噴水状に吐く生後2週の赤ちゃん―最初の一手は「当てるだけ」の超音波
第102回医師国家試験 F問題 第20問
国試問題にチャレンジ
生後2週の新生児。噴水状の嘔吐を主訴に来院した。皮膚と舌とは乾燥し,大泉門の陥凹を認める。腹壁を通して胃の蠕動を認め,右腹部に腫瘤を触知する。 最初に行うべき画像検査はどれか。
- a.腹部エックス線単純撮影
- b.腹部超音波検査
- c.腹部単純MRI
- d.腹部単純CT
- e.核医学検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
生後2〜3週に始まる非胆汁性の噴水状嘔吐、腹壁越しに見える胃の蠕動、右上腹部のオリーブ状腫瘤がそろえば肥厚性幽門狭窄症を考えます。最初に行う画像検査は腹部超音波検査で、肥厚した幽門筋をdoughnut signとして直接とらえ、筋層の厚さや幽門管の長さを測定できます。単純エックス線は胃の拡張を示すにとどまり、CT・MRI・核医学検査は被曝や鎮静の負担に見合う利点がありません。嘔吐による胃酸喪失で低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシスとなるため、輸液で補正してからRamstedt手術を行います。「小児ではまず被曝・鎮静のない超音波」という原則は、多くの小児疾患の初期評価に通じる考え方です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・生後2週の新生児 ・噴水状の嘔吐:胃の出口がふさがって、胃の内容物が勢いよく吐き出される ・皮膚・舌の乾燥と大泉門の陥凹:脱水の所見 ・腹壁の上から胃の蠕動が見える(胃蠕動不穏):狭くなった出口に向かって、胃が強く収縮している ・右腹部の腫瘤:肥厚した幽門筋を、オリーブの実のような硬い腫瘤として触れる
診断
生後2〜3週ごろに始まる噴水状嘔吐、胃蠕動が見えること、右上腹部のオリーブ状腫瘤の3つがそろえば、肥厚性幽門狭窄症と考えられる。この病気では、胃の出口(幽門)の輪状筋が厚くなり、幽門管が狭くなる。吐物は胃の内容物だけで、胆汁は混じらない(狭窄がVater乳頭より口側にあるため)。嘔吐を繰り返して胃酸(HCl)が失われるので、脱水とともに低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシスになる。
設問の考え方
肥厚性幽門狭窄症の診断では、厚くなった幽門筋を直接とらえることが決め手になる。腹部超音波検査は次の点で、最初に行うべき画像検査として最も優れている。 ・幽門筋の厚さと幽門管の長さを直接測れる ・放射線被曝がない ・鎮静がいらず、ベッドサイドで短時間にできる ・何度でも繰り返し検査できる 一方、腹部単純エックス線撮影の所見は補助的なものにとどまる。CTやMRI、核医学検査は、被曝や鎮静が必要という負担に見合う利点がなく、診断の役にも立たない。
選択肢考察
- ×a. 腹部エックス線単純撮影
腹部単純エックス線写真では、拡張した大きな胃泡が見える(single bubble sign)。十二指腸より先の腸管ガスは少なくなる。これらは胃の出口が狭くなっていることを示唆するが、幽門筋の肥厚そのものは写らない。したがって確定診断はできない。放射線被曝も伴うので、最初に選ぶ画像検査は超音波検査である。
- ○b. 腹部超音波検査
超音波検査では、厚くなった幽門筋を直接写し出せる。短軸像(輪切りの像)では、低エコーの肥厚筋層が中心の粘膜を取り囲み、ドーナツ状に見える(doughnut sign / target sign)。長軸像では、細く長く伸びた幽門管が見える。幽門筋層の厚さ約3〜4mm以上、幽門管の長さ約15mm以上が、診断の目安とされる。被曝も鎮静もいらず、診断能も高いため、最初に行うべき画像検査である。
- ×c. 腹部単純MRI
MRIは撮影に時間がかかる。新生児では体が動かないように鎮静が必要になることが多い。脱水とアルカローシスで状態が不安定な児に鎮静を行うのは危険を伴い、超音波検査より診断上の利点もない。最初に行う検査ではない。
- ×d. 腹部単純CT
CTでも幽門部の肥厚を写すことはできる。しかし、新生児への放射線被曝が大きいうえに鎮静が必要なこともあり、超音波検査で十分診断できる本症に用いる理由はない。最初に行う検査ではない。
- ×e. 核医学検査
核医学検査は、放射性医薬品を使って臓器の働きや分布を画像にする検査である。胃排出シンチグラフィで胃の中身が出ていくのが遅れていることはわかる。しかし、幽門筋の肥厚という形の異常は評価できない。被曝もあり、時間もかかるため、本症の診断には用いない。
肥厚性幽門狭窄症の概要
・幽門の輪状筋が厚くなり、胃の出口が狭くなる。原因ははっきりしていない。 ・生後2〜3週ごろから嘔吐が始まり、最初は溢乳程度でも、しだいに噴水状になるのが典型的である。 ・男児に多く(男女比 約4〜5:1)、第1子に多い。 ・吐物に胆汁は混じらない。吐いた後も哺乳意欲は保たれている。 ・体重が増えない、あるいは減る。脱水、便秘がみられる。
身体所見
・胃蠕動不穏:腹壁を通して、左上腹部から右へ移動する胃の蠕動波が見える ・右上腹部(臍の右上)に、オリーブの実のような硬い腫瘤を触れる
検査所見
・血液ガス・電解質:低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシス。胃液(HCl)が失われ、脱水で二次性アルドステロン症となって腎からKが失われることによる。進行すると、アルカローシスなのに尿が酸性になる奇異性酸性尿(paradoxical aciduria)がみられる。 ・腹部超音波:doughnut sign、幽門筋の肥厚、幽門管の延長 ・上部消化管造影(必要な場合):string sign(幽門管が細い糸のように写る)、shoulder sign、beak sign(幽門の入口が鳥のくちばし状に写る)
治療
・まず輸液で脱水と電解質異常(Cl、Kの補充)、代謝性アルカローシスを補正する。手術は緊急ではなく、全身状態を整えてから行う。代謝性アルカローシスのまま全身麻酔をかけると、術後の呼吸抑制(無呼吸)の危険がある。 ・根治手術は粘膜外幽門筋切開術(Ramstedt手術)で、粘膜は切らずに厚くなった筋層だけを縦に切り開く。開腹または腹腔鏡で行う。 ・日本では、硫酸アトロピン(抗コリン薬)の静注・内服による保存的治療を選ぶこともある。
新生児・乳児の嘔吐の鑑別
・胆汁が混じらない:肥厚性幽門狭窄症、胃食道逆流、溢乳 ・胆汁が混じる(Vater乳頭より肛門側の閉塞):十二指腸閉鎖・狭窄、腸回転異常症(中腸軸捻転)、小腸閉鎖など。単純エックス線ではdouble bubble signなどがみられる。
POINT
・生後2〜3週の男児、噴水状嘔吐(胆汁は混じらない)、胃蠕動不穏、右上腹部のオリーブ状腫瘤がそろえば、肥厚性幽門狭窄症を考える。 ・最初の画像検査は腹部超音波検査である(doughnut sign、幽門筋層の厚さ約3〜4mm以上、幽門管の長さ約15mm以上)。 ・電解質は、低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシスとなる。 ・まず輸液で脱水とアルカローシスを補正し、その後にRamstedt手術(粘膜外幽門筋切開術)を行う。 ・小児の画像検査は、被曝も鎮静も不要な超音波検査を優先する。
