試験が終わると、月経が来ると―暗い部屋で耐える頭痛は片頭痛のサイン
第102回医師国家試験 F問題 第23問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。激しい頭痛を主訴に来院した。19歳ころから拍動性の右側の頭痛を自覚している。頭痛は嘔吐を伴い,吐き終わると少し楽になると言う。頭痛持続中は強い光と大きな音とがつらく,暗い部屋でじっとしていることが多かった。大学生のころには頭痛は定期試験が終了した後などに限られていたが,卒業後就職したころから週に1回は出現するようになり,欠勤することが多い。最近は,月経開始2日前から開始2日後にかけて激しい頭痛が出現している。頭痛出現に先行する症状は特にない。神経学的所見に異常はない。母親にも同様の頭痛がある。 考えられるのはどれか。
- a.緑内障
- b.片頭痛
- c.頸椎症
- d.副鼻腔炎
- e.緊張型頭痛
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
片側性・拍動性で日常生活に支障をきたす強さの頭痛が繰り返し起こり、悪心・嘔吐や光過敏・音過敏を伴い、動くと悪化するため暗い部屋でじっとしている場合は片頭痛を考えます。若年女性、家族歴、ストレスから解放された後の発作、月経前後の発作(エストロゲン低下による月経関連片頭痛)も片頭痛を強く支持し、閃輝暗点などの前兆がなくても「前兆のない片頭痛」として診断できます。緊張型頭痛は両側性・締めつけ感で嘔吐を伴わず、群発頭痛は若年男性の眼窩部の激痛に自律神経症状を伴って落ち着きなく動き回る点で区別し、緑内障発作では眼所見、副鼻腔炎では鼻症状、頸椎症では頸部の動きとの関連が手がかりになります。治療は重症度に応じて鎮痛薬やトリプタンを使い分け、頻度が高ければ予防薬を検討しますが、鎮痛薬の使いすぎによる頭痛には注意が必要です。まず二次性頭痛を除外し、そのうえで特徴を組み合わせて一次性頭痛を分類する考え方は、頭痛診療すべての基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・28歳女性。19歳ころから続く、反復性の頭痛である(慢性に反復する一次性頭痛を考える経過)。 ・頭痛の性状:右側の片側性、拍動性で、仕事を休むほど強い。 ・随伴症状:嘔吐を伴い、頭痛中は光過敏と音過敏があって暗い部屋で安静にしている(体を動かすと悪化するため、じっとしていたい)。 ・誘因:定期試験の終了後など、ストレスから解放されたときに起こる。最近は月経開始2日前から開始2日後にかけて激しい頭痛が出現する。 ・頭痛に先行する症状(前兆)はない。 ・神経学的所見は正常である。 ・母親にも同様の頭痛がある(家族歴)。
診断のプロセス
頭痛の診療では、まず危険な二次性頭痛(くも膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎など)を除外する。本症例は約10年に及ぶ反復性の経過で、神経学的異常もなく、発作と発作の間は無症状と考えられるため、一次性頭痛と判断できる。 一次性頭痛の代表は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛である。本症例の「片側性」「拍動性」「日常生活に支障をきたす強さ」「悪心・嘔吐」「光過敏・音過敏」は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の前兆のない片頭痛の診断基準によく合致する。さらに、若年女性、ストレスから解放された後の発作(週末頭痛、let-down headache)、月経周期に関連した発作(月経関連片頭痛)、家族歴という背景も片頭痛に典型的である。前兆がないので、「前兆のない片頭痛」(かつての名称で普通型片頭痛)と診断できる。 群発頭痛は、片側の眼窩周囲に起こる激烈な痛みが15〜180分続き、流涙・結膜充血・鼻汁などの自律神経症状を伴い、20〜40歳代の男性に多い。発作中は落ち着きなく動き回るのが特徴であり、暗い部屋でじっとしている本症例とは異なる。
設問の考え方
反復する片側性・拍動性の頭痛に、嘔吐と光・音過敏を伴い、神経学的に異常がない若年女性という組み合わせから、片頭痛を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 緑内障
急性閉塞隅角緑内障(緑内障発作)では、眼圧の急上昇により眼痛・頭痛・悪心・嘔吐が起こり、片頭痛と紛らわしいことがある。しかし、視力低下、虹視症(光の周りに虹が見える)、結膜の毛様充血、角膜浮腫による角膜混濁、散瞳して対光反射が鈍いといった眼所見を伴うのが特徴である。10年近くにわたり、発作ごとに眼症状なく自然に治まる反復性頭痛を説明することはできない。
- ○b. 片頭痛
片側性・拍動性で日常生活に支障をきたす強さの頭痛が反復し、嘔吐、光過敏・音過敏を伴う点が、前兆のない片頭痛の診断基準に合致する。若年女性、ストレス解放後の発作、月経周期に一致した発作(エストロゲンの低下が誘因となる月経関連片頭痛)、母親にも同様の頭痛がある家族歴も、片頭痛を強く支持する。神経学的所見が正常であることも、一次性頭痛として矛盾しない。
- ×c. 頸椎症
頸椎症は椎間板や椎体の加齢性変化による疾患で、中高年に多い。頸部痛や肩こり、後頭部の痛み(頸原性頭痛)を起こすことはあるが、首の動きや姿勢によって痛みが誘発・増悪するのが特徴である。神経根や脊髄が圧迫されれば上肢のしびれ・筋力低下、手指の巧緻運動障害や歩行障害などを伴う。28歳の女性で神経学的所見が正常であり、嘔吐と光・音過敏を伴う発作性の拍動性頭痛とも合わない。
- ×d. 副鼻腔炎
急性副鼻腔炎では、炎症を起こした副鼻腔に一致した部位(頬部、前額部、眼の奥など)に痛みや圧痛が生じ、前かがみで痛みが増強する。膿性鼻汁、鼻閉、後鼻漏、発熱などを伴うのが普通である。本症例には鼻症状の記載がなく、10年近く発作を繰り返し、発作間欠期は無症状という経過も副鼻腔炎では説明できない。
- ×e. 緊張型頭痛
緊張型頭痛は一次性頭痛のなかで最も頻度が高い。典型的には両側性で、頭を締めつけられるような、あるいは圧迫されるような非拍動性の痛みであり、程度は軽度〜中等度で、日常の動作によって悪化しない。悪心・嘔吐は伴わず、光過敏や音過敏はあってもどちらか一方までとされる。片側性・拍動性で、嘔吐と光・音過敏の両方を伴い、欠勤するほど強い本症例の頭痛とは合わない。
片頭痛の概要
・有病率は日本人の約8%で、女性に多い(男性の約3〜4倍)。20〜40歳代に多く、家族歴を認めることが多い。 ・発症には、三叉神経血管系の活性化とカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの神経ペプチド放出による硬膜血管周囲の神経原性炎症が関わると考えられている。
ICHD-3による前兆のない片頭痛の診断基準(要点)
A.B〜Dを満たす発作が5回以上ある。 B.頭痛発作の持続時間は4〜72時間(未治療または治療が無効の場合)。 C.次の4項目のうち少なくとも2項目を満たす:①片側性、②拍動性、③中等度〜重度の強さ、④歩行や階段昇降などの日常的な動作で頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける。 D.頭痛発作中に、次のうち少なくとも1項目を満たす:①悪心または嘔吐(あるいはその両方)、②光過敏および音過敏。 E.ほかに最適なICHD-3の診断がない。
前兆のある片頭痛
頭痛の前に、閃輝暗点(ギザギザした光が視野に広がる)などの視覚症状、感覚症状、言語症状などの完全可逆性の前兆が5〜60分かけて出現する。かつては古典型片頭痛と呼ばれ、前兆のない片頭痛は普通型片頭痛と呼ばれていた。
誘因
ストレスおよびストレスからの解放、月経(エストロゲンの低下)、睡眠不足・寝過ぎ、空腹、天候の変化、アルコール(特に赤ワイン)、人混みや強い光・騒音など。月経関連片頭痛は、月経開始の2日前から月経3日目までに起こる発作と定義される。
治療
・急性期:軽症〜中等症ではアセトアミノフェンやNSAIDs、中等症〜重症ではトリプタン(セロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬)を早めに使用する。制吐薬(メトクロプラミドなど)を併用する。近年はラスミジタン(5-HT1F受容体作動薬)も用いられる。 ・予防:発作が月に2回以上、または生活への支障が大きい場合に考慮する。ロメリジン(Ca拮抗薬)、バルプロ酸、プロプラノロール、アミトリプチリンなどが用いられ、近年は抗CGRP抗体や抗CGRP受容体抗体も使用できる。 ・トリプタンやエルゴタミン製剤は血管収縮作用があるため、虚血性心疾患や脳血管障害の患者には禁忌である。 ・鎮痛薬を月に10〜15日以上使い続けると薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を起こしやすく、服用頻度に注意する。
画像検査について
典型的な片頭痛で神経学的異常がない場合、画像検査は必須ではない。突然発症の激しい頭痛、今まで経験したことのない頭痛、頻度や程度が次第に悪化する頭痛、50歳以降の初発、神経脱落症状や発熱・項部硬直を伴う頭痛など、二次性頭痛を疑う危険信号(レッドフラッグ)がある場合には、頭部CTやMRIで精査する。
POINT
・片頭痛:片側性、拍動性、中等度〜重度、動作で悪化、悪心・嘔吐、光過敏・音過敏、4〜72時間持続 ・若年女性、家族歴、月経関連、ストレスからの解放後の発作は片頭痛を示唆する ・緊張型頭痛:両側性、締めつけ感・圧迫感(非拍動性)、軽度〜中等度、嘔吐なし ・群発頭痛:若年男性、片側眼窩部の激痛(15〜180分)、流涙・鼻汁などの自律神経症状、じっとしていられない ・頭痛診療ではまず二次性頭痛のレッドフラッグを確認する
