StudyMed医師国家試験

その一錠が転倒を招く―高齢者とベンゾジアゼピン系抗不安薬の危うい関係

第102回医師国家試験 G問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第10問

高齢者の転倒リスクを高めるのはどれか。

  1. a.抗不安薬
  2. b.末梢血管拡張薬
  3. c.高脂血症治療薬
  4. d.尿酸排泄促進薬
  5. e.非ステロイド性抗炎症薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の転倒リスクを高める薬剤を選ぶ問題だ。転倒は大腿骨近位部骨折や頭部外傷を通じて、要介護状態や死亡にもつながる重要な老年症候群。どんな薬が「ふらつき」を生むのか、作用機序から考えてみよう。
医学生医学生
転倒の原因というと、筋力低下や段差のような環境の問題がまず浮かびます。
ドクタードクター
いいスタートだね。転倒の要因は、本人側の内的要因と、段差・滑りやすい床・暗い照明といった外的要因に分けて整理する。内的要因には筋力やバランス能力の低下、視力障害、認知機能障害、起立性低血圧、Parkinson症候群などがあるけれど、その中で医療者が直接介入できるものとして特に重視されるのが薬剤なんだ。
医学生医学生
薬なら、眠くなる薬が一番危なそうです。抗不安薬でしょうか。
ドクタードクター
正解。抗不安薬の主体であるベンゾジアゼピン系薬物は、GABA-A受容体の働きを増強して、鎮静・催眠・筋弛緩作用を示す。その結果、眠気、ふらつき、注意力や反応速度の低下、筋弛緩による脱力が起こり、転倒や骨折の原因になる。
医学生医学生
薬理学の講義で、ベンゾジアゼピンは筋弛緩作用もあるから重症筋無力症には禁忌だと習いました。転倒にもその作用が関わっているんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。さらに高齢者特有の事情がある。高齢者は体脂肪の割合が増え、肝臓の代謝能も落ちているから、脂溶性の高いベンゾジアゼピン系薬物は体内に蓄積しやすく、作用が長引く。夜に飲んだ薬の影響が翌朝まで残る持ち越し効果が起こりやすいんだ。
医学生医学生
夜中にトイレに起きたときに、ふらついて転ぶというパターンですね。
ドクタードクター
まさにそれ。夜間頻尿でのトイレ移動自体も転倒の危険因子だから、睡眠薬と重なるとリスクはさらに高まる。高齢者ではせん妄や前向性健忘も起こしやすい点にも注意したい。では、ほかの薬も確認しておこう。末梢血管拡張薬はどうかな。
医学生医学生
血管が広がれば血圧が下がって、起立性低血圧でふらつきそうな気もします。
ドクタードクター
理論上はそう考えたくなるね。ただ、末梢血管拡張薬を単剤で使って臨床的に問題になる起立性低血圧を起こすことはほとんどない。注意が必要なのは、α遮断薬や硝酸薬のように降圧作用の強い薬や、ほかの降圧薬と併用している場合だ。
医学生医学生
高脂血症治療薬は、スタチンの横紋筋融解症で筋力が落ちて転ぶ、ということはありませんか。
ドクタードクター
可能性はゼロではない。でも横紋筋融解症は、筋痛や脱力、ミオグロビン尿による赤褐色の尿、CKの著明な上昇などで急性に発症するまれな有害事象だ。だから高脂血症治療薬は、一般に転倒リスクを高める薬剤としては扱われない。
医学生医学生
尿酸排泄促進薬は、ベンズブロマロンの肝障害と尿路結石くらいしか思いつきません。
ドクタードクター
それで十分。中枢抑制も血圧低下も起こさない薬だから、単剤で転倒の原因になることはない。NSAIDsも、主な副作用は消化性潰瘍や消化管出血、腎機能障害だ。服用の背景にある変形性関節症などは転倒要因になりうるけれど、薬そのものが転倒リスクを高めるとは考えられていないね。
医学生医学生
中枢に作用して眠気やふらつき、筋弛緩を起こす薬を選べばいい、ということですね。
ドクタードクター
その通り。ほかにも抗精神病薬、三環系などの抗うつ薬、抗てんかん薬、第一世代抗ヒスタミン薬、筋弛緩薬、オピオイドが鎮静やふらつきで、降圧薬や利尿薬が過降圧や脱水で、インスリンやスルホニル尿素薬が低血糖で転倒を招く。そして複数の薬を飲んでいるポリファーマシーそのものもリスクになる。
医学生医学生
総合診療科の実習で、入院時に持参薬を全部確認して、指導医の先生が睡眠薬を減らしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
それが臨床で一番大切な姿勢だよ。高齢者が転倒したら、骨折の治療だけで終わらせず、原因として薬が関わっていないかを必ず振り返る。ベンゾジアゼピン系薬物は長期連用で依存も生じるから、急な中止は避けつつ、可能なら少しずつ減量や中止を検討するといい。

まとめ

高齢者の転倒は骨折や頭部外傷を介して要介護や死亡につながる老年症候群であり、内的要因と外的要因に分けて整理されます。内的要因のうち医療者が介入できる代表が薬剤で、特にベンゾジアゼピン系を中心とする抗不安薬・睡眠薬は、GABA-A受容体を介した鎮静・筋弛緩作用により眠気やふらつき、脱力を起こし、高齢者では脂溶性薬物の蓄積や代謝能低下による持ち越し効果も加わります。抗精神病薬、抗うつ薬、降圧薬・利尿薬、血糖降下薬、ポリファーマシーも転倒リスクとなる一方、末梢血管拡張薬、高脂血症治療薬、尿酸排泄促進薬、NSAIDsは単剤では一般に転倒リスク薬とはされません。転倒した高齢者を診たら処方内容を見直すという習慣は、骨折予防と生活機能の維持に直結する重要な臨床スキルです。

解答・解説

正解はaです

高齢者の転倒は、大腿骨近位部骨折や頭部外傷を介して要介護状態や死亡につながる重要な老年症候群である。転倒の要因は、本人側の内的要因(筋力・バランス能力の低下、視力障害、認知機能障害、起立性低血圧、Parkinson症候群など)と、段差・滑りやすい床・暗い照明などの外的要因に分けて整理される。内的要因のなかで、医療者が直接介入できるものとして特に重視されるのが薬剤である。 転倒リスクを高める薬剤の代表は、中枢神経系に作用して眠気・ふらつき・注意力低下・筋弛緩をもたらすもの、すなわちベンゾジアゼピン系を中心とする抗不安薬・睡眠薬である。そのほか、抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬、降圧薬・利尿薬(過度の降圧や起立性低血圧)、血糖降下薬(低血糖)なども挙げられ、複数の薬剤を併用する多剤併用(ポリファーマシー)そのものもリスクとなる。 本問では、選択肢の中で中枢抑制作用により転倒を直接招きやすい薬剤を選べばよい。他の選択肢は、まれな副作用や併存疾患を介して間接的に関わる可能性はあっても、単独で転倒リスクを高める薬剤としては一般的に扱われない。

選択肢考察

  1. ○a.  抗不安薬

    抗不安薬の主体であるベンゾジアゼピン系薬物は、GABA-A受容体の作用を増強して鎮静・催眠・筋弛緩作用を示す。そのため眠気、ふらつき、注意力・反応速度の低下、筋弛緩による脱力が生じ、転倒・骨折の原因となる。高齢者ではこれに加えて、せん妄や錯乱、記憶障害(前向性健忘)もみられやすい。高齢者は体脂肪率が増加し肝代謝能も低下しているため、脂溶性の高いベンゾジアゼピン系薬物は体内に蓄積しやすく、作用が遷延して翌日まで持ち越されやすい(持ち越し効果)。特に85歳以上の超高齢者で問題となりやすい。

  2. ×b.  末梢血管拡張薬

    末梢血管拡張薬は血管を拡張させるため理論上は血圧を下げうるが、単剤で臨床的に問題となる起立性低血圧を起こすことはほとんどない。なお、α遮断薬や硝酸薬など降圧作用の強い血管拡張作用をもつ薬剤では起立性低血圧に注意が必要であり、他の降圧薬との併用時には配慮を要する。

  3. ×c.  高脂血症治療薬

    スタチンやフィブラート系薬剤では、まれにミオパチーや横紋筋融解症を起こすことがあり、下肢筋力が低下すれば転倒につながる可能性は否定できない。しかし横紋筋融解症は、脱力に加えて筋痛、ミオグロビン尿によるポートワイン色(赤褐色)の尿、CK(クレアチンキナーゼ)の著明な上昇などの急性症状で発症するまれな有害事象であり、高脂血症治療薬が一般的に転倒リスクを高める薬剤とはされない。

  4. ×d.  尿酸排泄促進薬

    尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン、プロベネシドなど)は腎尿細管での尿酸再吸収を抑えて血清尿酸値を下げる。重要な副作用はベンズブロマロンによる劇症肝炎を含む肝障害や、尿中尿酸増加による尿路結石であり、中枢抑制や血圧低下を起こす薬剤ではないため、単剤で転倒リスクとなることはない。

  5. ×e.  非ステロイド性抗炎症薬

    非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の主な副作用は消化性潰瘍・消化管出血、腎機能障害、まれなショックなどである。一部で眠気、めまい、倦怠感を訴えることはあり、また服用の背景にある変形性関節症などの骨関節疾患自体が転倒要因となりうるが、NSAIDs単剤が転倒リスクを高める薬剤とは一般に考えられていない。

転倒の危険因子

内的要因:加齢に伴う筋力・バランス能力の低下、歩行障害、転倒の既往、視力障害、認知機能障害、起立性低血圧、脳血管障害・Parkinson病などの神経疾患、関節疾患、排尿障害(夜間頻尿でのトイレ移動)、服用薬剤。 外的要因:段差、滑りやすい床、敷物のめくれ、暗い照明、履物の不適合など。

転倒リスクを高める主な薬剤

・ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z-drug):眠気、ふらつき、筋弛緩、持ち越し効果。 ・抗精神病薬:鎮静、錐体外路症状、起立性低血圧。 ・抗うつ薬(三環系など):鎮静、起立性低血圧。 ・抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬(第一世代):鎮静、ふらつき。 ・筋弛緩薬:脱力。 ・降圧薬、利尿薬、α遮断薬:過降圧・起立性低血圧、脱水。 ・血糖降下薬(インスリン、スルホニル尿素薬):低血糖。 ・オピオイド:鎮静、めまい。

高齢者でベンゾジアゼピン系薬物が問題となる理由

高齢者では体脂肪の割合が増えるため、脂溶性薬物の分布容積が大きくなり、脂肪組織に蓄積した薬物が徐々に血中へ再分布して半減期が延長する。さらに肝代謝能の低下、中枢神経系の感受性亢進も加わり、日中の眠気・ふらつき・認知機能低下を起こしやすい。長期連用や多剤併用による薬物相互作用も有害事象の素地となるため、高齢者への投与は慎重に行い、可能であれば減量・中止を検討する。

POINT

・高齢者の転倒リスクを高める代表的な薬剤は、ベンゾジアゼピン系を中心とする抗不安薬・睡眠薬である(眠気、ふらつき、筋弛緩、持ち越し効果)。 ・抗精神病薬、抗うつ薬、筋弛緩薬、降圧薬・利尿薬、血糖降下薬、多剤併用も転倒リスクとなる。 ・高齢者では脂溶性薬物が蓄積しやすく、作用が遷延しやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。