「眠れていますか?」―抑うつ気分の患者に最初に聞くべき一言
第102回医師国家試験 F問題 第24問
国試問題にチャレンジ
45歳の女性。3週前からの抑うつ気分と自責感とを主訴に来院した。 診断に重要な症候はどれか。
- a.不眠
- b.食欲亢進
- c.皮膚瘙痒感
- d.下肢脱力感
- e.不正性器出血
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
うつ病の診断にはDSM-5が広く用いられ、9症状のうち5つ以上が2週間以上ほぼ毎日続き、その1つが抑うつ気分または興味・喜びの喪失であることが求められます。抑うつ気分と自責感を訴える患者では、ほかの症状がそろっているかを確認することが診断の鍵であり、なかでも不眠(特に早朝覚醒)は患者の大多数にみられる代表的な症候です。食欲は基準上両方向を含みますが、典型的なのは食欲低下と体重減少で、食欲亢進は非定型の特徴にとどまります。皮膚瘙痒感、下肢脱力感、不正性器出血は診断基準に含まれず、それぞれ別の疾患を考えるべき症状です。身体疾患や薬剤による抑うつ、双極性障害の除外、自殺念慮の確認まで含めて押さえておくことが、精神科に限らずどの診療科でも役立つ問診の土台になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・45歳の女性。 ・3週前から続く抑うつ気分(気分が沈み、憂うつな状態)と自責感(自分を必要以上に責める気持ち)が主訴である。
診断のプロセス
抑うつ気分が2週間以上続いていることから、まずうつ病(DSM-5では major depressive disorder。以前はDSM-IV-TRで大うつ病性障害と呼ばれた)を念頭に置く。うつ病の診断には、アメリカ精神医学会の操作的診断基準DSM-5が広く用いられる。DSM-5では、以下の9症状のうち5つ以上が同じ2週間の間にほとんど毎日存在し、そのうち少なくとも1つは「抑うつ気分」または「興味・喜びの喪失」であることが求められる。 ①抑うつ気分 ②興味または喜びの著しい減退 ③著しい体重減少・増加、または食欲の減退・増加 ④不眠または過眠 ⑤精神運動焦燥(いらいらして落ち着かない)または制止(動作や思考が遅くなる) ⑥易疲労感または気力の減退 ⑦無価値感、または過剰・不適切な罪責感 ⑧思考力・集中力の減退、または決断困難 ⑨死についての反復思考、自殺念慮・自殺企図 本症例では①抑うつ気分と⑦自責感(罪責感)がすでに認められ、期間も2週間以上を満たしている。したがって、さらにほかの症状(睡眠障害、食欲低下、意欲低下など)がそろっているかを確認することが診断に重要である。 また、うつ病と診断する前に、甲状腺機能低下症、クッシング症候群などの内分泌疾患、脳血管障害、膠原病、悪性腫瘍、薬剤(副腎皮質ステロイド、インターフェロンなど)による二次性の抑うつ、双極性障害や適応障害など他の精神疾患を鑑別しておく必要がある。
設問の考え方
選択肢のうち、うつ病の診断基準に含まれ、かつうつ病患者で最も高頻度にみられる症候は不眠である。
選択肢考察
- ○a. 不眠
睡眠障害はうつ病患者の大多数(おおむね8〜9割)にみられる代表的な身体症状であり、DSM-5の診断基準にも「不眠または過眠」として含まれる。うつ病では特に、朝早く目が覚めてしまいその後眠れない早朝覚醒(中途覚醒・入眠困難も含む)が特徴的とされ、朝方に気分が最も悪い日内変動とともにみられることが多い。不眠はうつ病の初期症状として受診のきっかけになることも多く、抑うつ気分と自責感を訴える患者で必ず確認すべき症候である。
- ×b. 食欲亢進
うつ病で典型的にみられるのは食欲低下とそれに伴う体重減少である。DSM-5の診断基準は「食欲の減退または増加」「体重の減少または増加」の両方向を含み、非定型の特徴を伴ううつ病では過食・体重増加・過眠がみられることもある。しかし、それは少数派であり、食欲亢進はうつ病の診断において重視すべき代表的な症候とはいえない。
- ×c. 皮膚瘙痒感
皮膚瘙痒感は、アトピー性皮膚炎や蕁麻疹などの皮膚疾患のほか、慢性腎臓病(尿毒症)、胆汁うっ滞性肝疾患、糖尿病、甲状腺疾患などの全身疾患でみられる症状である。うつ病の診断基準には含まれず、うつ病の診断に役立つ症候ではない。
- ×d. 下肢脱力感
うつ病では全身の倦怠感や易疲労感を訴えることはあるが、下肢に限局した脱力感は診断基準に含まれる症候ではない。下肢の脱力は、むしろ脊髄疾患、末梢神経障害、筋疾患、低カリウム血症などの神経・筋・代謝疾患を考えるべき症状であり、うつ病の診断の決め手にはならない。
- ×e. 不正性器出血
不正性器出血は、月経以外の時期にみられる性器からの出血であり、子宮頸癌・子宮体癌、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、ホルモン分泌異常(機能性出血)などの婦人科疾患を示唆する。45歳という年齢では悪性腫瘍の除外が重要となる症候であるが、うつ病の診断基準には含まれず、うつ病の診断に役立つ症候ではない。
うつ病の症状の整理
・精神症状:抑うつ気分、興味・喜びの喪失、意欲低下(億劫さ)、思考制止(考えが進まない)、集中力・決断力の低下、自責感・罪責感、無価値感、悲観的な考え、希死念慮・自殺念慮。重症例では罪業妄想、貧困妄想、心気妄想(微小妄想)がみられることがある。 ・身体症状:睡眠障害(特に早朝覚醒)、食欲低下・体重減少、全身倦怠感、易疲労感、頭痛・肩こり、便秘、性欲低下など。身体症状が前景に立ち、内科を受診することも多い(いわゆる仮面うつ病)。 ・日内変動:朝に気分が最も悪く、夕方にかけて少し楽になる傾向がある。
診断の手順
まずDSM-5の基準で抑うつエピソードの有無を確認し、次に身体疾患・物質(薬剤、アルコール)による抑うつを除外する。過去に躁病エピソードや軽躁病エピソードがあれば双極性障害と診断されるため、既往の確認が必要である。症状が診断基準を満たさない場合や、明らかなストレス因に反応して生じた場合は、適応障害などを考える。
治療と対応の要点
・休養と薬物療法(選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬〈SNRI〉、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬〈NaSSA〉など)、精神療法(認知行動療法など)を組み合わせる。 ・自殺念慮の有無は必ず確認する。治療初期や回復期は自殺の危険が高まるとされ、注意を要する。 ・重大な決断(退職、離婚など)は回復するまで先延ばしにするよう助言する。 ・薬物療法に反応しない重症例や、自殺の危険が切迫した例では修正型電気けいれん療法が検討される。
中年女性の抑うつで鑑別すべき身体疾患の例
甲状腺機能低下症、更年期障害、貧血、膠原病(全身性エリテマトーデスなど)、悪性腫瘍(特に膵癌)、脳血管障害など。
POINT
・うつ病の診断(DSM-5):9症状中5つ以上が2週間以上持続し、うち1つは抑うつ気分または興味・喜びの喪失 ・うつ病の代表的な身体症状は不眠(特に早朝覚醒)と食欲低下・体重減少 ・朝に最も悪い気分の日内変動、自責感・罪責感、希死念慮も重要 ・過眠・過食は非定型の特徴としてみられることがあるが典型ではない ・身体疾患・薬剤による抑うつ、双極性障害の除外を忘れない
