日本酒3合の代償―γ-GTPが告げる「まず減らすべきもの」
第102回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
56歳の男性。健康診査で高血圧を指摘され来院した。特に自覚症状はない。入院歴はない。飲酒を20歳から始め,この15年間は日本酒3合/日。身長160cm,体重70kg。血圧140/88mmHg。尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液生化学所見:空腹時血糖123 mg/dL,総コレステロール218mg/dL,AST 60IU/L,ALT 51IU/L,γ-GTP 160IU/L(基準8~50)。 対応として適切なのはどれか。
- a.自宅安静が必要であることを説明する。
- b.入院加療が必要であることを説明する。
- c.運動制限を指導する。
- d.高蛋白食を指導する。
- e.節酒を指導する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
長期の多量飲酒にAST優位のトランスアミナーゼ上昇とγ-GTP高値が加わればアルコール性肝障害を考え、日本酒1合は純アルコール約22 g、1日60 g以上の長期飲酒が過剰飲酒の目安です。肥満・高血圧・空腹時血糖高値が重なる場合はメタボリックシンドロームの合併も疑われ、飲酒と代謝異常は互いに肝障害や生活習慣病を悪化させます。無症状で肝障害が軽度なら安静や入院は不要で、肝障害・血圧・血糖のすべてに効果がある節酒(肝障害改善までは原則禁酒)を最優先に指導し、適正エネルギーの食事と有酸素運動による減量を組み合わせます。運動制限や高蛋白食は、この病態ではむしろ逆効果です。健診異常を「病名」ではなく「生活習慣の重なり」として読み解き、最も効果の大きい介入を選ぶ視点は、外来診療やプライマリ・ケアの基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・56歳男性。健康診査で高血圧を指摘されたが、自覚症状はない。 ・飲酒歴:20歳から飲酒し、最近15年間は日本酒3合/日。日本酒1合(180 mL)は純アルコール約22 gに相当するため、1日約65 gのアルコールを長期間摂取していることになる。 ・体格:身長160 cm、体重70 kg。BMI(体格指数)=70÷1.6²≒27.3であり、BMI 25以上の肥満(肥満1度)に該当する。 ・血圧140/88 mmHg:診察室血圧で収縮期140 mmHg以上であり、I度高血圧に相当する。 ・空腹時血糖123 mg/dL:正常域(110 mg/dL未満)を超え、糖尿病型(126 mg/dL以上)には達しない空腹時血糖異常(境界型)の範囲である。 ・総コレステロール218 mg/dL:軽度高値。 ・肝機能:AST 60 IU/L、ALT 51 IU/L とASTがALT以上に上昇し、γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)は160 IU/Lと基準上限の約3倍に上昇している。
診断のプロセス
長期多量飲酒者で、AST優位のトランスアミナーゼ上昇とγ-GTPの著明な上昇がみられることから、アルコール性肝障害(脂肪肝の段階が考えやすい)が最も考えられる。アルコールはミトコンドリアを障害し、ミトコンドリアに多く存在するASTの逸脱を招くこと、ALTの合成に必要なビタミンB6が不足しやすいことから、AST/ALT比が1を超えやすい。γ-GTPはアルコールにより肝での合成が誘導されるため、飲酒の指標として鋭敏である。 さらに、肥満、血圧高値、空腹時血糖高値が重なっており、腹囲の記載はないものの、メタボリックシンドロームの合併が疑われる。飲酒は高血圧、高中性脂肪血症、耐糖能異常の増悪因子でもあり、肥満は肝障害を悪化させる。1日60 g程度以上の飲酒量があるため、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD、現在は代謝機能障害関連脂肪性肝疾患〈MASLD〉とも呼ばれる)とは診断しない。
設問の考え方
自覚症状がなく、肝障害も軽度であるため、入院や安静は不要で、外来で生活習慣の改善を図る段階である。最も効果が大きく、肝障害・高血圧・高血糖のいずれにも好影響をもたらすのは飲酒量の削減であり、節酒(理想的には肝障害の改善まで禁酒)を指導するのが適切である。あわせて、適正エネルギーの食事と有酸素運動による減量を指導する。
選択肢考察
- ×a. 自宅安静が必要であることを説明する。
安静が必要となるのは、急性肝炎の極期のように肝障害が高度で、肝血流を保つために臥床が推奨される場合などである。本症例は自覚症状がなく、トランスアミナーゼの上昇も軽度である。むしろ肥満・高血圧・高血糖を改善するために身体活動を増やすべきであり、自宅安静を指示する理由はない。
- ×b. 入院加療が必要であることを説明する。
入院が必要となるのは、重症アルコール性肝炎、肝不全、消化管出血などの合併症がある場合や、重度のアルコール依存症で外来での断酒が困難な場合などである。本症例は無症状で、検査異常も軽度であり、外来通院で節酒や減量などの生活指導を行い、経過を追うのが適切である。
- ×c. 運動制限を指導する。
本症例は肥満(BMI 27.3)、I度高血圧、空腹時血糖異常を伴っており、メタボリックシンドロームが疑われる。これらの改善には、ウォーキングなどの中等度の有酸素運動を習慣的に(目安として毎日30分以上、または週150分以上)行うことが推奨される。運動を制限すべき重篤な心疾患や肝障害はなく、運動制限は逆効果である。
- ×d. 高蛋白食を指導する。
高エネルギー・高蛋白食は、食事をとらずに飲酒を続けて低栄養に陥っているアルコール性肝障害患者などで、栄養状態を改善するために用いられることがある。本症例は肥満であり、過剰なエネルギー摂取が肝障害や代謝異常を悪化させている。適正なエネルギー量で栄養バランスのとれた食事と減塩を指導すべきで、高蛋白食をすすめる理由はない。
- ○e. 節酒を指導する。
1日約65 gのアルコールを15年間摂取しており、AST優位のトランスアミナーゼ上昇とγ-GTP高値からアルコール性肝障害が考えられる。アルコール性肝障害の治療の基本は飲酒量の削減(原則として禁酒)であり、禁酒・節酒によってγ-GTPは数週間で大きく低下し、脂肪肝も改善する。また、飲酒量の削減は血圧を下げ、飲酒による余分なエネルギー摂取を減らして減量や血糖・脂質の改善にもつながるため、本症例で最も優先すべき対応である。
アルコール性肝障害
・定義(日本の診断基準):長期(通常5年以上)にわたる過剰な飲酒(純エタノール換算で1日平均60 g以上、女性やALDH2活性の低い人では40 g程度以上)が肝障害の主な原因と考えられる病態である。 ・病型:アルコール性脂肪肝 → アルコール性肝線維症 → アルコール性肝硬変と進行しうる。大量飲酒を契機に発熱・黄疸・肝腫大をきたすアルコール性肝炎は重症化すると致死的である。 ・検査の特徴:AST優位のトランスアミナーゼ上昇(AST/ALT比>1)、γ-GTPの上昇、平均赤血球容積(MCV)の増大など。 ・治療:禁酒が基本で、脂肪肝であれば禁酒により数週間〜数か月で改善する。アルコール依存症を伴う場合は専門的治療を併用する。
飲酒量の目安
・純アルコール量(g)=飲酒量(mL)×アルコール度数(%)÷100×0.8(比重) ・日本酒1合(180 mL、15%)は約22 g、ビール中瓶1本(500 mL、5%)は約20 g。 ・国の健康づくりの指針では、節度ある適度な飲酒量を1日平均純アルコール約20 g程度としている。高血圧治療ガイドラインでは、男性はエタノールで1日20〜30 mL(日本酒約1合)以下、女性はその半分程度以下に制限することが推奨されている。
メタボリックシンドロームの診断基準(日本)
必須項目:腹囲(臍の高さ)男性85 cm以上、女性90 cm以上(内臓脂肪面積100 cm²以上に相当)。 これに加え、以下の3項目のうち2項目以上を満たす。 ①脂質:中性脂肪150 mg/dL以上、かつ/またはHDLコレステロール40 mg/dL未満 ②血圧:収縮期130 mmHg以上、かつ/または拡張期85 mmHg以上 ③空腹時血糖110 mg/dL以上 本症例は腹囲や中性脂肪・HDLコレステロールの記載がないため確定できないが、BMI 27.3の男性であれば腹囲85 cm以上であることが多く、血圧と空腹時血糖の2項目をすでに満たしているため、メタボリックシンドロームの可能性が高い。
脂肪性肝疾患の分類
飲酒量が少ない(おおむね男性で1日30 g未満、女性で20 g未満)にもかかわらず脂肪肝を呈するものを非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼び、その一部は肝炎(NASH)から肝硬変・肝細胞癌に進展する。近年は代謝異常との関連を重視して、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)という名称が提唱されている。また、代謝異常と中等量の飲酒の両方が関与するものはMetALDと呼ばれる。肥満・糖尿病・高血圧などの代謝異常と飲酒は、互いに肝障害を悪化させる。
POINT
・長期多量飲酒+AST優位のトランスアミナーゼ上昇+γ-GTP高値 → アルコール性肝障害 ・アルコール性肝障害の治療の基本は禁酒(節酒)であり、γ-GTPは禁酒で速やかに改善する ・無症状・軽度の肝障害なら外来で生活指導を行い、安静や入院は不要 ・肥満・高血圧・高血糖の合併(メタボリックシンドローム疑い)には、適正エネルギーの食事と有酸素運動による減量を指導し、運動制限や高蛋白食は不要 ・日本酒1合は純アルコール約22 g、適度な飲酒量は1日約20 g程度
