「吸引分娩」「嘔吐」「黄疸」に惑わされない―正常新生児を見抜く目とApgarスコア
第102回医師国家試験 E問題 第58問
国試問題にチャレンジ
生後3日の新生児。頭位の吸引分娩で出生した。Apgarスコア8点(1分)であった。生後24時間以内に数回嘔吐を認めた。身長49cm,体重2,940g,頭囲32cm,胸囲30 cm。体温36.5℃。呼吸数40/分。心拍数112/分,整。大泉門1.5×1.5cm,膨隆はない。先進部の頭頂部にびまん性浮腫状の腫脹を認める。頬を触ると口で捕らえようとする。便は黄色調で,血清総ビリルビン10.0mg/dLである。 この児の所見で誤っているのはどれか。
- a.産瘤がある。
- b.軽症仮死である。
- c.追いかけ反射がある。
- d.生理的範囲の黄疸である。
- e.生理的範囲の大泉門である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
Apgarスコアは心拍数・呼吸・筋緊張・反射・皮膚色の5項目を各0〜2点で評価し、国内で広く用いられる区分では8〜10点が正常、4〜7点が軽症仮死、0〜3点が重症仮死です。本問の児は1分値8点で正常であり、「軽症仮死」とする記述が誤りとなります。頭頂部のびまん性浮腫状の腫脹は産瘤、頬への刺激で口を向けるのは追いかけ反射、生後3日の総ビリルビン10mg/dLと黄色便は生理的黄疸、1.5cmで膨隆のない大泉門は正常範囲で、生後24時間以内の数回の嘔吐も初期嘔吐として説明できます。あわせて、骨縫合を越えない頭血腫や、吸引分娩で注意すべき帽状腱膜下血腫との鑑別も押さえておきましょう。病的に見える語句に引きずられず、各所見を基準値と照らして「正常」を確かめる姿勢は、新生児診療の基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
生後3日、頭位の吸引分娩で生まれた児である。一見すると「吸引分娩」「嘔吐」「頭部の腫脹」「黄疸」と気になる言葉が並ぶが、一つずつ確認すると、いずれも正常新生児でよくみられる範囲の所見である。 ・Apgarスコア8点(1分):出生直後の状態は良好である。 ・生後24時間以内の数回の嘔吐:その後の持続がなく、全身状態も良い。羊水や母体血を飲み込んだことによる初期嘔吐(生理的な嘔吐)と考えられ、消化管閉鎖などを示唆する胆汁性嘔吐・腹部膨満・胎便排泄遅延の記載はない。 ・身長49cm、体重2,940g、頭囲32cm、胸囲30cm:正期産児としておおむね標準的な体格である(頭囲は胸囲よりやや大きいのが新生児の特徴)。 ・体温36.5℃、呼吸数40/分、心拍数112/分(整):体温・呼吸数は正常。心拍数は新生児の目安(おおむね120〜160/分)の下限をやや下回るが、睡眠中などでは100/分台に下がることもあり、整脈で他に異常がなければ問題視しない。 ・大泉門1.5×1.5cm、膨隆なし:大きさも張りも正常で、頭蓋内圧亢進を示唆しない。 ・頭頂部(先進部)のびまん性浮腫状腫脹:吸引分娩・経腟分娩でみられる産瘤の所見である。 ・頬に触れると口でとらえようとする:原始反射の一つである追いかけ反射(探索反射、rooting reflex)である。 ・黄色便、総ビリルビン10.0mg/dL(生後3日):胆道閉鎖症などを疑わせる灰白色便ではなく、ビリルビン値も日齢相応の生理的黄疸の範囲である。
診断と設問への考え方
以上から、この児は正常新生児と判断できる。設問は「誤っているのはどれか」であるため、所見の解釈として正しくないものを選ぶ。Apgarスコア8点は正常範囲であり、「軽症仮死である」という記述が誤りとなる。病的な印象を与える単語に引きずられず、各所見を基準値と照らして評価することが求められる問題である。
選択肢考察
- ×a. 産瘤がある。
記述は正しい。産瘤は、分娩時に産道で圧迫された児頭の先進部に生じる皮下の浮腫である。本児では先進部である頭頂部にびまん性で浮腫状の腫脹があり、産瘤の特徴に一致する。産瘤は皮下にできるため骨縫合を越えて広がり、波動を触れず、境界は不明瞭である。通常は生後数日(2〜3日程度)で自然に消退する。吸引分娩では吸引カップの当たった部位に目立つ腫脹(いわゆる吸引による産瘤)を生じやすい。
- ○b. 軽症仮死である。
記述は誤りであり、これが正解である。Apgarスコアは心拍数、呼吸、筋緊張、反射(刺激への反応)、皮膚色の5項目を各0〜2点で評価し、合計10点満点で生後1分と5分に判定する。国内で広く用いられる区分では8〜10点が正常、4〜7点が軽症仮死(第1度仮死)、0〜3点が重症仮死(第2度仮死)である。本児の1分値は8点で正常範囲に入り、仮死には当たらない。なお国際的には7〜10点を良好とする区分もあるが、いずれの基準でも8点は正常である。
- ×c. 追いかけ反射がある。
記述は正しい。口角や頬に触れると、その方向に顔を向けて口でとらえようとする動きは追いかけ反射(探索反射、rooting reflex)である。乳首を探して哺乳につなげるための原始反射で、吸啜反射とともに哺乳に不可欠である。出生時から認められ、通常は生後4か月前後までに消失する。正期産の健常新生児で認められるのが正常であり、欠如している場合は中枢神経障害や全身状態の悪化を考える。
- ×d. 生理的範囲の黄疸である。
記述は正しい。新生児の生理的黄疸は、胎児型赤血球の寿命が短くビリルビン産生が多いこと、肝臓のグルクロン酸抱合能(UGT1A1活性)が未熟であること、腸肝循環が亢進していることなどにより生じる。生後2〜3日目に出現し、4〜5日目ごろに最高となり、1〜2週で消退するのが典型である。生後24時間以内に出現する早発黄疸、急速な上昇、日齢に比して高い値、直接ビリルビン優位、遷延する場合は病的黄疸を疑う。本児は生後3日で総ビリルビン10.0mg/dLであり、出生体重2,500g以上の児で光線療法を考慮する基準値(日齢3ではおおむね10mg/dL台後半)を下回るため、経過観察でよい生理的範囲と判断できる。便が黄色調であることも、胆道閉鎖症などの閉塞性黄疸を否定する材料となる。
- ×e. 生理的範囲の大泉門である。
記述は正しい。大泉門は前頭骨と左右の頭頂骨の間にある菱形の泉門で、出生時の大きさはおおむね1.5〜3cm程度(対辺距離)であり、生後9〜10か月ごろまでいったん拡大した後、1歳半〜2歳ごろまでに閉鎖する。本児の1.5×1.5cmは正常範囲であり、膨隆もないため頭蓋内圧亢進(髄膜炎、頭蓋内出血、水頭症など)を示唆する所見はない。頭囲32cmも正期産児としては許容範囲である。
Apgarスコア
評価項目(各0・1・2点) ・心拍数:なし/100/分未満/100/分以上 ・呼吸:なし/弱い泣き声・不規則な浅い呼吸/強く泣く ・筋緊張:だらりとしている/四肢をいくらか曲げる/四肢を活発に動かす ・反射(鼻腔カテーテルなどの刺激への反応):反応なし/顔をしかめる/泣く・咳・くしゃみ ・皮膚色:全身蒼白またはチアノーゼ/体幹ピンクで四肢チアノーゼ/全身ピンク 1分値は出生直後の状態(蘇生の必要性の目安)、5分値は神経学的予後との関連が強いとされる。5分値が7点未満の場合は、その後も5分ごとに20分まで評価を続ける。なお、蘇生の開始はApgarスコアの算出を待たず、呼吸・心拍・筋緊張などの評価に基づいて行う。
産瘤・頭血腫・帽状腱膜下血腫の鑑別
・産瘤:皮下の浮腫。骨縫合を越える。出生直後から存在し、波動なし。2〜3日で消失する。 ・頭血腫:骨膜下の出血。骨縫合を越えない。生後数時間〜数日で明らかになり、波動を触れる。消退に数週〜数か月を要し、黄疸増強の原因になりうる。 ・帽状腱膜下血腫:帽状腱膜と骨膜の間の出血。骨縫合を越えて広がり、大量出血による貧血・ショックをきたすことがある。吸引分娩が危険因子であり、要注意である。
新生児の初期嘔吐
出生時に飲み込んだ羊水や母体血、粘液などにより、生後1〜2日に嘔吐がみられることがある。胃洗浄で改善することも多い。一方、胆汁性(緑色)嘔吐や腹部膨満、胎便排泄遅延を伴う場合は、腸回転異常症・消化管閉鎖・Hirschsprung病などを疑う。
主な原始反射と消失時期(目安)
・追いかけ反射(探索反射)、吸啜反射:生後4か月ごろまで ・Moro反射:生後4か月ごろまで ・手掌把握反射:生後3〜4か月ごろまで ・足底把握反射:生後9〜10か月ごろまで ・非対称性緊張性頸反射(ATNR):生後4〜6か月ごろまで ・Babinski反射:1〜2歳ごろまで陽性でも正常
正期産新生児の基準の目安
体重約3,000g、身長約49〜50cm、頭囲約33cm、胸囲約32cm。呼吸数40〜60/分、心拍数120〜160/分、体温36.5〜37.5℃。
POINT
・Apgarスコアは8〜10点が正常、4〜7点が軽症仮死、0〜3点が重症仮死(生後1分・5分で評価)。 ・産瘤は皮下浮腫で骨縫合を越え、数日で消失する。頭血腫は骨膜下出血で骨縫合を越えない。 ・頬に触れると口でとらえようとするのは追いかけ反射(探索反射)である。 ・生後3日の総ビリルビン10mg/dL程度は生理的黄疸の範囲。早発・急上昇・直接型優位・遷延は病的。 ・生後24時間以内の数回の非胆汁性嘔吐は初期嘔吐として生理的でありうる。 ・「吸引分娩」「嘔吐」「頭部腫脹」「黄疸」など病的に見える語句に惑わされず、正常新生児の所見を基準値で判断する。
