StudyMed医師国家試験

消化管から蛋白が漏れる?―蛋白漏出性胃腸症で読み解く低蛋白血症

第102回医師国家試験 G問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第16問

低蛋白血症がみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.偽膜性腸炎
  2. b.Ménétrier病
  3. c.胃カルチノイド
  4. d.過敏性腸症候群
  5. e.原発性乳糖不耐症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、低蛋白血症をきたす消化管疾患を選ぶ問題だ。選択肢はどれも消化管の病気だから、「消化管から血漿蛋白が漏れ出すか」、あるいは「栄養の吸収が高度に障害されるか」を軸に考えるといい。まずは低蛋白血症の原因を大きく分類できるかな。
医学生医学生
肝硬変で作れない、ネフローゼ症候群で尿に出ていく、あとは食事がとれない低栄養……でしょうか。
ドクタードクター
いいね。整理すると、摂取不足や吸収障害、合成障害、体外への喪失、それに重症感染症などでの異化亢進だ。喪失には尿だけでなく、熱傷での皮膚からの喪失、そして消化管からの漏出がある。この消化管からの漏出を起こす病態をまとめて蛋白漏出性胃腸症と呼ぶ。
医学生医学生
腎臓からの喪失はよく出てきますけど、腸から蛋白が漏れるというのはあまりイメージが湧きません。
ドクタードクター
機序は3つに分けると分かりやすい。リンパ液がうっ滞して腸管内に漏れるリンパ系の異常、毛細血管の透過性亢進、そして粘膜上皮が傷んでバリアが破綻するものだ。この枠組みで選択肢を見ていこう。まず偽膜性腸炎はどうかな。
医学生医学生
抗菌薬を使った後に起こる腸炎ですよね。微生物学の講義でClostridioides difficileのトキシンと習いました。下痢の病気というイメージで、蛋白とは結びつかなかったです。
ドクタードクター
そこがポイントだ。抗菌薬で腸内細菌叢が乱れる菌交代現象でC. difficileが増え、トキシンAとBが大腸粘膜を傷害する。粘膜のバリアが壊れるから血漿蛋白が腸管内に漏れて、低アルブミン血症になる。内視鏡で見える黄白色の偽膜も、フィブリンや粘液、壊死した上皮、炎症細胞が滲み出してできたものなんだ。
医学生医学生
偽膜そのものが「漏れ出した結果」なんですね。そう考えると蛋白が失われるのも納得できます。
ドクタードクター
その通り。では次はMénétrier病だ。
医学生医学生
病理の講義で、胃の皺襞が脳回のように巨大になる病気として写真を見ました。たしか蛋白漏出性胃腸症の代表でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。Ménétrier病は胃体部を中心に腺窩上皮が著しく過形成して巨大皺襞をつくるまれな疾患で、TGF-αによるEGF受容体の過剰な刺激が関与するとされる。小児ではサイトメガロウイルス感染との関連も知られている。粘膜の透過性が変化して胃から大量の蛋白が漏れ、低蛋白血症と浮腫をきたす。壁細胞などの固有胃腺が減るから、胃酸分泌が低下するのも特徴だ。
医学生医学生
胃の粘膜が厚くなるのに胃酸が減るというのは、ちょっと意外です。
ドクタードクター
増えているのは表層の腺窩上皮で、酸を出す腺は逆に減っている、と考えると理解しやすい。残りの3つも確認しておこう。胃カルチノイドは?
医学生医学生
消化器内科の実習で、内視鏡で偶然見つかった粘膜下腫瘍のような病変をカルチノイドと教わりました。症状はあまりないのでは。
ドクタードクター
そうだね。今は神経内分泌腫瘍、NETと呼ぶ。多くは無症状で、自己免疫性のA型胃炎に伴う高ガストリン血症を背景に多発することもある。胃原発ではカルチノイド症候群もまれで、蛋白漏出や低蛋白血症は通常起こさない。
医学生医学生
過敏性腸症候群は機能性疾患なので、粘膜に炎症や潰瘍がない以上、蛋白も漏れないですね。
ドクタードクター
その通り。むしろ臨床では、低蛋白血症や体重減少、血便、発熱といった警告徴候があったら、過敏性腸症候群と決めつけずに器質的疾患を疑って精査する必要がある。原発性乳糖不耐症はどうかな。
医学生医学生
ラクターゼが足りなくて乳糖を分解できない病気なので、障害されるのは乳糖の吸収だけ、ということでしょうか。
ドクタードクター
正解。吸収されなかった乳糖が大腸で浸透圧性下痢や発酵によるガス、腹部膨満を起こすけれど、蛋白の吸収や漏出には影響しない。だから低蛋白血症はきたさない。答えは偽膜性腸炎とMénétrier病だ。
医学生医学生
蛋白漏出性胃腸症を疑ったら、どうやって確かめるんですか。
ドクタードクター
99mTc標識ヒト血清アルブミンシンチグラフィで漏出の有無と部位を確認できる。消化管内で分解されにくいα1-アンチトリプシンの便中クリアランスも指標になる。それから、リンパ系の異常による場合は、アルブミンだけでなくリンパ球減少や低γグロブリン血症、低コレステロール血症を伴いやすい。腸リンパ管拡張症のほか、収縮性心膜炎や右心不全、Fontan術後でもリンパ流がうっ滞して起こりうるから、腸だけでなく心臓にも目を向けることが大切だ。
医学生医学生
浮腫と低アルブミン血症があって尿蛋白が出ていなければ、消化管からの喪失も考える、という流れですね。
ドクタードクター
そのとおり。尿蛋白がなく、肝機能も保たれているのに低アルブミン血症が続くときこそ、蛋白漏出性胃腸症を思い浮かべてほしい。

まとめ

低蛋白血症は摂取・吸収不足、肝での合成低下、体外への喪失、異化亢進に分けて考え、喪失には尿(ネフローゼ症候群)や皮膚(熱傷)に加えて消化管からの漏出があります。蛋白漏出性胃腸症はリンパ系の異常、毛細血管透過性の亢進、粘膜上皮の障害の3つの機序で起こり、C. difficileのトキシンで大腸粘膜が傷害される偽膜性腸炎や、巨大皺襞と胃酸分泌低下を特徴とするMénétrier病が代表です。一方、胃カルチノイド(NET)、過敏性腸症候群、原発性乳糖不耐症は蛋白漏出も高度の吸収障害も起こさないため、低蛋白血症はきたしません。診断にはアルブミンシンチグラフィや便中α1-アンチトリプシンクリアランスが有用で、尿蛋白や肝障害で説明できない低アルブミン血症に出会ったとき、消化管からの喪失を想起できることが見落としを防ぐ鍵になります。

解答・解説

正解はa, bです

問われていること

低蛋白血症(主に血清アルブミンの低下)を起こす消化管疾患を選ぶ問題である。

低蛋白血症の成り立ち

低蛋白血症は大きく、①摂取不足(低栄養)・吸収障害、②合成障害(肝硬変など)、③体外への喪失(ネフローゼ症候群による尿中喪失、熱傷、消化管からの漏出)に分けて考える。本問の選択肢はすべて消化管疾患なので、「消化管から血漿蛋白が漏れ出す病態(蛋白漏出性胃腸症)を起こすか」、または「高度な栄養吸収障害を起こすか」が判断の軸となる。

蛋白漏出性胃腸症の3つの機序

①リンパ系の異常(リンパ液のうっ滞で乳び・蛋白が腸管内へ漏出) ②毛細血管の透過性亢進 ③消化管粘膜上皮の障害(びらん・潰瘍・粘膜のバリア破綻) 偽膜性腸炎は③の粘膜障害により、Ménétrier病は胃粘膜の過形成と透過性の変化により蛋白が漏出し、いずれも低蛋白血症をきたす。一方、胃カルチノイド、過敏性腸症候群、原発性乳糖不耐症は、蛋白漏出も高度の吸収障害も通常起こさない。

選択肢考察

  1. ○a.  偽膜性腸炎

    偽膜性腸炎は、抗菌薬投与で腸内細菌叢が乱れた(菌交代現象)結果、Clostridioides difficile(旧名Clostridium difficile)が増殖し、その産生するトキシンA・Bが大腸粘膜を傷害して起こる腸炎である。粘膜のバリアが破綻して血漿蛋白が腸管内へ漏れ出すため、低蛋白血症(低アルブミン血症)を呈する。内視鏡で見られる黄白色の偽膜は、滲出したフィブリン、粘液、壊死した上皮、炎症細胞などからなり、まさに粘膜からの滲出の結果として形成されたものである。

  2. ○b.  Ménétrier病

    Ménétrier病は胃体部を中心に胃粘膜の表層上皮(腺窩上皮)が著明に過形成し、脳回状の巨大な皺襞(巨大皺襞症)を形成するまれな疾患である。TGF-α(トランスフォーミング増殖因子α)の過剰によるEGF受容体の刺激が関与するとされ、小児ではサイトメガロウイルス感染との関連が知られている。粘膜の透過性が変化して胃から大量の蛋白が漏出するため、低蛋白血症と浮腫をきたす(蛋白漏出性胃腸症の代表疾患)。また、壁細胞などの固有胃腺が減少するため胃酸分泌は低下する。

  3. ×c.  胃カルチノイド

    胃カルチノイド(現在は神経内分泌腫瘍〈NET〉と呼ぶ)は粘膜深層から発生する粘膜下腫瘍の形をとる腫瘍で、多くは無症状のまま内視鏡検査で偶然発見される。A型胃炎(自己免疫性胃炎)に伴う高ガストリン血症を背景に多発することがある。腫瘍がセロトニンなどを分泌すると下痢や腸管運動亢進を起こしうるが、胃原発ではカルチノイド症候群はまれであり、蛋白漏出や低蛋白血症をきたすことは通常ない。

  4. ×d.  過敏性腸症候群

    過敏性腸症候群は、器質的な異常がないにもかかわらず腹痛と便通異常(下痢、便秘、あるいはその混合)が慢性に繰り返される機能性消化管疾患である。腸管粘膜に炎症や潰瘍はなく、吸収障害や蛋白漏出も起こらないため、低蛋白血症や体重減少などの栄養障害はみられない。逆に、低蛋白血症や体重減少、血便、発熱などの警告徴候があれば器質的疾患を疑って精査する。

  5. ×e.  原発性乳糖不耐症

    原発性乳糖不耐症は、小腸刷子縁の乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性が低下し、乳糖(ラクトース)をブドウ糖とガラクトースに分解・吸収できない状態である。成人型の低ラクターゼ症は日本人を含むアジア人に多い。吸収されなかった乳糖が大腸で浸透圧性下痢、腸内細菌による発酵でガスの発生や腹部膨満を起こすが、障害されるのは乳糖の消化・吸収のみで、蛋白の吸収や漏出には影響せず低蛋白血症はきたさない。

蛋白漏出性胃腸症の原因疾患(機序別)

1)リンパ系の異常:腸リンパ管拡張症(原発性・続発性)、収縮性心膜炎や右心不全(静脈圧上昇によるリンパ流のうっ滞)、Fontan術後、悪性リンパ腫、腸結核、Crohn病、フィラリア症など 2)毛細血管透過性の亢進:アレルギー性胃腸症、全身性エリテマトーデス、アミロイドーシス、IgA血管炎(Schönlein-Henoch紫斑病)など 3)粘膜上皮の異常:Ménétrier病、偽膜性腸炎、潰瘍性大腸炎・Crohn病などの炎症性腸疾患、消化管の悪性腫瘍、非特異性多発性小腸潰瘍症、Cronkhite-Canada症候群など

蛋白漏出性胃腸症の検査

・99mTc標識ヒト血清アルブミンシンチグラフィ:漏出の有無と部位を確認できる ・便中α1-アンチトリプシンクリアランス:α1-アンチトリプシンは消化管内で分解されにくいため、腸管からの蛋白漏出の指標となる ・リンパ系異常によるものでは、血清アルブミンに加えてリンパ球減少、低コレステロール血症、低γグロブリン血症を伴いやすい

低蛋白血症の鑑別の整理

・摂取・吸収不足:低栄養、吸収不良症候群(セリアック病、短腸症候群など) ・合成低下:肝硬変 ・喪失:ネフローゼ症候群(尿中)、蛋白漏出性胃腸症(消化管)、熱傷(皮膚) ・異化亢進:重症感染症、悪性腫瘍、甲状腺機能亢進症

POINT

・蛋白漏出性胃腸症の代表:Ménétrier病、腸リンパ管拡張症、偽膜性腸炎、炎症性腸疾患 ・機序はリンパ系の異常、毛細血管透過性の亢進、粘膜上皮の障害の3つ ・Ménétrier病:巨大皺襞、胃酸分泌低下、低蛋白血症 ・偽膜性腸炎:抗菌薬投与後、Clostridioides difficileのトキシンによる粘膜障害 ・過敏性腸症候群・乳糖不耐症では低蛋白血症をきたさない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。