StudyMed医師国家試験

胎児の記憶を呼び覚ます肝腫瘍―AFPが語る「肝細胞由来」というキーワード

第102回医師国家試験 G問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第14問

血清AFP値が上昇するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.肝悪性リンパ腫
  2. b.大腸癌肝転移
  3. c.肝内胆管癌
  4. d.肝細胞癌
  5. e.肝芽腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腫瘍マーカーのAFP、つまりα-フェトプロテインがどの肝腫瘍で上がるかという問題だ。選択肢はどれも「肝臓にできる腫瘍」だけど、同じ肝臓でも腫瘍の発生母地、つまり何の細胞から生じたかが違う。そこに注目すると一気に整理できるよ。
医学生医学生
AFPといえば肝細胞癌のマーカー、という一対一の暗記しかしていませんでした。そもそもAFPって何なんでしょうか。
ドクタードクター
名前の「フェト」は胎児のこと。AFPは胎児期に卵黄嚢と胎児の肝臓で作られる糖蛋白で、胎児血中の主要な蛋白なんだ。出生後は産生が急に減って、成人ではごく低値になる。ところが肝細胞が癌化すると、胎児型の性質を取り戻して再びAFPを作り始める。
医学生医学生
だから肝細胞から生じた腫瘍で上がるんですね。肝細胞癌はまさに肝細胞の癌なので当てはまります。
ドクタードクター
その通り。肝細胞癌はAFPが上がる代表だ。実際の診療では、AFPに加えて、AFPのレクチン親和性分画であるAFP-L3分画と、PIVKA-IIの3つを組み合わせて使う。PIVKA-IIはビタミンK欠乏時に出る異常プロトロンビンで、DCPとも呼ばれるね。
医学生医学生
なぜ3つも組み合わせるんですか。AFPだけでは足りないということでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。AFPは慢性肝炎や肝硬変でも、肝細胞の再生に伴って軽度上昇することがある。肝細胞癌の背景にはこうした慢性肝疾患があることが多いから、AFPだけでは癌かどうか判断しにくい場面があるんだ。そこで、肝細胞癌に特異性の高いAFP-L3分画や、AFPとは独立したマーカーのPIVKA-IIを併用する。
医学生医学生
もう一つの正解は肝芽腫ですね。小児科の講義で、小児の肝腫瘍として出てきました。
ドクタードクター
正解。肝芽腫は胎児期の未熟な肝細胞、肝芽細胞に似た細胞からなる悪性腫瘍で、小児の原発性肝悪性腫瘍の大部分を占める。3歳以下、特に乳幼児期に多い。胎児肝の性質をそのまま持っているから、約90%の症例でAFPが著明に上がり、診断だけでなく治療効果や再発の判定にも使われる。
医学生医学生
上腹部の腫瘤で見つかるんでしたっけ。神経芽腫やWilms腫瘍と並べて覚えた記憶があります。
ドクタードクター
そう、上腹部腫瘤や腹部膨満で気づかれることが多い。リスク因子として低出生体重児、家族性大腸腺腫症、Beckwith-Wiedemann症候群も押さえておこう。では残りの選択肢だ。肝内胆管癌はどう考える?
医学生医学生
原発性肝癌の一つなので、正直AFPが上がりそうに感じてしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだね。肝内胆管癌は肝臓の中にあっても、胆管上皮から発生する腺癌で、肝細胞由来ではない。だからAFPは通常上がらず、マーカーはCA19-9やCEAになる。ちなみにわが国の原発性肝癌の約95%は肝細胞癌で、肝内胆管癌は数%程度だ。
医学生医学生
大腸癌肝転移も、肝臓にあるとはいえ中身は大腸の癌ですよね。
ドクタードクター
その通り。転移巣の腫瘍細胞は原発巣である大腸の腺癌の性質を保っているから、上がるのはCEAやCA19-9で、AFPは通常上がらない。大腸からの血液は門脈を通って肝臓へ流れ込むから、大腸癌は肝転移を起こしやすく、転移性肝癌の原発として頻度が高いんだ。
医学生医学生
肝悪性リンパ腫はリンパ球の腫瘍なので、AFPは関係なさそうです。血液内科の実習では可溶性IL-2受容体を見ていました。
ドクタードクター
よく覚えているね。リンパ腫には特異性の高いマーカーが乏しいけれど、可溶性IL-2受容体とLDが病勢や治療効果の指標として広く使われる。肝原発のリンパ腫はまれで、多くは全身性リンパ腫が肝に浸潤した節外病変だ。
医学生医学生
つまり「肝臓にある腫瘍」ではなく「肝細胞由来の腫瘍」でAFPが上がる、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の核心だ。最後に、肝臓以外でAFPが上がる場面も整理しておこう。卵黄嚢の成分を含む胚細胞腫瘍、たとえば精巣や卵巣の卵黄嚢腫瘍ではAFPが上がる。AFP産生胃癌というまれなタイプもある。非腫瘍性では、慢性肝炎・肝硬変、劇症肝炎の回復期、それに妊娠と新生児・乳児での生理的高値だ。
医学生医学生
妊婦さんでAFPが高いと何か意味があるんですか。産婦人科の実習で母体血清マーカーの話を聞いた気がします。
ドクタードクター
母体血清AFPの高値は、胎児の開放性神経管欠損、つまり二分脊椎や無脳症、あるいは腹壁破裂などを示唆することがある。胎児由来のAFPが母体血中へ多く移行するためだね。乳児のAFPも生理的に高いから、肝芽腫を疑う際は年齢相応の基準と比べて評価する必要がある。AFPという一つのマーカーから、胎児、肝細胞、卵黄嚢という由来の話がつながると、暗記がぐっと楽になるはずだよ。

まとめ

AFPは胎児期に卵黄嚢と胎児肝で産生される糖蛋白で、成人では低値ですが、肝細胞が癌化して胎児型の性質を取り戻すと再び産生されるため、肝細胞由来の腫瘍である肝細胞癌と肝芽腫で上昇します。肝細胞癌ではAFP、AFP-L3分画、PIVKA-IIを組み合わせて評価し、小児の肝芽腫では約90%でAFPが著明高値となります。一方、胆管上皮由来の肝内胆管癌や大腸癌肝転移ではCEA・CA19-9、悪性リンパ腫では可溶性IL-2受容体やLDが指標となり、AFPは通常上昇しません。AFPは卵黄嚢腫瘍、慢性肝炎・肝硬変、妊娠(胎児の開放性神経管欠損で高値)、新生児期でも上昇しうるため、背景を踏まえた解釈が必要です。「臓器」ではなく「発生母地」で腫瘍マーカーを整理する考え方は、他の腫瘍マーカーの理解にも応用できます。

解答・解説

正解はd, eです

問われていること

AFP(α-フェトプロテイン)がどの肝腫瘍で上昇するかを問う、腫瘍マーカーの基本問題である。

AFPとは

AFPは胎児期に卵黄嚢と胎児肝で産生される糖蛋白で、胎児血中の主要な蛋白である。出生後は産生が急速に減り、成人の血中ではごく低値(おおむね10 ng/mL以下)となる。肝細胞が癌化して胎児型の性質を取り戻すと再びAFPを産生するため、肝細胞に由来する腫瘍(肝細胞癌、肝芽腫)や、卵黄嚢の成分を含む胚細胞腫瘍(卵黄嚢腫瘍など)で上昇する。

考え方

肝臓にできる腫瘍でも、発生母地が肝細胞かどうかで腫瘍マーカーが異なる。 ・肝細胞由来:肝細胞癌(成人)、肝芽腫(小児)→ AFP上昇 ・胆管上皮由来:肝内胆管癌 → CEA、CA19-9 ・他臓器癌の転移:大腸癌肝転移 → 原発巣のマーカー(CEA、CA19-9) ・リンパ球由来:悪性リンパ腫 → 可溶性IL-2受容体、LD したがって、AFPが上昇するのは肝細胞癌と肝芽腫である。

選択肢考察

  1. ×a.  肝悪性リンパ腫

    肝の悪性リンパ腫はリンパ球系の腫瘍であり、肝細胞由来ではないためAFPは上昇しない。肝原発のリンパ腫はまれで、多くは全身性リンパ腫の節外病変として肝に浸潤したもの(Ann Arbor分類でstage IV)である。悪性リンパ腫では特異性の高い腫瘍マーカーが乏しいが、可溶性IL-2受容体(sIL-2R)とLD(乳酸デヒドロゲナーゼ)が病勢や治療効果の指標として広く用いられる。

  2. ×b.  大腸癌肝転移

    転移性肝癌の腫瘍細胞は原発巣である大腸の腺癌の性質を保っているため、上昇するのは大腸癌のマーカーであるCEA(癌胎児性抗原)やCA19-9であり、AFPは通常上昇しない。大腸癌は血行性に門脈を経由して肝へ転移しやすく、転移性肝癌の原発巣として頻度が高い。

  3. ×c.  肝内胆管癌

    肝内胆管癌(胆管細胞癌)は肝内の胆管上皮から発生する腺癌であり、肝細胞由来ではないためAFPは通常上昇しない。腫瘍マーカーとしてはCA19-9やCEAが用いられる。わが国の原発性肝癌の大部分(約95%)は肝細胞癌で、肝内胆管癌は数%程度である。

  4. ○d.  肝細胞癌

    肝細胞癌は肝細胞が癌化した腫瘍で、胎児型の蛋白であるAFPを再び産生するようになるため血清AFPが上昇する。肝細胞癌の腫瘍マーカーとしては、AFP、AFPのレクチン親和性分画であるAFP-L3分画(肝細胞癌に特異性が高い)、PIVKA-II(ビタミンK欠乏時に出現する異常プロトロンビン、DCPとも呼ぶ)の3つが用いられる。なお、AFPは慢性肝炎や肝硬変でも軽度上昇することがあるため、AFP-L3分画やPIVKA-IIを組み合わせて評価する。

  5. ○e.  肝芽腫

    肝芽腫は胎児期の未熟な肝細胞(肝芽細胞)に類似した細胞からなる悪性腫瘍で、小児の原発性肝悪性腫瘍の大部分を占め、3歳以下(特に乳幼児期)に好発する。胎児肝の性質をもつため大多数(約90%)の症例で血清AFPが著明に上昇し、診断や治療効果・再発の判定に用いられる。主な症状は上腹部の腫瘤や腹部膨満である。低出生体重児や家族性大腸腺腫症、Beckwith-Wiedemann症候群で発生リスクが高い。

AFPが上昇する主な病態

・腫瘍性:肝細胞癌、肝芽腫、卵黄嚢腫瘍(精巣・卵巣の胚細胞腫瘍の一型)、AFP産生胃癌など ・非腫瘍性:慢性肝炎・肝硬変(肝細胞再生に伴う軽度上昇)、劇症肝炎の回復期、妊娠(胎児由来で母体血中に移行)、新生児・乳児(生理的高値) ・妊娠時:母体血清AFP高値は胎児の開放性神経管欠損(二分脊椎、無脳症)や腹壁破裂などを示唆する

肝腫瘍と腫瘍マーカーの整理

・肝細胞癌:AFP、AFP-L3分画、PIVKA-II ・肝芽腫:AFP ・肝内胆管癌:CA19-9、CEA ・転移性肝癌:原発巣のマーカー(大腸癌ならCEA、CA19-9など) ・悪性リンパ腫:可溶性IL-2受容体、LD

原発性肝癌の内訳(わが国)

肝細胞癌が約95%、肝内胆管癌が数%で、混合型などはまれである。肝細胞癌の背景には慢性肝疾患(B型・C型肝炎ウイルス感染、アルコール性肝疾患、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患など)がある。

POINT

・AFPは胎児肝・卵黄嚢由来の蛋白で、肝細胞由来腫瘍(肝細胞癌・肝芽腫)と卵黄嚢腫瘍で上昇する ・肝細胞癌のマーカー:AFP、AFP-L3分画、PIVKA-II ・肝芽腫は3歳以下に好発し、約90%でAFPが著明高値 ・肝内胆管癌・大腸癌肝転移はCEA・CA19-9、悪性リンパ腫は可溶性IL-2受容体

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。