mg/dLであり、内因性インスリン分泌能は肝で分解されにくいC-ペプチドを血中や24時間尿中で測定して評価します。検査値がどのような生理学的仕組みで決まるかを理解しておくと、数値と臨床像が食い違ったときにその理由を見抜けるようになります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

糖尿病の診療で日常的に用いる検査(HbA1c、血糖値、ケトン体、尿糖、インスリン分泌能の指標)について、それぞれの意味と限界を理解しているかを問う問題である。

各検査の要点

・HbA1c(ヘモグロビンA1c):ヘモグロビンにブドウ糖が非酵素的に結合(糖化)したもの。赤血球の寿命(約120日)の間に血糖にさらされ続けた結果を反映するため、過去1〜2か月の平均血糖値の指標となる。したがって赤血球寿命や赤血球の新旧の割合が変わると、血糖と無関係に値が変動する。 ・血糖値:採血部位によって値が異なる。ブドウ糖は動脈血で組織に運ばれ、毛細血管を通る間に組織に取り込まれるため、動脈血>毛細管血>静脈血の順となる。 ・ケトン体:インスリン作用不足や飢餓で脂肪分解が亢進し、肝で脂肪酸がβ酸化されて生じる。 ・尿糖:血糖値が腎の糖排泄閾値(約160〜180 mg/dL)を超えると陽性になる。 ・インスリン分泌能:インスリンと等モルで分泌されるC-ペプチドを血中または24時間尿中で測定して評価する。 これらを踏まえると、正しい記述は「HbA1cは溶血性貧血で低値を示す」である。

選択肢考察

  1. ○a.  HbA1cは溶血性貧血で低値を示す。

    HbA1cは赤血球が血中を循環している期間に糖化されて蓄積していく。溶血性貧血では赤血球が早く壊れ、寿命が短縮するため、糖化を受ける時間が短い若い赤血球の割合が増える。その結果、実際の平均血糖値に比べてHbA1cは見かけ上低値となる。このような場合は、赤血球寿命の影響を受けないグリコアルブミン(約2〜3週間の平均血糖を反映)や1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)などで血糖コントロールを評価する。

  2. ×b.  血糖値は静脈血の方が毛細管血よりも高い。

    ブドウ糖は毛細血管を流れる間に末梢組織に取り込まれて消費されるため、組織を通過した後の静脈血の血糖値は毛細管血より低くなる。一般に動脈血>毛細管血>静脈血の順で、空腹時の差は小さい(毛細管血は静脈血より数mg/dL程度高い)が、食後や糖負荷後は組織での糖取り込みが増えるため差が大きくなる。記述は大小関係が逆である。

  3. ×c.  ケトン体は蛋白分解亢進によって著増する。

    ケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸〈β-ヒドロキシ酪酸〉、アセトン)は、インスリン作用不足や飢餓の際に脂肪組織で中性脂肪の分解が亢進し、遊離脂肪酸が肝で大量にβ酸化されることで生成される。すなわち、ケトン体の著増は脂肪分解の亢進を反映する。ロイシンなど一部のアミノ酸からもケトン体は生じうるが量はわずかであり、蛋白分解の亢進で主に上昇するのはBUN(尿素窒素)である。

  4. ×d.  血糖値が140 mg/dLの者の60%が尿糖陽性を示す。

    糸球体で濾過されたブドウ糖は近位尿細管でSGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)などによりほぼすべて再吸収される。再吸収能力には上限があり、それを超えて尿中に糖が出始める血糖値(腎の糖排泄閾値)は健常者で約160〜180 mg/dLである。したがって血糖値140 mg/dLで6割もの人が尿糖陽性になることはない。なお、血糖が正常でも尿糖が陽性となる腎性糖尿は、閾値が低い体質や、妊娠、SGLT2阻害薬の服用などでみられる。

  5. ×e.  インスリン分泌能は1日尿中インスリン量測定で評価する。

    膵β細胞から分泌されたインスリンは門脈を通って肝で大部分が取り込まれ分解されるうえ、腎でも再吸収・分解されるため、尿中インスリン量は分泌量を正しく反映しない。一方、プロインスリンからインスリンが切り出される際に等モルで生じるC-ペプチドは、肝でほとんど分解されず一定の割合で尿中に排泄される。そのため内因性インスリン分泌能は、24時間蓄尿中のC-ペプチド(CPR、C-ペプチド免疫活性)量や空腹時血中C-ペプチドで評価する。C-ペプチドはインスリン注射中の患者でも注射製剤の影響を受けずに内因性分泌を評価できる利点がある。

HbA1cが実際の血糖状態と乖離する主な要因

見かけ上低値となる(赤血球寿命の短縮・若い赤血球の増加): ・溶血性貧血、肝硬変(脾機能亢進などによる赤血球寿命短縮) ・大量出血後、輸血後 ・鉄欠乏性貧血やビタミンB12欠乏性貧血の治療開始直後(新しい赤血球が急増) ・エリスロポエチン製剤で治療中の腎性貧血、透析患者 ・妊娠(希釈や赤血球産生亢進) ・一部の異常ヘモグロビン症 見かけ上高値となる: ・未治療の鉄欠乏性貧血(古い赤血球の割合が高い) ・一部の異常ヘモグロビン症

血糖コントロール指標の比較

・HbA1c:過去1〜2か月の平均血糖 ・グリコアルブミン:過去約2〜3週間の平均血糖。赤血球寿命の影響を受けないが、ネフローゼ症候群や甲状腺機能異常などアルブミン代謝が変化する状態では影響を受ける ・1,5-AG:過去数日間の血糖変動、特に尿糖排泄の程度を反映し、高血糖で低下する(SGLT2阻害薬内服中は評価できない)

インスリン分泌能の指標

・空腹時血中C-ペプチド、24時間尿中C-ペプチド:低値ならインスリン依存状態を示唆する ・グルカゴン負荷試験:負荷後の血中C-ペプチドの増加量をみる ・インスリン分泌指数(insulinogenic index):75 g経口ブドウ糖負荷試験の30分値から初期分泌能を評価する

POINT

・HbA1cは赤血球寿命が短縮する病態(溶血性貧血、出血、肝硬変など)で見かけ上低値となる。その際はグリコアルブミンなどで評価する ・血糖値は動脈血>毛細管血>静脈血 ・ケトン体は脂肪分解亢進(脂肪酸のβ酸化)で増加する。蛋白分解亢進ではBUNが上昇する ・腎の糖排泄閾値は約160〜180 mg/dL ・内因性インスリン分泌能は血中・尿中C-ペプチドで評価する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。